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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
4章 ベトナム遠征
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2話。教導大隊についてのあれこれ①

「さて。監視カメラについての話は終わったが、教導大隊に関する話はまだ終わっていない」


「カメラも重要だと思いますよ?」


いや、マジで。


「……まぁ、冤罪に関してはな。最初の4人はまだしも、これから入ってくる者たちの中に貴様を貶めたいと願う勢力からの刺客がいないとも限らんと言われればその通りだ。加えて犯罪や暗殺防止にもなると考えれば、監視カメラの有無とそれを告知することはそれなりの意味を持つだろう。それは認める」


「ありがとうございます」


暗殺か。正直そこまで想定していなかったけど、これからはそういうのにも警戒する必要があるのか。面倒……とは言ってはいけないんだろうな。


あと、告知な。うん。ちゃんと告知しておかないと覗き扱いされるからな。告知は大事。


「出世や部隊のことよりも監視カメラの設置を喜ばれてもな。……まぁいい。話を続けるぞ」


「はっ!」


本題ってやつか。正直聞きたくないが、そうも言ってられんのよな。


「貴様も知っている通り元々五十谷・田口・橋本・綾瀬の四人は、再建予定であった第三師団に於いて自分たちの所属する師団の影響力を強めるため、もしくは第三師団の為に用意されたポストを奪うために派遣されてきた人材だ」


「らしいですね」


それを防ぐために第三師団の武藤さんがいるんだろう? 

小畑くんと笠原くんに関しては……なんだろうな。


()()()()()()このままでよかった。五十谷たちが何もしなくともあの様子では小畑と笠原のために用意されていたポストはいずれ消失していただろうからな」


「はぁ」


どうやら国防軍にもコネがあっても駄目なものは駄目と言える程度の良識はあるらしい。

それは良いことだと思うが、率直に言って師団間の権力争いなんて聞かされても困るだけだぞ。


「なので本来であれば笠原と小畑、特に小畑のために用意されたポジションを巡る争いがあったはずだ。しかし状況が変わった」


そうだな。まるっと変わったな。


「第三師団の再建が凍結されたこと、ですね」


「それもだが、それだけではない。第二師団が半壊、第六師団と第八師団にも少なくない損害が出た。そのため現時点で大量の尉官、佐官が補充されることが決定している」


「あぁ」


たくさん殉職したからな。


「ただ当然のことながら、それは誰でも良いというわけではない」


「でしょうね」


そりゃそうだろう。尉官も佐官も相応の人材を育てるのには相応の時間と予算がかかる。

だが、時間もそうだが、特に予算を掛ける相手は選ばなければならない。なにせ予算は有限なのだから。


それを考えれば、現在最優先で予算と時間をかけられるべき人材は現在現場にいる将校、ではないだろう。


これから彼らに予算を掛けたところで第二次大攻勢に参加した面々のように中途半端なまま死なれる可能性が高いからな。再建を優先していることから時間に余裕があるとも思えないし。


よって彼らが予算を掛ける相手は、これから現場に出る将校見習い。

つまり少なくとも2年間以上時間的な余裕がある学生となる。


「各師団は五十谷さんや田口さんを自分の師団で活かすことにしたわけですね?」


「そうだ」


元々優秀さを買われて派遣されてきた面々だからな。他所に派遣するよりも自分たちの師団で使いたいというのは理解できる。というかそう考えるのが普通だろう。で、教導大隊に関しては『より量産型に習熟できる環境が欲しい』ってところだろうか?


「これは一つの賭けなのだ。各々の師団にとっても彼女らにとっても、な」


「賭け?」


習熟のための訓練をするだけだろう? 

何を賭ける? どういう事だってばよ?


「貴様がどう思っているかは知らんが、五十谷たちからすれば今回の人事は『これまで戦場の華とされていた、それも自分用の機体として慣れ親しんできた草薙型から動かせるかどうかすら不明な量産型に乗り換えることになる人事』だぞ。これを賭けと呼ばずなんと呼ぶ?」


そうなる、のか? でもなぁ。


「そもそも量産型に乗ることを賭けと言われましても……」


俺、普通に動かしましたよね? 

いや、もちろん俺の動かし方が特殊だってことは理解しているけどさぁ。賭け扱いは酷くない?


