第10話 どんどん どんより 晴れたら ――
お姉ちゃんが走りに出て少し。
いつもの席でのんびり朝ご飯を食べながら、これまたいつものようにアニメの再放送を見ていると、朝のあいさつと共にパパがリビングへと顔を出した。
「お、今日も元気そうだね」
「うん」
私の顔色を見て、よしよしと頷くと、いつものようにご機嫌でパパは足早にキッチンのほうへ。
すぐにパパとママの楽しそうな会話が聞こえてきたから、私もママに負けないようキッチンに向けておはようと返し、――パパがこっちに来る気配。
急いでテレビを朝のニュースへと変える。
「いいよ。見ていただろうに」
キッチンからコーヒー片手に戻ってきたパパは笑うけど、日頃からテレビを占拠する割合が多い私だもん。休日くらいはパパ達も自分の好きな番組を見るべきだと思う。だから、
「ううん。再放送だから大丈夫」
これはウソじゃない。
毎週土曜日、朝の楽しみにしているTCGアニメの再放送。
放送開始が3年くらい前の作品だから、出てくるカードは全体的にパワー不足だけど、ストーリーはすっごくおもしろい。
キモータさんも、毎週かかさず見てるって言ってた。
『お互いに、プライベートを公開しない』
あの日、ふたりで決めた約束事。
今となっては大分緩んできているけれど、それでもまだまだ距離のある関係性。
そんな中、数少ない共通の話題として、リモート時の雑談で盛り上がることが多いし、個人的にも一番お気に入りのシリーズだから、出来るだけ見逃したくはないけれど。
ちょっと残念には思いながら、でも、少なくとも通しで全話見た作品だ。見ようと思えばサブスクでも見れるわけだし、意固地になる必要なんてないもん。
そうだそうだと納得させながらすっかり冷えたトーストをかじる。
「……隣でいっしょに見てくれると助かるんだけどなぁ」
もしかして、隠しきったはずの口惜しさが、私の顔に出てしまっていたのかな。
呟くような声のあと、パパはチャンネルをもとのアニメに戻し、コーヒーをひとすすり。
どこか気恥ずかしげなパパの顔――番組はちょうどアバンタイトルが終わり、オープニング曲へと入っていく。
今まで、さんざ聴き倒した名曲をバックに、私の口からはとっさに「いいの?」声が零れた。
「先週の続きだろう? ずっとパパも気になっていたんだ」
もしかして、私に気を遣ったのだろうか。
ふいに、ムクムクと心に湧いた惨めな感情。
私はやっぱり可哀想な子なのかと、心の中で卑屈な感情がワッと両手を広げて構えたように思えたが、――うん。そうじゃない。
「お、始まったばかりだね。よかった」
すこし温度の上がったパパの声に、感情を引き寄せられる。
……また、ダメな自分に負けそうになってるな。
パパだけじゃなく、ママやお姉ちゃんもこんなイヤな特別扱いは絶対にしない。ちゃんと家族のひとりとして公平に扱ってくれる。
「ほら~、パン焼けたから持ってって~」
台所から、ママの呼ぶ声が聞こえた。
「お~ん」と、よくわからない中途半端な声だけを返し、パパの目はテレビの画面から離れない。
そういえば、先週も二人で見たんだっけ。
よくよく思い返せば、頻繁にふたり並んで見ているような気もする。私の目も耳も毎回画面に釘付けだから、印象が薄いだけなのかも。
本当にパパもこのアニメの続きが気になっていたのだろうか。
「主人公があそこからどう逆転するのかな。ひとつ前はとても良いところで終わったからね」
画面には、二十年近く主人公を代えながら続くTCG長期シリーズの6作目、通称【オマエは俺か:オマ俺】そのOPが流れていく。
「たしか、県大会の決勝だったかな」
前5作品とは違い、カード以外取り柄のない冴えないオタクを主人公として、さらには剣と魔法の異世界ではなく久しぶりに現実世界の学園ものへと舞台変更。
これまでは世界の命運を賭けて戦うストーリーが主だったのに、今作品は、なんとなんとの学園王道ラブコメ。
「えっとなんだったか、……部長の女の子が家の都合で決勝に参加出来なくて、」
