128. 私はこの世界で。その1
サンクリス皇国編エピローグです。
アリエッタ視点です。
ーーアリエッターー
私の名前は有坂 空、13歳の中学生だ。
いわゆるクラスでカースト下位の地味なモブ子だ、運動部の連中のような陽キャではなく、隅っこ暮らしの陰キャでアニメや漫画が好きな普通な中学生だと思う。
「危ない!」
どこかの誰ともわからない人だったと思う。これが私の聞いた最後の言葉だった。
『よかったぁ、目が覚めてくれた。魔力蓄積が足りないから目覚めてくれないかと思ったよ〜』
目が覚めると、とても大きくて美人なお姉さんが私に優しく微笑んでくれている。
「・・・私は?いったい」
周囲を見渡す、私は大きな花の上で寝ていた。
『有坂 空さんですね』
目の前の金髪超絶美人さんは、天空の女神フィオルと名乗った。そして私がこの世界に来た経緯を説明してくれた、突風で煽られた工事現場の資材の下敷きとなり死んだこと。あまりに不慮の事故すぎてこちらの世界に転生することになったらしい。
「待って!?これって異世界転生ってやつ!?」
地味で何の変哲もない私が?突然新しい世界にやって来た?私は物凄く興奮して喜んだ。
前世が嫌だったわけではなかったけど、それとこれは別の問題だ。
今世ではアリエッタという名前を名乗る事になった。何でもそよ風という意味らしい、とても可愛らしい名前なのですぐに気に入った。
短い間だったけどフィオル様といっぱい触れ合う事ができた。
フィオル様はとても悲しい事があり、毎日泣いていた事、私がこの世界に来て目覚めてくれた事がとても嬉しかったと言ってくれた。
異世界転生ものの定番であるチート能力は貰うことはできなかった。だけど定番の鑑定や魔法、マジックアイテムをくれた。
『どうか、どうか長生きしてほしい、危険な事に首を突っ込まないで。出来るだけ自分のことを大切にしてほしい』
別れる間際まで私のことを心配してくれた。まるでお母さんみたいだった。
先ずは自分の姿を見てみよう。水に映る私の姿を確認する、なんと金髪の超絶美少女になっていた!
私は歓喜した、さよなら地味顔の私!
フィオル様からもらったマジックアイテムの扇、名前をつけて良いというので扇のオーちゃんと名付けた。
オーちゃんは私と会話ができて色々サポートしてくれるようだ。所謂チュートリアルってやつよね。
この時の私は夢と希望にあふれていた、だけど現実は甘くはなかった。
神殿のような建物を出る、ここは天空に浮かぶ城で映画に出てくるような場所だった。歓喜のまま、何の警戒もなく探索したお気楽なのはここまでだった。
「グルアア!!」
アニメで見たことある!ドラゴンだ!最初は興奮していた、だけど自分に真っ直ぐ向かって来るドラゴンを見て確信した。
(キケン!すぐに逃げロ!)
オーちゃんが私に危険を教えてくれる、私はとにかく逃げた、すると他の怪物も私に気付いて襲い掛かる。
(神殿の聖域に逃げロ!)
最初の建物!?そこに向かって死にもの狂いで逃げ込んだ。
死の恐怖に直面し、体の震えが止まらなかった。それからしばらく神殿に引きこもっていた。
これじゃあ、いけない!
私は勇気を振り絞って外に出る、だけど何故かすぐに見つかってしまいすぐに全力で逃げた。
逃げ伸びた先の建物に古代装置みたいのがあった、そこでは黒い球体のロボットに襲われた。
閉じ込められそうになり、必死に外に逃げてる。するとまた怪獣に襲われ、火の玉を避けきれずに死にそうになりながらも最初の神殿に逃げ延びた。
散々な目に遭ってからは、安全な建物からもう一歩も外に出れなくなってしまった。
転機が訪れたのは数ヶ月後だった。
冒険者と名乗る一団が私の前に現れた。一緒にここから出ようと言われ、私は嬉しくて泣きそうになってしまった。
ここ天宮城シャングリアからの脱出は熾烈を極めた、私を追っているのか怪物が執拗に追いかけてくる、私達はボロボロになりながらもこの空域から脱出に成功した。
地上に降りてからは毎日が新鮮だった。
聖域に引きこもっていたから私の体は弱々しく衰弱していたようだ。
ショートカットのシャンティと名乗る可愛い女性が私に付きっきりで治療してくれた。
サティと名乗る長身のカッコいい女性が私の様子を見に来てくれた。
ダイスと名乗った筋肉マンは私に甘いお菓子を差し入れてくれた。
リーダーのレアンは引きこもっていた私を連れ出してこの世界を見させてくれた。勝手に連れ出して皆から怒られていたけど、それも笑い話だった。
人の暖かさがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
私の体調の事を考え、シャンティの故郷である隣国のベスタルール王国に拠点を移す事になった。
サンクリス皇国とは雰囲気が全く違う、市場は活気に満ちており食べ物がめちゃくちゃ美味しかった。
カレーに似たスパイス料理がお気に入りで、お米が恋しくなってしまった、こうして周囲を見渡すと本当に異世界に来たんだと今更ながら実感した。
少しセンチメンタルな気分になったが、シャンティやレアンらが居てくれるから心細くはない。
・・・今の私はもう1人じゃないから。
だけど平穏な日々は長くは続かなかった。
「すまない、今日でパーティーは解散だ。ダイス達にはもう言ってある」
突然、レアンがやって来てシャンティに告げた。
「はぁ!?なに言ってんの?」
シャンティが明らかに怒っている。
「頼む」
深く頭を下げる、張り詰めた表情をしている。
「・・・せめて理由だけでも教えてくれる?」
レアンは何も言わない、すると皇国の兵が雪崩れ込んできた。シャンティが拘束され、私は鳥籠の中に閉じ込められた。
「ちょっと!アリエッタをどうするつもりだ!」
シャンティは普段は温厚だけど怒ると物凄く口が悪くなる、きっとシャンティは元ヤンだよ。
「頼む、すぐに皇国から離れてくれ」
レアンが懇願するようにシャンティに言い残す、私は鳥籠の中に入ったまま連れてかれた。
その時、小さな声でレアンが私に呟く。
「心配するなアリエッタ、お前は俺が命をかけて絶対に守るからな」
いつになく真面目な表情に何も言えなかった。
その日からレアンから笑顔が消えた。私にはそれがとても悲しかった。




