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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
3章・文化祭
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7話。機士戦と量産型のあれこれ

機士戦。


読んで字の如く機士の、機士による、機士の実力を確かめるために行われる模擬戦のことである。


軍学校では個人戦と団体戦の二種類がある。個人戦は学年別に行われる【闘技場】を模したアリーナで行われるトーナメント戦で、基本的にAクラス、つまり草薙型に乗る機士たちによる一騎討ちのことを指し、団体戦は【広域戦場】を模した演習場にて行われる全校生徒が2つに分かれて戦う紅白戦(集団戦闘)のことを指す。


個人戦も団体戦もシミュレーターではなく実機で行われるため臨場感は極めて高いものの、当然負傷者が出たり機体が損耗するなどのマイナス面もある。


それらのマイナス面を踏まえた上でこの行事がシミュレーター上ではなく実機で行われるのは、偏にシミュレーターの数が足りないため……ではなく、観客を盛り上げるため……だけでもなく、卒業後戦場に赴くことになる生徒たちに集団戦闘の空気を知ってもらうという学校側の意向があるからだ。


もちろんシミュレータの数は足りていないし、観客を盛り上げるという副次効果も期待していないと言えば嘘になるが、一番の理由は生徒に集団戦闘の経験や、機体がダメージを受けた際の動き方、または応急処置に関するあれこれといった各種経験を積ませることなのである。(大事なことなのでry)


総勢300名にも及ぶ機士たちによる集団戦は例年注目の的になっていたのだが、残念なことに今年は行われないことが決まっている。


その理由は、現在軍が置かれている状況にあった。


細かく言えば、今の軍は学徒動員を本気で考慮せざるを得ない状況である。当然このような状況で、訓練になるとはいえ見世物の為に負傷者が出る可能性や機体が損耗すると言ったマイナス面を許容する余裕はない。そのため団体戦は行われないこととなった。


ただし軍が欲しがっているのは砲撃が行える砲士と、砲撃もできる八房型の機士なので、草薙型に乗る機士たちは普通に個人戦を行うことになっている。


花形とも言えるはずの草薙型の扱いとしてはなんとも悲しい扱いだが、想定される相手が大型の魔物なので妥当と言えば妥当なところだろう。


(ここで問題になるのが俺だよな)


元々シミュレーターを通じて観客相手のレクレーションを行うはずが、なぜか量産型で出場することになっているではないか。


もちろん量産型も実機が貸し与えられるのだろう。使い慣れた試作機ではなくわざわざ量産型に乗せるのにも何かしらの意図はあるのだろう。


(考えられるのは情報の秘匿、か?)


当たり前の話だが、秘密兵器とは秘密だからこそ意味がある。よって軍事に詳しくない民間人だの、どこに潜んでいるかわからない共生派の面々だの、スパイの役割も兼ねている同盟国の大使だのに対して馬鹿正直に晒す必要はない。


そう考えれば本命を隠すのも普通のことと言える。


「貴様も理解していると思うが、貴様を量産型に乗せる一番の目的は情報の秘匿にある」


「そうですか」


「次いで、量産型に対する信頼度を上げたいと言うのもある」


「信頼度、ですか?」


「そうだ。詳しく言うとだな……」


担任(ボス)曰く、現在軍の内部では量産型の性能に疑問を感じている面々が多いのだとか。


まぁ、俺が試作機だけで10体以上の大型を仕留めたのに対し、量産型は10機用意して24体の魔物を仕留めきれなかったからな。


しかも技術者から『量産型1機で大型の魔物3体に相当します!』なんて太鼓判を押されておきながらこの体たらく。そりゃ軍としても信用し辛いところだろう。


もちろん使い手の問題はある。実際一人で2体の魔物を仕留めることに成功した人もいたのだ。軍の関係者に詰め寄られた技術者たちはその人を例に挙げて『各々の練度が上がればもっと成果を出せる』と強弁しているらしい。


「そんな状態なのでな。軍としても量産型の性能が本当に技術者たちが提唱するレベルにあるかどうかを調べたいと考えている」


「なるほど」


つまり俺が量産型を使って成果を出せるのであれば、それは技術者さんたちの意見が正しいということの証明となり、量産型はもっと増産されることになる。


反対に俺が使っても大した戦果を得られないのであれば、技術者さんたちの意見は机上の空論となり、量産型の増産はストップ。そちらに掛けていた予算は他の装備の生産に回されるというわけだ。


