後編
模擬舞踏会の一週間前、裏庭で僕はとんでもない話を聞いてしまった。
いつものように学院の人気のない裏庭を徘徊して偶然聞いてしまったんだ。———というのは嘘で、偶然汚物カップルが誰もいない裏庭にこそこそ歩いていくのを見かけて後をつけたんだ。
二人は校舎裏の木立の中で抱きあっていた。うぉ、抱きあって囁き合いながらキスまでしてる。もう寒い時期だっていうのにわざわざこんな場所でよくやるよな。ああそうか、『みまもりくん』が校舎内の廊下にまで新たに設置されたから空き教室で、って訳にはいかないのか。二人でこそこそ教室に入る姿が記録されていたら言い逃れできないものな。未だに友達だって言い張っているのだから。
僕は二人の会話が聞きたくて隠れながらそうっと近づいた。二人はお互いの行為に夢中で全然気付かない。警戒心ゆるゆるすぎるだろ。
「……だから機嫌を直してくれよシャニー」
「だってえ、ほんのちょっとだけでも私のハディがあの女をエスコートするなんて耐えられないわ」
「しょうがないだろ、私は侯爵家の次男なんだからあの女と結婚して伯爵家を手中に収めなきゃならないんだ。さすがに模擬舞踏会やデビュタントではあの女をエスコートしなきゃ不味いだろ」
「それはわかっているけれどぉ。んもう、あの女のせいで愛するハディと結ばれるのを我慢しなきゃならないなんて。地味でつまんない女のくせに生意気なのよ!」
「私だってあんな野暮ったい女のエスコートなんて恥ずかしいけど我慢しているんだ。ファーストダンスが終わったらずっとシャニーといるからさ。ああそうだ、ダンスの最中に足を引っかけて転ばしてやろうかな」
「うふふ、それいいわね。私も手元が狂ったふりをしてジュースでも引っかけようかな」
「はは、私の子猫ちゃんは悪戯好きだなあ」
「それよりあの話は絶対に実行してくれるのよね」
「もちろんだ。僕の愛を疑っているのか?」
「そうじゃないけれどぉ……ホントにホントよね、三年待てば私を伯爵夫人にしてくれるのよね」
「ああ、もう毒薬も入手した。私は仕方なくあの女と結婚するけれど結婚してしまえば伯爵家の実権を握るのは簡単だ。あの女は私に服従しているし、シアーズ伯爵は私の父に恩義を感じているから爵位の譲渡は直ぐだろう。そうしたら遅延性の毒を使ってゆっくりと……な」
「……悪い人」
「可愛いシャニーと結ばれるためだよ」
二人は話をしながらも何度も何度もキスしたり身体を触りあったりしているのだから僕はだんだん気分が悪くなってそっとその場を離れた。二人の口づけはだんだん深くなって僕が音を立ててこの場を離れても気づかれなかったんじゃないかと思うほど行為に没頭していた。
気分が悪い……
見たくもない汚物たちのラブシーンを見せられたこともだけど、話の内容に僕の気分は最悪だ。
もう、部外者だなんて言っていられない。
僕が、僕がジョディを救わなければ誰が救ってくれるというんだ。たとえジョディが虐げられてさえハドリーの事を好きだとしても、僕がジョディに恨まれることになっても、僕は絶対にジョディを救う。救ってみせる。
準備をしなければ———
模擬舞踏会当日、僕たちは今控室にいる。遠くにそっぽを向いたハドリーの腕に申し訳なさそうに手をかけたジョディが見える。僕のパートナーは予想通り歴史学の先生(四十二歳おっさん)だった。そんな事はどうでもいい。入場が始まっても僕はジョディから目を離さなかった。
ジョディは荒っぽくハドリーにエスコートされていく。
その姿をシャノンが鋭い目で睨んでいた。
もうすぐファーストダンスが始まる。僕はおっさんとホールドを組むときに強引にジョディの近くに行った。そうして素早くジョディに囁く。
「シアーズ嬢、足元に気を付けて」
ジョディはハッと顔を上げた後、小さく頷いた。
おっさんとギクシャク踊っているとホールにドスンという音が響いた。皆が一瞬動きを止め音のした方に注目する。視線の先にいたのは……みっともなく尻もちを突いているハドリーと両手で口元を覆っているジョディだった。
ハドリーは真っ赤になってジョディを睨みつけている。そこに甲高い声が聞こえた。
「まあハディ! 可愛そう! ジョディ様に足を引っかけられたのね!」
