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「見つけた、成金王さん!」


 その声がした方に顔を向けると、青い髪の筋肉質な青年が走って来ていた。


「さっきはどうもありがとうございました」

「え、えーっと?」

「ああ、すいません。ポチョムキムキンです」

「シールド機の」

「はい」


 レイド戦でチームの盾になってくれていたシールド機の一人だった。確かにムキムキんという体つきをしている。


「こちらこそ助かったよ。シールド部隊がいなかったら全滅だった」

「いえいえ、リペアで直してもらって何とかでしたから」

「じゃあ、お互い様って事で」

「そうですね」


 キーマさんとの会話で、謙遜しすぎるのも良くないようなので、適当なところで手を打つ。


「そちらが噂のシーナさんですか?」

「ん、ああ、噂……」

「やっぱり、可愛いですね。いいなぁ」

「そうでしょうとも!」


 シーナは無い胸を張って答える。その態度にポチョムキムキンはちょっと顔が引きつっていた。


「性格がイマイチでなぁ……」

「性格ですか?」

「何と言うか、何かにつけてディスられるんだ」

「へー、やっぱりアバターになると変わるんですかね?」

「いや、βの時から毒舌仕様なんだ」

「毒舌ではないですよ、真実を正しく伝えているだけです。毒舌に感じるのは受け取る側の問題です」

「……こんな感じで」

「凄いですね。サポートシステムってこんなにしゃべるんですか」

「愛情を持って接して頂ければ、応えるのが私達の仕事ですから。もうマスターはぼっちプレイで、事あるごとに話し掛けてくるので、ネタを探すのに苦労しました」

「ぐぬぬ……」

「そうなんですね。グレゴリー、俺ももっと話し掛けた方がいいか?」

「はい、閣下。会話の内容から思考を推察するのが、我らの使命。多くの情報は作戦の成功を確実なものとするのであります」


 ……ポチョムキムキンのサポートシステムも結構な個性を持っていそうだが。


「成金王さん、良かったらフレンド登録してくれませんか?」

「え、俺と?」

「はい。先程の指揮の見事さ、感服いたしました。シールド機として戦いやすく誘導してもらえたのは、初めてでしたよ」

「そ、そんなもんかね」

「ゲーム的にもタンクよりアタッカーが多いですからね。やれ鈍足だの、撃破が少ないだの文句言われる事が多いです」

「そうなのか〜」

「そのくせ、危なくなったら盾として戦闘に巻き込んでくるし、自分は逃げるしで……」

「苦労してるんだな」


 編隊を組んで行動するなら、それぞれの役割をわかった上で行動するほうが効率は良くなるんだが、意外と自分以外は見えない人も多い。

 俺の場合は遠隔制御ユニットを運用する上で、色々と経験が積めたのが大きいんだろう。


「今後も相談に乗っていただけたらなって思って」

「ああ、構わないよ。俺としても本職タンクの意見は貴重だしね」

「ありがとうございます!」




 ポチョムキムキンと別れて、場内を一周した頃には会場の熱が下がり始めたのを感じた。フレイアちゃんのライブが終わり、レイド戦での疲れもあるだろう。

 拠点ができた事で探索が捗ると宇宙に飛び出す者もいるかもしれない。

 目に見えて人が減っていっている。


「俺達も帰ろうか」

「はい、マスター」


 交流ロビーを歩いていても、シーナが人目を惹く事はほとんどなかった。やはりプレイヤーキャラにも美形は多いので、そういう意味で目立つことはないようだ。

 称号もあえて『成金王』のまま変えてなかったが、それで騒がれる事もなかった。

 既に俺は過去の人って訳だ。


 それよりも聞こえてくるのは、特務曹長の話題が多かった。

 貢献度ランキングで1位というのは、実質的に全サーバーでトップという事。それを称賛する者もいれば、漁夫の利と蔑む者もいる。

 特に要塞砲という謎の武器を利用していた事で、βテスターの知識を活かした無双っぷりと思われたりもあるようだ。


