117.対極なる存在。
「これは絶対絶命だね」
ディルメスがヘラヘラと軽口を叩く、
『ディルメス、お主の状態は?』
「そうだな、足は何とか動くけど右目は何も見えないや。あぁ、右腕も動かないや」
バルデンは両腕が切り落とされており、ネビルスは足が折れている、唯一の脅威はピースメーカーだけだ。
「ははは、じゃあ、こうするかな?」
ピースメーカーが突然上に向かってエネルギー砲を放つ、あまりに突然の出来事に驚く、
「まさか・・・なんて奴なの!」
私が隕石を作るために土の層が薄くなっていた、それを見越していたのか、いとも簡単に天井に大穴が開いた。
恐らく、この時の私は苦虫を噛み潰したような顔をしていただろう、
「グルアアァァ!!」
3体目の翼竜が上空から舞い降りてきた。
「さあ、これからは生存競争だ!」
ディルメスがピースメーカーの上に乗って爽やかに宣言する、本当にムカつく奴だ!
「クソチビ妖精にクソ女ぁ!お前らは絶対にぶっ殺してやるからなぁ!」
ピースメーカーに乗って逃げようとしているバルデンが偉そうにイキっている、私とアイネちゃんを罵倒するくせに、ハズリムさんには何も言わないなんて、本当にクズ男すぎるぞ。
『残念だ、そこの聖女の娘を捕まえたかったが、仕方あるまい』
ネビルスは口惜しそうにしている、ピースメーカーはすでに攻撃の届かない所まで飛行している。
自分の詰めの甘さが憎らしくなる。
翼竜は私達を見ると一直線にこっちに飛んできた。
「本当になんでこっちに来るのかしら?向こうに行けばいいのに」
私はお約束の事態についボヤいてしまう。
「私達、何か気に入らない事でもしてしまったのでしょうか?」
私のボヤきにアリエッタもうんざりしたような顔をしている。
どうやらディルメスらは翼竜の注目から逸れて逃亡に成功したようだ。どうか地上にいる2体に見つかって死んで欲しいと願う。
「ラヴィリス様は休んでくだされ、貴女様は1人で頑張りすぎです」
ハズリムさんが私に釘を刺しにきた。分かってますよ、しばらくは大人しくしてます。
「あの翼竜以外にまだ2体残ってます、そこだけは気を付けて下さい」
私の言葉にハズリムさんは頷くと駆けて行った、
「アイネちゃん、私はもう大丈夫なので貴女も行って下さい。と言うかそろそろ離して下さい」
名残惜しそうにアイネちゃんは私を離す、
「あの時、助けてくれてありがとうございます。貴女は本当に私の自慢の弟子です、自信を持って!」
アイネちゃんは私の小さな手を握ると頬を赤らめ、笑顔で走って行った。
「それでは私達は後ろに下がりますよ」
シャンティさんに抱かれてそう言われた。
「アリエッタは?」
「私はテルーとここに残って一緒に戦います、私も役に立てるなら何だってやります!」
以前の弱々しい姿はそこには無かった、テルーさんと一緒に戦いに参加するようだ。
「私もここで一緒したかったですが、今回は仕方ありませんね」
もどかしくてつい口に出してしまった。
「・・・はあぁぁ、責任持って治療しますのでもう少し大人しくしてて下さいね」
シャンティさんに呆れられてしまった。そのまま優しく抱かれながら後衛に向かう。
「シャンティさん、さっき死霊使いが言っていた事を聞いてもよろしいですか?あっ、もちろん嫌なら話さなくて結構です」
私が見上げるとシャンティさんは難しそうな顔をしていた。
「実は私は教会孤児でして、出生とか全然知らないのです。どこかに妹がいるとは神父様から聞いてはいるんですが、それ以外は・・・」
ベタスルール王国出身だと聞いていたけど色々あったんだな。
「修復魔法に関しては気づけば使えるようになってました。私は単なる治癒魔法だと思っていましたが。父さん、いえ親代わりをしてくれた神父様からは人前で絶対に使わないように言われてましたけど」
ネビルスは魔神の召喚とか色々物騒なこと言ってたけど、カガミン解説して下さい。
(生贄召喚と言っていたので、おそらくブラックコアによる依代の事でしょう。暗黒の魔神アザエルに関してですが、バンゲア終焉戦争の話を覚えていらっしゃいますか?)
確か精霊女王に選ばれた4人の勇者達と魔神との最後の戦いの事だよね、
(はい、その魔神と言うのがアザエルら魔神の四柱の事を指します)
魔神の四柱?4体もそんなのがいるの!?
(暗黒の魔神アザエルは奈落の闇を支配する者で、深淵冥府の支配者と呼ばれており、水を司ります)
水を司る?
(暴虐の魔神マハザエルは生命に対して貪欲で、生贄で大地を穢した大逆の魔王と呼ばれており、地を司ると言われてます)
マジか、もしかして4女神と対極の存在がいるの?
(12枚の翼を持つ紅き魔神サマエルは、死を与える者と呼ばれており、火を司ると言われてます)
水、地、火ときたから最後は風か。
(ハイ、最後は風を司る魔神アザゼルです。神の如く力を持つ者、または[監視者]と呼ばれ、最強最悪の存在と言われております)
魔王との戦いとか御伽話だと思ったけど、実際にあった話だったんだ。
(はい、異世界からの召喚者が勇者だったという話も実際にあった話のようです。私のデータベースには以上の記述がありました。ただし魔神の召喚に聖女の生贄が必要かどうかの話には信憑性はありません)
なる程、シャンティさんが聖女かどうかは置いておいて、命を狙われるいわれはないわけだ。
これからは、死霊使いネビルスの行動にも注視しなきゃいけないわけだ。
「面倒くさい奴が蘇ったもんだ」




