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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
八章 絶海のアルカトラズ編
162/499

162.受難は続く

「夢よ!これはきっと悪い夢なの」 


 シェルさんが現実逃避をしている。

「夢ではありませんシェルリース学園長、事情聴取のために同行お願いします」


「嫌よ!!」


 駄々をこねるシェルさん、まるで犯人のように引きずられて連行されて行った。

「アイネ・リントワース嬢、貴女もお願いします」


「はっ、はい」

 さらばアイネちゃん、私は先に帰ってます。


 警兵らに2人は連行されてしまった。それでも何もせずに帰ってはいけないと思う、運良くギャラリーの中にシェリア先生を見つけたので説明くらいはしておこう。


((シェリア先生))


 私は耳元で囁く、

「ひゃん!?」

 クールビューティーから程遠い可愛い声が発せられた、全員がこちらに注目する。

 やってしまった、どうやら彼女は父親のハズリムさん同様に耳が弱点のようだ。


((驚かせてすいません。私です、ラヴィリスです))


 気付かれないように小声で囁く、耳まで真っ赤にしたシェリア先生が私の声に気づいたようだ。

「ラ、ラヴィリス様?」

((顛末をお話しします、場所を移しましょう))

 私がそう言うと小さく頷いてくれ、静かにその場から移動してくれた。


 学園長室に移動すると私は隠蔽魔法の範囲を広げる。

「・・・凄い」

 シェリア先生は私の魔法に純粋に感動している。

「シェリア先生はシェルさんから学園の地下の秘密は聞いてますか?」

「ラヴィリス様。そろそろ、その先生と言うのは許してもらえませんか?私は貴女様に先生と呼ばれるような人間ではありません」


・・・気にしていたのか。


「分かりました、ではシェリアさん」

 私が呼び方を変えると納得したのか嬉しそうにしている、

「秘密の匣の事なら、明言はありませんがそれとなく聞かされてます」


 コン、コン、


 不意にドアをノックする音がする、隠蔽したのに!?

「失礼します、誰かいらっしゃいますか?」

 この声はリマさんだ!

 シェリアさんがドアを開くと、リマさんとマキシムがいた。どうやら帰りが遅いので迎えに来てくれたようだ。


 丁度いい、アイネちゃんの件も説明出来そうだ。

 取り敢えずオブラートに包みながら事の顛末を説明した。

「本当に秘密の匣は実在したのですね」

 まずシェリアさんは秘密の匣が実在した事に驚く。

「詳細はシェルさんから聞いてください、私からはこれ以上言う事はできません」

 私はリマさんに目配せをする、小さく頷いてくれた。彼女も正体を知っているので言わないようにお願いする。


「そこで一つ知りたいのですが、前回の調査は誰の主導で行われたかです」

 そう、意図的にシェルさんを遠ざけたと私達は考えている。

 するとシェリアさんは残念そうに首を横に振る、

「関わった人間が多すぎます。その中から探すのは至難の業です」

 まあ、そうだろう。ここで藪の中を突くとまた鬼が出てきそうだ、無理はいけない。あの3人の死体の調査の結果は聞けないだろうし。


 どうやら今回は骨折り損になりそうだ。


「リマさん、ホランドさんに今回の件を伝えて下さい」

 リマさんは頷き、出発の準備を始める。

「マキシム、リマさんを守って下さいね」

 首をモフりながらお願いしておく、嬉しそうに尻尾を高速に振る。

「さてと、私達はあの2人を迎えに行きましょうか」

 シェリアさんにそう言うと、力の抜けた息を吐く、

「そうですね、そうしましょうか」

 リマさん達と別れ、シェリアさんと共に王都治安部署へ向かう事にした。




 ーーアイネーー



「つっ、疲れた〜」


 グッタリしたシェル様が取調べ控室のベンチでだらしなく寝そべっていた。

 凄い、公爵様の奥様でもこんな風に自然体で振舞える人がいるなんて思わなかった。最近の私はシェル様に憧れにも似た感情を抱いている。


「何?その目は?」


 そしてとても勘が良くて鋭い。

「いえ、その、誰かに見られたら」

 何と答えれば良いのか分からず、しどろもどろになってしまう。

「大丈夫よ、誰も見ては無いわよ。まあ、こんなの見ても誰も喜ばないわ」

 う〜ん、この人は想像以上に自己評価が低いみたいだ、テルーなんて大尊敬しているのに。


 ヒマな待ち時間になり、取調べで疑問に思った事を聞いてみたかった、一応近づいて小声にする。

「あの、なぜ鬼の事を言わなかったのでしょう?いきなり謎の侵入者と答えられたので驚いてしまいました」

 そう、シェル様は取調べに鬼ではなく侵入者と答えた、あの時は驚いたが私もそれに倣って咄嗟に話を合わせた。

「そうね、貴女よく私に話を合わせてくれたわ。だけど答え合わせは後ね、ここだと誰かに聞かれるかもしれないわ」

 その仕草から治安部署にも思う所があるのだろう。

「今、マーナにお願いしてハズに迎えに来てもらうように言ってあるわ、もうすぐ来ると思うけど」


 コンコン、


 ドアをノックする音が聞こえた、ようやくここから出られるようだ。

 警兵に連れられエントランスに向かう、そこにはハズリム様とシェリア先生、ラヴィリス様が迎えに来てくれた、少し遅れてお父様とラルズもやって来た。

「残念、答え合わせはまた今度ね」

 シェル様に囁かれた、その仕草がとても可愛らしい。


「やはり臨時休校ですか?」

 お父様がため息をつく、

「そうですね、殺人犯が学園内に出現したというなら仕方ありません」

 シェル様が残念そうに言う。


「・・・殺人犯・・」


 ボソッとラヴィリス様が呟いた、その表情から何かを感じたようだ。それだけで分かるラヴィリス様は本当に凄いと思う。


「それにしてもよく休みになる学校ですね」

 ラヴィリス様が呟き、生優しい視線をハズリム様に向ける、それに合わせてハズリム様に皆の視線が集まる。


 ハズリム様はその視線に気づく。


「わっ、私は何もしとらんぞ!本当に何もしていないぞ!!」

 ハズリム様の嘆き節が虚しく夜空に響いた。

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