第9話 建国記念パレード
王宮の中の宿舎前で待機する。
各部隊が正面入り口から順番に出ていく。
紅百合騎士団も青空騎士団に続き入口から街へと進んでいく。
「よし、出発!」
「「「はいっ」」」
赤い揃いの制服。ミニスカート。胸の形に湾曲したブレストプレート。
まさしく王国の美しい美少女たちのみで結成された花形職業。
人形だの資金の無駄遣いだのという嫌みもまだ聞こえるものの、獣人層における彼女たちのイメージは大幅に改善されていた。
ミニスカートが若干恥ずかしいので、赤い顔をしてみんなで並んで行進していく。
隊長は先頭を一人で歩く。もちろん一番目立つのは言うまでもない。
そして副隊長はしんがりを務めることになっていた。
私は団員たちの後ろからミニスカートのお尻を眺めつつ、彼女たちを密かに応援した。
みんな少し恥ずかしいけど最後まで頑張って。
このパレードの目玉ともいえる王国紅百合騎士団の名誉と栄光を見せつけるためには、全員の団員たちの力が必要だった。
普段は一班、二班、三班とあり、ひとつが出撃、もうひとつが待機。そして三つ目が休暇としてローテーションしているが、この日は全員が参加する。
美少女たち団員の全員を拝めるのは年にこの日しかないとあって、パレードに詰めかける人が大勢いた。
「きゃぁああ、紅百合の子たちだわぁあ」
「紅百合さんがんばって」
「紅百合騎士団のみなさま、こっち向いてぇ」
「やっぱ女の子はこうじゃなきゃな。花があっていいなあ」
王城のすぐ先はエルフ街だった。当然のように知り合いも多い。
エルフのうち選りすぐりの美少女たちのみを集めた紅百合騎士団の人気は高い。
特にかわいい女の子に目がないお姉さまたちの中には熱狂的信者がいる。
自分たちは惜しくも選抜試験に落ちた子などはなおさら信者になるらしく、自分が憧れた騎士団に黄色い声を飛ばしている。
小さいエルフの子たちも親に手を引かれながら、お姉さん騎士たちの行進を興味深そうに見つめていた。
中にはかわいらしく手を振ってくれたりする。
軍事パレードだけども、どちらかというとマーチングバンドに近いこの催しでは、観客に笑顔を向けたり、手を振ったりしても大丈夫なのだ。
騎士団のお姉さんに手を振り返してもらった子などはきゃっきゃと声を上げてよろこんでいた。
そんな風に私は後ろからみんなの行動を見守る。
エルフ街のメインストリートを無事に抜けることができた。
ここから先は商業区と人族の住宅街だ。
修飾語なしで住宅街といえば普通はこの人族の住宅街を指す。
「エルフのお姉さんたちだぁ」
「ああ、紅百合騎士団はエルフの美少女だけで構成されているんだよ」
「お姉さんかっこいい! こっち向いてー。きゃっきゃ」
この街に住んでいればエルフは別に珍しくはない。
しかし人族からすればエルフは憧れの存在で、自分たちとは違うという認識がある。そんな美少女のエルフたちは偶像崇拝のごとく一部の人に信奉されていた。
こちらはエルフのお姉さまたちと違ってほとんどが男性信者だった。
「紅百合騎士団様がきたぞ。先頭はお姫様だ。マナイス姫様~~頑張って~おうぉおおお」
「マナイス姫様~~素敵です! 俺生まれてきてよかった」
「マナイス姫様、万歳! 紅百合騎士団、万歳!」
「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」
「紅百合騎士団の繁栄に」
「「「万歳! 万歳! 万歳!」」」
ついには万歳が始まった。沿道から野太い声の熱い声援が送られる。
姫たちは恐縮しつつも、それに応えて手を振ったりしている。
少しだけ、ほんの少しだけ、この崇拝者のごとく慕ってくる人族の男の人たちが怖いのだ。もし万が一、不義理なことをしたら、暴動に発展する可能性すらある。
その時は私たちが襲われる番だ。そういう覚悟も嫌ではあるが決めてある。それでも私たちは国民に剣を抜かないと誓っている。
それくらい熱心にそりゃもう盲目的に紅百合騎士たちを拝み倒す。
――姫騎士。
密かに彼らがそう呼ぶ存在なのだ。プリンセス・ナイト。全員がお姫様だと。
もちろん本物のマナイス姫を姫騎士と呼ぶ人はエルフにも少数いる。
しかしこの姫騎士という語が隠語であるのには、ちょっとした理由があった。
姫騎士という称号は、実は歴史上に存在している特殊な女の子の騎士のことを指してそういうとエルフの知識人は知っている。
曰く、全裸のようなとてもエッチな格好を代償に巨大なブロードソード「ドラゴンキラー」を振るい、巨大な敵を退けた救国の英雄の女の子たちなのだそうだ。
彼女たちは全裸に装飾品をつけただけの見た目に反して、巨人族に匹敵する力をその全身装備から引き出し、身体強化魔法という見えない鎧で敵と戦った。
全員が王家のエルフの血を引いており「姫騎士プリンセス・ナイト」と呼ばれたという。
彼女たちがいたからこそ、この国はエルフが支配層に君臨しており、エルフィール王国は現在も栄えているそうだ。
彼女たちの魂は天国に登った後も加護を残し今でも王都を守っていると信じられている。
しかし、その存在は歴史に埋もれてしまい、ごく一部の人にしか知られてない。
「姫騎士か……」
ぼそっと聞こえないように小さく呟く。
私は今、真っ赤になっているだろう。自分とマナ姫が姫騎士として全裸同然でパレードしているところを想像してしまったのだ。
紅百合騎士団がその姫騎士の劣化バージョンであることは、私とマナ姫は知らされている。今でも王国の危機には人形であるはずの私たちが前線に立って士気を上げることを期待されているのだ。
全裸ではないがミニスカートなのもその名残である。あの例の王様がスカート丈を決めたという笑い話も真実なのだろう。
しかし一国の王女たちが全裸姫か。ミニスカートでも十分恥ずかしいのに、全裸とか。昔の姫様たちは大変ご苦労されたと見える。
現代に生まれてよかった。
ミニスカートでのパレードは続く。
この先は貧困街の近くを通る。




