お邪魔します!*6
俺達は一旦パニス村に帰って、そこで一旦の報告を行った。
……というのも、やっぱりダンジョンってものに入ろうとしてるわけだから。命の危険はある訳で、つまり、俺達が帰ってこない可能性だって、無い訳じゃないんだよな。
だから、『とりあえずラークの町のダンジョンからは生還しました。これから王都のダンジョンにも行ってきます』って報告はしておいた方がいいのである。ついでに、『ラークの町のダンジョンにはウパルパが居ました。そいつがダンジョンの主でした。なんだあれ!』っていう報告もするけどさ。
で、報告が終わったのでさっさと王都へGO。
……移動は、改造チャリこと原付もどきである。ラペレシアナ様達、王立第三騎士団の面々が乗ってるようなゴツいやつじゃないが、この世界にはまだまだ普及していない乗り物である。当然、道行く人とすれ違うと『なんだあれ』みたいな顔をされる。
「わーい!はやーい!」
「やっほーい!無免許運転だー!」
また、俺は小学生ボディなので俺に合わせた子供用原付を再構築で生み出して乗っているのだが、まあ、無免許運転である。異世界じゃなかったらダメなやつである。まあね、折角だからこういうところでもしっかり異世界を堪能するってことで……。
王都に到着したら、宿を取って、宿の厩に原付を預ける。いや、この世界、駐輪場とか無いから……。
宿の人には『変わった馬ですね……え?マジでなにこれ?』みたいな顔をされたが、一応、王都の人達の中には情報通も居て、『ああ!これはラペレシアナ様が乗ってる騎馬だね!ラペレシアナ様のに比べると体が小さいが!まだ子供なのかな!』とフォローしてくれた。いや、馬じゃないんだが。馬じゃないんだが!
まあ馬じゃなかったら厩で預かってもらえないらしいのでしょうがねえ、こいつは馬です。馬だ。間違いなく馬!
「入場手続きが必要だな。……えーと、どうする?1日の滞在でいいか?」
「いや、2週間くらいの滞在でいこう」
……この金鉱ダンジョンは、推定・人間のダンジョンの主が居るダンジョンである。つまり、罠だってなんだって、ちゃんとあるはずなのだ。
よって、『何かある』可能性は十分にある。非常に嫌なことだが……相手がこっちと協力してくれない場合は、マジで、アウェーの戦場で戦う羽目になることだってあり得るのだ。
ましてや、相手が俺と同じように、『異世界からやってきた』人間だとしたら……俺が思いつく程度のことはやってくる可能性が高い。つまるところ、出オチでいきなり死ぬ可能性だって十分すぎるほどにあるのだ。
つまり。
「文通なら、まあ、10日分くらいで多少の成果は上がるだろ。多分……」
「えっ!?ダンジョンと文通するの!?」
……俺達は、できる限りの安全圏から相手にコンタクトを取ることを試み、そして、敵対させないようにしなければならないのである!
ということで、文通一日目だ。
『はじめまして。パニス村の者です。最近のスライムの需要拡大について相談したいのですが、いかがでしょうか。こちらにはそちらと敵対する意思はありません。ご検討のほどよろしくお願いします。追伸:うちの名産品です。どうぞお召し上がりください。』
と、まあ、手紙を書いて、菓子折りの箱に添えた。尚、菓子折りはパニス村のブランデーケーキである。おいしいぜ!箱の底に仕込んだ本も含めてな!
「これでよし。後は、ダンジョンの目で見ても分かりやすく、かつ、他の冒険者達の目に触れないところに置いて、と……あ、届かねえ!」
「この上か?俺が置こう」
「あああ、助かる!助かると同時に悔しい!」
菓子折りと手紙は、ダンジョンの奥まったところの岩棚の上に置くことにした。こっちはもう金が掘りつくされたとかで誰も来ないし、高い場所は人目に付かないし。
「でも、こんなところでダンジョンの主は気づくかなあ」
「えーとね、多分気づくと思う。多分ここ、ダンジョンの主用の通路だと思うから」
「えっ?」
……俺の観察眼は誤魔化せねえ。この岩棚の裏、多分、通路になってる。この奥に何か、空洞のようなものの気配を感じるのだ!