「現場としては、な。大きな損害を出したとはいえ大型の魔物を討伐できたことは確かなのだ。そのためできるだけ早い増産、もしくは量産型に匹敵する武装の開発を要請している」


「それはそうでしょうね」


実戦で確かな実績を出したおかげで最低限の信用はある。だから最悪は量産型をそのまま増産してくれればいいってわけだ。


固定砲台扱いになるだろうが、それで量産型を30機用意できれば60……は無理でも50体くらいは相手にできる計算になるからな。


使い手がいないんじゃないか? と思わなくもないが、おそらく生き残っている八房型や草薙型の機士を乗せ換えるのだろう。


「現場としてはそれでいいかもしれん。だが後方としてはそうも言ってられん」


「後方? あぁ。予算ですね?」


「そうだ」


草薙型は一機で大体20億くらいするらしい。八房型はもう少し安いらしいが10億は下らないはず。その両方を掛け合わせた混合型のお値段は量産型でも一機で30億を超えてもおかしくはない。


本体価格だけでこれだ。これに加えて武装や弾薬、何より機士を養成するために使った費用や時間が加算されるのである。金額にすれば40億は下らないだろう。


(いや、機士の稀少性を考えればそれ以上か?)


そして前回の戦闘に於いて量産型は大型の魔物を仕留めることに成功しているものの、反撃によってそのほとんどが消し飛んでしまっている。そのため、言い方は悪いが現時点における量産型の評価は使い捨ての武器と等しい。


軍が一人の機士をいくらと見込んでいるかは知らないが、少なくとも武装込みで一機40億を超える機体を使い捨てにするのか? と問われて『それでも一向にかまわん!』と言える人間は少ない。というか補給やら経理を担当している人間からすれば絶対に許容できない事案だということはさすがの俺にもわかる。


ただし前回の戦闘で消し飛んだのは『ほとんど』であって『全て』ではない。よって生き残った機体からデータを抜き、他の機体と共有することで今後の生存率も上がると思うのだが、違うのだろうか?


俺が抱いたある意味で至極真っ当な疑問は、担任の言葉によって解消されることになる。


「貴様らの権限で見れる範囲ではそう思うだろうな」


「と、言われますと?」


「これから話すことは他言無用だ。貴様は中尉だからいいが、少なくとも学生に知られて良い内容ではない」


……聞きたくねぇ。と思っても時すでに遅し。


「芝野准将の判断で『弾詰まり』ということになっているが、実際のところ生き延びた機士どもは最後に行われた一斉砲撃命令を拒絶しているのだ」


「拒絶?」


命令無視したの? いや、それはあかんでしょ。


「反撃を恐れたのだろうな。なにせそいつらはその砲撃より前に行われた魔物からの反撃で友軍が消し飛んでいるのを目の当たりにしているのだ。『撃てばやられる』という恐怖に竦む気持ちはわからんでもない。いや、大規模攻勢ほどの苛烈さを知らん私が口にしていいことではないな」


「それは……」


どうなんだ? いや、まともに動かせないなら反撃で死ぬもんな。怖いのはわかる。だが友軍が一斉砲撃を行っている中で『反撃が怖いから砲撃しませんでした』なんて言い訳が通じるのか?


「当然、本来であれば重大な軍規違反だ。どう転んでも処罰は免れん。だが先ほども言ったように現場指揮官である芝野准将は『弾詰まり』ということにして不問にしている」


「……現場としてはそういうしかないですよね」


まさか最終決戦前に友軍を敵前逃亡扱いなんかしたら士気がガタ落ちすることは間違いないし、もしかしたらトチ狂った機士が証拠隠滅と言わんばかりに司令部を攻撃しかねない。


それらを勘案すれば()()()()()()()()のではなく、()()()()()()()()という形に落とし込むのも仕方のないことだと思う。


というか、そうするしかなかったのだろう。


「そうだな」


担任も苦い顔だ。ただ先ほど自分で言ったように、彼女は戦場に出たことはあっても大規模攻勢のような本格的にヤバい戦場に出たことはないらしい。というか国防軍のほとんどはそうだろう。


よって自分にはその砲撃を行わなかった機士を咎める資格がないと考えているようだ。これはおそらく彼女だけでなく、国防軍に所属する大半の軍人の意見なのだろう。


そして件の機士たちを咎めることができる芝野准将は、すでに決断を下している。


だから不機嫌になりつつも認めざるを得ないってわけだ。

それに関しては理解した。現場にいなかった俺にも咎める権利はない。


しかしその連中のことと俺が言った『生存率が高まるのでは?』という疑問は別問題だと思うのだが?


