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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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ダンジョン交流会*3

「エルフ……じゃないですよ、俺。エルフなのはこっちです」

「はい!私、ハーフエルフだよ!」

 俺が訂正し、ミシシアさんが元気に挙手すると、オウラ様は『エルフの姉弟という訳ではなかったか……』とか首を傾げ始めた。ちょっと待って。俺、ミシシアさんの弟だと思われてたの?

「成程……ええと、では、エルフの術を教わった……?」

「いや、そういう訳でもないんですよね……」

「私と会うより前から、アスマ様は種を変化させるやつ、やってたもんねえ」

「そうですか。しかし、かなり風変わりな術ですね。全く知らない技術でしたので、てっきり、エルフの術だと思ったのですが……」

 うん。まあ、とにかく遺伝子組み換えはエルフの術とやらとは関係が無いのである。

 何故ならこれは……科学の力によるものだからだ!




『遺伝子組み換え』が俺にはできてオウラ様にはできない、ってのは、まあ、分かる。

 俺が魔法を使えない一方、オウラ様に科学の知識は無い。俺が常識だと思っていて、当たり前に認識することができる諸々を、オウラ様は認識することすらできないのだ。


 例えば……オウラ様にとっては、花崗岩から水晶を作るのも、花崗岩から金を作るのも、同じことであるらしい。

 俺は、『花崗岩はケイ素が多いから、ケイ素を抽出して結晶構造を変えればすぐ水晶になるね』って思って、再構築する。

 だが、オウラ様は『石から全く異なる物体を作り出しますね』っていう認識で、錬金術を行う。

 何故なら、オウラ様には『元素』の概念が無い。花崗岩と水晶を構築するものが概ね同じだっていう意識が無いのだ。だから、彼にとっては、花崗岩から水晶を作ることは、『結晶構造を変える』じゃなくて、『全く別の物質へ変化させる』っていうことになるらしい。


 ……遺伝子組み換えも、同じことだ。

 俺は、『分解して分析してみた結果、多分、こいつが実の大きさに関する因子だから、ここオフにして、あと苦み成分を作る部分もオフにして、あと病気に強い遺伝子をこっちに継ぎ合わせる!』みたいなことを考えて、遺伝子組み換えしている。

 が、オウラ様がこれをやろうとすると、『植物の種1つ1つに祝福を与える、ということですか?しかし祝福の術は私には使えないので……』ってなる。

 ……そう。彼には、『遺伝子』という概念が無い。だから彼は……『遺伝子情報』が見えないらしいのだ!




「なんかエルフじゃなくても誰でも、一通りそこらへんの知識を手に入れたら俺と同じことができるとは思うんですけどね……」

 いやー、まあ、魔法とは違って、これ知識によるものなんだろうなあ。アレでしょ?『知らないものを識別することはできない』っていう奴でしょ?

 例えば、日本では『蝶』と『蛾』に別れているものがフランス語だとどっちも『パピヨン』だから、フランス語を母語とする人は蝶と蛾を区別することをしない。

 日本では全て『カラス』であるものが、英語では『クロウ』と『レイヴン』に区別されるらしいし、日本語にはある『肩こり』は他の言語に無いらしいから、『肩が凝ったなあ』っていう感覚は日本語を知る者にしか無いらしい。

 ……言葉に限らず、数学を知る者にとってはヒマワリやオウムガイにフィボナッチ数列が見えるんだろうし、音楽を知る者にとっては1つの楽曲の中にそれぞれの楽器の音が個別に聞こえるんだろう。

 そして、科学を知る者にとっては、植物の種の中に遺伝子が見えるし、花崗岩の中にケイ素が見える。

 ……つまり、オウラ様も科学を知れば、多分、そういうのが分かるようになるんだとは、思うんだよなあ。

 だが、オウラ様は苦笑した。

「どうでしょうね。魔法には適性がありますし……何より、それが知識のみによって行われるものだとは、私にはどうも思えません。当たり前に、当たり前のものとして浴びていた魔法。当たり前のものとして培われてきた知識。技術。そういうものは、後々に手に入れようと思っても手に入らないものですよ」

「そういうもんですかね。……まあそういうもんか?うん、そんな気がしてきたなあ……」

 ……まあね、知らないまま育っちゃうと、人間は知らなかったことを切り捨てて、『認識できない』ように脳が変化しちゃうって言うしなあ。だから日本語で育った人間にはLとRの発音の違いを識別することができないって訳で……科学と魔法も似たようなもんなのかね。

「例えば、エルフは当たり前に植物と会話します。彼らにとっては当たり前のことですが、私にはできることではありません」

「俺にもできません!」

 でもミシシアさんがやってたのを見たことはあるな。ほら、野営した時。あの時、ミシシアさんがそこらへんの木にお願いして寝床作ってくれた!アレ、エルフの能力だったんだよなあ。

「えっ、やり方、教えようか?」

「いや、聞いても分かんない気がするのでまた今度ってことで」

 ……まあ、脳の機能以前に、めっちゃ大量の勉強と修行を積むというコストを支払いたくない!それはそう!


「案外、その人の中に培われた素養というものは馬鹿にできませんからね」

 オウラ様の含蓄あるお言葉に俺達全員、成程なあ、みたいな顔で頷く。実年齢60歳だからな。含蓄がある。……それでいくと、実年齢100歳オーバーのミシシアさんのお言葉にはめっちゃ含蓄があって然るべきだと思うんだが……そこのところは考えないこととする!

