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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
八章 絶海のアルカトラズ編
160/499

160.シェルさんの憂鬱

 あれからシェルさんの説教は数分で終わった。


 リプリス姫はもう泣きそうになっており、シェリアさんとゼル君によって救出された。


「ちっ、もう少し言いたい」


 シェルさんはまだ言い足りないようだ。

「まあ、私が言いたい事は自分の立ち位置をしっかり把握すること!未熟なうちに大きな力を持つと、足元が疎かになります。悪知恵が働く人間はそこを付け込みます。前を見ることも大切ですが、足元を確認して歩む事も大切なのですよ」

 この人は時々いい事を言うんだよね、テルーさんなんて滅茶苦茶感銘をうけているよ。


 出されたお茶を飲みながら次の話に移る、

「まずはリプリス様から。シャロ様という水の女神の御使様の情報です。やはり何処にも入っていないようです。まあ、ラヴィリス様の例もありますので上手く隠れている可能性が高そうですね」

 フローネが残念そうにしている。


「引き続き情報は収集します、情報が入り次第報告しますので気を落とさないで下さい」


「次はラヴィリス様、オーレン・メルブラント卿の件です」

 私の方を向く、行方知れずではないのか?

「この件はシシリィが調べているようです、週末に報告したいことがあるようです。私達と一緒にベルリアル邸に伺うことでよろしいですか?」

 さすがシシリィさん、仕事が早い。

「勿論です、私も同行して良いのなら伺います」

 シェルさんも頷く、週末にグランドル邸に伺う事で予定を調節した、

「楽しみですね」

 アイネちゃんもついて来る気マンマンだ。


「それと後でラヴィリス様にお話というか相談があるのですが」

 シェルさんが小声で囁いてきた。何だろう?

 話が終わり解散した後、私だけ学園長室に残った。

「どうかしたんですか?」

 シェルさんがいつになく真剣な表情をしている。

「実は学園の秘密の匣の件です」


・・・そう言えばこの学園の隠し部屋に封印してあるんだった。


「学園が閉鎖中に何者かが私の机を漁ったようです」

 やはりあまりに休暇が長いと思っていた、何か裏があるのだろう。


「つまり学園長であるシェルさんが、私達と一緒にサンクリス皇国に同行したのは、ここから引き離す為ですね」

 シェルさんは相手にとって頭が良く聡いから目障りだったんだろう。

「何者かは分かりませんが、まんまと嵌めらましたね。封印は大丈夫のようですが」


・・・悔しそうな表情から察する、犯人の目星はついていないようだ。


「封印の確認、それと隠蔽の重ね掛けをお願いしたいのですが」

「分かりました、今からですか?」

 私は即答する、シェルさんも頷く。私達はそのまま行動に移す事にした。


 アイネちゃんが私を待っていたので合流する、彼女も学園の秘密を知っているので丁度良かったかも知れない。

「本当にあんな物が学園の地下に無ければいいのに・・・そうすれば生徒が危険な目に遭わないのに」

 シェルさんの切実な思いが吐露される。


・・・カガミン。


(はい、尾行されてます)


 やはり何者かがつけているようだ。

((2人共、尾行されてます。静かに、喋らないで下さい。このまま進んで下さい))

 私は2人だけに聞こえるくらいの声で話す、2人に緊張が走る、

((あの角を曲がったら範囲で隠蔽をかけます))

 2人は頷き、そのまま私の指示通り歩く。



 私達は物陰から尾行者の様子を伺っていた。3人組で珍妙な仮面をしている、どうやら私達を探しているようでキョロキョロ周囲を見渡している。


((知っている人達ですか?))

 小声でシェルさんに尋ねる、

((いいえ、あんな知り合いはいないわ。まあ、仮面の下は分からないけど))

((どうしましょう?捕えますか?))

 アイネちゃんが聞いてくる、私はシェルさんを見ると頷く。


 2人は私の隠蔽の範囲から出て別方向に向かって歩き出す。私はそのまま隠蔽で身を隠して待ち伏せする。

 尾行者達は何も疑う事なく2人を見つけて再び追跡を始める。


「うわっ!?」

「なっ!?」

「きゃあ!?」


 3人の姿がいきなり消えた、というか私の作った落とし穴に落ちただけなんたけど。

((神樹魔法、拘束して))

 私はそのまま穴にある木の根を使って3人組を拘束した。

((ついでに花魔法、幻惑花))

 何が起きたか分からない3人は私の花魔法で眠りについてしまった。



「どうですか?誰か分かります?」


 仮面を外すと顔に大きな傷がある男だ。他の2人も仮面を外してみる、シェルさんは首を傾げる。どうやら見覚えのある顔ではないようだ。

 ふとアイネちゃんを見ると何か考え込んでいる。


「アイネちゃん?」


 声をかけるとハッとして私を見る。

「誰か見覚えがあるの?」

 シェルさんの質問に首を縦に振る、

「この顔に傷のある人ですが、確か昔、ミハイル侯爵様の館で見たことがあります。顔に傷があったので何となく覚えていたんです」


・・・ミハイル侯爵、かつてリントワース家が所属していた派閥の長だ。


「確かアリアス王子を担いでいたんじゃ」

 私の言葉にシェルさんは頷く、

「妻のマリナ・ミハイルの悪事が表沙汰になり、勢いは無くなっているけど・・・」

 元は敵対関係だったのでシェルさんにとって、その正体に肝を冷やしたようだ。


「シェルさん、これからは1人で行動する時はマーナを呼んで行動して下さいね」

 私はシェルさんに何かがあって欲しくはない。


「はあ、もう嫌、学園長ヤメたい」


 力ないボヤきと、大きなため息が聞こえた。


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