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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
六章 ハレルヴィ公国編
146/499

146.月の明かりに

「ジオグラフィックバトン」

 私は魔王核片の中に入り込む感覚を覚える。



「これが賢者の石か?」

 男性の声がする。

「ああ、わざわざ国宝の魔王核をオルベアに持って来た甲斐があったというものだ、オルベアの技術で錬成する事ができた」

 これは魔王核片の記憶?

「これを持って帰れば作れるのだな?」


 部屋には複数の男の会話が聞こえる。


「オルベア神教の太陽を司る神兵エルミラドーレを研究させてもらいました。魔王核を失ったのは痛いですが、これで神兵の複製が可能となるはずです」


・・・神兵?もしかしてそれはマナフロア様の子供の事だろうか?


「我が国にあると言われる月の神兵レザームーンが見つかれば自前で何とかなるものの。それか星の神兵のピースメーカーが見つかれば・・・」

 太陽と月と星?確かレザームーンは学園の地下にいる子だ。


「ピースメーカー・・・又の名をクサナギか。見つかっても皇国が離さないだろう、大蛇神を封印しているという伝説が残っているくらいだからな」


・・・クサナギ?大蛇神は八岐大蛇の事だと思うが。


「何、これで我々の悲願への道だ。ようやく魔神、魔王、人類に仇なす敵全てに打ち勝つ戦力を人の手によって作り出せるようになるんだ」

「賢者の石か。オーレン、まさに錬金術師の悲願だな」

 オーレン・ブランド。この声の主が4大公爵の一つで王国史上最高の錬金術師か、他は誰だ?


「陛下、必ずやオルベアの技術を持って帰ります」

 陛下・・・もしかして先先代の国王ロジアスか?

「オーレン、随時報告を頼むぞ、オルベアとは協力はするが警戒は怠るな」


「ええ、心得てます。それにゴメスとシシリィ嬢の子供に会いに行きたいので近いうちに帰国したいと思います」

・・・もしかして声の主の1人はシシリィさんの父親なのか?


「人が何も怯えずに暮らせる国への第一歩だ。さあ、我が国に帰ろう」

 高らかにロジアスの宣言が聞こえた。そして私は何らかの封印の中に入った。


(喰らえ、喰らえ、喰らえ)


 気持ち悪い声が響く、何故か固いはずよ封印が解かれて私は船の中にいた。


・・・これは時限式に開封された?


「おのれ!謀ったなカルストーレ!」

 カルストーレとは誰だ?賢者の石もとい生贄石の私は人の魂に喰らいつく。


(憎い、憎い、憎い)


 意識が遠のく程の憎悪が流れ込んでくる。

「陛下!海へお逃げ下さい!」

「ダメだ!この船は魔導航路で自動的にクリストアに行ってしまう!船底に行って船を沈める!この化物をクリストアに行かせてはならん!」


 ロジアスが残る側近を連れて船底に向かう。


(苦しい、苦しい、苦しい)


 息が詰まるような苦しさが私を襲う。

「なんたることだ、動力コアが侵食されている」

「・・・私が甘かったのだな、これは人には過ぎた禁断の力なのだという事がよく分かった」


 ロジアスが力なく後悔の念を口にする。


(悲しい、悲しい、悲しい)


 嗚咽と涙が溢れて出てくる、

「せめて、皆の未来の為に礎となろう。子供達の未来の為に、この化物を何とかせねば」

「ですな、シシリィの、私達の孫のためにもこの化物はここで何としても止めねば!」


 ロジアス達が悲痛な決意を固める。


「ラヴィリス様、ラヴィリス様!」

 私を呼ぶ声がする。


 おえぇぇぇ、


 凄まじい吐き気に耐えられず、お腹の中身を盛大に戻してしまった。


 そして私はプッツリと意識を失ってしまった。



・・・ここは?


 私が目を開けると自分のベッドの中で寝ていた。周囲は真っ暗になっていた。

 起き上がると傍にはアイネちゃん、リマさんやテルーさんも皆が寝ていた。


「また心配をかけてしまったな」


 横にカガミンがいたのでどうなったのか聞いてみた。


(ラヴィリス様は残っていた生贄石の記憶によって精神を侵されてしまいました。アイネさんの声で我を取り戻しましたが意識を失ってしまい、10時間程眠っていました)


 生贄石か、想像以上の化物だった。


・・・喉が渇いた。

 私は皆を起こさないように部屋の外に出た。食堂に入り水瓶からすくって口にする。

「はぁ、美味しい」

 外はとても美しい月が輝いていた、その光の中に人影を見つけた。


「・・・シシリィさん。眠れないのですか?」

 私はその見慣れた人影に声をかける。

「ラヴィリス様。よかった、お気づきになられたのですね」

・・・笑顔が辛そうだ。

 それもそうだ、本人の意志とはいえ私は非情な現実を突きつけてしまったのだ。


「大丈夫ですか」

 私は彼女にかける言葉が見つからない。

「ラヴィリス様には感謝しかありませんよ。両親に何があったかを知る事ができました」

 私に深く頭を下げる。


・・・私はそんな事を望んでいない!


「・・・ラヴィリス様、私などの為に泣かないで下さいませ」

 感情が止まらなかった、勝手に涙が溢れて来る。


「貴女様は本当に優しい方です。真実は過ぎた理想を追いかけた父達の自己責任、ラヴィリス様が心を痛めなくていいのですよ」

 私を優しく抱きしめる。


・・・違う!


「私が苦しいのは、シシリィさんの心です!シシリィさんのそんな苦しそうな笑顔が、私には、とても悲しい!」


 月の明かりにシシリィさんの瞳から涙が落ちる。私はそれを拭う・・・


「こうして貴女と知り合った、仲良くなった、それだけで私にとって大切な存在です。だから、私は貴女のそんな顔を見たくない!」


「・・・本当に優しい方です」


 私はシシリィさんにギュッと抱きしめられる。しばらくそのままでいたが不意に解放された。


「ありがとうございます。私の心まで救ってもらって。シェルがラヴィリス様の事が大好きな理由がわかりましたわ」

 自然な笑顔がとても美しかった。

「うふふ、これからは夫婦共々ラヴィリス様に絶対の忠誠を誓いますわ」


 その笑顔に何となくだけど私も救われた。でも絶対忠誠など大袈裟すぎな気がするよ。




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