ダンジョン曰く吠えよエルフ*4
「……魔法が、効かない?いや、そんなはず、ない……」
「驚異的な治癒の能力を宿している、ということか?いや、まさか、そんな……」
エルフ達がどよめいている。そりゃあね!このディスコ仕様のジェネリック君を前にしてどよめかずにはいられないって訳さ!
「……話を聞いてくれる気になった?」
そしてミシシアさんも『なんかいつもより光ってるなあ』みたいな顔しつつも、一応はキリッとしてちゃんと聞く。
「これが世界樹の力によるものだってことくらいは、あなた達にも分かるんじゃないの?」
ミシシアさんの話を聞いて、エルフ達は黙った。
多分、分かるんだと思う。というかこれで分からないんだったら俺は『エルフの誇りが分かんないのかよ!』と突っ込みを入れてやるところである。
「一旦、出よう。……じゃなきゃ、剣も魔法も効かないスライムがあなた達に襲い掛かってくるよ」
ジェネリック君はミシシアさんの言葉に『えっ!?襲い掛かるんですか!?』みたいな顔をしている……いや、スライムに顔は無いので俺の気分だが、まあ、そんなかんじ。
「……あー、まあ、一旦出てくれるとありがたい。お互いの為にも」
そしてリーザスさんがそう続きを引き取れば、エルフ達はより一層、警戒の色を強くしつつ、じりじりと考える様子を見せて……。
「……ならば、全てまとめて叩き潰すまで!」
開き直りやがった。マジかよ!
さて。
ここで戦闘になっちまう可能性も、俺は一応考えていた。
だから、ミシシアさんとリーザスさんには身体強化用の濃縮ポーションを服用して貰っている。
……が、当然だが、それ以外の準備はできていない。デフォルトで用意してあるものがあるだけだ。
つまるところ、ところどころに二酸化炭素トラップがある他、宝玉樹の部屋に檻と落とし穴がある、という程度である。
……そして、当然ながら、エルフが既に居るこの状況で、それらを都合よく作り替えることはできない。
二酸化炭素トラップはまだずっと先かもっと手前にしか無いし、そこから穴を貫通させてこっちに二酸化炭素を通す、みたいな細工もできない。
何故なら、エルフが『妨害の魔法』を使ってくれていやがるからだ。
彼らの半径300m内ぐらいは、彼らの認識下にある。つまり、その範囲内では、俺はダンジョンパワーを使うことができないのだ!
というかね、そもそも……今ある半径300m内の罠は全て、彼らに感知されているという可能性すら、ある。
なら、今用意してある罠は種が割れてるって考えられるわけで……これは厄介だぜ!
かといって、全てをミシシアさんとリーザスさんに任せることもできない。
どう考えても、相手が悪すぎる。バンバン魔法を使ってくれるであろう彼らには、大抵の攻撃は通じないだろうし、何より、向こうからの攻撃が恐ろしすぎる。だからこそ、エルフ達には一回穏便に村へ引き返してもらって、その後で、改めて準備をしてお出迎えしたかったんだよなあ……。
……まあ、彼らがここまで強いってのは今日初めて知ったが、一応、『めっちゃ強い』ということだけはミシシアさんから聞いていたからね。警戒だけは、してあったんだ。だからこそ、俺共々3人全員で真っ向からエルフに突っ込む、みたいなことは考えなかったわけだが……。
うん。
……つまり、今回の解法は1つしか無い。
『エルフ達が居るところから300mの外に何か仕掛けを施して、なんとか戦場まで影響させる』。
或いは、『エルフ達の妨害の魔法とやらが消える程度に、ミシシアさんとリーザスさん、そしてジェネリック君にエルフ達の注意を引いてもらう』。
そういうことになるのだ。
エルフ達は喧嘩っ早かった。
ミシシアさんとリーザスさんが身構えるより先に、さっさと魔法を出してきた。さっきジェネリック君にぶつかった、例の火の玉である。
頼むぜ、と祈りながら見ていると、ミシシアさんもリーザスさんも、身構えていなかったところから瞬時に反応して、火の玉を間一髪で避けた。
「……なんですって?」
火の玉を放ったエルフは、ぎょっとしていた。まさか、ミシシアさんとリーザスさんが避けるとは思っていなかったんだろう。
「わ、わわわ、間に合った!嘘ぉー!」
「やはりアスマ様とスライムの力は素晴らしいな……」
……そして、ミシシアさんとリーザスさんもまた、自分達が避けられるとは思っていなかったっぽい。まあ、うん……うん。身体強化ポーションの欠点は、『飲む前後で身体能力が違いすぎて、そのギャップに付いていくのが難しい』ってところなんだよなあ……。
「まあ、これならエルフ相手にもなんとか渡り合える、か……?」
「油断大敵だよ、リーザスさん!」
そうして、リーザスさんは剣を抜き、ミシシアさんは弓を構えた。それを見たエルフ達の表情がより一層、険しくなる。
「……1人くらいは、なんとかしたいものだ」
「そう、だね……どうだろう、私は時間稼ぎで精いっぱいかも」
