第256話 見つけに行こう3
「お、お前! なんでラミトワがいるんだよ!」
「え? だって、この家には私の部屋があるもん。シャルクナさんにも許可をもらってるもーん」
「お、お前なあ」
「いいじゃん。夜はちゃんと帰ってるし、ライールやイスーシャの世話だってしてるんだよ?」
運び屋だけあって、ラミトワは動物の世話が得意だ。
俺が飼育している黒風馬のライールや、大鋭爪鷹のイスーシャもラミトワに懐いている。
「それより、マルディン。この島の場所は分かるの?」
「それを調べるところから始めるんだよ。それが宝探しってもんだ」
「私分かるよ?」
「なんだと!」
「だって運び屋だもん。地図くらい頭に入ってるよ」
こんな娘だが、ラミトワは優秀な運び屋だ。
ティルコア支部でもBランクはラミトワしかいない。
しかも最近は、Aランクにも届くと言われている。
「ねえ、この場所を教えるから、私も連れてってよ」
「お前の予定はどうなってんだよ」
「ちょうどAランクの試験勉強のためにクエストを断ってたんだ。だから三週間でも大丈夫だよ」
「いやいや、勉強しろよ」
「勉強よりも大切なものがあるんだよ!」
「試験のほうが大切だろ? 勉強しとけって」
「行きたい! 行きたい! 行きたい!」
「とは言ってもなあ。三週間分の試験勉強ができないんだぞ。合否に関わるだろ?」
「じゃあ、この場所行けるのかよ! マルディンだと、ここを探すだけで三週間なんて終わるぞ!」
ラミトワが立ち上がり、両手を回転させるかのように、俺の腕を何度も叩いてきた。
「連れてって! 連れてって! 連れてって!」
駄々をこねる子供のようだ。
いや、実際そうとしか見えない。
「マルディンさん、ここはラミトワちゃんの力を借りましょう」
ティアーヌが立ち上がり、ラミトワの背後から両肩にそっと手を置いた。
「ほら、ティアーヌさんは私のことを分かってる」
「まあ、今回は時間もないしな。分かった、いいぞ。それに、お前なら試験も大丈夫か」
「へへへ、ありがとう」
「で、どこにあるんだ?」
「マルソル内海の南東にある島だね。無人島だよ。ここから約三百キデルトの距離。飛空船なら一日かからないよ」
「お前、いつから行けるんだ?」
「いつでも行けるよ。着替えもこの家にあるもん」
「まったく……。いつでも行けるのか?」
「大丈夫だよ!」
着替えまであるということは、もう完全に自分の部屋にしているのだろう。
部屋は余るほどあるとはいえ、どうしてこうなったのか……。
頭を抱えたい気持ちでいると、シャルクナが小さく手を挙げて俺を見つめていた。
「マルディン様。フェルリートさんにお声がけされますか?」
「フェルリートか。危険がなければ連れていってやりたいが、難しいだろう。それに期間も三週間だからな。さすがに仕事は休めんだろうよ。アリーシャはどうかな」
ラミトワが俺の肩に手を乗せた。
「アリーシャは明後日からクエストの予定が入ってたよ」
「そうか。じゃあ、この四人で行くか」
「良かったね。美女ばかりだよ?」
「美女ねえ……」
俺はラミトワの顔を一瞥した。
確かにラミトワは可愛いと評判だ。
黙っていればだが。
「なんだよ! マルディンの周りは、私を筆頭に異常なほど美女が多いって有名なんだぞ! 恵まれすぎて麻痺してんだよ! もっとありがたがれ!」
「ん? お前を筆頭に? レイリアじゃなくて?」
「そうだ! 私が筆頭だ! レイリアおばさんは私の次だ!」
ラミトワが声を張り上げながら、俺の肩を何度も叩く。
しかし、絶妙な力加減で気持ちいい。
優秀な指圧師になれるんじゃないだろうか。
「ラミトワちゃんが一番可愛いですよ」
「へへへ。やっぱりティアーヌさんは私のことを分かってる」
ラミトワの頭を撫でるティアーヌ。
水色の長髪が、春の風になびくかのように優しく揺れる。
俺には小動物をあやしているようにしか見えないが、ラミトワが喜んでいるならそれでいいのだろう。
「マルディンさん。私は一度自宅へ戻って支度しますね。また戻ってきます。打ち合わせしましょう」
「分かった。俺たちも支度をしてるよ」
ティアーヌが一旦自宅へ帰った。
シャルクナもキッチンへ移動し、準備を始めている。
食材や水の確保だ。
俺はラミトワの頭に手を乗せた。
「ラミトワ、飛空船の準備をするぞ」
「待ってました! 任せて!」
俺たちは宝探しの準備に取りかかった。
――
夕焼けを迎える頃には、全員の準備が完了。
打ち合わせも済ませた。
出発を明朝としたことで、ラミトワとティアーヌは、このままここに泊まるそうだ。
「ところで、なんでお前たちがいるんだ?」
リビングのテーブルには、なぜかアリーシャとフェルリートもいた。
「ティアーヌさんから宝探しに行くと聞きました。ご一緒できないので、せめてお見送りさせていただこうと思いまして」
「私もだよ。一緒に行きたいけど、さすがに三週間は休めないもん」
「この話が先に来てたら、クエストを断ったんですけどね」
二人は残念そうな表情を浮かべていた。
連れていってやりたいが、そう簡単に仕事は休めない。
悪いことをした。
「じゃあ、また今度だな。とはいえ、さすがにもう宝の地図はないからなあ。お前たちの休みにどこかへ行くか」
「うん!」
満面の笑みを浮かべるフェルリートだった。
「さて、夕飯にするか」
「かしこまりました。準備します」
俺が声をかけると、シャルクナが立ち上がる。
「あ、待って、シャルクナさん。今日は私とアリーシャが作るよ」
「しかし……」
「いいのいいの。明日から宝探しでしょ。シャルクナさんは、ゆっくり休んで」
夕飯はフェルリートとアリーシャが作ってくれた。
シャルクナはキッチンで見学しながら、熱心にアリーシャから肉料理のレシピを聞いていた。
食事を終え、少しだけ酒を飲む。
すると、娘たちが会話に花を咲かせ始めた。
おっさんの俺がいるような雰囲気ではない。
「さて、俺は先に寝るよ。フェルリートとアリーシャは泊まっていくんだろ?」
「うん」
「一階の空き部屋なら好きに使っていい。この際だから、自分の部屋にしてもいいぞ」
「え? 本当?」
「ああ、ラミトワが勝手に部屋を作ってたからな。お前たちもいいぞ。それにフェルリートには頼みたいこともあるんだ」
「頼みたいこと?」
「俺たちが不在の間、厩舎の世話をお願いしたいんだ。報酬は出すよ」
「うん。分かった。いいよ」
もうこの際、一階の空き部屋は娘たちに解放することにした。
それに正直、フェルリートなら住んでもいいと思っている。
それは亡くなった両親のことがあるからだ。
以前、ラミトワに言われた『フェルリートを家から出してやってよ』という言葉が、俺の頭の片隅にずっと残っていた。
俺一人だったらさすがに許可できないが、今はシャルクナが住み込みで働いている。
一人増えたところで変わらない。
レイリアも、フェルリートのことは心配していた。
どうせ俺の生活範囲は二階だし、家を空けることも多い。
もし娘たちが家にいても、日常生活を送る上で、会うことはほとんどないだろう。
「お前らも早く寝ろよ」
俺は二階に上がり、早々に就寝した。




