116. 聖女?
*注意
暴力的な表現があります。
ヒュロロロ、
テルーさんが音の鳴る弓を発した、おそらくあれは完成の合図だろう。前線にいた人がどんどん後退していく。
「やろう!カガミン」
(擬似隕石は想定より小さいですが威力は充分なはずです。)
私は隠蔽を解除し、多層魔法陣を解放する。
「超極限大地魔法!」
「隕滅魔法!ブロードサイダー・メテオ!!」
人工隕石が射出され、最初の重力加速層を通過する。一気に隕石全体に魔法陣が行き渡る、次の座標層を通過すると進行方向が修正され、力を溜めるように一旦停止する。
「いっけえぇぇぇ!」
座標層から解放され隕石が急発進する、途中でディルメスらがこっちの思惑に気づいたみたいだ。隕石に向かって攻撃してくる、だがそんなものはお構いなしに隕石は止まらない。
狙いは目標の大きい翼竜だ、解放された隕石は急加速して一直線に翼竜に衝突した、
凄まじい破壊衝撃が走る!
ドオオオオォォン!!
けたたましい爆発音が遅れてやってきた!
衝撃は皇国中に響いただろう、それぐらいの破壊力であった。
しばらくして土煙が少しずつ晴れていく、墜落した場所がクレーター状になっており、翼竜は跡形もなく消し去っている、隕滅魔法の凄まじい破壊力を物語っていた。
皆は無事だろうか?視界が悪くて確認できない、私は地上に降りてすぐに魔力の回復を始める、思っている以上に消耗が激しかった。
・・・私は勝利を確信して完璧に油断していた。
ゴッ!
突然、私は吹き飛ばされた。身体に激痛が走る、何が起きたか分からなかった。
顔を上げるとすぐ近くに靴のようなものがあった。
ゴッ!
咄嗟に防御したが思いっきり蹴られてしまった。
私は再び吹き飛ばされた、顔を上げるとボロボロ姿のバルデンが歪んだ形相で仁王立ちしている。
「やってくれたなぁぁ!クソチビがぁ!ぶっ殺してやる!」
さっきの蹴りで腕が完璧に折れた、というか声が出ない、息が、出来ない・・口から次々と赤い液体が噴き出てくる。
「クッソ弱いくせにイキがりやがって!お前のせいで苦労して作った従鬼が台無しじゃねぇか!」
バルデンに捕まれ身体中が締め付けられる。
「ああっ、がぁ」
身体が軋む音がする、このままでは、死んでしまう・・・い、意識が・・・遠のく。
「ラヴィリス様ぁ!!」
悲痛な叫び声と共にアイネちゃんが割って入ってきた。
渾身の力でダイツーレンを振る!私を掴んでいたバルデンの右腕が切断され私は解放された。
「ひぎぃいあああああ!!」
右腕を失ったことに気付いたバルデンが物凄い悲鳴をあげる。
「ラヴィリス様!!」
瀕死の私はアイネちゃんに抱え込むように抱きしめられる、
「クソ女ぁぁ!」
バルデンが怒りのままにアイネちゃんの足蹴にし、髪を引っ張る、すると今度は髪を掴んでいた左腕が切断された!
今度はハズリムさんがソハヤを持って立ちはだかった。
「終わりだ小僧!」
ハズリムさんが剣を高く振りかざす、
「ひいいっ」
両腕を失ったバルデンが後ずさるように逃げ出す。しかしハズリムさんが逃す訳がない、
ガシャン!
トドメを刺そうと剣を振るう、しかしそれを阻むように金属音がする。ボロボロの姿のピースメーカーがハズリムさんの剣を止めた。
「本当にとんでもない事をしてくれる」
残念な事にディルメスは生きていたようだ、姿を遠目に見ると全身血だらけで顔が右半分焼き焦げていた。
「早くラヴィリス様の治療を!!」
シャンテさんが駆けつけてきた、
「ひ、酷い、内臓が潰れている」
あっ、やっぱりヤバい状態だったか。シャンティさんが私に治癒魔法をかける、
「ジャンディざん、ラヴィリズざまを、ラヴィリズざまを」
「落ち着け!絶対に私が助けるから!」
涙で顔がぐちゃぐちゃのアイネちゃんをシャンティさんが落ち着かせる、私は青い光に包まれると同時に体中に激痛が襲う!
「うぐああぁぁ!」
「我慢して!壊れた体を修復してんだから、少しぐらい痛いのは我慢なさい!!」
無茶苦茶だ、こんなの我慢できる訳がない!
『まさか、信じられん』
ネビルスも生きていたか。コイツ、明らかに足とか折れているのに何で平気な顔をしているんだ?
「先生!アイツらぶっ殺してよ!」
バルデンが泣きつく。
『少しは落ち着け』
何らかの魔法を使いバルデンの出血を止める、
「ネビルスさん、どうしたんだい?」
ネビルスの言葉にディルメスが反応する。
『・・あの治癒師の娘。聖女の力を使いよる』
訳の分からない事を言い出す、
『あれは治癒魔法ではない、破損した身体が復元している!聖女しか使えないはずの修復魔法だ。おい、何とかしてあの娘を捕まえろ』
シャンティさんが聖女って?私に無慈悲な顔で激痛の治癒魔法をかけているこの人が?
「シャンティさん?」
声をかける、あれ?・・・声が出るようになっている。
「・・・」
シャンティさんからの返事はない、けど顔は強張っている。
「あの子を捕まえてどうするんだい?」
『生贄にする。それで我が主神、冥府の魔神アザエルを召喚する、終焉戦争の再開だ!オルベア神教どもが狼狽えて怯える様が目に浮かぶわ!』
・・・狂っている、そんな事させる訳がない!
「そんな事させると思うか?」
ベリーサさん達も合流する、今度はこっちが圧倒的に優位になった。
「どうやってあの魔法から生き延びた」
私も気になっていた、ゴメスさんが率直に聞いてくれた。
「なーに、ピースメーカーも死兵も従鬼も何もかも犠牲にして生き延びたんだよ、お陰で僕は右半分を犠牲にしたけどね」
大怪我を負っているのに笑っている、本当に薄気味悪い男だ。
『普通なら全滅だが、お前達のお陰で助かったわ』
「・・・どういう意味だ」
『お前らという無能な足手まといを生かすために無慈悲な一撃を撃てなかっただけと言ったまでだ』
・・・確かにそうかもしれない。
でも私は1人で戦っているわけではない。こちら側は誰も負傷さえしてないんだ!
・・・私以外は。




