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極東救世主伝説  作者: 仏ょも
五章
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5話 迷走する人たちの話

色々間違えていたので前の話と一緒に修正しています

あまりにもアレ過ぎる話にドン引きした俺を見てどう思ったのか、武藤さんはやや焦りつつ言葉を紡ぐ。


「ま、まぁ、私としても国難を前に何を悠長なことを……と思わなくはありません。ありませんが、一応それぞれの意見にもそれなりの根拠はあるのです」


「そりゃあ俺だって、この状況下で根拠のない主張が通るとは思わないが」


この期に及んで方向性が定まらないというのであれば、上層部に於いて複数の主張が存在している上、それぞれの主張にそれなりの価値があると判断されているからに他ならない。


問題は、それらを討議して取捨選択する立場にあるはずの面々が決断できていない、ということなのだが。


仕事しろ、上層部。


「簡単に纏めますと、現在軍部で問題になっているのは『主に何を生産するのか』ということなのです」


「もちろん最終的にどうするかは決まっている。しかし、如何せん今は時間がない。生産ラインの関係上、特定の機体を優先して造る必要があるのだ」


「なるほど?」


時間が限られている以上、生産するモノを絞る必要がある、と。

道理だな。


「そこで、なのですが。現在上層部では、大きく分けて四つの主張がぶつかっています」


「四つ?」


「はい」


多いのか少ないのか、わからんな。


「まず一つ目は、草薙型を増産することです」


「意見としてはこれが主流となる。生産ラインが確立しているため数が揃えやすいことに加え、やはり”今まで戦線を支えていた”という実績からくる信頼は大きい」


生産効率に信頼と実績ね。

確かに、それに縋りたくなる気持ちは理解できなくもない。

俺は乗らないからあの機体の良さがわからんけど。


「二つ目は【富嶽型(今まで量産型と呼ばれていた機体のこと。ベトナム戦でそれなりの数が成果を上げたまま帰還できたことから正式に命名された)】の増産です」


「……動かせる機士がいないのでは?」


造ったところで動かせなければ意味がないと思うんだが。


「元々各師団で訓練をしていたことと、ベトナムで培った我々や五十谷のデータを吸い上げた結果、そこそこ動かせる機士が増えてきているのが現状だ。あと数か月もあれば、それなりの数の機士が大尉ほどは無理だとしても、実戦に耐えうる程度には繊細な動きができるようになる、と見込まれている」


「ほほう」


動かせるならこれ一択のような気がするんだが、この意見が採用されないのは一番大事なところが『見込まれている』という希望的観測だからだろうか?


まぁ機士の命どころか、国家の存亡が掛かっているからな。

躊躇する気持ちも理解できる。


「三つ目は、草薙型砲戦仕様を量産することです」


「あぁ、あの」


砲戦仕様とは、通常の草薙に大口径の砲を積ませた結果、汎用性と機敏さがオミットされた上に、中途半端な砲撃しかできなくなった悲しき機体のことだ。


……アレのどこに利点が?


「従来のラインで増産できる上、既存の機士でも動かせる。これが大きい。一応ベトナムで戦果も上げているしな」


「あぁ、そうですか」


動かせない機体より百倍マシ、か。

生産性も保証されているし、火力は与一型よりも上だ。

湾岸警備の一員として砲撃に専念させれば、それなりの成果を上げることも可能かもしれない。


なるほど、急場を凌ぐことを優先するなら選択肢としてはあり得るのか。


「四つ目は……これは正直賭けの要素が強すぎる意見だと思うのですが」


「賭け?」


聞く限りだと、これまでの意見にも全部賭けの要素はあったと思うが、わざわざ前置きするほど賭けの要素が強いのだろうか?


「はい。四つ目の意見は『現在開発中の第三世代型を完成させること』なんです」


「は?」


いや、それはどうなんだ? 

動かないと言われていた量産型だって、前の戦闘では壊されつつもそれなりの戦果は上げていたんだぞ? 他は言わずもがな。

それなのに、なんで実績のない機体が他の意見と拮抗しているんだ?