「じゃあ、全てのダンジョンマスターが同じようにスライムを召喚できるようになるか、っていうと話は別ですよねえ……」

「いや、まあ……スライムくらいなら誰にでも生み出せそうな気はしますね。いや、熊にそれが可能かと言われると、何とも言えませんが……」

 ……全国規模でスライム増産体制を整える、ってことについてはちょっと保留とすることになりそうだな。まあ、ウパルパには無理な話だろうし、かといってウパルパを殺してダンジョンの主の座を誰かに奪ってもらう、ってのもかわいそうだし、そもそも、ダンジョンを奪えるっていうことは知られない方がいい……。




「まあ、そういうわけで、スライムの増産はここでやってもらうことになりそうですね……」

「王都のダンジョンですから、そういう意味でもこのダンジョンが適任でしょう。しかと務めを果たしますよ」

 まあこうして、オウラ様とのやり取りも無事に済んだ。

 色々と考えたいことが増えたし、知らなかったことが分かったし……実に有意義なダンジョン交流会であったと言えよう。うん。

 と、俺が満足していたところ……オウラ様がなんか、ちょっと難しい顔をし始めた。

「しかし、お話を聞く限りでは、やはりスライムに植えるということだけではなく、植える種にも工夫があったということで……その種は流通させる予定ですか?」

「いや、今のところは考えていません。パニス村の専売にしようかな、と。……まあ、今まで通りの種や苗を使っても、今まで以上の成果は上がると思いますんで、食料問題と『祝福』の関係は解消できるかと」

 まあね、いずれは、世界中に遺伝子組み換え野菜の子孫が散らばっていくとは思うよ。ただ、俺が作ってる種はF1雑種が多いんで、その子孫が散らばってもあんまり意味は無いと思うんだけどね……。

「そうですね。工夫のある種については、あまり知られない方がいいかもしれません」

「ほう」

 まあ、オウラ様はF1雑種とか知らんもんなあ、と思いつつ話を聞いていると、オウラ様は、ちら、とミシシアさんを見てちょっと躊躇ってから、言った。

「……価値が高い、ということもそうですし、何より、下手に知れるとエルフが黙っていないでしょうから」




「今回、元大聖堂の連中が逃亡した先は、エルフの森がある国だそうですね」

 あー、確かにそんな話を聞いたね。うん。……あの時は特に何も気にしてなかったけども。

「エルフにとって、『祝福』はどのように受け止められるものなのでしょうか。そして、『遺伝子組み換え』とやらも、エルフにとってどう受け止められるかは未知数ですからね」

 ……うん。

 まあ、なんかちょっとそれは分かる。分かるぞ。

 俺の世界にも遺伝子組み換えに対して滅茶苦茶に嫌悪感がある人はそこそこ居る訳だし……分かるぞ!そういう人がこの世界にも居るってのは、分かる!

「エルフは植物と共に生きてきた民です。植物に関して人間の手が加わることを、よしとしない風潮があります」

「そうなの!?ねえミシシアさん、そうだったの!?」

「え?うーん、まあ、そういう考えのエルフも居るよねえ……」

 そうなんだ!?居るんだ!?そんなの知らなかったよ俺!エルフってやっぱり『自然派』みたいなかんじなの!?いや、それとも『エルフの技術は世界一!』ってやりたいタイプなの!?

「なんかねえ……植物に関しては、すごく矜持が高いから。植物をどうこうする術は、エルフが一番じゃないと気が済まない、みたいなエルフ、いっぱいいるよ。うん。控え目に言うとそんなかんじ」

「控え目に言うと!?」

 なんか色々と想像を越えてきたぞおいおいおい!なんか滅茶苦茶心配だなあ!


「……あれ?ミシシアさんはそういうの、あんまり気になんない人?」

「え?うん。気になんない!」

 一方、ミシシアさん自身はこだわりが無さそうである。

 けど……まあ、ミシシアさん自身が『ハーフ』エルフだから、ってのもあるだろうけど、かなり柔軟な考え方の人っぽいからなあ。エルフが全員こうだとは思わないようにしないとな……。




 エルフというか、この世界における遺伝子組み換え種の取り扱いについては気を付けなきゃなあ、と思いつつ、俺達はラペレシアナ様に報告を行うことにした。

 尚、ラペレシアナ様に報告する、ということについてはオウラ様の了承も得ている。

 彼曰く、『ああ、あの姫君が今や立派な騎士団長ですか。幼い頃から聡明な姫君でしたからね』とのことだった。にこにこだった。ラペレシアナ様への信頼が厚くて俺達もにっこり。

 で、王城にいきなり突撃するのもアレなんで、とりあえず王都の試験農場へ。……えーと、一度金鉱ダンジョンに突入させてしまったスーパークソデカスライムを帰しに行くついでに。

 で、もっちりもっちりと移動しながら、存分に衆目を集めつつ、そのスーパークソデカスライムの上でラペレシアナ様宛ての手紙をさっと書く。試験農場には騎士達が誰かしらか常駐してくれているので、彼らに頼めばラペレシアナ様を呼び出すという実に贅沢なことも可能なのである。




 ……と、思ったら。

「ラペレシアナ様が既に!?」

「ああ。巨大スライムが急に移動した、と聞いてな。何かあるのだろうと思って待っていたが……どうやら正解だったようだな」

 ラペレシアナ様、既に農場に居た。それで、クソデカスライムに座って、のんびりもっちりしてらっしゃった。

 ……うーん、聡明な姫君である!

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― 新着の感想 ―
エルフのイメージが学会の重鎮(老害)に……
エルフほど長生きになると、新しい考え方出来なくなるもんなのかな。いずれゴタゴタありそうだけど、スライムは世界を救うからなぁ
スーパークソデカスライムがドアベルの代わりまである!
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