「……名家の一人娘だからって、むりやりお見合いさせられるんだよ。頑張ってここまで勝ち進んだのに、ほんとヒドい」
私は、当時放送中だったこのシリーズを偶然目に、まんまとドハマリしたいわゆる後発組。
それから本放送を追いかけるように――当時の私はずっと部屋に籠もっていたから――1作目からサブスクでイッキ見した勢。
【オマ俺】しか見たことなかった私だから、前作達も、てっきり同じようなテイストのシリーズ物かと期待に胸を膨らませていたのだけど。
「うーん。所々で世知辛いというか、高校生の当人達ではどうしようもない、のっぴきならない問題ばかりというか」
「……それが、このアニメシリーズの悪いクセなの」
ところがどっこい、どれもこれもストーリーが重すぎて、当時の私はよくあんなメランコリックなものを見続けたなと今でも思う。
特に前作の5期――通称【知らない隣人:シラリン】――なんて、勇者だったヒロインの、奪われた記憶を幼馴染みの主人公と共に魔王から奪い返す。そんな剣と魔法の世界が舞台のお話なわけだけど。
初見は、キャラデザや背景が可愛く、ストーリー的にもどこか絵本のような雰囲気でとても親しみやすいなぁ。見やすいなぁ。まだ小学生だった私は楽しそうだなぁと、ウッキウキ。
でも、それがとんでもない落とし穴で。
それもこれも全て、最終回に用意された悪夢のための装置だったといってもいい。
キモータさんは、5期があまり得意ではないと言っていたが、私もまったく同意見。あれは、見る人によっては劇薬だ。
そして、何食わぬ顔でなにも知らぬまま見続けた私の前にやってきた、運命の最終回1話前。
正直、かなりイヤな予感はしていた。ここに至るまでにもその流れを臭わせる箇所がいくつもあったからね。
今でも憶えている。あれは強烈な体験だった。
せっかく取り戻した記憶、やった、ヒロインが主人公のことを思い出した、あとは魔王を倒してハッピーエンドだ! からの “え、……うそ、ヤだ” まさかの、……主人公死亡。
もっとも恐れた最悪の展開に、ただただ絶句した。
ストーリー序盤では、記憶を失ったヒロインから知らないヒトだと恐れられ、距離を取られる主人公。
“ごめんなさい。知らない男の人、怖くって”
それでも、大切な彼女のために代わりとなって戦う健気さ、儚さ。
“俺は、別に世界を救おうなんて思ってないよ。ただ、オマエが昔みたいにメンドクセーやつに戻ってくんなきゃつまんないからさ”
少しずつ仲良くなって、信頼されて、ようやく彼女が全てを思い出し、数年越しに視聴者が見たかったシーン。ヒロインが主人公を昔の呼び名で呼んで、泣いているのか笑っているのか、主人公も同じように彼女の名を呼んで……あぁ、集大成とも言える感動的なシーンだったのに。
それなのに、なぜ。
なぜ、数分後に、私たちは血の涙を流さなければいけないのか。
結果としてヒロインが彼のカードを引き継いで世界を救うんだけど、――最終回ラストで行われた国を挙げての祝賀パーティ。
その席で、皆が皆、喜び歌い踊る姿を遠巻きに見ながらの、
“……アタシは救われて、世界も救われて、でも、なんでいちばん頑張ったアイツは救われないんだろう”
このヒロインの最後のセリフに加え、憤りと怒りと悲しみと、あとはなにかこう凄まじい感情が蠢いた表情。
“いったい、なにがおめでとうなの……”
ただひとり叫ぶわけでも泣くわけでもない、何かが滲み出るようなそんな鬼気迫る声優さんの演技も相まって、――そのままゆっくりと暗転した画面に、音も無く流れていくスタッフロール。
――見事なまでに私の感情はグチャグチャにされた。メチャクチャ泣いた。
全百数十話、3年続いたラストがこれか。こんな救いのない話で良いのかと、弱った小学生の情緒は無事決壊。何も知らないお姉ちゃんが取り乱すくらいに泣いた。
しかも、有料でも良いからと後日譚を望んだ大勢のファンに対し、アニメ会社は、
“世界が平和になったのだから、これ以上はいらないじゃないですか”
とピシャリ、はねつけたらしい。
こういうのを長年にわたり手をかえ品をかえ、やってきたアニメシリーズだからこそかもしれない。
