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第15話 ベーグルデン領主

 お祭りも昨日終わり、通りも少し人通りが減ってきた。

 私たちの公務も後は領主と謁見をしてくるだけだ。


「全員いるな?」

「「「はいっ」」」


 頭数を数える。うん六人と二人。ちゃんといる。

 こういうのは形式的にやるに限る。

 なんとなくで数えもしないと一人いなかったりするのだ。


 本来こういう来訪は馬車で向かうのが公的な決まりだけれどもベーグルデン領主はそういうかたっ苦しい決まりはどうでもいいらしく、徒歩で町を見学しながらくればいいと言ってきた。


「お魚屋さん~」

「マナはすぐ食べ物ばっかり見て」

「いいじゃないですかぁ」

「いいですよ、別に」


 アジの開きかな。ずらっと干してあってその数は圧巻だ。

 店頭に並んでいるだけでなく、店の前やよく見ると屋上にも網が張ってあって並べてあるのが見える。


「赤い制服、紅百合騎士団だ!」


 子供が大きな声で私たちを見つけて指を差してくる。

 ははは、どうだ。


「すごいすごい」

「かっこいぃ」


 こうやってほめられるのも恥ずかしいものの、それなりにうれしい。

 マナが手を振ってやるとよろこんでくれた。

 マナちゃんは基本優しいが特に子供には優しいようだ。


「ふむ、ミニスカートですな」

「えっちだよね」


 おじさんたちもなにやらムフフと笑っているがこちらは気にしてはいけない。

 何か反応したら向こうの思うつぼだ。


 とにかくなんとかベーグルデン城の門前にたどり着いた。

 ここの城は丘になっていて、ちょっと高い。

 門はその手前の堀のところにある。


「紅百合騎士団だけども、通っていいですか?」

「ああ、いいぞ」


 門では連絡はいっているのだろう、特に何も言われず通してくれた。

 通路を登っていく。すぐに上り坂になる。

 まだ馬車なども通る道なので階段にはなっていないようだった。

 登りきるとそこに第二門があり、その中は小さな広場だった。

 馬車が回転するための場所だ。


 そこを通り過ぎてお城本体の入口に到着した。


「入ってもいいですか?」

「紅百合騎士団ですね、どうぞお入りください」

「どうもどうも」


 私たちは頭をぺこぺこさげて通過する。

 ここまでけっこうな視線を感じた。

 こういう見た目重視の騎士団は地方の領主は普通は持っていないので珍しいのだろう。


 中に案内されて謁見室に通された。


「ようこそ、紅百合騎士団のみなさま」


 そこにはあごひげで愛嬌のある笑顔を浮かべたおじさんが椅子に座っていた。


「領主シルベット・ベーグルデン侯爵だ。以後、お見知りおきください」

「赤百合騎士団団長、王女マナイス・サファイアです。よろしくお願いします」


 マナは立派な顔をして領主と対面していた。

 私たちはオマケなのでその場で頭を下げるだけだ。


 ここまできたねぎらいの言葉、魚料理について、フードファイトについてなど一通りの話題を話した後、ベーグルデン侯爵はニヤリと笑った。


「マナイス王女はそこの副団長と『できてる』そうだな?」

「え、あ、はい。ご婚約させていただいています」

「地方領主の中では地位の高いワシにそう言えるだけの仲ということか、ふむ」


 単なる人の好いおじさんだと思ってたけど、なんだか雲行きが怪しくなってきた。


「そうだ。いいか皆のもの、ここでのこの後のことは他言無用だ。漏らしたら首を()ねるからな」


 まわりの人たちがなんだなんだとハトが豆鉄砲をくらったような顔になる。


「マナイス王女、そしてエメラルド公爵令嬢であるクリス副団長、この場でキスを見せてもらえないか」


 キス!!


 前にも言ったが親愛の挨拶として疑似的にほっぺにキスをすることはある。

 しかし正式な婚約前の男女が唇同士でキスをすることは、はしたないのだ。

 乱れているとみなされる。

 私たちは男女ではないが一応そういう仲なので、それに準じてきた。

 だから秘密の二人だけの時に限ってキスをしていた。


「分かりました。私とクリスの真実の愛を。見せてあげます」

「「おおぉぉお」」


 マナイス姫がキリッとした顔で宣言して見せる。

 団員たちの子は手をほっぺにやったりして、きゃっきゃと騒いだ。

 彼女たちの前でも私たちはキスをしたことがないのだ。


「クリス・エメラルド公爵令嬢、前へ」


 ベーグルデン侯爵が心底楽しそうな顔をして私を呼ぶ。


「はいっ」


 後ろの列の先頭で控えていた私は、前へ進みマナの隣に並んだ。


「クックックッ、ではキスを」


 マナの顔が近づいてくる。

 お互い顔に手を添える。


「マナイス……」

「クリス……」


 ちゅ。ちゅちゅ。


 かあああと顔に血が昇ってくる。熱い。猛烈に熱い。

 キスしただけなのに。人に見られていると思うと恥ずかしい。

 マナと私の秘密のキスが人に晒されている。

 まるで秘め事を見られているようにさえ錯覚する。


 ぶちゅっ。


「はぁんん」

「んんっ」


 マナがいつもより強く唇を押し付けてくる。

 いつもは優しい触れ合うだけのキスだったのに、マナはずいぶん今日は積極的だった。


「どうでしょう、侯爵」

「ああ……なんというか、真実の愛か、素晴らしいな」


 なにやらベーグルデン侯爵はキスを見て何かに目覚めたというか『堕ちた』らしい。

 完全に毒が抜けて、ぼーとしていた。

 最初は笑い飛ばしてやろうとしていたのだろうが、逆に飲み込まれてしまったのだ。


「いいぞ。素晴らしいものを見せてもらった。今回の訪問、感謝申し上げる。父上、アルバート王にもよろしく申し上げると伝えてくれ」

「わかりました。ベーグルデン侯爵。それでは失礼します」


 私たちもマナ姫に続いて礼をしてお城から出ていく。


 この後は無事に宿に戻り、馬に乗って三日、王都マニファラストへと戻った。


カクヨムのほうで告知しております通り、本話を持ちまして連載を休載させていただきます。

つきましては新規連載をカクヨム連載中のおっぱい現代ラブコメ『留学生は同棲JKエルフちゃん ~地球の常識と違うようで巨乳でぐいぐい迫ってくる~』に一本化しますので、ご了承ください。

よろしくお願いします。 


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