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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
孤児院に慰問に行ったけど不思議な出来事に遭遇した話
65/82

65.慈善活動も務めですから

 慈善活動も貴族王族の務め。スクライブ伯爵家の令嬢だった時も何度か足を運んで、子供たちのお世話を手伝ったことがあった。


 今日、訪れたのは今回初めて行く施設。


 王妃になるとどうしても慰問という形になる……のだけど職員にお願いして少しだけ、子供たちとふれあわせてもらえるようになった。


 王都の郊外にある孤児院で、私は半日だけ「先生」ね。

 このあと、週末の夜会の打ち合わせをアリアとするから、王宮に戻らなきゃいけないし。時間は限られているわ。


 勉強部屋も兼ねた食堂で、私は十一人の子供たちの相手をする。まだ十歳にも満たない。男の子が六人で女の子が五人。


 食事の時に囲む大きなテーブルに向かい合って子供たちが座って並ぶ。


 最初に私が焼いたガトーデロワを振る舞った。


「おいしい!」「すごい!」「こんなの初めて!」


 みんな目を輝かせて食べてくれて一安心。ちゃんと上手に焼けたみたい。ガトーデロワを入れてきたバスケットは無事、空っぽになった。


 それから――


 子供たちは読み書きがまだまだ苦手みたい。なので、私は文字や言葉を教えた。


 寄付した紙とペンで子供たちは何度も練習して、最後にそれぞれ自分の名前をきちんと書けるようになった。


「いつかみんなも、お手紙を自分の力で書けるようになるといいわね」


 子供たちはみんなそわそわ。緊張してるのかしら。


「じゃあ、ちゃんと自分のお名前が書けたかどうか確認しましょう」


 私は順番に回って紙に清書した名前を見る。馴れないペンと格闘しつつも、なんとか書けたっぽいわね。


「アレン」「ボブ」「カミラ」「デイジー」「エマ」「フレッド」「グレン」「ヒラリー」「イリス」「ジャック」「キール」


 うん、大丈夫そう。それぞれの名前もなんとか覚えられそう。


 見た目がほとんど変わらないし、みんな同じ名前のルリハたちと比べたら、簡単……とまではいわないけれど。


 そもそもルリハたちは見分け聞き分けできてないのよね。時々、個性的な子がいるけれど。


 なんて思っていると、気弱そうな女の子――イリスがそっと手を上げた。


「あ、あの王妃様……」

「今日はみんなの先生よ。そんなにかしこまらなくてもいいんだから」

「じゃ、じゃあ……キッテ先生。あのあの、お、お話……してください」

「お話? どういったものがいいかしら?」

「かわいいのとか、楽しいのとか」


 イリスが言うと男の子たちから「俺、冒険の話がいい!」「かっこいいやつ!」とリクエスト。グレンとジャックね。


 急にそんなことをお願いされても……面白いお話なんて。と、思ったけれど、私がお母さんになったら、いつかしてあげることになるのだし、うん。何事も練習よね。


 今日はみんな名前を書くのをがんばったのだもの。私も負けてはいられないわ。


 とはいえ、さて、困ったわね。


 何かないかと窓の外に目を向けると、孤児院の中庭にある大きな木の枝にルリハたちが羽毛玉になって鈴なりだった。


 みんな心配で着いてきちゃったのね。


 そうだわ。


「じゃあ、不思議な青い鳥の冒険のお話をしてあげましょう」


 私はルリハたちの活躍を、やんわりと固有名詞を伏せたり変えたり筋書きに手を加えながら、子供にもわかるように噛み砕いて話してあげた。


 謎のコウモリ男との対決。不思議で優しい黒い猫。町一番のパン屋さんの秘密のレシピ。盗まれた王宮の青い宝石の行方。一目見ただけでなんでも描いてしまう絵描きの噂。事件があると必ず現れる迷惑な名探偵……などなど。