シャノンがウルウルと目に涙を溜めてジョディを見つめている。
「ああそうなんだよシャニー、この性悪女は私に恥をかかせたかったみたいだ」
「そんなっ! 酷いですわジョディ様。さあハディ、あちらへ行きましょう」
ジョディは「いいえ、私はそんなことはしてませんわ」と必死に言っていたが二人はズンズン遠ざかっていく。僕はおっさんの手を離してジョディに近づいた。
「シアーズ嬢、何か飲まない?」
「ウェーバー様、私は本当に足を引っかけたりしていませんわ」
「うん、僕はよくわかっているから」
大方ジョディを転ばせようと出した足が空振りして自分ですっころんだんだろう。でもジョディは気にしているみたいだった。
その後エミリーたちも集まって僕らは楽しく過ごしたんだけど、僕が少し離れていた時、遠目にシャノンがジュース片手にジョディに近づくのが見えた。
不味い事にエミリーもルシアもパートナーとダンス中だ。
僕が急いで駆け寄ろうとした時にグイッと引き止められた。誰だ? と振り返ると魔道具基礎理論の先生がニコニコと僕を見ている。
「おお、ウェーバー君じゃないか! 君の魔道具に関するレポートは素晴らしかったよ」
「あ、ありがとうございます先生、ちょっと急いで———」
「さすが学院に入学前にあの素晴らしい魔道具を完成させた天才だな。アルバート殿下も君が魔道具研究所に入るのを首を長くして待っておられるだろう」
「すみません、本当に急いで———」
「ところで、新作の魔道具は———」
「失礼します!!」
僕は走り出したのに間に合わなかった。ホントに僕はいつもこうだ。あの汚物の悪だくみを知っていたのに肝心な時にどんくさいんだ。
「あらー、手が滑っちゃったあ、ごめんなさいねー」という耳障りな声とクスクス笑いが聞こえた。
僕は両手にジュースのコップを持って迷うことなくクソ女のところに駆けつけると頭のてっぺんから二つともジャバジャバかけてやった。
「キャー!! 何するのよ!!」
「ウェーバー様!? 何を?」
クソ女の悲鳴とジョディの戸惑ったような声が重なった。
「ジョディ! 何をしているんだ!? あれほど言ったのにまたシャニーを苛めていたのか!?」
おっと、汚物の片割れの登場だ。ハドリーは周りがドン引きするくらい物凄い剣幕で怒鳴り散らしているが、僕は構わずにジョディの腕を掴んだ。
「シアーズ嬢、帰ろう」
「ウェーバー様? でも……」
「いいから帰ろう。寮まで送って行くから。その濡れたドレス、着替えた方がいいだろう」
ジョディは紫のまだらになったドレスを見てため息をつくと「そうですね」と歩き出した。
いつの間にか僕たちの周りには何十かの人垣ができている。そりゃそうか、明日は先生に呼び出されてお説教かな、と思ったけど、今はどうでも良かった。
僕は上着をジョディの肩からかけてやり、寮まで送ると、そのエントランスで少し待っていて欲しいと頼んだ。
「君に渡したいものがあるんだ」
急いで男子寮の僕の部屋からある物を持って引き返す。
女子寮のエントランスに僕の上着をかけたままのジョディの姿を見つけた時はホッとした。この時間、エントランスに人影はなかったけれど、念のため端の方にジョディを連れて行って僕は紙包みを手渡した。
「ウェーバー様、これは?」
「シアーズ嬢、今すぐにでも婚約を解消した方がいいと思う。いや、絶対にするべきだ」
ジョディの質問に答えず僕が強い口調で言うと、ジョディは瞳を伏せた。
「お気遣いくださってありがとうございます。けれど私は……その、ボードール様は地味で何のとりえもない面白みのない私を娶ってくださるのです。私も出来るだけ歩み寄ろうと……」
「違う。違うよ!」
舞踏会の会場でジュースをクソ女にぶっかけた時から、僕はハイになっていたのかもしれない。思わずガシッとジョディの肩を掴んで僕はマシンガントークをかました。
