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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
五章 サンクリス皇国編
129/499

129. 私はこの世界で。その2

サンクリス皇国編ラストです。


 ーーアリエッターー



「初めまして妖精さん」

 長い銀髪を後ろで束ねた男の人が私ににこやかに語りかけてきた。


 何でだろう・・・私はこの人を好きになれない。


 直感的にそう思った。どうやら彼はディルメスという名前でこの国の皇太子のようだ。

「どうか君に助けて欲しくてね。どうしても封印が解けないんだ」


 ディルメスが私に近づこうとする、するとレアンが私の前に立つ。


「悪いがコイツはまだ全快してない、無理矢理させるつもりなら俺は協力はしない」


 いつになく真面目だ、ディルメスは肩をすくめて後ろに下がっていく、

「勿論だよ。悪いようにはしないし、終わったら自由にしてあげるよ」


 底知れない不安が私を襲う。



 そして恐竜の襲撃が起こってしまった。

 5体の恐竜が上空を旋回している、空から火の玉が降り注ぐ。


 街は一瞬で火の海に覆われた。


 あの恐竜は最後まで私に執着していた奴らだ、ここまで追いかけて来るとは思わなかった。


「どうやら君を追いかけてきたみたいだね」


「全部君のせいかもね」


 ディルメスの言葉が私に刺さる。恐怖と不安が私を襲う、この惨劇は全て私のせいじゃないだろうか・・・胸が苦しい。


 私に出来る唯一の罪滅ぼしはディルメスに協力することだった。その笑顔に恐怖を覚えるが私には選択肢がない。

 ディルメスの言葉に心が動きそうになる。その度にレアンが私を庇う、悪くないと言い続けてくれる。


 その後どこからともなく死霊使いやら呪術師など、訳のわからない男達が現れてから更に空気が悪くなる。



「お前だけでも逃げろ!」


 次第に本性を出し始めたディルメス達にレアンがついに反旗を翻す。真っ先に私を解放する、私を逃すために自ら犠牲になるつもりだ。

 何だろう、心に熱が灯った気持ちになった。

・・・私は笑顔がなくなったレアンを見たくない、あの明るいレアンともう一度会いたい!


 私は逃げない!もう逃げたくない!!


 初めて自分で立ち向かった、怖くて震えてしまう。だけど大切な何かを失うのはもっと嫌だ!



 その時だった、私の前を一陣の風が舞い降りた。

 1人の剣士の出現で形勢は逆転した。剣聖と呼ばれた男性は白髪が少し混じった細マッチョっぽいイケオジ様だった。

 更には援軍が駆けつけたように可愛らしい金髪の女の子とサラサラヘアの物語の主人公のような男の子も遅れてやって来た。


 そして彼らは私の存在を知っているようだ。私の姿を見ても驚かなかった。

「私達は地の女神様の御使ラヴィリス様の従属者ですから。貴女様の保護も頼まれております」

 私以外にも妖精がいるんだ。どんな人だろう、優しいお姉さんのような人かな?こんな時なのに勝手に妄想が先行してしまった。



 結局はディルメスの口車にのせられ地下の大空間に辿りついた。

 歴代の皇族の墓といわれている巨大な建物の前に辿りついた。すると何かが騒がしい、あれは・・・

「シャンティ!!」

 もう会えないと思っていた、私はシャンティの胸に飛び込んだ。まさかここまで追いかけて来てくれるとは思わなかった、それだけにとても嬉しかった。


・・・そして私はここで運命の出会いをした。


 テルーという名前のエルフの女の子だ。彼女は亜麻色の長い髪を一つに束ねた大人っぽい雰囲気の美人さんで、メイド服に弓矢を抱えていた。

 風の女神様を信仰しており、私なんかに最大の拝礼をされて狼狽えてしまった。

 私のオタオタしている姿見てテルーは悪戯っぽく笑う、私はすぐに彼女と仲良くなりたいと思った。


 私がプレッシャーに耐えられずにピースメーカーを起動した時も、私を抱きしめ慰めてくれた。私の事を大好きだと言ってくれた・・・

・・・私も貴女の事が大好きだ。



 そしてついにあの方と会うことができた。地の女神様の御使ラヴィリス様と・・・

 私と対して大きさは変わらない、でもたった1人で恐竜に立ち向かっていた。


 その勇敢な姿に私は心奪われた、その姿をずっと見ていたかった。


「危ない!」


 私は恐竜の魔法で吹き飛ばされたラヴィリス様を私は咄嗟に庇った。上手くエアクッションで衝撃を殺すことができてホッとした。


 剣聖ハズリム様がラヴィリス様を語った時は称賛する言葉しか聞かれなかった。


 私はその時から期待に胸を膨らませていた。


 ひと目見た時に衝撃が走った。ウェーブのかかった長い黒髪、白い透き通った肌に凛々しく美しい顔、全てが私の想像と一致した。

 そして厚かましくもお願いしてしまった、


「お姉様と呼ばせて下さい」


 私に百合的な趣味はない、でも言ってしまった、言わずにいられなかった。

 後から思い出すと恥ずかしくて、今でも顔が真っ赤になってしまいそうだ。


 テルーとの従属もきっとお姉様がいなければ口にする事は出来なかったと思う。

 お姉様とテルー、2人の存在が私を強くしてくれた。


 後で聞いた話だとテルーはまだ学生さんで私と対して歳は変わらないらしい、とても大人っぽく見えたので年上だと思っていた。一緒にいたアイネさんとゼルさん、この2人と同級生という。