わざわざ金が出ない場所を造ってあることといい、それが奥まって誰も来ない場所になっていることといい、どう考えてもここがダンジョンの主の通路である!
「じゃあ、後はこれで……」
まあ、やれることはやった。後はダンジョンの主が気づいてくれることを待つばかりである。
あと……パニス村名物ブランデーケーキを気に入ってくれることを祈るばかりである!
翌日。
「うおおおおおおおおお!箱と手紙が無い!」
「ってことは、気づいてもらえたのかなあ!?」
「或いは誰か他の人に見つかって持って行かれた可能性もある!」
「それだと嫌だね!」
俺とミシシアさんが大興奮なのも已む無しである。何せ、置いておいた菓子折りと手紙が、消えているのだから!これはダンジョンによって分解吸収されたってことじゃねえかなあ!どうかなあ!
「うん……どうやら、ダンジョンの主が見つけたもののようだぞ。ほら」
……そして、俺とミシシアさんの頭上を、ひょい、とリーザスさんの腕が通り過ぎていき……岩棚の奥から、一枚の紙を拾い上げてくれた。
それは……ダンジョンの主からのお返事である!
「うおおおおおおおおおおお!」
「わあああああああああああ!」
「落ち着いてくれ」
俺とミシシアさんは大興奮で踊り出した。いつもの噛み合わねえ奴である。たのしい!
「で、何て書いてあるの!?何て書いてあるの!?」
「待ってて!今読むから!えーと……」
踊りながら、俺達は手紙を広げて読んでみる。すると……。
『お菓子をありがとうございます。美味しく頂きました。是非一度、お会いしたいです。こちらも敵対する意思はありません。よろしければこの岩棚の奥へとお進みください。』
「罠かなあ……」
「いや、でも、敵対する意思は無いって書いてあるよ……?」
「リーザスさん、どう思う?」
「いやぁ……何とも言えないな……」
……色よいお返事にもかかわらず、俺達は見事にドツボに嵌ったのだった。信じていいのかダメなのか!そこが問題だ!
「まあこのまま居ても埒が明かんし」
まあ、ここで二の足踏んでてもしょうがないんで、俺達は一旦ダンジョンの外に出てちょっと準備して、それからさっさと岩棚の奥へ進むことにした。
「えーと、岩棚の奥……あ、これ引き戸だ。お邪魔しまーす。うぃーん」
「うぃーん、って何?」
「引き戸を開ける時の挨拶みたいなもんだよ」
尚、当然ながら自動ドアではないので『ウィーン』とは言ってくれなかったが、それでも引き戸はそこそこスムーズに開いた。ありがてえ。小学生ボディには動かせない重さのドアとかもあるからね……。
「……この先、だよなあ」
「うん。誰かの気配がするよ。行ってみようよ!」
そして、岩棚のドアを開けた先には通路。通路の先からは、何らかの気配。奥の方にちょっと光も見える。
「じゃあ、アスマ様は俺が抱えるぞ」
「ありがたい……」
……で、ここから先は本当に、相手ダンジョンの腹の中だ。油断はできないし、撤退となったら即座に動けなきゃいけない。よって、俺はリーザスさんに抱えられることになった!
「おお、視線が高い。歩幅がおっきい……」
「まあ、アスマ様よりはな」
リーザスさんに抱えられていれば、咄嗟の逃走も大丈夫という訳である。小学生ボディではどうしようもないことが色々あるからね。しょうがないね。
そのまま、俺はリーザスさんに抱えられ、ミシシアさんが弓を手に警戒しつつも通路を進み……そうして、俺達はいよいよ、通路のその先へと到達した。
そして。
「動かないで」
そこで俺達は、槍を持った甲冑数体に囲まれることになった。
……それら甲冑の輪の向こうに居るのは……人間だ。人間。そこそこ鍛えていた形跡のある男性。
で、腕に『ダンジョンの主の腕輪』がある。
「……あなた達は、このダンジョンを奪いに来たんですね?」
金鉱ダンジョンの主と思しきその人は、警戒の色を存分に見せつつ、そんなことを言ってくる。
「えっ!?ダンジョンって奪えるんですか!?」
そして俺はびっくりしている!
知らない情報がいきなり出てきて、びっくりしている!




