ダンジョン曰く吠えよエルフ*1
ということで早速、諸々を報告。ついでにお願い。
「金鉱ダンジョンの出入り口付近にスライム買取所を設けて頂けると大変助かります。金鉱ダンジョンが」
「成程。そういうことならすぐさま手配しよう。……だが、金鉱ダンジョンの主がこの国の騎士だったことは伏せておいた方が良いだろうな?」
「ええ。そこのところはナイショで!というか、ダンジョンに主が居るというところも是非、ご内密に!」
流石のラペレシアナ様は、ちゃんとオウラ様のことも考えて下さるし、巡ってはウパルパのことも考えてくださる。ありがてえ。ありがてえ。ウパルパがダンジョンの主やってて、殺せばダンジョンを奪える、なんてことが知れたらウパルパの命があぶねえもんなあ!
「ふむ……そういうことなら、『王都の実験農場のスライムが金鉱ダンジョンで何かしたらしい。もしかしたら金鉱ダンジョンでもスライムが発生するようになるかもしれない。現在、国を挙げてスライムの増産体制に入っている。捕まえたら売れ』と通達を出そう」
「ありがとうございます!」
そしてやっぱり流石のラペレシアナ様は、実に素晴らしい提案をしてくださった。それなら急にスライムが出てきても不審じゃないね!
……うん。
「あの、うちのスーパークソデカスライムが何かするとスライムが生まれるのかも、っていうことにしていいんですか?」
無論、不審である。不審じゃない訳ないわ!スライムの生態にますますの謎が増えることに!
「まあ、既に目立っているのでな。更に一つ二つ噂話が増えたところで、問題はあるまい」
……いや、まあ、確かに言われてみれば、うちのスーパークソデカスライムって滅茶苦茶な行動してたわ。
人の多いダンジョンに突如としてもっちりもっちり侵入していき、壁の隙間とかからもっちりもっちり消えていき、そしてどこからともなくまたもっちりぷるんと現れて、また通路めいっぱい塞ぎつつ、時々人を埋もれさせつつ、またもっちりもっちりと脱出……。
……めっちゃ、目立ってたね。間違いなく目立ってたね。うん。じゃあもう、1つ2つ設定が増えても大丈夫、ってことにしておこうか……。
「まあ、ダンジョン自体が勘繰られるよりは農場のスライムが勘繰られた方がよかろう。あそこにやたらと大きなスライムが居る、というのは最早有名な話だぞ」
「あ、そうなんですね……」
まあね、スライムが『なんかよく分からない生き物。温厚。有用。でもよく分からない。』みたいな認識されるのはありがたいことだからね。怖がらないでほしいし、いじめないでほしいから、この雰囲気のまま有名になってほしい。
「うむ。試験農場というか、スライムがだな……今や、近所の子供達の遊び場と化している。騎士が見守っているので安全だ、とな。ついでに聖女サティも一緒に遊んでいる」
「ワァオー……」
「民衆がスライムに慣れ親しむためには良いことだろうと思って止めておらぬが、問題無いか?」
「あ、はい。勿論です。これからも是非、スライムを人々の生活のお傍によろしくお願いします」
……子供達が喜んでいるっていうんなら、俺が止める理由は猶更無い!今後ともうちのスーパークソデカスライムをよろしくお願いします!
そうしてラペレシアナ様は王城へ帰ってゆかれた。
……そして俺達も、パニス村へ帰ることになる。
「うーん……ラペレシアナ様が言っていたこと、ちょっとやっぱり気になるよなあ……」
俺達がパニス村への帰路を急ぐのは、ラペレシアナ様が1つ、気になる報告を下さったからだ。
「元大聖堂の追放者達がエルフの森に行った、っていうのはなあ……」
……エルフ関係の話がチラッとこっちでも出ただけに、なんか、心配なんだよなあ。
特に、パニス村には間違いなくエルフといざこざが起きるブツがある訳だし……。
「……追放された連中が、『世界樹』の噂について、エルフに話していなければいいんだけどなあー」
ミシシアさんが浮かない顔をしているのも、当然なのであった。
王都からラークの町へ到着した俺達は、そこで宿を取……ろうとして、『満室なんですよね……』とやられてしまった!どうやら、パニス村人気の白熱ぶりによって、ラークの町にも人が増えちゃって宿が追いついていないらしい!
まあ、嬉しい悲鳴ではあるんだが、俺達は野営することになった。しょうがねえな。
それに、野営とはいえ、ミシシアさんが居れば快適なものである。また俺達はミシシアさんとミシシアさんが交渉してくれた木のおかげで、そこそこ快適に過ごすことができるのだ!
