148. 享年25歳
新章です。
水のスプライト、シャルロッテが主人公です。
深い眠りからようやく醒めた。
『おはようございます、神崎 雫さん』
私を優しい笑顔で見守っていたのは美しい女神様のような女性だった。
『はじめまして、私は原初の海神エリエスという者です。そして貴女をここに呼んだ者です』
私は美しい巨大な女性に見惚れていた。
『あの〜、聞いてます?もう少しリアクションをくれればありがたいのですが』
私はハッとして我に帰る、本当に見惚れるほどの美しさだ。
「あっ、はい、その、えっと・・・ここはどこなんでしょうか?」
周囲を見渡す、なんとなくだが、ここが私が今までいた場所ではない事は分かる。
『はい!ここは竜宮城よ。この世界は貴女達の世界でいう異世界なのです。そして貴女は転生してここに来たのです!』
・・・深く考えてしまう。ここは異世界で私は転生した?転生って事は死んだのか?
『お〜い、なんか反応してよ』
しまった、つい考え込んでしまった。
「その転生というのは死んで生まれ変わるという意味でしょうか?」
『お・・・おう、その通りです』
私はずっと病院に入院していた、だからいつかは死ぬものだと思って覚悟はしていた。
「・・・そう、私は死んだのですね」
『・・・はい、大型台風により病院が停電してしまいました。最後まで復旧せず、そのまま静かに息をひきとりました。享年25歳でした』
25歳か、思ったより生きれたのか?早逝だったのかはよく分からない。でも3年前に数少ない友達の結婚式に何とか出席できたのは良かったと思う。
ベッドでの寝たきり生活になったのは1年前だから、それを思えば早かったのかな。
「ところで、私は何で花の上で寝ているのでしょう?私以外に人はいないんですか?私はいったい」
エリエス様は静かに私の姿を見ることができる鏡を作る。凄い!これって魔法的なもの?
そして鏡に写る私の姿を見る、以前と顔が全然違う、銀色の髪に色白の肌に青い瞳、
「これじゃ、まるっきし外人だ!」
びっくりした、そして周囲とのサイズ感が全然違うのに気づく、よくぞ気付いたとエリエス様が自慢げな顔をしている。
『そう!実は人間ではなく妖精の上位種のスプライトに転生したのです!私の直系の子供としてこの世界に来たのです』
ファンタジーの世界だから何でもありなのかな?私は妖精になったんだ・・・でも、健康な体になったのか?
「あっ、そうだ!」
私はエリエス様を見る。分かっている、どうぞというジェスチャーをしてくれる。
私は腹の底から声を上げる、そして思いっきり歌を歌う。前とは全然違う、息が続く、苦しくない、本当に夢みたいだ。
自然と涙が出てきた。エリエス様も口ずさむように一緒に歌う、2人のリズムが静かな水の世界に響き渡る。
「私は、ずっと、こんな日が来るなんて、お、思わなかった」
声が詰まって上手く言えない。嬉しさで私は涙が止まらなかった。エリエス様はそんな私を優しく包み込み、抱きしめてくれた。
どれだけの時間が経っただろう。
「本当にありがとうございます。それで私はこの世界で生まれ変わって何をすれば良いのですか?言ってくだされば何でもします」
私がそう言うと少し困った顔をされた。
『そうね。まずは貴女の新しい名前を決めなくてはいけないわね』
名前か、もう神崎 雫ではないからな。しばらく2人して腕組みをして考える。
『シャルロッテ・・・なんてどう?小さくて可愛い女の子という意味よ』
シャルロッテ、前世でもよくある外人っぽい女性の名前だ。
「はい、とても良いと思います。ではシャルロッテと名乗りたいと思います」
『うふふ、良かった。よろしくねシャロちゃん』
愛称も決まったようだ。そして何もない空間から私の大きさに合う小さな傘を渡された。
『これは貴女専用のマジックアイテムよ。会話もできるし色々な事を教えてくれるわ。早速名前を決めて話しかけてあげて』
これがマジックアイテム?傘か、傘、アンブレラ、パラソル、パラソルは日傘だっけ、アンブレラの頭だけ取れば女の子っぽい名前になるか、
「じゃあ、あなたはアン!アンブレラのアンよ」
(認証しまシタ、ワタクシは今からアンです)
「しゃべった!?」
『アンにこの世界の事とか検索して調べる事が出来るし、勉強してどんどん賢くなるのよ。後は色々改造してあるからそれは後々のお楽しみね』
私はアンを眺めながら感心している。そしてエリエス様を見ると少し寂しそうにしている。
『・・・そろそろ時間なの』
時間にして半日経っただろうか、とても寂しそうな表情をしている。
「・・・私はこの世界でいったい何をすれば良いのですか?」
ここにいる理由、何かあって私はここにいるはずだ、それを知りたい。
『・・・生きて、いっぱい生きて。シャロちゃんが今まで出来なかった事、したかった事を沢山して、そして楽しんで!』
願望のような強い言葉をかけられ、私は再びエリエス様に抱き寄せられた、それはまるで母のような優しさであった。
『今の貴女は1000年以上長生きできるわ、だから精一杯生きて、そしてまた私とお話ししましょう』
1000年!?それは長生きすぎる気がするよ!私の表情から何を考えたのか読み取られたようだ、優しそうに微笑まれている。
「あの、最後に、何で私が選ばれたんですか?その、やっぱり同情とかですか?」
前世からのコンプレックスなのか、つい最後に聞いてしまった。
エリエス様はキョトンとした顔をしている。
『うふふ。貴女、昔1人の砂浜で海に向かって歌を歌っていたでしょう?』
悪戯っ子ぽく笑う、まさか私の黒歴史を知られている!?
『私はずっと貴女の歌のファンなんですよ』
私は顔中が真っ赤になるのが分かった。
「忘れて下さい!そんな事はすぐに忘れて下さい!」
懇願する私をからかうように笑う、ひとしきり笑ってから、ふと表情が儚げになる。
『・・・それでは行くわ。シャロちゃん、いっぱい生きて、いっぱい楽しんでね。・・愛してる』
そう言い残すとエリエス様は静かに消えていった。
中学校の時、歌手を目指していた時期があった。誰もいない砂浜で大声をだして歌った黒歴史を思い出す。そして、その黒歴史を知る数少ない友達の顔を思い出した。
もう戻ることのないあの時間を胸に秘める。
「愛。約束はかなわなかったけど、私はこの世界で頑張るから」




