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精霊女王と呼ばれた私の異世界譚  作者: 屋津摩崎
五章 サンクリス皇国編
120/499

120.剣の翼竜

 ーーハズリムーー



 若い者達の成長は速い、特にゼルの精神的な成長は孫という贔屓もあってとても嬉しい。


「孫の前でカッコつけないといかんな!」

 ゴメスが茶々を入れてくる、

「お前の孫もそうだが、この年代の子供達は()()()だ。ここにはいないがフルート伯爵家の令嬢を含めて宝石のような煌めく才能が大勢いる、我々があの子達を守らなくてはな」

 ゴメスの孫娘もかなりの才女と聞いている。

「ははは、孫のミリアリアは最近シシリィに似てきていてな。誰も嫁に貰ってくれないのではないかと危惧してしるんだ。どうだ?ゼルとくっつけんか?」


「断る!」

 シシリィ2号など絶対に拒否するわ!

「・・・やっぱり?」

 そう残念そうな顔をするな、お前は惚れた弱みで自分から喜んで尻に敷かれているんだろ!


「それに、ゼルはアイネ嬢に惚れておる」

「あっ、やっぱりそうか」


 ゴメスも気付いておったか。まぁ、バレバレだったけどな。気付いてなさそうなのがアイネ嬢本人なのが可哀想になってくる。


「お爺様方、そろそろ働きましょうか」


 ベリーサがいつの間にか我々の後ろに立っていた。此奴も逞しい女だ、

「お主もだんだん母親に似てきたな。痛っ」

 ゴメスが余計な事をいうから足を踏まれている、本当に最強の女傑の血族は恐ろしいな。


 ベリーサはレイア王妃の妹だ。ウィリアム家は代々女傑の一族であり当主も女性がつとめている。

 そのベリーサの母君は鬼薔薇と呼ばれる歴代最強クラスの女性騎士だから逞しいのは仕方がないか。

 姉のレイア王妃も普段は温厚だが、怒ると誰も手をつけられないと聞くからなぁ。


・・・ベリーサに睨まれる。っていうかお前は私達にだけ当たりがキツくないかい?


「ゴホン、どうやら話が脱線してしまったようだ」

 さてとお爺さんは頑張ろうかな。


「やあっ!」

 すでにアイネ嬢がマキシムと共に前線に戻っていた。

 若さというのは凄いな、さっきまで後方にいたのに一気に前線に駆け上がり先陣を切っている。

 ラヴィリス様の持つもう一振りの神剣、それを操る姿も様になっている。


「アイネ嬢、囲うぞ!」

 私が加勢すると、それに呼応するようにスライドしてくれる、さらにレアン達が反対側を塞いでくれた。これで正面に私と、右をアイネ嬢、左にレアンと囲いが成立した。


「うむ、我ながら見事な采配」


 つい自画自賛してしまった。ちと右が弱いかな?

「ベリーサ頼めるか?」


「ええ!」

 ベリーサとフレディがアイネ嬢の方に加わってもらった。後方にはゴメスとテルー、アリエッタ殿を配置して今度こそ囲いの完成だ!

「クルワワア!!」

 威嚇と共に鋭い突きが飛んできた!大きな図体なのに動きが鋭すぎるぞ!避けきれずに左腕が吹き飛ぶ。

「甘いわ!」

 左腕は神樹なので直ぐに生える、剣の付け根部分に向けて振り下ろす!


 ブン!


 避けられた!?なんと腕を上手く折りたたんで剣を避け、更にエルボーが私に飛んできた。


「くつっ、器用な奴め!」


 少し食らってしまった、まさに歴戦の剣士と相対している感覚だ!

 しかし、私に攻撃したということは左右後方がガラ空きということだ!

 案の定、この隙を逃すような者はここにはいない!


 ガキッ!


 なっ、ダイスという冒険者が切り傷を負っている!?

「凄いな・・・まさかの三刀流かよ」

 長い尾の先に鋭い剣が光っていた、

「確かに土と毒が効いてなかったらキツかったかもな」

 ゴメスが翼竜からダイスを守るために防御結界を張る。


「私が行ってきます!」


・・・あれ?先程まで後方でラヴィリス様の治療をしていたはずのシャンティがいつの間にかこっちに来ている。


「ちょっ、ちょいと待ってくれ、ラヴィリス様の治療は終わったのか?」

 シャンティを呼び止める、なんか苛立っている顔をされてしまったよ、

「ええ、ラヴィリス様はもう大丈夫です。私と一緒にこっちに来ようとしましたから、皆さんからこっ酷く説教されてましたよ」

 呆気にとられてしまった。明らかに重傷だったのにもう回復したというのか!?ネビルスが聖女とか言っていたがあながち嘘ではないかもしれない・・・


「あっ、私にゼル君を呼んできて欲しいって言われました、なので彼は後衛に行ってますので」

 そう言うとシャンティは左側の方へ走って行った。

「ふむ、ゼルを呼んだという事は何か仕掛けるつもりか?」

 ゴメスが考え込む。


「こらぁ!ジジイ共ぉ!働けぇ!!」

 遠くからベリーサの罵声が聞こえた、彼奴は顔もスタイルも良いのだから、もう少しお淑やかにしていれば直ぐに結婚できると思うのだか、


 ボンッ!


 光球が私のすぐ横をかすめた。ベリーサが物凄い形相でこっちを睨んでいる、ついに心の中まで読めるようになったか!?


・・・怖い、私達は直ぐに戦闘に戻ることにした。


 しかし、決定打に欠ける戦いになって来たな、身体中に毒が回ってきているが最小限の動きで我々と戦っている、敵ながら素晴らしい体捌きだ。


[[右側に誘い込め!]]


 これはゼルからの信号!?アイネ嬢が直ぐに行動に移す、右側に何かあるのか?

「・・・あれは、木の根!?いかん、これは私の出番じゃないか!」

 私は右側に周り込み、根の方に急ぐとマーナがすでに準備していた、


『ハズー、はーやーくー』

「すまん、すまん」


 神樹魔法で木の根を操る。


『ハズは足!』

「あいわかった!」


 走って行動する翼竜の足に絡みつくのは容易の事だ。狙い通り派手に転んでくれた、


『マーナは尻尾!』

 マーナが尻尾を抑える。成る程、手が剣になっているから立ち上がる行為に時間がかかるのか!

 囮として逃げるフリをしていたアイネ嬢らが踵を返して戻ってきた!

 いかん、ブレスを吐こうとしている!


 バシュッ!


 口を大きく開けた際、弓矢が翼竜の右目付近に刺さった。

「ブレスを吐くとき顔が固定されるんです」

 テルーが笑っている・・・でもサラッと恐ろしい事をやってのけたんだが。

 この若き年代の中でも、特にテルーの強さがずば抜けているのは間違いない。その素晴らしい才能がすでに開花し始めているようだ、


「グルアア!!」

 アイネ嬢達が攻撃を入れている、ダメージがかなり通っているようだ、


「クルワアァァ!!」


 咆哮を上げる、雰囲気が一気に変わる!


「ここからが本番だな」

 追い詰められてからが此奴らは手強いからな。




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