「ありがてえ」
「木も、『変な人を寝かせる経験はあんまり得られないから貴重だね』みたいなこと言ってるよ!」
「待って!俺、木に変な人扱いされてるの!?」
「まあ、焚火の傍で謎の踊りを踊っていたからな……」
えっ、いや、でも焚火を囲んだらマイムマイムを踊らなければならないという文化が日本にはあるから……。
……まあ、木にはマイムマイムを踊る文化は無いからな。確かに、木から見たら変な人に見えるかもしれねえ。うんうん、納得。
そうして木の寝床に『よっこいしょ』と寝転がると、天然のハンモックが案外しっかりと俺の体重を支えてくれる。持ってきていたブランケットに包まりつつ、そのまま就寝すべくもぞもぞして……。
「……あれっ、ミシシアさん、どこ行くの」
俺の向かいの木でやっぱりもぞもぞしていたミシシアさんが、もぞもぞの果てに木から下りたので、ちょっと声掛けておく。迷子は油断から始まるからな!
「ちょっとお散歩。なんだか眠れなくて……」
ミシシアさんはそう言うと、やっぱり浮かない顔でトコトコ歩き出した。
「俺も俺も。眠れなくて……あ、リーザスさーん。俺達ちょっとお散歩行ってくる!」
なので俺も、リーザスさんに一声かけてからミシシアさんに付いていくことにした。よっこいしょ。
「……なら、俺も付いていってもいいか?」
「俺はいいよ。ミシシアさんも、いい?」
「うん。いいよ」
ということで、結局3人で夜の森をお散歩することになったのだった。こういうのってちょっと贅沢なかんじだな。
夜の森の中は、当然だがめっちゃ暗い。それはそうである。この世界には街灯とかねえのよ。当たり前なのよ。
月と星だけじゃ、光源が足りない。なので俺達はそれぞれにランプを携えて、のんびり歩いて行くわけだ。
森の下草の中には天然のハーブ類が結構混ざっているらしく、歩く度になんとなく爽やかでいい香りがする。月が綺麗で、空気は澄み渡っていて、気温もそんなに高くない。
そんな静かな夜の森だってこともあって、なんとも爽やかなお散歩だ。仲間達、そしてランプに揺れる光と一緒にのんびり歩いて、俺は存分に散歩を楽しむ。
「……で、ミシシアさんは悩み事?」
「うん……」
……が、爽やかなお散歩の中でも、ミシシアさんの表情は浮かない訳だ。こりゃ、散歩を楽しんでばかりもいられないよな。
「やっぱりエルフのこと?」
「そうだね。……そういう顔、してた?」
「うん」
ミシシアさんはいつもより元気が無いので、俺としてはちょっと調子が狂うかんじだな。リーザスさんもなんとなく表情がぎこちない。もしかしてリーザスさん、俺よりもこういうのは苦手ですか?まあ、俺もね?元気が無い仲間を励まそう、みたいなの、別に得意じゃないけどさ……。
でもまあ、話を聞くことはできると思うので。リーザスさんも、そのつもりでここまで付いてきてると思うので。俺は、ミシシアさんがちょっと不安そうな顔をしているのを見上げつつ、『どうぞどうぞ』と促す。
すると。
「……私ね?エルフの里を出てきたのって、まあ、追い出されちゃったから、なんだ」
ミシシアさんはそんな話を始めたのだった。
「追い出されちゃった、っていうのは……ええと、世界樹の種を植える場所を探して出てきた、ってわけじゃ、なかったってこと?」
「うーん……一応はね、世界樹の種を植える場所を探しに来た、ってことになってる。でも私は、ハーフエルフだから。純粋なエルフじゃないから、里には置いておけないって」
……こういう時に何と言っていいものやら、俺には全く分からない。だが、結局のところ、何か言うべきってことでもないんだろうな、と思うので、黙って話を聞くことにする。
ミシシアさんも俺とリーザスさんが非常に気まずい思いをしていることが分かっちゃうわけで、苦笑いしながら、努めて明るく話を続けてくれた。
「私には半分しかエルフの血が流れてないから、エルフにできることの半分くらいしかできないの。魔法は不得意だし、植物と会話するのだって、森と仲良くなるのだって、半分くらい。……世界樹を植える場所を見つけられなかったのも、私が混じりものだから」
……ミシシアさんが、『ハーフ』エルフだ、ってことは、聞いてた。
それに加えて、世界樹の種を植える場所が中々見つからない、って話も、聞いてた。
だから、パニス村のダンジョンの最奥に世界樹を植えることができた時、ものすごく喜んでいたんだよな。
……だが、俺が思っていた以上に、その重みが……こう、重かったのかもしれない。
「あのね、でも、私、それはもういいんだ。世界樹を植える場所は見つかったし、私が居るべき場所もできたことだし!」
ミシシアさんは、にぱっ、と笑うと、その場でくるくる回り出した。彼女が手にしたランプもくるくる回って、彼女の陰も、くるくる回る。
「だからもう、エルフの里には帰らない。帰れなくっていいんだ。あんなところ」
こうしてくるくる踊っているところを見ると、なんとなく、ミシシアさんが人ならざるものに見えてくる。つまるところ、妖精とか、精霊とか、そういう類の。
「……でも、またエルフに会って、知り合いだったらさ、なんか……嫌だな、って思うだけ。ちょっと気まずいっていうか、嫌なこと思い出しそう、っていうか……戻ってこい、って言われたいわけじゃ、ないんだけど」
踊りながら、ミシシアさんの口が、きゅっ、と引き結ばれるのが見えた。彼女にしては珍しい表情で、つまり、それだけ思いつめてる、ってことで……。
「うん!そうだ!エルフの里になんか戻っちゃ駄目だぜミシシアさん!多分、エルフの里にはスライム居ないでしょ!?パニス村ならスライム揉み放題だよミシシアさん!」
「そ、そうだな!ミシシアさんは酒が好きだろう!?恐らく、エルフの里よりパニス村の方が美味い酒が飲めるぞミシシアさん!」
俺とリーザスさんは、すぐさまミシシアさんにパニス村セールストークをぶつけ始める!
