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【書籍発売中】追放騎士は冒険者に転職する 〜元騎士隊長のおっさん、実力隠して異国の田舎で自由気ままなスローライフを送りたい〜  作者: 犬斗
第五章 冬の到来は嵐とともに

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第142話 夜哭の岬

 ◇◇◇


 世界四大国の一つに数えられるエマレパ皇国。

 大陸の南南東に位置し、気候は温暖から熱帯で、その気候を生かした香辛料の生産は世界一を誇る。


 栄華を極める皇都タルースカから、西へ約千キデルト。

 マルソル内海に面した港町ティルコアは、寂れた田舎の港町から、エマレパ皇国有数の漁獲量を誇る漁業の町として大きく発展していた。


 これまで犯罪組織に見向きもされなかったティルコアだったが、あまりにも急激な発展によって一気に注目を集めた。

 莫大な利益を求め、犯罪組織の侵略が始まる。

 だが、ティルコアの支配は容易ではなく、これまで全て阻止されていた。


 たった一人の冒険者によって。


 ◇◇◇


 マルソル内海に面した崖。

 その上に建つ、巨大な砦の最上階の一室。

 窓の外には宝石のような翠玉色の海が広がる。


 部屋にいるのは一人の老人と、両脇に立つ屈強な男二人。

 そして、若い女から中年の男まで、年齢が様々な男女七人の合計十人だ。

 老人だけがマルソル内海を眺めており、それ以外の者は窓の外に興味がない。


 中年の男が立ち上がる。


「こいつが標的の資料だ。よく見ておけ」


 荘厳な美しさを誇る白理石のテーブルに、一枚の書類を置いた。


「三十三歳? おっさんじゃねーか?」

「クソつえーって話だぜ」

「おいおい。こんなジジイにやられるわけねーだろ」

「こいつに下部組織が潰されてるのよ」

「私が色気で落とそうか?」

「お前、おっさんに興味あんのかよ」


 六人の男女が書類を見て、好き勝手に意見を述べる。


 この砦は、マルソル内海に生息していた竜種ルシウスの監視用砦として、遥か昔に建築されたものだ。

 だが、ルシウスの襲撃により砦は壊滅し、人々の記憶から忘れ去られた。


 いつの頃から無法者たちが砦を占拠。

 修復と増築が幾度となく繰り返された。

 さらに、周囲の崖は建築用の石材採掘の場とされ、百年以上にわたり掘り進められ、今もなお無数の洞窟が迷路のように広がり続けている。

 その洞窟にも人が住み着いたことで、崖を含めた砦は、巨大な要塞へ変貌していった。


 そして、竜種ルシウスが討伐された現在は、数万人が生活する一つの城塞都市へ成長。

 人口密度は世界一高いだろう。

 だが、この地を知る者はほとんどいない。

 どの国にも属しておらず、地図にも載っていないため、現在は完全に放置されている。


 ここに住む者たちは、この地を『夜哭の岬』と呼ぶ。

 そう、マルソル内海最大の犯罪組織、夜哭の岬(カルネリオ)の拠点だった。


「静かにせい」

「「「はっ!」」」


 老人が声を出すと、七人の男女は一斉に返事をした。

 窓の外を眺めていた老人が椅子を回転させ、テーブルに座る男女七人を見渡す。


「お主らはその男を甘く見すぎておる」


 ひときわ豪華な椅子に座る老人。

 くすんだ深緑色のローブを纏い、長く伸びた白髭が特徴的だ。


「この男は、Aランク冒険者のマルディン・ルトレーゼ。糸使いの異名を持つ、ジェネス王国騎士団月影の騎士(イルグラド)の元騎士隊長じゃ」


 この老人は、夜哭の岬(カルネリオ)の現城主。

 夜哭の岬(カルネリオ)の中で無数に存在する犯罪組織の頂点に立つ。


「冒険者ギルドの試験で、史上三人目の満点。討伐試験では固有名保有特異種(ネームドモンスター)を討伐。これは史上初じゃ。この男は生半可ではない」

「お言葉ですが、たった一人で町を守れるわけは……」

「すでに下部組織が潰されたことを忘れたのか? 実際に守っておるじゃろ?」

「はっ。誠に申し訳ございません」


 男女七人の中でも、代表格の男が頭を下げる。

 老人以外はマルディンのことを軽く見ていた。

 マルソル内海最大の犯罪組織と呼ばれ、多くの街の裏社会を牛耳るようになったことで、明らかに慢心している。


「ティルコアは近世でも稀に見る発展を遂げるじゃろう。マルソル内海で最大都市となるのは間違いない。じゃから、今のうちに進出するのだ。ティルコアを押さえれば、マルソル内海は完全に我が手に落ちる」

「「「はっ!」」」

夜哭の岬(カルネリオ)数百年の歴史で、マルソル内海を制圧した歴史はない。儂らが歴史を作り、理想の国家を築くのじゃ」

「「「はっ!」」」


 全員が姿勢を正し、声を揃えた。


「ところで、お主たちは北方蛮族(ヴァルキル)を知っておるか?」

「はい。海賊の祖として、北海からメラネオ海まで勢力を持つ世界最大の海賊です」

「儂らの海域とは大陸を挟んでおるゆえ、北方蛮族(ヴァルキル)と被ることはない。じゃが、豊かになったマルソル内海を支配すれば、北方蛮族(ヴァルキル)をも超える組織になるのは間違いないのじゃ」


 話は終わりとばかりに老人は立ち上がり、両隣に立つ屈強な二名の男を引き連れ、扉へ向かった。

 扉の前に立つと、老人はテーブルの男女七人を振り返る。


「このマルディンじゃが、北方蛮族ヴァルキル千人を一夜で皆殺しした。一人残らずじゃ。裏の世界では首落としと呼ばれておる」

「千人? ま、まさか……」

「儂が嘘を言うと思うか?」

「いえ、大変失礼いたしました」

「それほどの相手じゃ。舐めてかかるな」

「「「はっ!」」」

「マルディンを討った組織には、ティルコアの権利を与えよう。それがどれほどの莫大な利益を生むか、分からぬお主たちではなかろう?」


 そう言い残し、老人は部屋を出た。

 老人が言った意味を正確に把握している男女七人。


「ティルコアの権利だと!」

「うちがもらうぜ」

「このおっさんを殺ればいいだけだろ。簡単だぜ」

「下部組織を潰された借りを返すわ」

「バカね。女の武器を使えばいいのよ」

「興味ねえけど、老師の野望のためにやるかね」


 リーダー格が全員を見渡した。


「ルールはない。しかし、各組織で潰し合うことは禁止だ。いいな」


 夜哭の岬(カルネリオ)は、七つの組織から成る。

 ここにいる男女七人は各組織のトップだ。

 この組織は下部組織を持ち、その下にはさらに無数の犯罪組織が散らばる。


 七つの組織はティルコアを手中に収めるため、動き出した。


 ◇◇◇

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