私は、全てあとから聞いた話になるけれど、そういうユーザー達の溜まりに溜まった鬱憤というのだろうか。
次の週から、みんなの傷が癒えないままに始まった第6期【オマ俺】。
放送当初はその急激な路線変更からか、“なぜカードが強いだけで学校の単位がもらえるのか” や “異世界系じゃないとカードの勝敗に重みがないだろ” “この主人公がキモくてたまらない。陰キャすぎだろ、不快” “カードアニメ見に来てんだよ、乳臭いラブコメは他所でやれ” “いいから【シラリン】の続編作れ。こっちは保たんとこまで来てんだ、はやくしろ” などといった厳しい批判が多かったらしい。
更には、キモータさんも苦々しい声色で言ってたけれど、開始早々6期の新規カードによって、TCGの環境がガラリと一変したらしく、そのせいで、既存カードの価値が軒並み暴落。
当時からすでにカードを資産のように扱っていたプレイヤーが多かったみたいで、当然、昨日までの札束が一晩で木の葉に代わったのなら暴動モノ。
実際、それを期にこのTCGを引退するヒトが多く、その鬱憤を吐き散らすようにメーカーへの誹謗中傷や不買運動が激化。
それに続けと言わんばかりに、TCGの改訂と実質無関係なアニメの会社や関係者にまで連日のように怪文書が送られたりで、この時期は冬の時代と言われたほどに、荒れに荒れたらしい。
ネットではオワコンとはやし立てられ、好きだった動画配信者も日ごとに違うTCGに流れ減っていく。
キモータさんも、心が折れそうなくらい辛い日々だったらしい。
だけど、……もちろん悪いことがそう長く続くわけでもなく。
なんだかんだと悪評の目立つスタートではあったけど、件の第六期、蓋を開ければ歴代トップの大成功。
“やっぱりアニメですよ。広告塔がしっかりしてたんで余裕で大勝利です”
キモータさんがこの話になると、いつも嬉しそうに言っている
なんといっても社会現象を巻き起こすほどにアニメが流行ったのが大きかったようで。
“カードやってない勢を引き込めたのが偉かったですね”
アニメの内容自体は高校生たちが各々の理想や願い、夢を胸に、部として全国を目指し、そして世界へと挑戦する。王道と言えば王道なのだけど。
その青春のキラキラ感が一般のヒトに。現実世界特有のTCGあるあるネタがカードプレイヤーに大ヒット。
さらには、冴えない主人公が美少女ヒロインへと向ける学生特有の甘酸っぱい片想いが “わかりみが深い” “こいつとは親友になれる” “主人公のキモさが、まさにあの時のモテない俺” などなど、ついには降参だと古参のアニメユーザー達も次から次に熱い手のひら返し。
私としては、TCG戦の構成も抜群におもしろくってドコをとっても文句なしなんだけど、当時は特に、一歩ずつ成長していく主人公と、少しずつ彼に惹かれていくヒロインの心情の変化。お決まりのベタなお約束をしっかりこなしつつも、丁寧に練られたストーリーの見事さに、多くの視聴者が引き込まれてしまったらしい。
その出来の良さから、最終的には、カードシーンはオマケなどとネタにされる始末。
TCGのほうも、あの大炎上はドコに消えたのか、数ヶ月もすればウソみたいに物の見事に鎮火。
どうやら、ごく一部を除いたユーザの中でインフレしすぎた環境が整備されただけ、今までが異常すぎたという結論で落ち着いたらしく、プレイすればするほど感じる良改訂に、なんだ、この環境はおもしろいじゃないかと。
更には、もともとのブランド力もあったし、市場における、中古でのカード価格が下がっていたことも追い風で、始めるなら今だと、アニメを見て興味津々だったヒトを中心に、あれよあれよと大量の新規プレイヤーまでも獲得。
かくいう私もそのとき飛び込んだ新規組の一人なので、それこそ“わかりみが深い”です。
この騒乱を振り返り、 “厄介なユーザーを排除するのが狙いだったのでは?” などと、そう過激に語るヒトも多く居たらしいけど、とにもかくにもあれやこれや、いろいろとあった第6期。