「シアーズ嬢、君はあのクソ男に洗脳されている。あ、君の婚約者をクソ男なんて言ってごめんね、だけど君に釣り合わないのはあの男の方だ。君が地味? 違うよ、清楚って言うんだ。面白みがない? 面白みって何? 軽薄な話題しか喋れない事? 僕は君といて退屈したことなんて一度も無かったよ。それは僕だけじゃなくて一緒にお昼を食べていた仲間たちもそう思っているし、君の話はいろいろな分野に跨っていて面白かったからクラスの中でも一緒にお昼を食べている僕の事を羨ましがっている奴らが沢山いたんだよ。それに君は人を否定する言葉を絶対に言わない。相手の気持ちに寄り添ってくれる優しい人だ。ああ、もっともっと君のいいところを言いたいけれど、今肝心なのはその事じゃない。君はハドリー・ボードールと今すぐ婚約を解消するべきだ。あいつはとんでもない奴だ。友達だと白々しく言い張っているあのクソ女とデキているばかりか君を害そうとしているんだ」
一息に喋って少々酸欠になり、僕ははあっと息を吐く。
ジョディは信じられないとばかりに目を見張って僕を見上げていた。ああ、可愛いなあ……肩を掴んでいるのだから僕は過去一至近距離でジョディを見下ろしている。
「まさか……ボードール様が……」
「うん、まさかじゃないんだ。それについては証拠が今渡した紙包みに入っている。使い方の説明書も書いておいたから。あ、でも君は見ない方がいいかも……これは君の父上に渡して……」
僕が言い淀んでいるとジョディは弱々しく首を横に振る。
「お父様には言えませんわ」
「縁談を強制されているの?」
「いいえ、でもお父様はとっても喜んでいらっしゃるんです。大恩あるボードール侯爵様のご子息が我が家に婿にいらしてくれるなんてと」
「……それでも、それでも婚約は解消するべきだ。あんな悪党とは一刻も早く離れるべきだ。今渡したものを君の父上に見せてくれ。そうしたら納得してくれると思う。それとも君はそれでもあのクソ男の事が好きなの? たとえ殺されても?」
僕は必死に言い募った。
ジョディはしばらく沈黙した後に口を開いた。出てきた声はとてもか細い。それはジョディの迷いだった。
「わからない……わからないのです。私は伯爵家の一人娘で幼い頃からシアーズ家を守っていくようにと育てられました。お父様もお母様も私を愛してくださっています。その愛情は疑った事などございませんわ。だから私もお父様とお母様が守ってきたシアーズ家を守って生きていこうと思っていたのです。八歳の頃にボードール様と婚約することになってお父様はとてもとてもお喜びでしたわ。尊敬するボードール侯爵家の血を我が家に受け入れることが出来る、なんて素晴らしいんだと。だから私は必死にボードール様に寄り添おうと生きてきたのです。でも私は全然上手くできなくて……ボードール様に失望されて叱られてばかりで……それでもボードール様と共にシアーズ家を守って生きていく未来しか想像したことが無かったのです。ボードール様のことが好きなのか考えたこともありません。私にはそれしかないと思っていましたから。……それが無くなったら私には何が残るんでしょう」
「なんでも」
僕はすぐに答えた。
「君は既に沢山の物を持っている。必死に勉強して得た沢山の知識も、貴族の令嬢として学んだ常識や慎み深さ、人を思いやれる心、君を慕って心から心配してくれる友人たち、そして君をあ、あ、愛している人だって」
「……私を? シアーズ家の跡取りではなく私自身を?」
「もちろんだ」
僕はジョディの肩を掴んだ手に力を入れた。
「君は沢山の人に愛されている。君に相応しいのはあんなクソ男よりもっと素晴らしい人だ。僕……僕だって……」
ハッと僕は肩を掴んでいた手を離した。
この言葉は今言うべきじゃない。ジョディにはきっとこれから素晴らしい男性との出会いがある。僕みたいな非力なさえない男じゃなくて。
でも、僕もこの想いに決着をつけたい、それがジョディが人に好かれる人間なんだと自信をつけるきっかけになればいいじゃないか。
「……シアーズ嬢、君に言いたい事がある。十日後……聖夜に……〝恋人たちの聖地〟に来て欲しい。あ、いや、無理に来なくてもいいんだ。君が来たかったらで……その……ただ僕が勝手に待っているから……その……気が向いたらでいいから来て欲しいなあ……なんて……」
言いながらじりじり後ずさっていた僕はパッと後ろを向いて駆け出した。
あああああ、なんてヘタレなんだ僕は!
