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溺愛されすぎ公爵夫人の日常。強力な権力とコネを使って人の役に立とうと思います!  作者: 橘ハルシ
最終章 公爵夫妻の宝物

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77/98

6−13

※リーンハルト視点

 

 

 一番扉の近くにいた騎士がヘンリックに目で確認してから大きく引き開けた途端、ざわめきの元が飛び込んできた。

 

 「リーン!聞いて!私のお腹に赤ちゃんがいるんですって!」

 

 きらっきらの笑顔でそう叫んで、真っ直ぐ僕のところに飛び込んできた妻を反射で抱きしめ、慌ててお腹の辺りに空間をあける。

 ・・・つぶしてないよね?

 

 エミーリアは興奮していて、僕の腕の中でぴょんぴょん跳ねながら話し続けている。

 ・・・怖いから跳ねないで!

 

 「ゾフィー先生に言われて、私、びっくりしちゃって。貴方へ報告する使者が行ったって聞いたんだけど、やっぱり自分で言いたくなって来ちゃった。」

 

 「コケたら危ないから走らないでくださいと申し上げたのに、全く言うことを聞いてくださらず、城内を爆走しないでくださいよ!」

 

 続けてミアと普段は城内まで供はしないはずのスヴェンまで飛び込んできた。

 

 「デニスは?」

 「俺の分も合わせて馬を預けに行ってます。奥様が馬車から飛び降りて先触れもなく、一直線に走っていってしまったので、二手に別れました・・・。」

 

 一人足りないと尋ねれば、疲れ切った表情でスヴェンが答えた。その横でミアがぜーぜー息をしている。

 僕はなんだか申し訳ない気持ちになった。

 

 「エミーリア、興奮し過ぎだよ。ちょっと落ち着いて、ほら水飲んで。」

 「リーンは落ち着いているのね。嬉しくないの?」

 「まさか!嬉しくてたまらないよ!でも、君があまりにも跳ねるから心配の方が勝ってるだけだよ。」

 「ゾフィー先生は普通に生活して大丈夫って言ってくれたわよ。」

 「跳ねるのは普通、なのかな・・・?」

 

 話しながらヘンリックが差し出してくれた水の入ったコップを渡せば彼女は一気に飲んだ。

 

 スヴェンもミアも最初に伝言を運んできた騎士も飲んでいる。

 

 給水所と化した執務室を見回していたら、開きっぱなしの扉からたくさんの顔が覗いていることに気がついた。

 

 「エミーリア、君が城内を先触れ無しで走って来たものだから、皆何事かと驚いているよ。」

 「あ、ごめんなさい。・・・えーっと、何でもないの、よね?」

 

 振り向いて廊下からこの騒ぎを窺っている人々に小さく手を振りながら、彼女が僕に確認してきた。

 

 エミーリアはこれだけ大事にしておいて『何でもない』で済むと思っているのだろうか?

 

 大体、あれだけの音量で叫べば、ここに居る殆どの人に聞こえていると思うのだけど。

 皆、僕達がきちんと報告するまで遠慮しているだけだよ、多分。

 

 「確かに他の人達にとっては『何でもない』ことだけど、僕達、ハーフェルト公爵家としては物凄く重要なことだよね?」

 

 だからね、と妻を大事にそっと抱き上げて廊下へ出る。彼女は僕が何をしようとしているか分からず、きょとんとしている。

 

 僕が歩を進めると同時に扉付近に作られていた人垣が広がって空間ができた。

 その場所に立ち止まった僕は使い慣れた王子様スマイルを作る。

 

 「お騒がせして申し訳ない。私達にやっと子供が授かったものだから、妻は嬉しくてつい走ってきてしまったんだ。それだけだから、」

 

 気にせず仕事に戻って欲しい、と続けようとした途端、周囲から割れんばかりの拍手と歓声が上がった。

 口々祝福の言葉が投げかけられ、もう誰がどこで何を言っているのか全くわからない。

 

 そのあまりの音量にエミーリアは驚いて僕にしがみつき、僕も彼女を強く抱きしめた。

 

 「これは、一体なんの騒ぎだ?」

 「あらまあ、エミーリア。いつの間にきてたの?」

 

 そこへ僕の両親である国王夫妻まで現れた。

 

 それを認めた途端、エミーリアはぱっと僕の腕から降り、彼等の前に行くと綺麗に礼をした。

 

 「お久しぶりです、お義父様、お義母様。私がうっかり城内を走ってしまい、このような騒ぎになってしまいました。申し訳ございません。」

 