キモータさんが、特に好きだと言っていた第6期。
私も初めて見たのがこのシリーズで、見事なまでにハマった作品だから、一番好きなのはこれだと真っ先に上げる。
その中でも今日のは個人的にもとっても好きな回で、ヒロインが親の命令で望まないお見合いをさせられる。しかもその日はエリア大会の決勝戦。
これに勝てば全国大会という大一番。去年は行けなかった夢の舞台がもう目の前だというのに。
悔しいと、主人公の背に隠れ、はじめて涙を見せたヒロインに、これまでストーリーを追ってきた視聴者としては彼女の頑張りを見てきたから、とんでもない両親がいたもんだと何回見てもイライラしてしまう。
だけど、絶対絶命のピンチに主人公の言った、
“ボクが勝てば、彼女は笑ってくれるから”
からの、
“だから……今日のボクは最強だ”
の流れが、今まで一度も勝ったことのない強敵、それこそ去年も惨敗したエリア最強の相手を前にして、あの小心者がよくぞ言った。
セリフとしては恥ずかしいほどにクサいんだけど、そこから続く大逆転劇と相まって、ファンの間では歴代通しての神回だと言われている。
とくに終盤の勝利BGMと共にトップデッキで解決するシーンは、いや~、何度見てもかっこ良すぎて痺れるのですよ。
だからこそ、それに続く前回のラストもとてもおもしろいものになっていて、先週放送分からパパが気になっていると言ったのも納得できた。
「どこかの経験者さんに、ルールを教えてもらえるとありがたいなぁ」
パパは、たぶん主人公のつもりだろうけど、お決まりの台詞と共にデッキからカードを引く真似をしてみせた。
はじめて聞いたパパのカミングアウトに、驚いてしまう。ただ私に付き合ってくれているだけかもと考えていたぶん、こんなに嬉しいこともそうはない。
「パパも、このアニメ好きなの?」
マグカップを両手で弄りながら、そりゃそうだよと、どこか照れくさそうにパパはニコリ。
「うちの可愛いお姫様のお気に入りアニメだろ? もちろん好きに決まっているよ。……というのは建前で、実は結構ハマってる。ただ、ルールがいまいちわからないからね」
わかるようになれば、もっと楽しめるはずだから。――ちょうどオープニングが終わり――パパはテレビに顔を向けながら、嬉しそうにそう言った。
本編が始まってからはしばらく見入ってしまい、お互い無言で時間が流れていく。
やはり数多のユーザーが認める伝説の神回。たまに、「お」とか「あ」とか、パパから声が聞こえるけど、ごめんなさい。後で全部聞くからと心の中で謝って、完璧に心はアニメの世界へと飛びだってしまっていた。
「――やっぱりパパはこの主人公が好きだな。使ってるカードも、スーパーカーばっかりだし」
ようやくパパが話し始めたのは、手に汗握るAパートが終わり、CMに入った時だった。
そういえばそうだったと私は納得してしまう。
主人公が使うのは、ドライバーとマシンを高速で場に展開するイケイケの速攻型。通称【マシンデッキ】
近未来なカッコイイ車がいっぱい出てくるからね、なるほど。
いつもソファーで車雑誌を読んでは、遠回しにパパはおねだり。なに馬鹿なこと言ってんのとママに冷ややかな目をされている光景をよく見る。
ママ曰く、若い頃はドライブデートという名目で、バカみたいな車でよく連れ回されたらしい。
怖いくらい速いし、耳鳴りするほどうるさいし、お尻がとんでもなく痛いしでアレのどこがどうデートだったのかしら、全然分からなかったと、よっぽどイヤだったのか、未だにその時の愚痴を耳にする。
私は、パパがファミリーカー以外に乗っている姿を見たことがないから、ちょっとその頃の姿を見てみたいなとは思うけど、これまで欲しくても買えなかった歴代のお気に入り達を重ねて見ているのかな。主人公のカードを語るパパの目はとても輝いて見えた。
「でも、なんで主人公はこのカードを使うんだ? ……否定するわけではないけど、彼のイメージと違うというか、合わないというか」
ただの興味本位だが気になってな。なんて、パパはバツが悪そうに笑った。
