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「続報来ました」

「ん」


 シーナの声でちまちまとパネル操作していた手を止めて、ブラウザを起動。公式ページに更新された情報を確認する。


 現在は午前10時、星系外から巨大な他次元生物が迫っているのを確認したとある。交戦距離に入るまで約3時間となっていた。

 そのまま直進すれば、ステーションへと接近が予想され、ステーション内のコアを標的にしていると思われるとのこと。


「つまり、撃破できないとステーションが被害を受けるって事か」

「そのようです」


 我がFoxtrotは、第2ステーションも完成しているので、初期ステーションが陥落しても致命傷にはならないかもしれない。が、初期ステーションを破壊した後、第2ステーションも狙う可能性はあるか。


「まさか、Foxtrotが突出したから壊しにかかってるとか無いよな」

「他のステーションも同様の条件になっているので、それは無いかと思います」


 称号関連で色々と個人攻撃されてるような気がしてたが、穿ち過ぎたようだ。何にせよ制限時間内に撃破できなければ、相応のペナルティを受ける事にはなるだろう。


「ステーションが攻撃されるとどんなマイナス要素がありそうなんだ?」

「例えば機体の修理施設がダメージを受けると、修理に掛かる時間が伸びたり、中古市場の品々が欠損したりでしょうか。他にもダメージ次第では、格納庫も危ういかと」

「格納庫を第2ステーション移設とかはできるのか?」

「当サーバーでは、第2まで陥落しなければ大丈夫だと思われます」


 出発地点を選べるように、格納庫自体も転送される扱いらしい。


「なるほど、その点は安心できそうか。でも市場が高騰すると影響は出そうだから頑張ろうか」


 最初のイベントだし、撃破時のボーナスにも期待だ。




 しかし、ステーション防衛戦となると考え方は少し変わってくるか。星系内の他次元生物を探すところから始まるかと思ったんだが、迎撃戦となると待ち伏せが可能となる。

 コース上に仕掛けを作って誘い込む様な事ができれば、有利に働くかもしれない。


「機雷系の装備や物理的な障害なんかもありか」


 方角が分かれば進路も予測できる。

 予想しているように範囲攻撃があるなら、小惑星などを並べて盾にできれば、シールド艦の負担は減らすことができるだろうし、クジラに迂回させる事ができれば、時間稼ぎにもなる。


「マンタで採掘場から運んでみようか」


 あと3時間しかない。思いついた事は即行動に移さないと間に合わないだろう。俺はマンタに、運搬用の牽引ロープを装備すると、採掘場へと向かった。


 クジラの進行ルートまではまだ確定していないが、ひとまずステーションの側までマンタそれぞれに1個ずつ運ばせる。やはり重量のある物を運ばせると、普段の速度はでないのでこの3つが限度になるだろう。