 僕も彼女の横に並んで腰を折りつつ、一言付け加えた。

 

 「彼女を叱らないでください。僕達に待望の子供が出来たのが分かったんです。」

 「おお!」

 「まああ!エミーリア、やったわね!」

 

 それを聞いた父も母も目を輝かせた。母なんて扇を放り出しエミーリアの手を握って大喜びしている。

 

 「おーい、エミーリアが妊娠したって本当か?!」

 「エミーリア、おめでとう!」

 

 どこから聞きつけたのか、兄と義姉まで走ってきた。

 

 僕達に子供が出来たというだけで、城内は大騒ぎになってしまった。

 

 こんなことなら、診察を明日にして僕が同席すればよかったかも・・・。

 

 ■■

 

 「皆があんなに喜んで祝ってくれるとは思わなかったわね。」

 「うん。ちょっと騒ぎすぎな気もしたけどね、特に母上。」

 

 結局あの後は仕事にならず、噂を聞きつけて祝いを述べに来る人々の相手で一日が終わった。

 

 しかも、合間合間に母がエミーリアのところにきては、妊婦の心得だの、体に良い食べ物リストだの、育児書だの持ち込んできて、終いには赤ちゃんの服まで注文しようとし始め、さすがに早過ぎると皆で必死に止めさせた。

 

 そして今日は泊まっていってという母の強い誘いを慣れないベッドだとエミーリアが疲れてしまうからと断り、なんとか屋敷に戻ってきた。

 

 屋敷の皆も大喜びで迎えてくれて、その日は全員でごちそうを囲んで祝った。

 エミーリアは終始嬉しそうにはしゃいでいて、僕は彼女のお腹を見ながらはらはらしていた。

 

 そして僕はやっと絨毯が変えられていた理由を理解した。

 ロッテ達、彼女の妊娠に気づいていたのに黙っていたな。

 ・・・気持ちはわかるけど僕にだけでも、先に教えてくれたら良かったのに。

 

 きっと違っていた場合に僕が受けるショックを鑑みてくれたのだろうけど、やっぱり知っておきたかった。

 そうすればこんな騒ぎにせず、ゆっくりと彼女と喜べたかもしれないのに。でもまあ、今日一日でほぼ全てに報告が済んだと思えばこれで良かったのかもね。

 

 

 もう後は寝るだけとなっても、エミーリアの興奮は収まらないようで、子供がいる未来を楽しそうに話している。

 

 僕は彼女の紡ぐ幸せなお話を聞きながら、時々彼女のお腹に目をやっていた。

 

 それに気づいた彼女がふっと口をつぐんで僕の手を取ると、自分のお腹に当てた。

 

 「まだ全然分からないけれど、ここに私達の子供がいるのね。」

 

 今まで何度も触れてきたけれど、こんなに緊張するのは彼女に初めて触れた時以来だ。ドキドキが止まらない。

 

 「赤ちゃん、貴方のお父様ですよー。」

 「エ、エミィ?!」

 「リーンが真っ赤になるなんて、珍しいわね。」

 

 突然『お父様』なんて呼ばれた僕は動転した。言った妻は面白がっているけれども。

 

 「何だろう、頭の中では何度も思い描いたことなのに、いざ現実になるとどうしていいのか分からないよ。」

 

 正直な気持ちを述べれば、妻は僕を抱きしめてきた。素直にそれに従ってそのまま僕もお腹を潰さないように気を遣いつつ、そっと彼女の背に空いている片腕を回す。

 

 「私もよ。リーン、この子が生まれて来るまでまだ時間があるわ。二人、いえ三人でゆっくり親子になっていきましょ?」

 「そうだね。遅くなったけど、エミィ、僕を父にしてくれてありがとう。これから君は大変な思いをしてこの子をお腹で育ててくれるんだよね。僕は君達を全力で守るよ。」

 

 「私だって貴方にありがとうを言わなくちゃ。リーン、私を母にしてくれてありがとう!私も貴方と一緒にこの子を守るわ!私、なんだかとっても強くなれそう。」

 

 彼女は嬉しそうに笑ってお腹に当てている僕の手の上に自分の手を重ねた。

 

 まだまだ膨らんだり動いたりしてないけれど、ここに守るべき小さな命があると思うと、僕も今まで以上に強くなれそうだと思った。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


ここで本編は終了です。後四話さらに蛇足で閑話が続きます!

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