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第7話 王宮の中庭にて

 私、マナ姫、それからマナの兄のエリマート、私の弟モラルートの四人は王宮の中庭で非公式のお茶会を開いていた。

 ただのおしゃべりともいうが、一応でも情報交換の場でもあった。


「マナ、クリス。街ではかなりの噂になっている。あのお人形騎士団がクマ退治をしたことだ」

「まあそうでしょうね、お兄様」

「ああ。王宮は何を考えているのかというエルフ街の意見もあるが」

「そんなの放っておきましょう、エルフ街なんてエリマート様」

「そうだが、相変わらずエルフが嫌いなのか、クリス」

「ええ、まあ。一応秘密ですよ」

「知っている。しかし人形は貧民街の獣人たちのさらなる犠牲を防いだ。庶民からの紅百合騎士団の評価はウナギのぼりだ。ウナギというか、鯉の滝登りつまり、登龍だな」

「登龍くらい知っているわ。鯉が試練として滝を登れれば、龍つまりドラゴンになれるのでしょ、お兄様」

「そうだ。お人形もはれて、まともな(ほまれ)多い騎士団として認められたようなものだな」

「それじゃあいいじゃないですか。『見た目だけ』とかもう何百回以上、嫌みなら聞きましたし」


 みんなで苦笑する。

 モラルートはほとんど口を挟まなかったが、必要ならしゃべるので大丈夫だ。彼は大人しい子なのだ。

 紅百合騎士団は「ただのお人形」「女のくせに」「見た目だけ」「実戦など無理のお飾り」そうずっと言われてきた。

 まだある「貴族の道楽」「資金の無駄遣い」という庶民、貧民街からの批判だ。

 国政から運営資金は出ているが紅百合騎士団だって安くはない。安くないのは副団長である私だからこそ知っている。

 装備も宿舎も馬などの運用費だって安くはない。

 だからこの指摘だけは、まともな指摘だったのだ。頭痛の種でもある。

 私たちはお飾りでもいいが、資金の無駄遣いだという批判はその通りだとしか言えなかった。

 しかし今回、まともな働きを少しでも示した。

 私たちのかわいいエルフ鼻も高く立派になってしまいそうなぐらいだ。


「ついでではありますが、クマの各種素材が高く売れまして」

「ああ、らしいな。クリス。資金の足しになったと」

「そうですね。本当は全員に団長と同じ防御魔法のエンチャントをつけたいんですが」

「うーん。そもそも紅百合騎士団のそれは暴漢対策用だからな、クマと戦うことは想定していないんだぞ、クリスはまったく無茶をする」

「いいじゃないですか、大きなけがもなくて」

「そうだな。これから実戦にも出るというなら騎士団服は考えておこう」


 紅百合騎士団の資金は王宮から出ている。

 そしてマナの兄のエリマート殿下は大蔵省の大臣なので、資金については一番詳しい。金額を決めるのにも大いにかかわっていて、こういう問題が出てくると、だいたい仲裁に入って調整するのは彼の役割にすでになっていた。

 まだ大臣になって一年たっていないが、周囲からの信頼はあつい。


「では隊員全員分のエンチャント費用は国持ちで出してくれるんですね?」

「確約はできないが今年の予備費と補正予算どちらかから出そう」

「ありがとうございます」

「なに。女の子が丸焦げとか、しゃれにならんからな。国の顔に泥を塗るところだった。公爵の娘でも問題だし、もし万が一ターゲットが我がマナ姫の方だったら、今頃、全員ただでは済んでない。ぎりぎりだった」

「そうですよね。ごめんなさいね」


 へへへ、と私も再び苦笑いを浮かべる。

 マナだったら本当に洒落になってなかった。


「うんっ、クッキーおいしー」

「マナ、お前の話をしてるんだが」

「お兄様も食べますか? 終わったことグダグダ言っても始まらないですよ」

「そうだが。お前が怪我でもしたらっていう話なんだから真剣に聞いてくれ」

「私はクリスちゃんがどんなときでも守ってくれるから平気」

「その自信はどっからくるんだ」

「今までの実績ですよ。あの時も、あっちのことも、それから今回も。いつもクリスちゃんが守ってくれています。感謝です」

「そう言われると照れる」


 みんなで冗談っぽく、えへへと笑う。

 うん、こういう笑いなら構わない。

 私は全力でクリスちゃんを守ると誓約したからな。神に誓った。

 この世界では神に誓うことにはそれなりに意味がある。場合よってはそれによって神の加護を授かることもある。代わりに制約を課されることも多い。

 神は貧民層には支持されていないが、エルフ街では数々の奇跡の逸話が残っていて、神は実在すると考えられている。

 しかし貧民街の住民には信じがたいだろう。なぜ自分たちをこのようなみじめな立場にしているのか、と言われたら私も言葉に詰まる。


「クッキーも美味しいけど、コーヒーも美味しいですね」

「でもクリスちゃん。王族貴族がコーヒーなんて、っていう人もいるけどね」

「ああ。コーヒーだろうと紅茶だろうといいだろう別に。どっちも好きですよ」

「私もそう思うんだけど、貴族たるもの、エルフたるもの、紅茶でなければっていう人、多いんだよ」

「難儀なものだな」

「だよねぇ」


 これには弟のモラルートもあははと笑った。


「そういえば来週、王国建国記念パレードなんだよね」

「そうだな。気を引き締めなければ」

「お人形の本職だからな。頑張ってくれ二人とも」

「もちろんですわ。兄様」

「ああ、頑張りますわ。エリマート殿下」


 パレードで練り歩くのは花形である私たちの存在意義そのものだった。

 当然気合は入る。

 王都の国民が私たちが歩くのを楽しみにしているのだ。

 憧れを抱く女の子も、お姉さんが好きな男の子も。私たちは失望させてはいけない。


 なんにせよ、今こうしてマナイスちゃんと一緒にお茶会ができて、私はそれだけでも十分と幸せをかみしめた。

 

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