 運搬するマンタに付き添いながら、中古市場で機雷を探してみる。


「うう〜ん、威力のある物になるとハミングバードじゃ運べないか」


 爆発物は大きさによって威力が変わってくるので、クジラクラスにダメージを与えようと思えば、かなりの大きさになる。ハミングバードのコア出力では運搬できなかった。

 マンタに積んでおいて、必要になったら取り出すなども考えたが、クジラの進路に合わせて設置するとなると、機動力が必要そうだ。

 時間があれば機雷にスラスターを付けて、自分で移動してもらうという手もあったんだろうがあと1時間ほどで交戦域に入ってしまう。


「とりあえず、開発だけは進めておくか」




 クジラ襲来まで30分を切り、ステーションの周囲には普段は見かけないほどの数の戦闘機が浮かんでいた。

 大半は撃破任務をこなしているプレイヤーだろう。

 その中には唯一フレンド登録をしていて、名前が表示される機体もまざっている。


『やあ、やっぱり来たね』

『ん』


 相変わらず返事は短い。欲しい情報があれば、こちらから話を振るしかないが、これといって聞くべき事もないか。


『俺はしばらく裏方で動いているから、何か手が欲しかったら言ってくれ』

『ん、わかった』


 フウカに伝えるだけ伝えて、俺は周辺の編隊を確認していく。プレイヤーの数はざっと見ても百人以上。敵の襲来を今か今かと待っている状態だ。



 大半は称号ルーキーを付けたプレイヤーで、戦闘機タイプ。たまにシールド艦が混ざっている感じだ。

 6から10機ほどで固まっているのを見ると、それらはチームか連合だろう。ロビーに出れない影響で、サーバー内の勢力図が分からないのが難点だ。

 ちなみにチームは、その場で一緒に行動する際に組める単位で、他のゲームだとパーティと同義だ。主に同じマルチ任務をこなしたりする時に組む。

 連合ユニオンはもう少し広い意味での仲間の集団で、広めのパーソナルルームが与えられて交流しやすくなっている。他のゲームだと、ギルドやクランといった名称で呼ばれる単位だ。

 最近になって、連合で修理用工作機械が共有できることが確認され、連合に所属するメリットが増えている。

 連合名は称号と同じ様に、周囲から確認できるように表示されている。中には、『撃滅せよ成金王』という名前のところがあった。あの周辺には寄らない様にしよう。


 一際大きい30機ほどが集まっている集団は、『無言ok』という身も蓋もない連合だった。連合の方が有利だから連合には入りたいけど、コミュニケーションは面倒という人達だろう。

 まあ意外とこうしたレイドイベントで連携した事がきっかけで、気の合った連中と新たな連合に分離したりする。俺としても成金王騒動がなけれぱ、籍だけ置いていた可能性はあるだろう。連合に所属するとプレイヤーネームがバレてしまうので、今となっては叶わない夢だが。



「星系外縁にて、巨大次元震を感知しました!」


 時間きっかりに、シーナから報告が入る。その出現位置が判明するやいなや、周囲の戦闘機が一斉に動き出した。もちろんフウカもいち早く飛び出していく。

 ステーションには、他次元からの接近を阻害するジャマーが設置されていて、ステーションの周辺にいきなり他次元生物は出現できないという設定になっている。

 このジャマーは他次元生物のコアの大きさに比例して効果が大きくなるので、クジラ型クラスになるとかなり遠い位置にしか出現できないらしい。


「出現ポイントから観測を開始。移動速度、ルートを推定して」

「はい、マスター」


 俺の第一任務は、マンタを使っての小惑星の移動だ。どこに簡易防御陣を敷けばいいかを選定する。


「クジラ型他次元生物のステーション到達まで約2時間と推定されます。その際のルートはこちらです」


 サブディスプレイに進行ルートが表示される。


「思ったよりは時間があるな。とりあえず、防衛線はこの辺りに作ろう」


 次元震からステーションまでを3分割して、ステーションに近い1/3の所を指定する。クジラの進行を阻害できるように3つの小惑星をマンタで運んで配置。更にステーション外装用工作機械で作成した、ステーションの外壁を並べて簡易の防護柵に使えるようにしていく。


 そんな作業をしている間にも、俺達を追い越して出撃していく戦闘機の姿があった。遅れて参戦した人か、撃破されて死に戻った人の再出撃かは分からないが、激戦は予想される。

 ここの防衛線は使われない方がいいのだろうが、折角作ったんだからここまでクジラには保って欲しいという思いもなくはない。


「機雷は味方も巻き込みかねないから保留だな」


 進行を妨げる様に小惑星を配置して、そこを包囲攻撃できるように外壁を並べて、迎撃の準備は完了する。

 そこへ見知った名前が通り過ぎようとしていたので、連絡を入れた。


『フウカまでやられたのか!?』

『コバンザメが厄介』

『クジラじゃないのか?』

『ん。クジラに3匹のコバンザメがいた』


 どうやらゆったりと進むクジラの護衛として、コバンザメがくっついていたらしい。クジラ自身はほぼ真っ直ぐにステーションを目指しているのだが、周囲をコバンザメが飛び回り、クジラへの攻撃を妨害してくるらしい。


『動きが早いし堅い、でも倒す』

『おう、俺も行ってみるわ』


 通信しながらも離れていくフウカの機体。シールドを積んだマンタは待機させ、残り2機は自動帰還させて、俺はハミングバードで実物を拝みに行くことにした。

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