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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第三章:ダンジョンは世界を飛び越えた!
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ダンジョン交流会*2

 

「まず、王や他の騎士達が私の今の状況を知っているか、という問いについてですが……ごく一部の者だけが知っている状況です」

 ということで、俺達はのんびりお茶会しながら話し始めた。尚、俺達の後ろにはスーパークソデカスライムが控えている。なので、ちょっと圧迫感というか、もっちり感というか、そういうのがね、強い。

「ごく一部、というと?当然、国王陛下はご存じとして……」

「はい。国王陛下と、当時の第一騎士団の団長だけです」

「えっ!?」

 そして最初からぶっこまれた爆弾に、俺達は慄くことになる。思ってたより、知ってる人、少ない!

「……各所に報告しようかとも思ったのですが。当時の国王陛下は、少々難しい局面にいらっしゃったので」

「ああ……戦が始まるかどうか、というところでしたね」

 リーザスさんとオウラ様は顔を見合わせて『そうそう戦があったんですよねえ』みたいな顔をしている。成程。確かに、2年くらい前に戦が終わったとしたら、始まったのは3年か5年か10年か、それくらいは前なわけで……そして、戦の兆候が始まったのが10年前、というのは実に納得のいく話である。

「ダンジョンが軍に転用できるであろうことはすぐに分かりました。だからこそ、ダンジョンをあてこんだ作戦が提案されることを恐れて、ダンジョンのことは伏せるように、と判断が下ったのです」

「……この力があれば、戦はもっと早くに終わったのではないかと思いますが」

「より大規模になっていた可能性もあります。また、敵にダンジョンの情報が漏れたなら、国が全て焼け野原になっていたでしょうから」

 リーザスさんとしては思うところが色々ありそうだが、まあ……俺は、一理ある、と思う。

 テクノロジーの進歩っていうのは、大規模化に直結していくもんで、そして、色々なことが大規模になっていったら……えーと、アレだ。『第三次世界大戦で用いられる兵器が何かは分からないが、第四次世界大戦のメインウエポンは石と棒になるだろう』って奴だ。

 現時点で、俺の世界でも全人類が一度全ての文明を失うような戦いが起こる可能性はある訳だし、人類は既にそれを可能としている訳だし。

 ……テクノロジーの進歩が悪いことだとは、俺は思わないんだけどね。ただ、テクノロジーの進歩に合わせて人間の倫理観がアップデートされてくれるわけじゃないし、それを可能とする程度の知性を全人類が持ってくれているわけじゃないのが問題ってだけで……。

 まあ、なので、テクノロジーをごく限られた一部の人だけが持っている、という状況は、ある種1つの理想だとは思う訳よ。扱える人だけが、テクノロジーにアクセスできる。扱えない人は、扱える人に『よく分からないけどなんか色々良くなった!』程度に恩恵を与えてもらう。それでいいと思う。

「そういうことなら、俺達がここの存在を知ってしまったのはまずかったのでは」

「……まあ、そういう訳で最初、あなた方を殺そうとしました」

「成程なー、うん、納得納得」

 そういうわけで、オウラ様が俺達を殺そうとしたことについてはまあ、滅茶苦茶理解できるので水に流そう。水に流れなくてもスライムに運んでもらおう。よし。




「このダンジョンの目的は、暮らしに困って犯罪に走る者を少しでも減らすことです。……寝泊まりできる場所と仕事があれば、彼らは犯罪に走らずに済みますから」

「いいね!」

「ありがとう。騎士団に居た時からずっと、こうした取り組みを進めたかったのです」

 オウラ様がにこにこしているのを見ると、『多分、この人もダンジョンの主になる前から色々と思う所があったんだろうなあ』と思わされる。

 今、この国の王都はかなり治安がよろしいんだが、その要因はやっぱり、こういう取り組みを進める人が居るっていうところなんだろうなあ。

 やっぱりね、どうしてもね、犯罪に走る人ってのは居るから。一定以下の知性と一定以下の所得が揃っちゃったら、生まれる結果は犯罪だから。で、そうした人達を片っ端から刑事罰に処しても、いたちごっこになっちゃうし、そもそも人口減っちゃうし……。