リーザスさんとミシシアさんが小さく囁き交わせば、エルフ達にはそれが聞こえたのか、聞こえなかったか。まあ、聞こえても聞こえなくても、彼らは既に警戒十分だし、怒ってもいるようだし、結果はそう変わらなかっただろうが。
「……やれ!」
エルフのリーダーの声と共に、次は5人分の攻撃が、ミシシアさんとリーザスさんに降り注いだ。
さて。
その間、俺は何もしなかったわけではない。現在進行形で、何かしている最中である。
……まず、エルフ達が現在感知している半径300mについてだが、これだけでダンジョンのかなりのエリアを網羅されちまってることになる。
が、幸いにして、入り口はここに入っていない。ちょっと深めに侵入してもらっといてよかったぜ。
また、宝玉樹の部屋および世界樹も範囲外である。おかげでまだ、『いざ、ミシシアさんとリーザスさんがどうしようもなくなって逃げた後に掛ける保険』が機能する。
尤も、彼らが『逃げられるか』って問題はあるので、これで満足するわけにはいかない。なので俺は、とりあえず宝玉樹周りを二酸化炭素で埋め尽くしておいて、ついでにドライアイスも発生させておいた。が、ここはひとまずこれだけである。これだけではミシシアさん達の助けにはならないので、もうちょっと考える。
……半径300mの外から、最低300mの距離を経てエルフ達をどうこうする、ってのは、かなり難しい。
が、手段が無いわけではないのだ。
……『300m先に作用するブツ』を再構築で作ればよいのである。
はい。ここで具体的に『300m先に作用するブツ』の例を考える。
例えば、めっちゃ単純な例で行くなら……弾が300m飛ぶ銃を作って、撃つ。こういうことなら、『半径300mエリアの外から半径300mの中心へ作用する』訳である。
が、当然ながらこの案をそのまま採用することはできない。というのも……ここはダンジョン!迷路!つまり……単純に銃を作ったところで、壁だの岩だのが挟まってる以上、上手くいかないのである!
……つまり、今回の条件下でまともに働くものを作ろうとすると、『壁を300m分貫通する手段』から講じなきゃいけないって訳だな……。
無論、壁を無視する策も、作れなくはない。例えば、『エルフの居る地点から一番近い通路上、かつ300m以上離れた個所』で大量の二酸化炭素を発生させる。
そうすれば、空間が繋がってる訳だからいつかはエルフ達のところにまで二酸化炭素が届く。はずである。
……無論、これも問題が無いとは言い難い。だってダンジョンには上り坂も下り坂もあるから……それらを乗り越えつつエルフ達のところまで二酸化炭素を届かせるには、つまり、通路全てを埋め尽くす量の二酸化炭素が必要になるって訳だ。
その上、届く時には『一気にどぱっ!』とはいってくれない。『少しずつ、じわじわ』である。……つまり、エルフ達をKOするまでに気づかれて対策される可能性が高い。んなもん使ってられん。
あとそもそも、時間がかかりすぎる。パイプとかを伝って一気にぶち込むんでもなければ、部屋に貯めといたところに侵入者側をぶち込む訳でもないから、即効性が、無い!
……と、考えていくと、条件がめっちゃ厳しい。そうだよ。厳しいんだよ。だから俺はエルフ共を一旦ダンジョンの外に出したかった!出したかったのにぃ!んもう!
が、ここで諦める訳にはいかない。諦める訳には、いかないのだ!
……この厄介な状況を全てひっくり返す方法が、無いことも無い。
それは、エルフが妨害魔法とやらをキャンセルしてくれることである。
実は、ミシシアさん達が向かったことで、妨害魔法が一回くらいは途切れてくれるんじゃねえか、と期待したのだが……残念ながら、そんなことにはならなかった。
流石、このエルフ達は手練れらしく、この程度じゃ、魔法をキャンセルするには至らないらしい。
だが、エルフが妨害魔法さえ使わないでくれれば、エルフのすぐそばとは言わずとも、かなり近くでダンジョンパワーを作用させることができるはずなのだ!だからこそ、俺はジェネリック君とミシシアさん達に祈りを捧げていたわけだが……。
……状況は、ひっくり返りそうになかった。
なら、俺がひっくり返すしかないんだよな。
物理的に。
「じゃあ後は頼むぜ、ジェネリック君!」
俺は、エルフ達から半径300m~310mくらいを、全て適当な岩とかで埋めた。
そして、エルフ達から半径300mの球が生まれるように、半径301m地点から1mの厚さで素材を分解吸収した。
つまり、エルフ達の居る迷路は突如として切り取られ、彼らはボールの中に閉じ込められたことになる。
ボールと、ボールを囲む壁の間にはとりあえずベアリング代わりに、丸い玉を大量に再構築して……。
「回すぞー!」
……中にエルフ達とミシシアさんとリーザスさん、そしてジェネリック君を閉じ込めた超巨大ボールが、回転を始めたのである!
ジェネリック君!ミシシアさんとリーザスさんを、頼んだ!




