お邪魔します!*4
「ぎゃおおおおおおお!」
「うわああああこいつ全然死なねええええええ!」
「アスマ様は隠れていてくれ!」
「やったよー!目玉やった!右側が死角になるよー!そっちから狙ってー!」
ということで元気にドラゴン討伐である。
……あのね、俺はちゃんと、携帯用の毒ガス発生装置を持ってきたのよ。簡単に言ったら『混ぜるな危険』みたいなやつ。まあ、液体と液体だと持ち運びに不便なんで、固体と液体になるようにしたんだけどさ。
まあつまり、塩素を発生させるための準備は万全だったわけね。で、条件もよかった。この最後の部屋、密室だし。そんなに大きくない部屋だし。
……なんだけど、ドラゴンが強すぎたっぽいんだわ。
こいつも血が赤いから酸素で動いてるタイプの生き物なんだと思うし、だとしたら塩素で死んでくれるはずなのに全然死なねえ。ガスマスク越しに見るドラゴンは、元気に暴れ回っている。すげえなドラゴン。何?これもファンタジーパワー?なぁにこれぇ……。
一方、そんなドラゴンを徐々に消耗させているのもファンタジーパワーである。
……えーと、ミシシアさんとリーザスさんが、ドラゴン相手に善戦しているのだ。
というのも、ほら、聖騎士達がやってたファンタジームーブね。あの、全身甲冑で大ジャンプしたりなんだりしてたやつ。あのバケモンかよっていうムーブだが、この世界的には『まあ身体強化の魔法があればアレくらいはできる奴もそこそこ居る』みたいな感覚らしい。マジありえん。
……で、そういう魔法がある以上、それを再現できて然るべきなのである。
これについては、身体強化の効果がある薬草なるものをラペレシアナ様に譲って頂けたので、それをスライム濃縮法によって濃縮。ポーションにしておいたのだ。
その結果、『飲むとかなり身体能力が向上してしまう謎ポーション』ができてしまった。俺はこいつをドーピングコンソメスープと名付けようと思う。
ということで、滅茶苦茶ドーピングしまくって元気に戦うミシシアさんとリーザスさんなんだが……ファンタジーパワーに隠れっぱなしの俺ではない。
しぶといファンタジーに対抗するには、やっぱり科学よ。俺は科学の徒であるからして!
「装填完了!」
俺は厳重に包んで持ってきた特製の『矢』をクロスボウにセット。力のない小学生ボディでも使える、それがクロスボウのいいところだぜ。
「行くぜー!ファイア!」
そして俺がクロスボウの引き金を引くと同時、矢が飛んでいって……ドラゴンの首辺りに着弾。それと同時に、着火、爆発。
ちょっとね!ガソリンと砂糖とアルミ粉末と濃硫酸で作ってみたら上手く行っちゃったからね!実戦投入しちゃった!
「これが科学の力だぜー!ヒャッハー!」
……銃を造ろうとも思ったんだが、『小学生ボディで銃の反動に耐えられるのか!?』という俺のビビりによって、今回のこの形になりました。爆発するのは着弾してからだぜ。これ、暴発の可能性もボチボチあるから実は銃よりちょっと危ないかもしれないんだぜ。
「アスマ様!効いてるよ!今ので頭狙って!昏倒させられると思う!」
「無理ィ!狙うとか無理ィーッ!」
……その上、まあ、これ、狙撃の腕が必要になるから。俺、そういうの、あんまりないから。
うーん、そう考えると最適解は『てつはう』だった気がするなー。投げてとりあえず爆発させるだけのやつ。だがこの小学生ボディにソフトボール投げが何m出せるかという問題がやっぱり発生するので厳しいな。うーん……。となるとやっぱりカタパルト……?いや、カタパルトぶん回せるパワー……モビルスーツ……?
まあ、そうしている内に、流石にドラゴンは塩素が効いてきて弱ってきて、そうこうしている間にリーザスさんによって首を落とされた。
「あ、危なかった……」
「いや、そんなに危なくなかったよ……?」
「ドラゴンを3人で、しかもほぼ無傷で討伐できたというのは快挙だぞ……?」
俺としては『うわあドラゴンがすぐ死なない!うわあ!うわあ!』という気分だったんだが、ミシシアさんとリーザスさんからしてみれば、かなり危なげなく戦えた、みたいな印象だったらしい。俺の感覚がおかしいのか……?