 脚色たっぷり盛り盛りにして原型なんて留めてないけど、男の子も女の子も格好いいとか可愛いとか、お話を気に入ってくれたみたい。


 一人だけ、表情を変えない不思議な子がいたけど。


 顔が青白くて他の子たちとちょっと違っていた。


 名前は確かキールだったかしら。私と同じ「キ」で始まる名前ね。


「貴男はどんなお話がいいかしら?」

「……」


 キールは黙ったままだった。ちょっと気難しい子なのかも。

 他の子たちがそわそわしてる。


 と、活発そうなリーダーっぽい男の子――アレンが手を上げた。


「キッテ先生! 遊んで遊んで!」


 他の子たちも「それいい!」「なにする?」「どうしよ」と、うずうずし始めた。


「じゃあ、そうね。みんなやりたいことはあるかしら?」


 はいはいはーい! と、元気にいくつもの手が上がる。さっきのお話でバッチリ心を掴めたみたい。


 ちょうど紙とペンと空になったバスケットがあるし。これならくじ引きができるかも。


「今日のお勉強の成果として、みんな私に何をやりたいか文字で書いてみてちょうだい。スペルミスしたら、ちゃんと正しい言葉を教えてあげるから。失敗なんて気にしなくていいのよ」


 子供たちはうんと頷くと、やりたいことを紙に書いていった。


「絵を描く」「おままごと」「ボール遊び」「ダンス」「筋トレ」「クイズ」「歌」「リレー競争」「宝探し」「影絵」「鬼ごっこ」「かくれんぼ」


 綺麗な文字から崩れた文字まで、ちゃんと書けているものからスペルミスで解読が必要なものまでずらり。


 ええと……「筋トレ」って何かしら? 遊びに入るの? これ?


 ちょっと太っちょな男の子――ボブが私をじっと見る。


「先生どうやって決めるんすか?」

「うふふ。ちゃんと平等に決めるわよ」


 紙を折って空のバスケットに入れると、シャッフルして私はその中から一枚を選ぶ。


「今日、みんなで遊ぶのは……これにしましょう!」


 抜き出した紙を開いて見る。


「はい、皆さん。公平なくじ引きの結果……今日は『かくれんぼ』に決まりました」


 すると、子供たちがお互いの顔を見合わせて、なんだかびっくりしてるみたい。


 小柄でメガネの男の子……フレッドが言う。


「先生……かくれんぼですか?」

「ええ、みんなルールはわかるかしら?」

「だ、大丈夫です。いつもやってるし。あの、鬼は誰がやるんですか?」

「だったらこれもくじ引きで決めましょ」


 私は紙の一枚に星マークを書くと、他は白紙にして折ってバスケットに入れた。


「はいじゃあ、みんな順番に目を閉じて一枚ずつ引いてね。星のマークを引いた人が鬼よ」


 子供たちがバスケットを囲み、一人ずつくじを引く。


 ベリーショートヘアの女の子――カミラがくじの紙を開いて口を尖らせる。


「ちぇ! 鬼になって全員とっつかまえてやりたかったのに。で、誰が鬼!?」


 すると子供たちはみんな首を左右に振った。


 みるとバスケットの中に一枚、くじが残っている。あれ? 何枚くじを作ったのかしら。


 色白で無口なキールがボソリと呟いた。


「……先生も参加してよ」


 抑揚が無くてちょっと怖い感じね。けど、言われてみればそうじゃない。


 私が参加しなかったら、孤児院でいつも行われている普通のかくれんぼだものね。


 残っていたくじを引く。開くと星のマークが描かれていた。


「私が鬼ね! ふふふ……あははは! みんなを捕まえて食べちゃうわよ!」


「きゃー!」「こわーい!」「にげろー!」


 悪い魔女っぽく言ってみたら、みんなノリが良いみたいで蜘蛛の子を散らすように孤児院のどこかへと逃げていった。


 十一人、見つけるのはちょっと骨が折れるかも。


 と、思ったところで食堂に老執事が現れた。


「王妃様、時間の方が迫っております」

「大丈夫よ。十一人、ちゃんと全員見つけるから」

「ええと……はい。ですが……」


 心配性ね。私って子供の頃はかくれんぼの鬼と呼ばれていたのよ。鬼っていうとちょっとややこしいけど、キッテが隠れたら誰にも見つけられないっていう、達人だったのだから。


 隠れるのが得意ということは、どこに誰が隠れるかを想像するのも簡単って話。


 老執事は「では、お時間になりましたらお知らせいたします」と、会釈して部屋を出た。


 それにしても十一人かぁ。顔と名前と雰囲気でなんとなく掴んでいるけど、ちゃんと見つけて名前を呼んで捕まることができるかしら?


 まだ、どういう性格かわからない子もいるし……ええい、迷っていても仕方ないわ!


「そろそろいいかしらー!?」


 私が大きな声で呼びかけると、どこからか「もういいよ~」の声が返ってきた。

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[一言] 「キッテ様あそこ!」 それはズルだから
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