「他にもまだまだあるぜ!温泉もあるし、トマトもある!あとチタンあるよチタン!あっ!?ミシシアさんはチタンそんなに好きじゃない!?」
「ああ、それなら麻の織物があるぞ!最近はすっかりパニス村名物として有名な……もしかして、エルフの里にも有名な織物があるのか……?」
そして、俺とリーザスさんがそれぞれ『他に何を言おうかな』『パニス村のいいところは、何か……』と悩み始めたところ。
「……うん!やっぱりパニス村が一番だよ!ね!」
ミシシアさんは、ぱやっ、と笑った。……やっぱりこの人、笑うと、『人!』っていうかんじになるなあ!さっきの人ならざるものっぷりは消えて無くなった!
「スライムも温泉もお酒も野菜も素敵だし、チタン……はまあ、綺麗だし、布も触り心地いいし!パニス村はいいところだよね!でもね、何より……」
ミシシアさんはその場にランプを置くと、さっ、と俺とリーザスさんの手を取った。
「皆が居るから!楽しい!」
……ということで、俺達はしばし、その場で踊ることになった。
えーと、ランプを囲んで3人でくるくる回るだけの踊りだ。今回ばかりはミシシアさんに合わせるとして、いつもの噛み合わないダンスは封印だな……。
「あ、やっぱり駄目!アスマ様のいつものあのよく分からない踊りが見たい!あと、リーザスさんの中途半端な踊りも!」
「よく分からない踊り……え?盆踊りのこと?」
「……俺の踊りは中途半端か?まあ、その、踊るのは苦手で……」
いや、結局いつもの噛み合わないダンスになっちゃったんだけど。なっちゃったんだけどね!まあしょうがねえよな!はーどっこいしょ!
そうしてスッキリしたらしいミシシアさんと共に、俺達は野営場所まで戻った。
ミシシアさんは戻ってすぐ、木に『ただいま!』と挨拶していた。なので俺は裏声で『オカエリ!』って言っておいた。そしたらミシシアさんが『また木に変な人だって言われてるよ!』と教えてくれた。誠に遺憾である。
遺憾はさておき、俺達は改めて就寝すべくもぞもぞし始めた。なんかこう、寝る時ってちょっともぞもぞしたくなるよね?ならない?え?なるでしょ?
「エルフの皆は……どうしてそこまでして『祝福』を手に入れたいんだろうなあー……。あと、元大聖堂の人達、大丈夫かなあ……」
「え?なんて言った?」
が、もぞもぞ中、なんか唐突に変な言葉が聞こえた気がしたので思わず聞き返す。あの、今、追放された連中のことを心配しましたか?なんで?
「あ、えーとね、つまり……エルフの里のエルフ達は、人間が嫌いだから……その、そんな人間達から『祝福』の技術を教えてもらおう、っていうのは、なんだか変だなあ、って思って……」
「ワァオー……」
……成程ね。
確かにそれは、心配だね!
「あの、ミシシアさん。俺さ、全然エルフのこと知らないんだけど……エルフの人達って、その、結構酷いこと、できる?」
「うん。かなり、できる」
ワァオー。
「じゃあさ、『元大聖堂の連中から祝福の技術を手に入れたら、残った奴らは用済みとして捨てる』ってことも、あり得る?」
「うん。あり得ると思うよ。だからちょっと心配なんだけど……」
……うん。
なんか、こう……思っていたよりも、事態は面倒なことになりそうだ。えーと、つまりだな……。
「じゃあ、元大聖堂の人達は騙されたって分かった瞬間に、『でも自分達にはまだ持っている情報がありますので!』ってやらないと、命の危機だね」
「そうだねえ……」
俺は滅茶苦茶嫌な予感を抱えつつ、ミシシアさんに聞いてみた。
「……パニス村の、世界樹の噂、って……知られてんのかなぁ」
「……知られてなかったとしても、宝玉樹のことは知ってるでしょ?だとしたら、『宝石の枝葉を持つ不思議な植物がありますよ』なんて言う可能性は、あるよねえ」
「ワァオー……」
……なんか、嫌な予感がどんどん濃くなっていくんだけど!やだー!