「貴様からすればそうだろうよ」


いやいやいやいや。俺が特殊なのは事実だから否定しないが、大前提としてあの機体は俺にしか動かせないってわけではないぞ。


「いきなり自分と同じ……は無理でも、ジャンプして射撃するだけならそれほど難しいことでもないでしょう? 実際第二次大攻勢でやった人がいるんですよね?」


確か柿崎中尉、だったか?


「まぁ、な」


その人は殉職したらしいけど、それで二体だか三体だかを討伐したらしいじゃないか。


「二か月かそこらの訓練でそこまでできたのであれば、二年以上時間がある五十谷さんたちにできない道理はないと思うのですが?」


いきなり出動! みたいなことにならない限りは大丈夫だろう?


いや、相当機体に馴染めなくて『やっぱ無理!』ってなるかもしれないけど。

流石にそこまで面倒はみれませんけど。


「理屈としてはそうだろう。貴様の言うことも決して間違ってはいない。しかし……」


「しかし?」


ナニカ俺の知らない問題でもあるのか?


「上はな。一流の機士が最初から戦場を見据えて鍛錬した二か月と、戦場を知らん学生が訓練するこれからの二年を同じだと考えていないのだ。もちろん五十谷らにもそう言った思いはあるだろう」


「……あぁ。なるほど」


常識を知るが故の問題か。


加えて、片や『動かせなければ死ぬ』という兵士による文字通り命が懸かった状況で行われる鍛錬で、片や『動かせなかったら乗り換える』なんて余裕がある学生、それも勉強の片手間に行う訓練だ。


前者と後者ではやる気と密度が違うと判断されるのも理解できなくはない。


ついでに言えば、機士として積み重ねたモノがある人ほど前者を神聖化するのだろう。

もしかしたらボスもそう考えているのかもしれない。


それは別に構わない。心の中でどう思おうと個人の自由だからな。

でもそれとこれとは話が違う。


「そもそもあの機体を操縦するのに死ぬ覚悟なんて必要ないでしょ」


いや、本当に。なんでそうなるのやら?


「それは貴様だから……」


動かせる俺だからって? 

違うぞ。それは間違っている。


「コマンドシステムを使うのに覚悟だのなんだのといった感情はむしろ邪魔です。重要なのは何も考えず、ただボタンを押すことですよ」


「……なに?」


これはコマンドシステムを説明する時にもいったはずなんだが。


「重ねて言いますが、量産型を動かす場合は草薙型を操るような感覚は邪魔でしかないんです。むしろそういう感覚に反応してしまうから、機体がコマンドを受け付けなくなるんですよ」


二重の命令が下されることになるからな。そりゃ動作不良も起こすだろうさ。


「いや、しかし……」


まだ納得できないか? ボスはボスで草薙型を使う人らしいからなぁ。

なにか良い例えは……あぁ、これなんてどうだ?


「ボ……中佐は車を運転する際に感情が必要だと思いますか?」


そんな車は怖いだろう? アクセルを踏んだら加速。ブレーキを踏んだら停止。ハンドルを切れば曲がるし、ギアをバックに入れたら後退する。それが車ってもんだ。


だからこそコマンドシステムは戦車を動かすのと同じだって説明しただろうに。


「……いや。そう、だったな」


「はい。そうなんです」


よし。論破。

勝ったな。風呂入ってくる……は冗談として。


そういう意味では第二次大攻勢の際に機体を動かした柿崎中尉は『感情で機体を動かした成功例』と言えるだろう。だがその成功体験が周囲に『気合と根性があれば動かせる』という勘違いする余地を生んでしまったわけだ。


尤も、気合と根性が不要というわけではない。


実際ボタンでしか動かないようにするとバランスとか制動に問題が出るからな。だからコマンドシステムを利用する場合は無意識にやる部分と意識してやる部分を明確にしておく必要がある。


「その辺の調整が極めて難しいから現状満足に使える人間がいないんだろうと考えているのですが、実際のところはどうなんでしょう?」


さっきまでのはあくまで予想。最初から使える俺には使えない理由が理解できないからな。

使えないのであれば『何故使えないのか』って情報が欲しい。


「……どう、と言われてもな」


ボスもわからない、か。

元々完成してから一年も経っていない機体だから無理もないといえば無理もない、のか?


