29話。決戦兵器同士の最終決戦・前
『キュアァァァァァァ!!』
「ちぃっ!」
魔族相手に時間を稼ごうとしたら馬鹿みたいにデカい鳥が飛んできた。
何を言っているかわからねーと思うが、俺にもよくわかっていない。
見た感じは鷲に近いと思われる。
北欧神話ならフレースヴェルグ。
南アジアならルフ鳥ってところだろうか。
おそらく超スピードで飛んできたのだと思われるが、名前や移動方法なんてどうでもいい。
ただ、絶望的な状況をさらに悪化させるのは勘弁してもらいたい。
と言っても、魔族の判断が間違っているわけではない。
面倒な敵を確実に潰す。
その為に強力な援軍を呼ぶ。
うん。なにも間違ってはいない。
そりゃ向こうにやる気がないわけだ。
コイツが来るのを待っていたんだからな。
しかも援軍で来た魔物が【大きな鳥】というのが厭らしいところ。
「これが猪とかならまだ楽だったんだが、なっ!」
『?』
試しに一発打ち込んでみるも、すいっと避けられてしまう。
「ま、そりゃそうなるか」
その背に魔族を載せているグリフォンでさえあっさりと攻撃を回避したのだ。背中になにも載せていないが故に、より自由に空を飛び回ることができる鳥が見える銃弾を回避するのは当たり前のこと。
加えてあの大きさ。
自分の翼で風を起こすことができるなら、風の影響を強く受ける遠距離狙撃は通用しないと見ていいだろう。
「さて、どうしたもんかねっ……と」
『ジャァ!』
「当たるか!」
向こうも当然のように魔力による砲撃をしてくるが、距離が壁になるのはお互い様。
音速よりも遅いそれは、見てから回避するのも容易い。
このまま時間を稼げればいいが、そんなに甘い相手ではないだろう。
「遠距離攻撃は駄目、接近戦はこちらが苦手」
そもそも魔族が三体いるところに突っ込むのは自殺行為。
かといってこのまま距離を取って時間を稼ぐには相手が悪すぎる。
なによりあの鳥が俺を無視して第四師団の陣地に向かってしまえば、その時点で作戦が終わってしまう。
恐らく量産型による一斉射撃でもアレを倒すことはできないだろう。
それは攻撃が当たるとか当たらないとかの話ではなく、単純に火力が足りないから。
特大型は伊達ではない。ただそこに在るだけで分かる圧倒的な存在感は、その身に纏う魔力の量が桁外れに多いことをこれでもかというくらいに誇示している。
「……今この国にいる国防軍の中でアレを倒せる可能性があるとすれば、この機体だけだろうな」
自惚れでもなんでもなくそう思う。
これは確信だ。
アレを生かしておけば第四師団は全滅する。
当然教導大隊も全滅する。
なので、アレはなんとしてもここで潰さなくてはならない。
「その後の魔族は……中佐になんとかしてもらおう」
流石にあの鳥を前に余力がどうとか言える余裕はない。
というか、これまでの歴史の中で人類が特大型を斃した例は存在しない。
そんな相手を目の当たりにして、余裕があると考える方がおかしい。
「今まで稼いだ時間は二〇分ってところか。ま、これだけ稼げば問題はないだろう」
大型を始めとした敵の打撃戦力のほとんどをここに足止めできている以上、時間を稼げば稼ぐだけ向こうが有利になる。しかも中佐たちまで送ったんだ。今頃は防衛陣地と中佐たちによる挟み撃ちに成功しているはず。
で、向こうの戦闘が終わればここにいる魔族も大人しく引き下がる。
「と、いいなぁ」
希望的観測もいいところだが、それしか生き残る可能性が無いというならそれに縋るしかない。
そのためにも……。
「特大型を斃す。そして生きて帰る。我ながら随分と欲張りなことだが、両方やってみせるさ」
魔族どもめ。鳥を召喚したくらいで勝ったと思ったか?
俺の生き汚さを舐めるなよ!
