41.恐ろしい事件もついに終幕の時ですね
私は立ち上がると駆け寄った。みんなが見ていなければ抱きしめているところね。
「へ、陛下……記憶喪失になどなっていませんか? 私がわかりますか?」
「ああ、泣かないでキッテ。僕は大丈夫さ。魔法医が言うには、軽い打撲だそうだよ」
「良かった……本当に」
「ところで盛り上がっているようだね。いったい何があったのかな?」
主賓席に戻るレイモンドについていくと。
「あれ? 徽章が……二つ? そっくりだけど、ああ、こっちが本物か」
陛下は迷うことなく本物のブルーダイヤ徽章を手に取り、胸に着け直した。
「それで、この本物そっくりな徽章はいったいなんなんだいキッテ?」
瞬間――
名工スミスはその場に膝をつくと「私の負けです……陛下」と力なく呟いた。
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今度こそ事件の霧は綺麗に晴れて、澄み切った真実だけが残った。
スミスは犯行を認めた。
概ね、シャーロットの推理した通り。
ブルーダイヤの魔性に心を奪われたスミスは、どうしても手元に置きたくなったという。
ジョエルのような宝石マニアならともかく、レイモンドには違いがわからないだろうと思っていたのだとか。
わからないなら本物と見まごうばかりの贋作を。
そして魔性の石を自分のものとする。陛下にさえ気づかれなければいい。こうしてお披露目の席で、陛下の胸には本物のブルーダイヤ徽章が輝いていると、一度見せつけることができれば十分だろう。
そうなるはずだった。ジョエル伯爵さえいなければ。
なのに――
陛下は二つの徽章を一目見ただけで、迷うことなくどちらが本物かを見抜いてしまった。
遅かれ早かれ、気づかれると察したスミスはすべての罪を認めたのね。
あとで陛下に訊いたけど「うーん、なんとなくこっちだと思ったんだ。母の導きかもしれないね」ですって。
形見のブルーダイヤはちゃんと、母子を繋いでいたみたい。
スミスは王家を騙そうとした罪で処されることになった。彼は弁明しなかった。
あとでルリハから聞いた話。推薦したルリハの一羽は「羽をむしってお詫びする」って、ちょっと自暴自棄になってしまった。
これまでスミスは一度たりとも罪を犯さず、清廉潔白な人物だったみたい。何かあればルリハも彼は推薦しなかった……って。
魔性のブルーダイヤを加工するうちに、心を奪われてしまったみたい。
それもスミスは認めて、推薦した私にはなんの咎もないと証言した。
減刑を望んだというよりも、正気に戻って自分の行いを恥じた……という印象だった。
技術と才能を失うことは王国にとって損失だけど、仕方ないことね。
そして――
ジョエル伯爵のゴルドウィン家はお取り潰し。国王陛下を襲ったことは、許されるものじゃない。
最近、伯爵家が次々と不祥事を起こしているのは頭痛の種かも。
ルリハたちが曝いてしまうから? そう……かもしれないわね。
こうして、人の心を奪う魔性のダイヤは多くの悲劇を生んでしまった。
レイモンドが心配だけど、彼ったら真顔で私に言うの。
「僕の心はもう君に奪われてしまったからね」
は、恥ずかしい。けど、嬉しかった。
他の人間の手に渡らないよう、ブルーダイヤ徽章はそれきり国庫に封印された。
時間を遡って事件後の夜――
夜会の客を帰らせたあとも、会場に赤い花が一輪残った。
シャーロットが私に一礼する。
「今宵はわたし自身の未熟さを思い知りました。異国にていくつか事件を解決したと、得意げになっていたのがお恥ずかしい限りです」
「あら? 急に……ええと、今夜はありがとうシャーロットさん。あなたの推理のおかげよ」
「およしになってください。恥ずかしくて顔から火が出てしまいます。真に事件を解決されたのは王妃様。会場の誰もがわたしの功績と思っていますが、称賛されるべきはキッテ王妃様です」
「……どうかしら」
本当にすごいのはルリハたちなのよね。私はただ、事実を聞いて伝えただけ。
シャーロットは不思議そうに私を見つめた。
「なぜ、わたしに推理をさせたのですか? 王妃様がスミスの悪事を曝いてもよかったのに……」
「貴女のようにはできなかったわ。それに……あまり目立ちたくはないの。疲れてしまうから」
「そ、そう……ですか」
「だからねシャーロットさん。また何か事件があった時には、私に代わって探偵をしてくれると助かるわね」
「お、お任せください王妃様。微力を尽くします」
ふぅ……と、心の中で息を吐く。ちょっと……ううん、かなり心配だけど彼女を敵に回すとやっかいそうだから、味方にしてしまいましょう。
シャーロットが……突然、虚空に指先で殴り書きをした。
その手がぴたりと止まる。
「ところで王妃様。どうやってあの着想を得たのですか?」
「え? 着想って?」
「徽章が本物と偽物、二つあるという仮定です。どこかにヒントがあったとは思えないんです」
とてもじゃないけどルリハたちに教えてもらったから……なんて言えない。
彼女は一歩、近づいた。
「他にも気になることがいくつかあります! まるで……最初からスミスが犯人だとわかっていたみたいな……」
私は氷の仮面を外すと微笑み返す。
「いいかしらシャーロットさん」
「は、はい、王妃様」
「女はね……度胸よ」
うん、もう半ばどうにかなれというか、どうにでもなれというか。他にごまかしようがなかった。
赤い狂犬がきょとん顔になる。
「ど、度胸ですか?」
「とりあえず思いついたことを口にしてしまっただけよ」
「や、やっぱり度胸が大事ですよね! まずやってみること! 飛び込んでみること! ああ! そうですよね王妃様! これからもわたし、精進いたします!」
シャーロットは瞳をキラキラ輝かせる。
なんだろう。
もしかしたら、彼女の暴走癖を後押ししてしまったかも。
おかげで私への疑いの眼差しは、綺麗さっぱり消えて、むしろ尊敬までされちゃったみたいだけど。
……うん。
これからはルリハたちにシャーロット係を作ってもらわないと。
監視……じゃなくて、彼女の様子を定期的に見てもらった方がいいかもしれないわね。
こうして――
青い魔性の宝石を巡る事件はなんとか、幕を閉じたのでした。