 私は学生を途中でドロップアウトしたので3人が羨ましく思えた。


「もし良かったらアリエッタ様も一緒にどうですか?ラヴィリス様も人間界の勉強のために私達と一緒に授業を受けてますよ」


 アイネさんが提案してくれた。嬉しい、私の世界が大きく広がり、再び希望に満ちていくのが分かる。

「まあ、無事にここから出ないとな」

 ゼルさんの言葉に皆が頷く、アイネさんが一緒に戦う仲間と笑っていた、その言葉に私はとても共感ができた。

 シャンティもレアンもダイスもサティも、大変な状況なのに笑顔だ明るさも戻ってきた、皆が仲間なんだと皆で生き残ろうと頑張っているんだ!


 私もやれる事を頑張ろう、初めて今の自分と向き合えた気がする。



 ディルメスを追い詰めたが、後一歩のところで逃げられてしまった。

 おびき出されるように恐竜がやってきた、更にはゲートキーパーと呼ばれるロボットまで乱入してきた。

 あれは天宮城で私を攻撃してきた奴と一緒だ、明らかにピースメーカーと違う。

 お姉様にその事を尋ねてみた、全くの別のモノのようだ。世界の真理に関わることなのでいつかフィオル様から直に聞くべきだと仰った。


「私の声を聞いてくれるでしょうか?」


 ずっと不安に思っていたことを口にしてしまう。正直に言って、私はズルをして脱出したと思っている。

 私は立ち向かうことをせず、全てから目を晒して、全てから逃げて来たと思っている。


 そんな私の不安をお姉様は笑いながら吹き飛ばしてくれた、私の事を何があっても味方するから覚悟しろと笑って言われた。

 お姉様ではなくてお母さんみたいだった、それを言ったら苦笑していた。


「姉でお願いしますと言われた」

 お姉様の困ったような笑顔が印象的だった。

・・・私はその笑顔に救われた。


 ずっと1人で孤独という負のスパイラルに陥っていた私を多くの人が手を差し伸べてくれた。


 私はこの人達を守りたい。


 私のお姉様、ラヴィリス様を助けたい。


 その一心で魔法が発動している魔法陣の中に飛び込んでしまった。

 後で非常に危険な行為だとオーちゃんにとても叱られてしまったけど、その時は必死だった。

 全力でお姉様を支えたかった、無我夢中で大気から魔法をかき集める。


 お姉様の必殺の召喚魔法は凄かった、あれは日本人ならきっと誰でも知ってる伝説の怪獣ヤマタノオロチだ!8個の頭を持った怪獣がゲートキーパーを次々と倒していった。



 ようやく戦いが終わった。緊張の糸が切れたのか全身の力が抜けていった。飛行能力が維持できなくて地面に落ちてしまった。

 後からオーちゃんに聞くと、魔力を集めるのに魔力が必要らしい。それだけお姉様の魔法が魔力を消費したという事だろう。


 でも良かった、きっと役に立てたと思う。


 そして私達は中央広場の時計塔へやって来ていた。

 オーちゃんが探知していた小さな魂、それを確認するためだ。


「ピイィィ」


 もう見てられなかった。赤ちゃんを守るため、お母さん恐竜はずっと動かずに耐えていたのだ。

 お姉様は同情してはいけない、気に病むことはないと仰った。


 でも私は涙が止まらなかった。


 お姉様も強がっているのか、その瞳には涙が溜まっていた。

 私は決意した、この子は私が育てる!それが例え自己満足な罪滅ぼしだとしても。

 従僕魔法の光が私たちを包む、この子も私を受け入れてくれた。


 名前もひと目見た時から決めていた。

「プーちゃん!貴方は今日からプーちゃんよ!」

「ピィヤァ!」

 プーちゃんも気に入ってくれたもうだ、テルーが抱き上げ嬉しそうに頬擦りする。暖かくフワフワした羽毛が抱き心地を増長させる。

「さんはダメよ!ちゃんと呼ぶのよ!」

 お姉様が大声を張り上げる。

 きっとお姉様は転生者だと思う、それもきっと日本人だ。


・・・今はそんなこと関係ないか。


 私はこの世界で生きているだから。


 私はこの世界でアリエッタとして生まれ変わったのだから。

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