 ……救貧関係ってマジで大変だよな。オウラ様がリーザスさんから尊敬の念を向けられている理由も分かるぜ。


「……そういう訳で、このダンジョンを失う訳にはいきません。それなりの人々をダンジョンの中に抱えることになりましたし、それによって王都の治安は向上していると聞いています。今後、こうした取り組みを国中に広げられればより良いですが……生み出すものが金だけ、となると、どうしても限界が来ます」

「ですよねえ」

 オウラ様の心配は分かる。……この金鉱ダンジョン、国中で類似ダンジョンができちゃうと、めっちゃ困るタイプなのだ。

 何せ、出してるものが金だからな。金。

 ……極端に言っちまえば、それ単体では何の役にも立たなくて、ただ、『お金になる』っていうブツだ。そして、金の産出量がめっちゃ増えたら金の価値はガタッと落ちる。そして、価値がガタ落ちした金って、何の役にも立たねえんだよな。

 なので、『金鉱ダンジョン』が各地にできちゃうと、間違いなくヤバい。この国の救貧が根底から覆ることになるのだ!

「その点、スライムを量産すれば、そのスライムを用いて農作物を育てられるようになる、ということなら……そうは問題にならないでしょうから」

「そうですね。スライム自体もそうですが、そこから育つ作物が最終的な目的ですから。スライムを捕まえるのみならず、捕まえたスライムに作物を植える仕事も生まれますし!」

 よって、オウラ様としては、金を大量に出さなくてもいい救貧策があるなら、そっちも推し進めたい、ってところだったんだろうな。

 金を延々と産出していたら、いつかは自分で自分の首を絞めることになる。だから、ここが金鉱ダンジョンになったのだって、かなり悩んだ結果、仕方なく……だったんだろうと思うし。

「ついでに、畑にできるくらいの広い部屋を作るべきでしょうか?」

「いやー、それはダンジョンの外の方が……ん?いや、でも貧しい人達がここで自給自足できるなら、その方がいいのか……?」

「……いや、止めましょう。ダンジョンの外で野菜を育てれば、それを元手にダンジョンを出た生活ができるようになるでしょうから」

「ああー、言われてみればそっかぁ。……そうなると、ダンジョンの人口が減っちゃいますけど、いいんですか?」

「勿論。目指すべきところはそこですから」

 ……オウラ様があっさりと、『ここに暮らすしかない人達の人生を、ダンジョンの魔力より優先する』っていう判断を下したことに、俺は心底敬意を表するよ。

 ダンジョンの魔力のことを考えたら、できるだけ多くの人間をダンジョン内に留めておいた方が効率がいいんだし、そのためには作物を育てられるようにした方がいいってことになる。

 でも、ダンジョンの中だけで生活できるようになってしまったら、いよいよここの人達はダンジョンの外に出なくなってしまうだろうし……そうなると、ダンジョンの中は、外とは隔絶された世界になってしまうんだろうからな。

 やっぱり、オウラ様はリーザスさんが尊敬のまなざしを向けるのも納得がいく、立派な人なのであった。




 さて。そうして俺達は、『金鉱ダンジョンの中でどうやってスライムを出現させるか』みたいな話を詰めていって、『こうするとよいのでは』『出す頻度はこんなかんじで』と色々と打ち合わせをした。

 後でラペレシアナ様にお願いして、色々と細かい部分を調整する必要はあるだろうが……ひとまず、これでやってみようかな、という程度の案はできた。

「では、明日から早速、スライムを出してみましょう」

「お願いします!」

 明日からの金鉱ダンジョンの様子が楽しみだな。これでスライム狩りも始まれば、金鉱ダンジョンはいよいよ賑わって、多くの人が職を手にするきっかけを生み出してくれることだろう。


 ……で、だ。

「そして……どのようにして金を生み出しているのか、ということでしたね」

「はい!教えてください!」

 俺は姿勢を正してオウラ様に向き直る。するとオウラ様はにっこりと頷いて……教えてくれた。

「錬金術を用いました」




「れんきんじゅつ?」

「はい。錬金術です。古い魔法の一種ですね」

 ……俺は、ぽかんとしながらオウラ様の話を反芻する。

 錬金術……というものが何なのかはまあ、大雑把には分かる。そして、それがこの世界では『古い魔法の一種』という分類なのも、分かった。

 なんだが……その実が何なのかは、まだ分かんない!絶対に核分裂とか核融合とかじゃない話なんだろうなあ!という雰囲気しか分かんない!