ハイな気分はとうに消え失せその晩僕はベッドで毛布にくるまり悶々と一夜を明かした。
次の日、教室でジョディが休みだと知った。
気まずくてどんな顔をして会えばいいかわからなかったからちょっとホッとしたけれど、昼休みにルシアからジョディが外泊届を出してシアーズ伯爵家のタウンハウスに帰ったことを聞いて彼女の父上に話をしに行ったのだろうと安堵した。エミリーに昨日のことを問い詰められたけれどそこは何とかごまかした。もちろん僕は教師に呼び出しをくらって、模擬舞踏会で騒ぎを起こした罰として放課後三時間もお説教をくらった。一緒にではなかったけど、汚物たちもお説教をくらったようでちょっとスッとした。
僕がジョディに渡した紙包みの中身は何か———
それは、あの裏庭でのハドリーとシャノンの悪だくみの映像と音声の記録だ。
実は学院に導入された『みまもりくん』、あれは僕が発明した魔道具なんだ。
僕が発明したなんて偉そうなことを言ったけど、本当は僕が最初に作ったものはもっと粗削りでとても実用化できるものじゃなかった。学院に入る前、魔道具オタクの僕が独学で作ったものだからね。
でもその発想に着目して実用化まで改良してくれたのがアルバート殿下と魔道具研究所の人達だったんだ。その縁でアルバート殿下とは親しくさせてもらっている。
そして学院在学中に僕が力を入れていたのは『みまもりくん』の小型軽量化。『みまもりくん』は大人が両手を広げたくらい大きいからね。
三年の夏、ようやく片手で持ち運びできるくらいの小型軽量化に成功して、その後は音声の明瞭化や画像の鮮明度を上げるために校内を徘徊し、色々な場所の音声、画像を撮っては研究に活かしていたんだ。
『携帯音声画像記録装置』と名付けたこの機械は魔道具研究所に既に届け出ているので数か月後には実用化できるかもしれない。
ああそうだよ、僕にはネーミングセンスが無い。『みまもりくん』よりはマシだと思うけれど。
次の日もその次の日もジョディは学院に来なかった。
主のいないジョディの席を眺めて、僕は、ジョディは僕に会いたくないのだろうと思った。自意識過剰でジョディは僕の事なんか気にもしていないかもしれないけれど。
ジョディが休みのまま聖夜の三日前、ハドリーとシャノンが学院を退学になった。
僕はその現場を見ていないけれど、寮に憲兵がやって来て二人は連れていかれたらしい。
もちろん僕のせいだ。二人の悪だくみの映像をアルバート殿下経由で届けたから。アルバート殿下に渡したものがオリジナルでジョディに渡した方がコピーだ。
だってあたりまえだろう、二人が話していた内容はお家乗っ取りと殺人の計画だ。届け出ない方がどうかしている。僕もそのうちに事情聴取や魔道具の説明で呼び出されるだろうとアルバート殿下に言われている。
あいつらが罪に問われることは確定していたから、できればその前にジョディがあいつを吹っ切ればいいなと願っていた。
そのジョディは相変わらず学院に来ていない。
僕が勝手にした聖夜の約束は宙ぶらりんのままだ。それでも僕は行くけれど。この想いに決着をつける為、そうして今度は心からジョディの友人になるために———
ーー♦♦♦ーー
「くしゅん!」
小さなくしゃみをして僕はコートの襟を掻き合わせた。
物思いに沈んでいるうちに辺りから人影はほとんど消えていた。