……なんて思っていたんだが。
『キュアァァァァ!!』
魔力砲撃では埒が明かないと判断したのか、なんと特大型が向こうから突っ込んで来てくれた。
ピンチと思うかもしれないが、今回に限っては逆だ。
「わざわざ魔族と離れてくれるなんてなぁ!」
これで戦いやすくなるってもんよ。
実のところ魔族が一緒に接近していたら困ることになっていたのだが、今のところ向こうに動く気配がない。
俺程度であれば特大型だけでも十分斃せると判断したのか、それとも乗り物であるグリフォンが戦闘に巻き込まれたら持たないと判断したのかは知らないが、連中が動かないなら好都合!
これまでの動きで判明している鳥の攻撃パターンは二つ。
『キュァ!!』
攻撃パターンその一、口から魔力砲撃。
威力は不明。着弾した地面の抉れ具合からこちらの主砲よりも威力は高いだろうと思われる。
速度は音速かそれよりも少し足りない程度。
つまり三四〇メートル離れていれば、攻撃から着弾まで一秒以上の猶予があるので回避は難しくない。
さらに攻撃後二秒近い硬直時間がある。
『ジャ!』
攻撃パターンその二、翼から魔力砲撃。
速度は口からのそれとほぼ同じだが、口からの砲撃が一発集中型なのに対し、翼からは散弾のように降り注いでくるため近距離での回避は難しい。
ただし一発の威力が軽い――地面の抉れ具合を確認した後でわざと盾で受けてみたから間違いない――ので、当たる攻撃だけを見極めてしっかり防げばそれほどダメージは受けなくて済む。
また、この攻撃にも二秒近い硬直時間がある。
「これなら……」
こちらの最大火力である一二〇㎜滑腔砲の初速はマッハ二。
秒速にして約六八〇メートル。
接近した上で二秒も硬直時間があれば十分ブチ当てることができる。
問題は反撃できる距離で交戦した場合にこっちの機体が持つかどうかと、こちらの攻撃が当たったところで通じるかどうかが不明なこと。
あとは向こうがまだ見ぬ攻撃方法を隠していることも考慮しなくてはならないのだが、これに関しては見当がついている。
なにせ敵は【鳥】なのだ。
異常にデカいが、猛禽類の形を模している鳥であることに違いはない。
ならば猛禽類本来の攻撃方法である嘴と爪による攻撃も留意すべきだろう。
つまり敵の攻撃パターンは遠距離に於ける嘴と翼からの魔力砲撃と、間合いを詰めてからの嘴や爪による攻撃があると考えるべき。
「デカい図体は飾りじゃないな。遠距離も近距離も網羅しているとか、面倒この上ない……ん? いや、まて。そうか、爪か」
獲物の肉を抉り、掴むことに特化した鋭い爪。
武器として見ればたしかに脅威だ。
「しかし、だからこそ利用できる」
俺の予想が正しければ、あの鳥はここで落とせる。
最低でも大きなダメージを与えることができるはずだ。
ただし、それをやれば時間稼ぎができなくなる。
あと、鳥を潰された魔族がどう動くかわからん。
「生き延びるためにはそこそこ時間を稼いでおきたいんだが、流石に贅沢か」
『キュアァァァァ!!!』
一キロと少しの距離まで接近してきた鳥による魔力砲撃を回避しつつ滑腔砲にて反撃を行うも、胴体を狙った攻撃は翼から生じた風に邪魔をされて、横に逸らされた。
一キロ程度の距離にいるなら硬直時間内に当たりそうなものだが、高度の関係もあってかもう少し近付かないと砲撃は当たらないと考えた方が良さそうだ。
しかし、これ以上近付くとこっちの回避が間に合わなくなる可能性も高くなる。
だが、攻撃を当てない事には事態は好転しない。
近付くか離れるか。
できることなら熟考したいところだが、そんな時間はない。
なにせここはお互いが命を賭けて戦う戦場なのだから。
『ギュゥォォォォォ!!』
いつまでも獲物を狩れないことに焦れたのか、向こうが更に距離を詰めてきた。
彼我の距離はもう五〇〇メートルもない。
機体同士の戦いならまだ中距離だが、空を飛ぶ鳥と狙撃手にとっては指呼の間。
「迷っている暇はなさそうだな!」
一か八かの賭けに出なければならないときがきたようだ。
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