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聞き上手のキッテ様【連載版】  作者: 原雷火
青い宝石をめぐる事件簿のお話
41/82

41.恐ろしい事件もついに終幕の時ですね

 私は立ち上がると駆け寄った。みんなが見ていなければ抱きしめているところね。


「へ、陛下……記憶喪失になどなっていませんか? 私がわかりますか?」

「ああ、泣かないでキッテ。僕は大丈夫さ。魔法医が言うには、軽い打撲だそうだよ」

「良かった……本当に」

「ところで盛り上がっているようだね。いったい何があったのかな?」


 主賓席に戻るレイモンドについていくと。


「あれ? 徽章が……二つ? そっくりだけど、ああ、こっちが本物か」


 陛下は迷うことなく本物のブルーダイヤ徽章を手に取り、胸に着け直した。


「それで、この本物そっくりな徽章はいったいなんなんだいキッテ?」


 瞬間――


 名工スミスはその場に膝をつくと「私の負けです……陛下」と力なく呟いた。



 今度こそ事件の霧は綺麗に晴れて、澄み切った真実だけが残った。


 スミスは犯行を認めた。


 おおむね、シャーロットの推理した通り。


 ブルーダイヤの魔性に心を奪われたスミスは、どうしても手元に置きたくなったという。


 ジョエルのような宝石マニアならともかく、レイモンドには違いがわからないだろうと思っていたのだとか。


 わからないなら本物と見まごうばかりの贋作を。


 そして魔性の石を自分のものとする。陛下にさえ気づかれなければいい。こうしてお披露目の席で、陛下の胸には本物のブルーダイヤ徽章が輝いていると、一度見せつけることができれば十分だろう。


 そうなるはずだった。ジョエル伯爵さえいなければ。


 なのに――


 陛下は二つの徽章を一目見ただけで、迷うことなくどちらが本物かを見抜いてしまった。


 遅かれ早かれ、気づかれると察したスミスはすべての罪を認めたのね。


 あとで陛下に訊いたけど「うーん、なんとなくこっちだと思ったんだ。母の導きかもしれないね」ですって。


 形見のブルーダイヤはちゃんと、母子を繋いでいたみたい。


 スミスは王家を騙そうとした罪で処されることになった。彼は弁明しなかった。


 あとでルリハから聞いた話。推薦したルリハの一羽は「羽をむしってお詫びする」って、ちょっと自暴自棄になってしまった。

 これまでスミスは一度たりとも罪を犯さず、清廉潔白な人物だったみたい。何かあればルリハも彼は推薦しなかった……って。


 魔性のブルーダイヤを加工するうちに、心を奪われてしまったみたい。


 それもスミスは認めて、推薦した私にはなんの咎もないと証言した。


 減刑を望んだというよりも、正気に戻って自分の行いを恥じた……という印象だった。


 技術と才能を失うことは王国にとって損失だけど、仕方ないことね。


 そして――


 ジョエル伯爵のゴルドウィン家はお取り潰し。国王陛下を襲ったことは、許されるものじゃない。


 最近、伯爵家が次々と不祥事を起こしているのは頭痛の種かも。

 ルリハたちが曝いてしまうから? そう……かもしれないわね。


 こうして、人の心を奪う魔性のダイヤは多くの悲劇を生んでしまった。


 レイモンドが心配だけど、彼ったら真顔で私に言うの。


「僕の心はもう君に奪われてしまったからね」


 は、恥ずかしい。けど、嬉しかった。


 他の人間の手に渡らないよう、ブルーダイヤ徽章はそれきり国庫に封印された。


 時間をさかのぼって事件後の夜――


 夜会の客を帰らせたあとも、会場に赤い花が一輪残った。


 シャーロットが私に一礼カーテシーする。


「今宵はわたし自身の未熟さを思い知りました。異国にていくつか事件を解決したと、得意げになっていたのがお恥ずかしい限りです」

「あら? 急に……ええと、今夜はありがとうシャーロットさん。あなたの推理のおかげよ」

「およしになってください。恥ずかしくて顔から火が出てしまいます。真に事件を解決されたのは王妃様。会場の誰もがわたしの功績と思っていますが、称賛されるべきはキッテ王妃様です」

「……どうかしら」


 本当にすごいのはルリハたちなのよね。私はただ、事実を聞いて伝えただけ。


 シャーロットは不思議そうに私を見つめた。


「なぜ、わたしに推理をさせたのですか? 王妃様がスミスの悪事を曝いてもよかったのに……」

「貴女のようにはできなかったわ。それに……あまり目立ちたくはないの。疲れてしまうから」

「そ、そう……ですか」

「だからねシャーロットさん。また何か事件があった時には、私に代わって探偵をしてくれると助かるわね」

「お、お任せください王妃様。微力を尽くします」


 ふぅ……と、心の中で息を吐く。ちょっと……ううん、かなり心配だけど彼女を敵に回すとやっかいそうだから、味方にしてしまいましょう。


 シャーロットが……突然、虚空に指先で殴り書きをした。

 その手がぴたりと止まる。


「ところで王妃様。どうやってあの着想を得たのですか?」

「え? 着想って?」

「徽章が本物と偽物、二つあるという仮定です。どこかにヒントがあったとは思えないんです」


 とてもじゃないけどルリハたちに教えてもらったから……なんて言えない。


 彼女は一歩、近づいた。


「他にも気になることがいくつかあります! まるで……最初からスミスが犯人だとわかっていたみたいな……」


 私は氷の仮面を外すと微笑み返す。


「いいかしらシャーロットさん」

「は、はい、王妃様」

「女はね……度胸よ」


 うん、もう半ばどうにかなれというか、どうにでもなれというか。他にごまかしようがなかった。


 赤い狂犬がきょとん顔になる。


「ど、度胸ですか?」

「とりあえず思いついたことを口にしてしまっただけよ」

「や、やっぱり度胸が大事ですよね! まずやってみること! 飛び込んでみること! ああ! そうですよね王妃様! これからもわたし、精進いたします!」


 シャーロットは瞳をキラキラ輝かせる。

 なんだろう。


 もしかしたら、彼女の暴走癖を後押ししてしまったかも。


 おかげで私への疑いの眼差しは、綺麗さっぱり消えて、むしろ尊敬までされちゃったみたいだけど。


 ……うん。


 これからはルリハたちにシャーロット係を作ってもらわないと。

 監視……じゃなくて、彼女の様子を定期的に見てもらった方がいいかもしれないわね。


 こうして――


 青い魔性の宝石を巡る事件はなんとか、幕を閉じたのでした。

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― 新着の感想 ―
虚空に何か書く仕草、知人がしてたの思い出しました。スマホも携帯もない昔のことですが…シャーロット口が回るし眼の前で思考の演算しているんでしょうね。
[良い点] キッテ様は大胆に分かりやすい何か分からないが秘密があると言うのが近くに居ればすぐ分かっちゃうので、キッテ様の近くに居れる人は分かりやすい秘密に気づかない鈍感、秘密があろうとキッテ様なら大丈…
[気になる点] 一度貴族達の綱紀粛清のためにルリハに活躍してもらった方がい「燃やす?」燃や…さない? [一言] そういや「王都炎上」から始まる物語が(全然関係ない)
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