「機体の成長と最適化は一律のものではない。機士の行動と経験によってその形を変える。これについては貴様が一番詳しいと思うが?」


「……」


「件の機士たちは元々量産型を満足に動かせず、固定砲台代わりに配置された者たちだった。そんな未熟な上に最後の最後で怯懦に飲まれた機士の行動が機体にどんな成長を促すと思う?」


攻撃に耐えられるよう装甲が厚くなる? それとも反撃を受ける前に敵を倒せるよう火力が増す? いや、それなら経緯はともかくとして結果だけなら軍としても満足できる結果なはず。


彼らが満足していない、かつ量産型の増産計画さえ危ぶまれるということは……。


「あまり良いモノではなさそうですね」


「あぁ。詳細は不明だが、なんでも火力が落ちて機体も小さくなったそうだ。もちろん防御力や操作性は据え置きのままでな」


「はい?」


火力が落ちて機体が小さくなる? 小さくなったのに操作性は変わらない? そんなことあるのか? いや、担任がこういうくらいだからあるんだろうけど。なぜ?


「一応最終砲撃までは砲撃を続けていたからそれなりの経験は積まれていたらしい。それが一気に現出した形になったそうだ。……最悪の形でな」


「それでは成長というよりも……あぁ。()()()、ですか」


「技術者からの報告ではそうなっている」


彼らの機体が選んだのは敵を倒すことではない。敵から狙われないようにすることだった。故に大型の魔物にとって脅威となる要因であった攻撃力を落とし、姿も矮小化させたのだろう。


なるほどなるほど。確かにそれも最適化、というか進化の一つではある。だが……。


「技術者にとっては良い研究材料だろう。今後の成長や最適化の傾向を探るためにも、非常に重要な資料となるのも間違いない。だが現在我が軍が欲しているのは即戦力であって研究対象ではないのだ」


「そうですね」


元々大型を討伐することを目的に造られたというのに、肝心要の攻撃力が落ちては意味がない。よって今回生き延びた連中の機体データは生存率の強化に寄与しないというわけだ。


「話を纏めよう。現状即戦力として量産型に勝るものはない。今から新しい武装を企画し、生産するよりは量産型を増産した方が話は早いからな」


「えぇ」


「もちろん新装備の開発もするのだろうが、少なくとも今ではない。それらの事情から統合本部はとりあえず量産型を増産したいと考えている」


「はい」


あくまで『とりあえず』な。


「だが周囲には量産型の性能を危ぶむ声がある。特に実際に乗ることになる機士からの評価は最悪だ」


「でしょうね」


今のところ真面目に戦った場合の致死率が100%だからな。これじゃあ砲士と変わらん。

いや、的がデカい分砲士よりも性質が悪いかもな。


「なので、貴様だ。貴様には『量産型は機士を使い潰すものではない。量産型を使いこなすことができればこれだけ戦える機体なのだ』ということを証明してもらいたい。具体的には個人戦終了後にエキシビションマッチを行うので、そこで他のAクラスの生徒全員と戦い、勝利してもらう。あぁ、もちろん生徒が乗るのは草薙型だ」


「……さすがに過剰評価では?」


1対9とか、いくらなんでも無茶ぶりだと思うんですが。


「そうか? 場所は【広域戦場】を模した半径5キロの第一演習場。ここであれば問題ないだろう?」


なるほど、そうくるか。


「それなら、まぁ。多分。他の生徒さんが遠距離狙撃用にカスタムしていないのであればいけると思います」


「なら問題ない。遠慮はいらんから一方的に叩き潰せ。ちなみにこれは頼みではない。命令だ」


一方的に叩き潰したら文化祭の後の学校生活に問題しか残らないと思うんですがそれは……。


「なにか問題でも?」


「はい。いいえ。問題ありません。機士戦での戦闘方法につきまして、委細了解しました」


(ま、命令ならやるしかないんだけどな。なにより妹様の護衛の件もあるし)


「ならば良し。下がっていいぞ」


「はっ」


犠牲になるクラスメイトたちには悪いが、悲しいけど軍人なのよね。

だからあれだ。恨むなら俺じゃなくて俺に命令した担任を恨んでくれ。


閲覧ありがとうございました

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