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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
七章 シャルロッテ編
153/499

153.歌声は天高く

 ここにいるのは危険だと本能的に感じた、誰もここにいないのがその証拠だ。


 しばらくすると防護服?を着た人が入ってきた。何かの点検をしているようだ。私はその人に乗じてこの場所から脱出に成功した。

 エアカーテンのような装置を抜け、壮麗な廊下に出た。ここには人の行き交いがあり、まるで病院のような雰囲気だ。


 向こうから豪華絢爛な法衣を着た壮年の男性を中心に一団で歩いている。私はサッと身を隠す、

「ホーリズ枢機卿、午後からは銀剣様との面会が予定されてます」

 まるで社長のようだ、秘書のような法衣を着た女性がスケジュールを確認している。

「分かった。それからシャトレアはしばし休ませろ、精神的な疲労が見える」

「はっ、承知いたしました」

 仰々しく一団が去って行った、私はそれを見送る。

 やはりここから早く脱出した方が良さそうだ。


 この施設の中を見て回って分かったのは、ここはオルベア神教という宗教の総本山だ。豪華絢爛な教会風な建築が広大な敷地にたくさん建っている。


「問題はあの巨大な城壁よね」


 まさに城塞都市らしい巨大な城壁に囲まれており、外部からの出入りは各所にある門からしか出来ないようになっている。しかも検問付きで丁寧に探知装置が完備されている。

「やっぱり下水から・・・」


(上から行きましょう!城壁を飛び越えて行きましょう)


 アンがやたらと下水道からの脱出を拒絶する、下水からの方が安全だと思うんだけど。


 とりあえず夜まで待つ、皆が寝静まり人の気配が全く無くなったのを確認する。

「よし、行くか!」

 私は建物の屋根から高く飛び上がり、高度をさらに上げていく。

「なっ、なんて高さなんだ」

 まだ城壁の高さまで辿りつかない、これなら確実に城壁内に忍び込んで脱出した方が正解だった。


(いけません、結界です!)


 アンが突然言い出した、しかし私はもう止まれない。気づくと全身に痺れるような激痛が走る、結界の網にモロに当たってしまった。私は飛行を維持できずにかなりの高度から落ちてしまった。


(シャルロッテ様!私を開いて下さい!)


 体が痺れて動かなない、上手くアンを開くことができない。私は必死に飛行をする、何とか落下速度は遅くなる。見渡したところに噴水のある池がある。

「あそこまで・・・」


 ザブンッ!


 水の冷たさが気持ち良い。なんとか噴水までたどり着いた。ここままジッとしていれば回復するだろう。

 そう思うと私はそのまま眠りについてしまった。



・・・ここはどこだ?


 私は目覚めたら何故かベッドの上であった。

「よかった、目が覚めたのですね」

 不意に声をかけられた。しまった!噴水で寝たままこの人に見つかってしまったようだ。

 私は警戒する、ここでは女神の御使は歓迎されないはずだ。こうして見つかった以上、戦闘もありうる。


「怖がらないで、ここは安全よ」


 うん?何か小動物的な扱いをされている気がする。

「私はシャトレアと申します、妖精様」

 シャトレアと名乗った少女。可愛らしい顔をしており、淡い栗色の髪を後ろで束ねただけの大人しめな髪型をしている。白を基調とした法衣?を着ていて、清楚な雰囲気をとても醸し出していた。

「ここは安全なのでゆっくり休んでいて下さい」

 そう言うとシャトレアは隣の部屋に入って行った。そう言えばアンはどこに行ったんだろう?


(ココですシャルロッテ様)


 なんと丁寧にも筆立に単独で大事そうに刺さっていた。

(申し訳ありません、このような事態になってしまって)


「ううん、大丈夫。生きているんだから平気だよ」


 アンはどんどん言葉が流暢になっていく、今では普通に人と会話しているようだ。

 窓から気持ちのよい風が入る、すると外から聖歌のような歌が聴こえてきた。

 いいリズムだ、大勢で歌の練習をしているのだろう。心地よい歌声がここまで届く。 


「いい歌、この世界でも歌があるんだね」


 私は窓の近くに座り、耳を傾ける。そして口ずさむ、まるで澄んだ空に歌が溶けていくようだ。ふと気配に気づくとドアの近くにシャトレアがいた。

「すっ、すいません、あまりに綺麗な歌声で」

 あたふたしながら言い訳をする。


「今、歌っているあの歌は?」


「しゃ、しゃべった!?あっ、いえ、すいません」

 そう言えば、この世界の人と会話したのは初めてだ。

「あれは祝福の歌です。新たな命の誕生を祝う歌なんです。赤ちゃんが産まれたのかな?」

 祝福の歌か、とても良い歌だ。再び私は同じフレーズを口ずさむ。シャトレアは静かに私の声に耳を傾けている。



 私達の奇妙な同居がこうして始まった。


 シャトレアは私に一生懸命に話しかけてくる、私は口下手なのでシャトレアが一方的に話している。

・・・前世での私と愛の会話みたいだ。懐かしさが込み上げてくる。


「妖精様どうかされました?」

 そう言えば私はまだ名乗ってもいなかった。


「シャルロッテ」


「え?」

 シャトレアは面食らった表情をしている。

「私の名前です。私は水の女神エリエス様の直系眷属シャルロッテと申します」

 私が名乗ると唖然とされる、

「め、女神様の御使様でしたか!?えっ、どうしましょう」

 滅茶苦茶うろたえている、何かその光景につい吹き出してしまった。


「シャトレア、私を助けてくれてありがとうございます」


 1番最初に言わないといけない事だ。大切なことが疎かになっていた、私は深々と頭を下げる。



 こうして私達は出会うことができた。



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