まぁいいや。


「ではそういう諸々の機能を確認するのも教導大隊の役割と考えましょうか」


微妙に釈然としていない感じがするが、おそらく感情が追い付いていないんだろう。

これに関しては価値観の問題だからな。時間が解決してくれることを祈るしかあるまい。


「……貴様はそれでいいのか?」


おん? なにやら真顔で聞かれたけど。


「それで、とは?」


主語がないとわからんのですよ。


「……貴様が今語った技術、否、要訣は量産型を動かすにあたって重要な、そう、機密に近い情報だ。それを簡単に広めてもいいのか? と聞いている」


あぁ。それか。確かに機密と考えれば秘匿するべきだ。でもなぁ。


「簡単に広めるもなにも、元から明言していることですよ?」


もう公表していることだし。


それを真に受けていなかったのか、真に受けた上で切り替えることができていなかったのかは知らんけど、こっちは隠していないからね。


「しかし……」


技術は隠すもの。ボスがそう考えているのは何となくだがわかる。その上で、だ。


「教導大隊が設立された目的の中には、自分が隠しているであろうコツを聞きだすことも含まれているのでしょう?」


「……あぁ」


やっぱりか。量産型のときに散々聞かれたからな。

五十谷さんもいろいろ情報を持っていったし。


……それを活かしているかどうかは微妙なところだけど。


俺から広まった情報がどうなっているかはさておくとして。


「元より自分には情報を隠して武功を独り占め、なんて考えはありません。隠したところで隠し通せるものでもありませんしね」


「そう、か」


「えぇ。そうです。そういうわけですので、聞きたいことが有ればいくらでも聞いて下さい。人質も薬もいりませんよ」


「……」


一応相手は選ぶつもりだが、少なくとも上から命令されたら喋るに決まっている。

監禁だの尋問だの拷問だのされたくないからな。


それに、だ。この教導大隊で、実験して、確認して、修正して、実践して、集めたデータを正しく流用させることができれば、それなりに動ける量産型の部隊ができて俺の出番が減るだろ?

出番が減るということはそれだけ危険地帯から遠ざかることになるだろ?

危険地帯から遠ざかれば死ぬ可能性が減るだろ?

その分出世が遠退くが、すでに出世しているから給料には困らないだろ?

もちろんこれで妹様の立場が悪くなることはないだろ?


どこに問題が有る?


怖いのは人知れず科学や医学の礎にされてしまうことだが、すでにそれなりの立場にいるからそれも難しい。


つまりこれから数年うまくやれば、後は秘密兵器兼後方師匠面をして暮らすことができるってわけだ。


控え目に言って最高じゃない?


「……貴様の考えは理解した」


「え?」


まさか、もう後方師匠面するつもりなのがバレた? 

ボスはもしかしてサ〇リか? それとも俺がサト〇レ?


「その思いは気高く、正しい」


「え?」


気高くて、正しい? 

後方師匠面は気高くも正しくもないよな?


「だが今の国防軍には貴様のような人間を喰いものにしようとする人間が少なからずいる」


「はぁ」


俺のような人間がどんな人間かは知らんけど、他人を喰いものにしようとしている人間はいますよね。

最上さんとか。


「だから今後技術を開帳する相手は選べ。いや、私が許可を出した者だけにしろ」


「それは……いえ、了解です」


情報の独占、とは違うな。フィルターになるつもりか?

元より俺では理解できない世界のことはボスにお任せするつもりだったからそれでいいけど。


「そうだな。貴様が逡巡するのもわかる。だが従ってもらう。あぁ。もちろん五十谷らに関しては問題ないぞ。連中には私から口止めをするからな。貴様は貴様の知る限りなんでも教えてやれ」


「あ、はい」


なにやら勘違いされているような気がしないでもないが、少なくとも五十谷さんたち4人を使ってデータを取ってもいいらしい。今はそれがわかっただけでもヨシ! としよう。


「以上だ。詳細が決まり次第その都度連絡するのでそのつもりでいろ」


「はっ。それでは失礼します」


「あぁ」


どうせなら全部決まってから一括で! と言いたいところだが、そんなことを言ったら最期。いきなり辞書並みに分厚い冊子を渡されて『明後日までに全部覚えてこい』とか言われそうなので、俺は余計なことは口にせず黙って退室することにしたのであった。


「……私は上官として、いや、教師としてアレの気持ちに報いねばならん、か」


扉を閉める間際、ボスがなにやら呟いていたような気がしたが、その内容までは聞き取れなかった。


閲覧ありがとうございました。

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