まさに、アニメにハマっている今のパパの姿が私にとっての“イメージと違う”なんだけど。……まぁ、パパが言いたいこともわかる。
確かに、眼鏡で線の細い猫背な少年が、オドオドと内向的で、それこそ陰キャですよと言って回っているかのような彼が、轟音を撒き散らし、白煙を上げて激しく走り回るようなデッキを使っているのだから、文字通り柄ではない。
だけど。
このTCGに関しては、違う。
「それはね、」
私はちょっとだけこのTCGを説明した。詳しくやればCMが終わってしまうから、ちょこちょこっと簡単にかいつまんでだけど。
このゲームはカードの束【デッキ】を本に見立て、プレイヤーはその物語の書き手になること。
そこでは、なんにでもなれる。何でも出来る。現実世界で無理なことも、この世界では叶えることが出来る。
だから、プレイヤーは自分の憧れをその物語【デッキ】に投影するということ。
そこまで聞くと、パパは、なるほどと膝を叩いた。
「こう見えて、彼はレーサーになりたいのか」
その気持ち分かるぞと、昔の自分と被るのか、うんうんと男の子はそういう時期あるもんなって、満足げに頷いていたけれど、残念だけどハズレ――私はううん、違うよと首を振った。
「……主人公のパパは有名なレーサーだったんだ」
「へぇ」
だからそのお父さんに憧れて、って事だろう? パパは何が違うんだいと不思議そうな顔をしていたが、――私はこれ以上先の事を言うべきか悩んだ。
正直、聞いておもしろい話ではないし、せっかくの神回に水を差すことになってしまうかもしれない。
それに、
「……小さな頃に、大好きだったパパを、レース中の事故で」
――彼のデッキの選び方が、私と被る。
これは絶対に誰にも言えないし、言うつもりもないけれど、……自分の失ったモノを代用品で埋めようとする心、私にはその気持ちが痛いほどよくわかる。
私が、このアニメに出会ったあの日。
暗い部屋で、つけっぱなしのテレビから偶然流れたアニメだったけど、あの日見た、運命の一話。ヒロインに主人公が過去を打ち明けたあのシーン。
最愛の夫を亡くし、おかしくなってしまった母親からの壮絶なネグレクト。
保護された児童養護施設での地獄のようなイジメ。
甘い言葉で近づいて、父の遺産を食い潰す親戚達。
この主人公が、くじけながらも立ち上がって “だけど” と “それでも” を繰り返しながら、でも失ったモノはやっぱり大きすぎて。
“ボクは、このカードのおかげで、どうにかボクをやっていけてます”
ほんの三十分ほどの間だったけど、彼の藻掻き足掻く姿に、……その日、気がついたら私は【オマ俺】をはじめの一話から、サブスクで見ていた。
放映開始からまだ20話ほど。何度も見た。繰り返し見た。いつのまにか、主人公に自分を重ねていた。
彼が負けなかったのはどうしてだ。くじけなかったのはなぜだ。折れなかったのは――
あの時期、なんで自分だけと、泣いてばかりだった私。
世界に裏切られたと、いじけた私。
そして、ただ自分の不幸を嘆いてばかり。なにもしなかった私。
主人公の、自分に足りないモノを手に入れようとするその姿がただただ眩しくて、気がついたら私の中の何かが揺り動かされていた。
……コマーシャルがそろそろ終わるだろう。Bパートが始まるのも、もうすぐか。
私はふいにその時の事を思い出して、辛かったあの頃にそれ以上言葉が出てこなくって。
もしあの時、テレビがつけっぱなしでなかったら。
もしあの時、このアニメが流れてなかったら。
もしあの時、がんばってお姉ちゃんに打ち明けていなかったら。
そしてもし、あの時、キモータさんに出会えていなかったら。
……パパも大まかなところを察してくれたのだろう。
「……そうか」
「……うん」
進むテレビの中で、主人公がまた立ち上がる。
絶体絶命の大ピンチ。震える手を【デッキ】に添えて、幸せだったあの頃に、はじめて買ってもらったあのカードを引いた。
“いくよ、父さん”
あの時も今も、彼はデッキの中に亡き父親を求め、それと同じように、あの日から私も、――