夕暮れ時から一時間ごとに五回鳴らされる聖堂の鐘は後一回を残すだけだ。こんな寒い季節にいつまでもこんな寒い場所に留まっている人はいない。恋人たちは一回鐘の音を二人で聞いたらこの場所からさっさと立ち去っていくのだ。二人が向かう先は温かな湯気の立つ美味しいディナーのテーブルなのか、ポカポカした明かりが灯る安らげる住まいなのか。
———きっと君は来ない———
そんなことはわかっている。
さあ、あともう少し、最後の鐘を聞いたらこの重い体を引きずって帰ろう。
「ウェーバー様」
小さな声が聞こえたような気がした。ヤバイ、幻聴だ。
「ウェーバー様」
僕はビクンと立ち上がって勢いよく背後を振り返った。
「……どうして」
僕の呟きにジョディは初めてムッとしたような表情を見せた。そんな表情もするんだ、君は。ムッとした顔も堪らなく可愛い。
「あなたが待っていると仰ったから。これでも急いで来たのです。お父様を説得するのに時間がかかってこんなに遅くなってしまったけれど」
「夜道を……まさか一人で?」
ジョディは背後を振り返った。少し離れた木立に護衛やメイドの姿が見える。必死に隠れようとしているけれど護衛の大きなガタイが細い木の陰に隠れる訳無いから。
「私、婚約解消しましたの」
ジョディの表情はすっきりしていた。
「大忙しでしたのよ。お父様のところにあなたから渡された物を持って行って、急いでボードール侯爵家に話を通して、解消のためにいろいろ動いていたら憲兵が家にやってきたり……。婚約解消の話自体はすんなり決まったのですけれど。あの映像を見てお父様が激怒してボードール侯爵家に乗り込みましたの。ボードール侯爵様もびっくりして平謝りに謝ってくださって、あちらの有責ですんなりと。慰謝料も是非払わせてくれと仰っていただきましたわ」
「君も……あの映像を見たの?」
「最初の方だけ。お父様に目を塞がれてしまいましたの」
ジョディの表情がすっきりしているだけでなく、言い方もなんかサバサバしている。
「私、今とっても気持ちがいいんですの」
「?」
気持ちいい? 聞き間違いかな? と思ったらジョディがクスリと笑った。
「ボードール様との婚約を解消したらもっと空っぽになってしまうんじゃないかと思っていたんです。でも違いましたわ。鎖から解き放たれた気分? とっても心が自由になったんです。そしてそんな気持ちになったのはどうしてなのかしらって考えていたら、その気持ちの根っこのところにウェーバー様がいたんです。あなたが私をいつも肯定してくれたから私は自分という存在を信じることが出来たんですわ」
ジョディは僕の両手をそっと包んだ。
「冷たい手……鼻の頭も真っ赤で……こんなに冷え切るまで私の事を待っていてくださったんですね」
僕は何も言えない。君が来てくれたことがまだ信じられないんだ。これは聖女様が見せてくれた幸せな幻で口を開けば消えてしまうかもしれない。
「ウェーバー様、私は今度は自分の心に正直になりたいのです。私はウェーバー様の事が———」
リンゴ―ン♪ リンゴ―ン♪
聖堂の最後の鐘の音が鳴り響いた。
僕は寒さも忘れて君の前で跪く。
「その先は僕に先に言わせてくれ」
———ジョディ、君のことを愛している———
♦♦♦(おしまい)♦♦♦
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