「元々こちらは草薙型の後継機として四菱と軍の工廠が共同開発している機体でして、機体開発に関わる部署の方曰く『基幹部分はすでに完成しており、現在は二年後の本格配備に向けて各種実験の最中なので、量産はともかく完成させることは可能』とのことでした。肝心の性能も『全てにおいて草薙型を凌駕する』と豪語されているため、軍部でも期待を寄せる人が多いんです」


「ネックになっていた生産性の問題に関しても、ベトナムで魔物由来の素材が大量に手に入ったおかげで、量産の目処が立ったそうだ。もちろん『いくら高性能でも一機では意味がない』と唱える者もいるのだが、大尉が乗る御影型の例もあってか中々否定し辛いところではある」


「あー。確かに、それを言われると否定できないですね」


なにしろ、最上重工業なんてポッと出の企業が造った怪しい機体が大活躍したくらいだものな。


なら、これまで四菱重工業が培ってきた実績を信じて、彼らが造る最新鋭機の完成を優先し、量産体制を整えつつ実戦の場で量産に必要なデータを取る方が良いって意見になるのも分かる。


「世代交代を考慮すれば、これから草薙型を量産するのは資金と資材の無駄になりかねません。よって時間があるなら私も新型機か、富嶽型の製造を優先するべきだと思います」


普通に考えたらそうなるよな。

誰だってそう思う。俺だってそうだ。


「しかし、今はその『時間』がない。これが問題をややこしくしている」


それな。

全てはそこに帰結するわけか。


「どのような意見にも一長一短があるのは仕方がない。しかし現状は、その『短』が生死を分かつ状況だ。このような状況では軽々に決断できないのも無理はない。無理はないのだが……」


ボスの口調と表情からは『決断が下せないことに一定の理解は示せるものの、迷っている時間も惜しい』という気持ちが伝わってくる。


決断を下すということは、その決断の結果生じたすべてのモノに対して責任を負うということなのだと考えれば、彼らに近い立場にあるボスが、いまだに迷っている軍の上層部に対して理解を示すのもわからないではない。


ただ、それをこの場で俺に伝えてどうしようというのか。

それがわからない。


「ここからが本題になります。我々は川上大尉の意見を聞きたいのです」


「我々?」


意見を言うのは構わないが、それで派閥抗争に巻き込まれるのはゴメンだぞ。


「安心しろ。武藤が言う『我々』とは、第一師団に吸収された旧第三師団の面々と、その上役を含む派閥のことだからな」


結局派閥が絡んでいますよね?

欠片も安心できないのですが。

意見を採用されなかった方々から恨みを買うのは嫌なんですけど?


「参考として現場の意見を聞くというだけの話だ。当然大尉以外の意見も聞いているから、結果がどうあれ、大尉個人がどうこうされることはない」


「それなら、まぁ」


あくまで参照程度ってことか?

重すぎる責任を背負うのはゴメンだが、現場の意見を述べるだけなら問題ない、よな?


「ちなみに私の実家が所属している派閥の意見は『富嶽型の量産』です。これであれば直近の防衛戦にも使えますし、第三世代型の量産と競合しませんからね」


将来的な無駄を省きつつ、直近の戦いに備えることもできる案と考えれば妥当ではある。


「私もこの意見を押している。春が来るまでに我々で教導すれば、より確実性が増すだろうしな」


「ふむ」


富嶽型に近いボスならではの意見だな。


「で、大尉はどう思う?」


やや食い気味で聞いてくるボス。

部下を前にして余裕がないのはどうかと思わなくもないが、現状を鑑みればそれもむべなるかな。

この国難の時、責任のある立場の人ほど焦っているのだろう。


真剣に憂いている彼女たちに対して、ふざけた答えを返すのは不義理が過ぎるというもの。


まぁ、答えはすでに決まっているのだが。


「あくまで俺個人の意見になりますけど」


「はい」

「問題ない」


そうか、では。


「四つ目の『新型機を完成させる』ですね」


これだ。

むしろこれしかない。


俺は確信をもってそう答えるのであった。

閲覧ありがとうございました

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