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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第八章 真夏の大冒険

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第271話 小さな決闘1

「マルディン、調子はどう?」

「ああ、悪くないよ。レイリア先生」

「そう、良かったわ。でも、あなたは身体を酷使しすぎるから心配になるのよね」

「そうは言っても、それが仕事だしな」

「分かってるけど、あまり無理しないでね」

「ありがとう」

「じゃあ、シャツを脱いでベッドに寝て」


 今日はレイリアの診療所で、月に一度の定期検診だ。

 レイリアの指示通り、診察ベッドにうつ伏せになる。


「肩や腕は大丈夫ね。あら、腰に少しハリがあるわ。ここ痛いでしょ?」


 腰を触診するレイリア。

 糸巻き(ラフィール)の使用で特に負担がかかるのは肩や腕の関節、そして腰だ。


「そうなのか? 特に感じないぞ」

「痛みに慣れてしまってるのよ。あまりよくないわね。薬草を貼るから、今日と明日のトレーニングは休みなさい」

「マジか。仕方ないな。分かったよ」


 その後も全身を診察してもらった。

 腰以外は問題ないそうだ。


「じゃあ、今日はもういいわよ」


 ベッドから起き上がり、シャツに腕を通す。

 レイリアは机で診療録に記入している。


「ねえ、マルディン。今日この後は空いてる?」

「今日? ああ、空いてるよ」

「食事でもどうかしら?」


 レイリアはペンを止めず、視線も机に向いたままだ。

 だが、表情は少しだけ微笑んでいるように見えた。


「飯か。構わんぞ。ってことは、酒を飲んでいいのかな? レイリア先生」

「そうね、少しならいいわ。でも飲み過ぎはダメよ」

「承知しました」


 俺はレイリアに向かって、丁寧に一礼した。


「レイリア、何か食いたいものはあるか?」

「そうねえ、久しぶりにお肉を食べたいかしら」

「珍しいな。じゃあ、旨い肉と葡萄酒だな」

「少しよ?」

「分かってるよ。仕事はもう終わるのか?」

「あと一人患者さんがいるの。それで今日はおしまいよ」

「了解。待合室で待ってるよ」


 診察室を出ると、待合室のソファーにレイリアと同年代くらいの女性が座っていた。

 隣には男児が座っている。


 女性が俺に気づき、会釈してきた。

 この女性の名前は知らないが、何度か見かけたことはある。

 小さな町だ。

 顔見知りの住民は多い。


「イルファナ、お待たせ。診察室へどうぞ」


 レイリアが診察室から顔を出す。

 イルファナと呼ばれた女性が、男児を連れて診察室へ入っていった。


「診察はあの男の子か」


 男児は頬が赤く、少し腫れていた。

 だが、風邪などの病気ではない。

 外傷だ。


「あの傷は……」


 ひとまず俺はソファーに腰を下ろした。


 ――


 しばらくすると、レイリアが診察室から姿を見せる。


「マルディン、ちょっといい?」

「ん? 俺? どうした?」


 レイリアが手招きしている。

 診察室に入れという合図だが、さっきの女性がまだ診察室にいるはずだ。


「あなたに聞きたいことがあるの」

「俺に? 診察室に入っていいのか?」

「ええ、大丈夫よ。患者さんの希望なの」


 俺に何の話があるのだろうか。

 まあ聞けば分かるし、レイリアも同席しているのであれば問題ないだろう。


「分かった。すぐ行く」

「ありがとう」


 レイリアと一緒に診察室へ入ると、女性が椅子から立ち上がった。

 年齢はレイリアと同じくらいだろう。

 肩まで伸びた髪は、薄茶色で癖がかっている。

 少し緊張した面持ちだが、とても優しい顔つきの女性だ。


「は、初めまして。イルファナと申します」

「顔は知ってるよ。マルディンだ。よろしく、イルファナ」


 イルファナが深々と頭を下げた。

 その様子を見たレイリアが、苦笑いを浮かべながらイルファナの肩に手を置く。


「イルファナ、そう緊張しなくていいわよ」

「で、でも、元騎士様だというし。その……」


 イルファナは顔を強張らせている。

 俺のことは知っているようだが、妙に緊張した面持ちだ。

 この緊張具合だと、あまりいい噂じゃないのだろう。


「俺はもう騎士じゃないし、今はこの町でのんびりと冒険者をやってるんだ」

「そ、そうなのですね」


 俺はイルファナに対し、笑顔を見せた。

 少しでも緊張を解いてほしい。


「気軽に接してくれ」

「は、はい。ありがとうございます」


 レイリアが俺に視線を向けながら、男児の両肩に手を置いた。

 男児の右頬には貼付薬が貼られている。


「マルディン。この子はイルファナの一人息子で、ハイラルよ」


 イルファナの隣で、診療用の椅子に座る一人の男児。

 紹介してもらったが、ハイラルはずっと母親を見つめている。


「よろしく、ハイラル。マルディンだ」

「よ、よろしく……お願いします」


 ようやく俺の顔を見たハイラルだが、母親の様子を見ていたことで、俺を怖がっているようだ。

 俺は構わず右手を出し、ハイラルと握手を交わす。


「マルディン。聞きたいことって、ハイラルのことなのよ」

「ああ、構わんよ」


 レイリアが折りたたみの椅子を出してくれた。

 俺はゆっくりと腰を下ろす。


「飲み物を持ってくるわね」


 レイリアが一旦退室して、大人には珈琲と、ハイラルに果汁を用意した。

 今日の診療はもう終了するということで、このまま話を聞くことになった。

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