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溺愛されすぎ公爵夫人の日常。強力な権力とコネを使って人の役に立とうと思います!  作者: 橘ハルシ
第五章 公爵夫妻、デートする。

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5−5

※エミーリア視点

 

 

 「じゃあ、僕は何時でも真夜中でも大手を振って、ここに帰って来ていいってことで、これは終わり。当然、君のわがままの数には入れないよ。妻から言われた嬉しすぎる可愛いお願いごとに数えておくね。」

 

 何それ・・・。今いくつまで数えられているのか、聞くのが怖すぎる。

 

 「はいはい、君のわがままは未だゼロだよ。僕に気を遣わず、言いたいことを言っていいのに。もう一つはどんなの?」

 

 とても楽しそうなリーンに後押しされて口を開く。

 ・・・これもわがままじゃないって言われたらどうしよう。

 

 私は身体ごと彼の方へ向き直った。

 温かかった背中が急速に冷えていく。ふるっと震えたら直ぐに掛布団で包まれた。変な体勢だな、と笑えてきた。

 

 「ふふっ。あと一つはね、今度のデートの時に、待ち合わせをしたいの!」

 「待ち合わせ・・・?」

 「そう。別々の所から出て、時間と場所を決めて会うの。」

 

 鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で聞き返してきた彼に説明する。

 

 もちろん交わす会話については黙っておく。わかってて言うなんて、面白くないんだもの。

 あくまで自然に『ううん、今来たとこ。』って言いたい。

 

 「それって・・・」

 

 待ち合わせの内容を聞いて呟いた彼の顔が、何かを思い出したように顰められた。

 彼も学生時代のあれを思い出したらしい。

 

 「まさかとは思うけど、他の男を連れてきたりしないよね・・・?」

 

 今更そんなことを疑われるとは思わなかったので、苦笑する。

 国中に私が夫に愛されていることが周知されているというのに、どこの男性が私ときてくれるというのよ。

 大体、私はリーンに勝てる男性を見たことがないし。

 

 だけど日頃、散々からかわれているお返しにちょっとだけ意地悪することにした。

 

 満面の笑顔を浮かべ、指を二本立てて彼の前に突き出す。

 

 「もちろん、連れて行くわ。とっても頼りになる素敵な男性を二人。」

 「え・・・」

 

 彼の顔が一瞬真っ青になって、直ぐに笑顔に戻る。

 

 「そうだね、デニスとスヴェンは連れてきてもらわないと困るね。」

 

 あーあ、あっという間にバレちゃった。

 私が面白くなさそうな顔をしたのを見て、彼は困ったような顔つきになる。

 

 「エミィは僕を騙せないよ。だって君は素直で優し過ぎる。今だって僕がすぐに気がついてショックが少なくて済むような話し方をしただろ?」

 「貴方を傷つけるのは嫌なんだもの。」

 「ありがとう。本当に君が僕の妻でよかった。ずっと愛してるよ、エミィ。」

 

 話している内にいつの間にか私達は布団の中に入っていて、リーンの顔が直ぐ上にある。

 

 あら?これは、どうも話が続けられそうにないわ・・・。

 

 「リーン、待ち合わせはダメなの?」

 

 聞けるうちに答えを聞いておこうと直球を投げつける。

 キスしようとしていた彼がぐっと止まった。

 

 「・・・いや、駄目ではないよ。うん、じゃあ、明後日の午後なら空けられるから、デートしよう。待ち合わせ場所はエルベの広場でいいかな?」

 

 そこで私は閃いた。よし、わがままを炸裂させてみせよう。

 

 「いいえ、お城から直ぐだし城下の街の公園で待ち合わせましょ。せっかくだから、いつもと違う所がいいわ。」

 「えー、あそこだと治安がちょっと。エルベが一番安全なのに。」

 「昼間だから大丈夫よ。それに私は髪の色を変えて行くわ。それならいいでしょ。」

 

 それでも渋る彼に一言。

 

 「これが私のわがままよ。」

 

 言い切って承諾させた。

 

 わがままを言うのって、意外と面白いかも。

 

 

 ■■

 ※リーンハルト視点

 

 

 妻がわがままを使うことを覚えた。

 

 本人は大きなわがままを言ったつもりで、満足げにしているけれど、こんなの僕にとってはささやかすぎるものだ。

 

 彼女を見ていると、十個すべて使い切るまでかなり長い時間が掛かりそうだなと思う。

 

 彼女のわがままは自分本位で他者を虐げるものではなく、言えないけどやってみたいことだったり、僕にして欲しいことだったり、後回しにしている自分の正直な気持ちであることが多いから、いつでも言えるようにしておいてあげたい。

 

 

 「明日のデートで、エミィが髪の色を変えて行くなら、僕もそうするよ。いつもと違うデートを楽しもう。」

 

 カーテンの隙間から射し込む朝日に、目を細めているエミーリアを抱き寄せながら提案すれば、彼女が弾んだ声を出した。

 

 「本当?!それはとても楽しそうね!」

 「たまにはいいよね。」

 「リーン、わがままを聞いてくれてありがとう!」

 「これくらい、なんでもないよ。後九個、楽しみにしてるね。」

 「ええ、考えておくわね!」

 

 彼女の笑顔が眩しい。以前ならこのまま昼まで・・・といくところだが、今はそうならない。

 

 「さて、エミィ、そろそろ起きられる?」

 「ええ、大丈夫。」

 

 元気よく彼女が頷く。朝の散歩を始めてから、寝起きのぼーっとしている時間が短くなってきているようだ。

 

 それでもまだ覚束ない足どりで、ふらふらと自室へ向かう彼女が心配で扉まで送る。

 

 「ありがとう、リーン。」

 

 そういって扉の向こうに消えていく彼女を見守った。

 

 先日僕が侍女になった時も、着替えだけは手伝わせてくれなかったんだよね。今更恥ずかしがらなくてもいいのになあ。

 

 ■■

 

 

 自分の支度を済ませ、こんこん、とエミーリアの私室の扉をノックして応えを聞いてから押し開ける。

 

 先程のぼんやりした彼女は消え去り、綺麗に髪をまとめて、歩きやすい足首丈のワンピースに着替えた彼女が待っていた。

 

 近付いて手を差し伸べながら、耳元で今日は昨日よりもずっと綺麗だね、とささやく。

 毎朝のことなのに、照れる彼女が可愛くてたまらない。

 

 「今日はどこまで行こうか?」

 「昨日、東の庭園で可愛い花が咲いてるって聞いたから、見に行ってもいい?」

 「もちろん。ちょうどいい距離じゃないかな。」

 「では、ロッテ、ミア。いってきまーす!」

 

 そう元気よく言って、繋いだ僕の手をぐいぐい引っ張って歩き出した彼女の横に急いで追いつく。

 これから屋敷に戻ってくるまで、二人きりで色々な話をする。

 毎朝とても楽しみにしている至福の時間だ。

 

 ■■

 

 「ロッテさん、奥様達はいつまでああ仲良しなんでしょうね?」

 「さて。いつまでも、じゃないかしらね。」

 「いいなあ。」

 「ミアはまず心から愛せる相手が見つかるといいわね。」

 「そこから、ですよねえ・・・」

 

 

ここまでお読み下さり、ありがとうございます。

理想が高すぎるミアのお相手はいつ現れるのか。

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