「それにしてもミシシアさん、いい腕だな。早々に目をやってもらえて本当に助かった」
「えへへ、ありがとう!やっぱりね、世界樹の枝の弓は調子いいよ!リーザスさんもお疲れ様!」
「久しぶりに動いたからな。鈍ってる部分も大いにある。鍛え直さないとラペレシアナ様に怒られそうだ」
……やっぱりこの人達の感覚がおかしい気がする。
そうしてドラゴンを倒してしまった俺達は、早速、周囲の探索だ。ドラゴンの死体はお持ち帰りしたいのでできる限り頑張るけれど、そっちの作業より先に、周辺の安全確認からだな。
「あっ!ねえー!ここに抜け道あるよー!」
「えっマジ!?うわっマジだ!よく見つけたねこんなの!」
「えへへー。風の流れがなんだか変だな、って思ったんだ!」
そしてミシシアさんが早々に隠し通路を見つけちゃったので、早速そっちの確認へ。
……うーん。
「……なんか、滅茶苦茶『この奥に居る』って感覚があるんだけど」
「えっ何が!?」
「分かんない……けど、ダンジョンの本当の終着点がこの奥なんだと思う」
なんか……他人の家なはずなんだけど、『ああ、これは知ってる』みたいな気配が奥の方からしてるんだよね……。
……何なんだろうなあ、これ。いや、まあ、なんとなく想像がつくんだけどさ……。
まあ、見てみないことにはどうしようもないので、俺達全員、通路の奥へ進む。
「……魔力が濃いな」
「あー、やっぱりそういうかんじなんだ」
「ああ。……アスマ様には、また違う感覚なのか」
「うん。なんだろうね……」
相変わらず、俺の中ではなんかよく分からない感覚がもにゃもにゃしている。アレだ。例えるならば、『まとめて建設された建売の家の一軒が自宅なんだけど、お隣さんちに入ったら自宅と間取りが一緒でなんかすげえ既視感と違和感がある』みたいな感覚かもしれない。
「どんなかんじなの?」
「知っているんだけど知らないし、知らないけど知ってる、みたいな、そういうかんじ……かなあ」
「そっかあ……やっぱりアスマ様にとっては、他所のダンジョンもちょっと親近感があるものなの?」
「そういうことなのかもしれないね、これは」
まあ、これは初めての経験だし、初めての感覚だし。味わっといてよかった、ってことにしておこうかね。
そのまま俺達は通路を進んで、進んで……そうして俺達はようやく、通路の終着点に到達した。
すると。
広い部屋。高い天井。そして……。
「……これは、アスマ様のダンジョンにあるものと同じか……?」
「うん……多分、同じものだと思う」
……俺達が見上げる先。そこには天井の割れ目があって……そして、そこから降り注ぐ光は、恐らく、この世界では『魔力』と呼ばれるものだ。
そしてその『魔力』の元になっているものは、恐らく、『情報』なのである。
「綺麗……これ、世界樹を植えた部屋と同じになってるんだね……」
……まだ、俺がこの世界で知っているダンジョンは2つだけ。たった2つだけだ。
だが……そのダンジョン2つに、これがあった。
『ダンジョンの最奥が、恐らく別の世界と繋がっている』。
このダンジョンの割れ目に繋がっている場所が、俺の元居た世界なのか、それともまた別の異世界なのかは分からない。だが、それはそれとしても……『ダンジョン』ってものが何なのかは、少し分かってしまった、かもしれない。
「ダンジョンってのは……もしかして、他の世界と繋がる場所のこと、なのか……!?」
俺はそう思ってからすぐ、1つの疑問を抱いた。
『では、何故このダンジョンはこんなにも貧弱なのか』と。
おかしいんだよ。どう考えても、おかしい。
このダンジョンにも……そして、もしかすると他の全てのダンジョンにも、異世界への裂け目があるのなら、どうして、『こんなにも効率が悪いことをしているのか』という疑問を抱かざるを得ない。
このダンジョンはあまりにも、単純だった。魔物が出て、魔物を倒せばそれで終わり。最後にはドラゴンが居たが、それだって、ドラゴンを倒されたら終わり、と。
俺がこのダンジョンの主なら、こんな設計にはしない。自分の身に危険が迫るような仕組みにはしておかないし、もっと魔力を得られる仕組みを考える。その結果が今のパニス村って訳だ。
……まあ、そういう訳で、今までの俺は、『多分、他のダンジョンは魔力不足でカツカツだから、パニス村ダンジョンみたいな大規模なことをできないんだろうなあ』と、勝手に思ってたんだよな。
だが事情が変わった。
少なくともこの、ラークの町ダンジョンについては、間違いなく『異世界へと繋がる裂け目』があって、魔力が降り注いでいるんだ。
裂け目から降り注ぐ魔力がどんなもんかは俺も正確に検証したことがある訳でもないんだが……それでも、世界樹がすくすく育つ程度の魔力はあるわけで、ならば、その魔力があるのにどうしてこのダンジョンがこんなに貧弱なのか、というところに説明が付かない。
……いや、だって、さ。
ダンジョンが待っている『主』ってのは……異世界の誰か、っていう、ことなんじゃないか?
だとしたらこのダンジョンにも、俺と同じような誰かが、いるんじゃないか?
だとしたら、何故、このダンジョンは簡単に最奥へ到達できてしまったのか。
「まさか、罠……!?」
俺がそれに気づいた瞬間、がたり、と奥の方から音がして……。
「うぅううぱああぁるぅううぱぁああああ!?」
そこには猫ぐらいのサイズのウーパールーパーが居た。
ウーパールーパーが、居た。
……ウーパールーパー!ナンデ!?




