141.進化の果実
「フローネ、ヒッポカムポスさんは生きているのですか?」
一応聞いてみた、もちろん生きていたら魔導核を取り出す訳にはいかない。するとフローネは悲しそうに首を横に振る。
「・・・そうですか」
私は手を合わせて合掌してから船の中に入る。中は相当に荒れており、この中で先先代国王の手掛かりを探すなんて困難としか思えないが。
「ラヴィリス様、私達は船内の捜索に行きます」
船内に入りシシリィさん達と別々に行動をする事になった。
私達ヒッポカムポス探索メンバーはアイネちゃん、テルーさんとアリエッタ、リプリス姫とフローネ、それにゼル君、保護者役のベリーサさんとシャンティさんだ。
「ヒッポカムポスさんはどこにいますか?」
『もっと下にいる。・・・でも何か他にいる』
・・・嫌な事を言わないで欲しいよぉ。
『妖精は海獣にとって進化の果実、いつも何かに化けるか、姿を隠さないとダメだってお姉ちゃん達が言ってた』
んっ?今聞き捨てならない事が聞こえたぞ?
「フローネ!今なんて!?」
おっと、先にアリエッタが反応した。
『うん?いつも何かに化けるか』
「違う!その前!」
海獣にとって進化の果実と言っていた。
「フローネ、私達はこれまで執拗に古代竜に狙われて来たのです。もし彼らにとって私達が進化の条件というなら、それはとても納得のいく答えなのです」
私とアリエッタが真剣なのでフローネの顔も強張る。
『お姉ちゃん達の話だと、大海獣はシャロ様以前の神子様を食べて大海獣に進化したと言ってた。それまでは普通の海獣だと聞きましたです』
私達が真剣に聞くのでフローネの言葉使いがおかしくなってしまった。
「カガミン!もしかしてバンゲアで私を執拗に狙ったスーパーティラノって」
(どうやらその可能性が高いです。あの個体だけ異常進化していた理由に納得がいきます。元々古代種は進化が頭打ちした種族なのです、なのでラヴィリス様に執着したのはそれが原因の考えるのが普通でしょう)
・・・そして私はある事を思い出し背中がゾッとした。小声でカガミンに問いかける、
「ねぇ、サンクリス皇国のディルメスってアリエッタの前の御使様を殺したと言っていたわよね」
(・・・可能性は高いです。サンクリス皇国で戦ったディルメスは人間から進化した個体と推測されます)
私はあの時に仕留める事が出来なかった事を、今になって心底後悔した。底知れない何かを感じていたがそういう理由だったのか、せめて解析しておけばよかった。
この事はアリエッタやヴェロニカさんと共有しなくてはならない。そのせいで全ての生物から命を狙われかねないからだ。
「フローネ、今の話は誰にもしてはダメよ」
『う、うん』
アリエッタも何かを感じたのか神妙にしている。
「ラヴィリス様ー!早くいきましょう」
突然アイネちゃんが私達を呼ぶ声が聞こえる、ここでプツッと緊張の糸が途切れてしまった。
「うふふ、先に行きましょうか?」
なんか笑えてしまった、アイネちゃんの明るい性格は私にとって本当に救いになる。
船底に進んでいく。
『ここだよ』
フローネが指す扉を開ける。
「これは・・・・」
ヒッポカムポスは海の馬ということらしいが、原型を留めていない無残な姿であった。
「酷い」
私は死骸を見て呟く、横をみるとフローネが震えていた、その姿を見て確信した、
「フローネ、何かいますね」
静かに首を縦に振る、ヒッポカムポスとフローネは一心同体だ、今の魔石は不完全という事になる。
「ここからすぐに出ます。ゼルさん、シシリィさん達に連絡はできますか?」
ゼル君がすぐに頷く、
((危険、直ぐに船から出ろ))
本当にゼル君がいてくれて助かった、離れていても複数に連絡が取れるのはありがたい。
(バレました、来ます!)
カガミンから警告がくる、
「アイネちゃん!」
私はダイツーレンをカガミンから出す。
「はい!」
アイネちゃんは受け取ると身構える。
船の床から女性の首だけニョキッと出てきた。
「この人!船から私を見てた女の人!!」
アリエッタが指をさす、色白で血色の悪い女性が私達を凝視していた。
よく見るとフローネにそっくりな顔をしている・・・普通に考えてヒッポカムポスとフローネは一心同体だから当たり前か。
カガミン、解析!
ラハヴ・ヒッポカムポス
種族:海妖 (侵食体)
所属:竜宮城
LV:50 HP:369 MP:745
力:52 魔力:114 体力:65 知力:96 速さ:69 運:36
スキル:
水属性魔法、自己修復、水操魔法、侵食、
触手、猛毒、毒無効、
ラハヴ?ヒッポカムポス?侵食体?どういう事だ?
「フローネ、何があったの?」
私と目が合い俯いてしまう、そしてポツリ、ポツリと話し始めた。
『私はヒッポカムポスと、シャロ様を探しに出た。擬態のため海底に沈んでいたこの船をヤドカリした、だけど中にいた何かがとても強くて逆に侵食された。強い悪意が込められてたから私達は抗えなかった。最後はヒッポカムポスが私だけ外に出してくれた。その時にちょうどリプがいてくれた』
・・・そういう事は先に言っておいて欲しい。
「いったいこの船は何?」
『わからない、でも今は凄い悪意に満ちている。私達が入った時は全くなかった』
悪意に満ちている、何が目的なんだ。
『この船、私達の意思に関係なく巡り回って何かをずっと探していた』
『・・・何かを許さないって』
やめてくれ、私は恨まれるようなことはしてません。