 人というのはどうしても、素直に他人の活躍を喜べないものだ。俺があの武器を持っていれば、もっと活躍できた。そう考える人も出てくる。


「実際、あの距離をあの精度で当てるには相当な技術が必要なんだが、やった事がない人には道具がいいだけと思いたいんだろうな」


 ポチョムキムキンのシールド機が冷遇される話にしても、実際に経験した人でないとその苦労はわからないだろう。

 逆にそれだからこそ味わえる喜びもあるのだが。


「まあ、時間は限られているから、やれる事は絞られるよなぁ」




 パーソナルルームへと戻った俺は、椅子に座って一息ついた。色々と昨夜から準備して挑んだレイド戦は、思っていた以上に予想外が多い展開だった。

 スカラベではなく、アリジゴクがレイドの敵で、ウスバカゲロウも参戦して来たし、PK連中も思った以上に強くて、フウカが抑え込まれていた。

 その割にはちゃんと立ち回れた様に感じる。


「ふへへ」

「気持ち悪いですよ、マスター」

「人に頼られるというのは、それを認められるというのは嬉しいものだな」

「オンラインゲームの醍醐味ですからね。マスターは避けてましたが」

「タイミングがあるからなぁ」


 β時代にでも連合ユニオンに所属していれば、人との交流が当たり前だったかもしれないが、自分がやりたいことをやっているうちにβが終わってしまった。

 そして、製品版ではシーナを巡る騒動で人を避ける方向で行動してきた。それでつまらないなら、何とかしようと思ったかもしれないが、やりたいことは色々あって、人との交流がなくても楽しかったからな。


「まあ、これからは人との繋がりもできたし、引きこもる理由もなくなった。もうちょっと外に出るようにするよ」




 レイドの貢献ランキングは圏外だった。

 まあ、アリジゴクを倒してはいるが、そこまでの数は倒していないから仕方ないな。参加賞的なコストや素材は手に入ったが、目立った物はない。

 上位ランク者には、連合ユニオンロビーなどのインテリアや共同格納庫用の修理機械などと交換できるポイントが貰えたようなので、キーマさんは連合の為に使うらしい。


「フウカの相手も任せる事はできたし、俺は俺のやりたいことを進めないとな」


 新たなステーションから出撃できるようになったので、この宙域グラガンで素材を探すこともしやすくなる。

 スカラベの運ぶ小惑星の塊を奪えるのが一番だが、ハンマーヘッドに搭載した高速回転弾ドリルでやれるだろうか?


 また他の新宙域であるデフシン、ダクロンのステーションも完成次第、レイドイベントが発生するかもしれない。

 デフシンでは粒子砲が拡散しやすく射程距離が短くなり、ダクロンは宙域全体に光を遮断する粒子が充満していて視界が確保できないらしい。

 レイドが発生する前に、探索を終えておいた方が対策が取りやすくなるだろう。


 もちろん、進んだ宙域で取れる素材には、新しい物も多いので、新たな開発も滾ってくる。


「やりたい事は色々あるなぁ……足りるかなぁ、時間」


 少しでも早く探索したい気持ちはありつつ、今日はプレイしすぎた。明日はまだ日曜日だし、優先順位を決めて取り組んで行こう。


「俺達の探索はこれからだな」

「はい、マスター」

第二部完……。


で、正直な話、ネタが尽きてきたので一端休載させていただきます。

ご了承下さい……。


もしかすると掲示板回くらいは追記するかも?

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― 新着の感想 ―
[良い点]  タンクの苦労の理解されなさとか、文句を言うくせにピンチになったら敵を擦り付けて逃げるとか、そういう話に共感を覚えました。  パートナーAIも含め、最後にまた面白い奴が出てきたな、という印…
[良い点] 第二部完お疲れ様でした。 いつも楽しく読ませてもらってます。 再開を楽しみにしています。
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