「その、錬金術っていうのは、具体的には、どんな……?」

「物質を変換することができます」

 ……手段を聞きたい。目的じゃなくて、手段の部分を聞きたい!

「例えば、鉄を銀に変えたり、鉛を金に変えたり。極めればあらゆる知と不滅の命を授かることもできるといいますね」

 手段の部分を!やり方を!メソッドを聞きたいです!錬金術って!何をどうやって行うんですか!?

「尤も、私はあまり魔法の適性が無かったようで……ダンジョンの力を使っても、金を生み出す程度のことしかできませんでしたが」

 ……えっ?ダンジョンパワーを使うんですか?

「あなたもダンジョンの主だということですが、錬金術は使えないのですか?」

「えっ……ダンジョンが使っている力が錬金術、なんですか?」

 えっ?えっ……?俺、もう、何が何だか分かんねえよ……。




 ……それから色々と聞きだした結果、どうやら『ダンジョンの力を用いると錬金術が使える』みたいなことが判明した。つまるところ、オウラ様は、『ダンジョンパワーを用いると錬金術がかなりの効率で行える』みたいな認識であるっぽい。

 というか、多分なんだけどさ……俺にとっての『再構築』が、オウラ様にとっては『錬金術』っぽいんだよな。

 勿論、オウラ様のやってることを俺がやろうとすると同じようにはできないはずである。だって俺、最初期にそれは検証したもん。石からパン作るのですら、めっちゃ大変だったもん!

 ……まあ、つまり、だ。

「ダンジョンの主、って……その主ごとに、できることが微妙に違うんですね……」

「そ、そうなのですか……」

 俺には、ファンタジー適性がちょっぴり弱かった。どうやら、そういうことであるっぽい。




「……まあ、俺にはね、ちょっと……元素を別のものに変えちゃう、みたいなのはできそうにないので……それはこれからも変わらず、オウラ様の専売特許ってことで……」

「成程。確かに、錬金術を全く学んだことが無かったなら、ダンジョンの力があっても同じようにはできないでしょうね……」

 結局、オウラ様は『魔法』を使えるんだよな。そして俺には使えない。ダンジョンパワーは魔法とはまた別ものとする。

 で、魔法を元々使えたオウラ様は、錬金術とかいうチートを使って、石から金を作ることができるらしい。勿論、魔力は消費するらしいが……聞いた話だと、人間が出入りして寝泊まりする分でその日の採掘量を十分に賄えるくらいだ、っていうことなので、どう考えても効率が良すぎる。おかしすぎる!

 ……まあね、俺は早々に諦めたぜ。俺にはこれはできない。元素が別の元素に変化するってことがどれだけ大変なことなのかを『科学』の目で知っちまってる俺には多分、できない所業なんだと思う。

 だから今後も、パニス村ダンジョンで金が産出することは無いでしょう……。その代わり、水晶とかペリドットとか、宝石類はバンバン出していくけどな!

「しかし、あなたはどうやら、あなたにしかできないことを持っているようですね」

「どうやらそのようです!」

 一方で、俺は俺で、やっぱり専売特許を持っていたっぽいのだ。つまり、全てのダンジョンの主ができるわけではない何か、っていうことを。

「植物の種を変化させて、その植物自体に影響を及ぼすなど、考えたこともありませんでした。そして私には、何をどうすればそれが実現するのかなどまるで見当がつきませんよ」

 ……そう。

 どうやら、遺伝子組み換えってのは、俺の専売特許っぽいんだよな。


「……もしかして、あなたはエルフの系譜なのですか?」

 で、どうやら俺は、エルフの末裔であるらしいんだよな。

 ……いや、それは違うと思うんだけどさ。うん。違う……よね?ほら、ミシシアさんが『それは違くない?』みたいな顔してこっち見てる……。

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― 新着の感想 ―
水に流せないものも、石に刻まれたものも、大丈夫。 そう、スライムならね。 (どっちも消化してそうだなぁ)
ほら、アスマ様理論わかってるから、ファンタジーを許容するパワーがちょっと足りないだけだよ。スライム揉んどけば悟れるよ!
マスターの認識次第、良いスライムが出たのもクソデカスライム見たからかな?
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