お邪魔します!*2
「な……何故なんです……?」
俺は色々な可能性を考えた。
俺の頭の中ではスライムが『親善大使』のタスキをかけてもっちりもっちりしている様子が浮かんだり、スライムがもっちもっちと勇ましく敵に向かっていく様子が浮かんだりもした。ついでに、『ラペレシアナ様、お疲れのあまりご乱心なんじゃねえか?』ということまで考えた。
「何。国外追放となった元大聖堂の連中の一番の武器は、『祝福』であろうと思われるからな」
が……俺の考えは全て杞憂であったらしい。
成程ね。うん。言われたらすぐ気づくわ。そうだそうだ。
スライム農法が広まれば、元大聖堂の連中が持ってる唯一の武器であり交渉材料であろう『祝福』の価値が落ちるんだよなあ!
「『祝福』の価値は、確かに大きい。国の農作物の取れ高が倍以上になることも起こり得るのが『祝福』だからな」
「ああ……成程!だから元大聖堂の追放された奴らは、他国に『この祝福を買いませんか?』ってやってるんですね!?」
「大方そんなところであろうな。他に理由があるとしたら、我らがこの国が内紛で疲弊したところを横から入って掻っ攫いたい野蛮な国がその誘いに応じた、というくらいか?まあ、その場合であっても、『祝福』を手に入れるための取引はしていようが……」
あー、はいはいはい。分かってきた。分かってきたぞ。それと同時に、安心もしてきたぞ!
「相手の資本の価値を落とす。資産の価値を目減りさせる。まあ、基本的な戦術であろうが……元々が国外追放された連中の寄せ集め。然程大きな組織でもない以上、それなりに効くと思われる。……そしてその手段が、『スライムの素晴らしさを広める』ということなのだ」
「成程!」
よかった!ラペレシアナ様のご乱心じゃなかった!よかった!本当に!本当によかった!
はい。そういうわけで、『スライムの素晴らしさを広める』というのは即ち、『スライム農法を他国にも輸出する』ということに他ならないってことだな。そういう訳でそこのスライム達。なんか期待してたかもしれないが、お前達が考えていたようなことは何も起こりそうにないぜ!
……いや、まあ、スライムが何か期待するどころか、何かを考えているかどうかすら怪しくはあるんだけどさ……。
「あの、他の国には『祝福』みたいなの、無いんですか?」
さて。そうして気になるのはここだ。他所の国の事情。
こっちに戦争吹っ掛けようとしてるのかもしれない相手の懐事情はしっかり探っておきたいよね。
「土魔法の類を応用しているとは聞く。だが、いずれにせよ、教会のような組織の専売となっておるようだな」
「ってことは、うちから追放された元大聖堂の連中、向こうの宗教組織にも喧嘩売ることになりません?」
「なる」
あああああああ、なんて面倒なことを!あいつら本当に自分さえよければ周りはどうなってもいいタイプの人達なんだなあ!
「そこで、向こうの国の教会にスライムを伝導しようと思うのだが」
「ああー、そうすれば少なくとも、向こうの教会は味方に付いてくれますよね!」
「そういう訳だ。……スライム自体を嫌がられることはあるかもしれんが、それでも他国からやってきた連中によって自分達の既得権益が損なわれるくらいならこちらと手を組もうと考えるだろうな」
あああー、成程ね。成程ねぇ……。
……まあ、これで色々分かったよ。主に、ラペレシアナ様がお疲れの様子な理由が、めっちゃ分かったよ……。
「あの、本当にお疲れ様です……」
「ああ、ありがとう。ま、今日のところはここの食事と温泉とで疲れを癒させてもらうぞ」
これはもう、本当にお疲れ様だからね。もう、存分に疲れを癒していっていただきたいところだな!
ということで、ラペレシアナ様にはスライムマッサージを体験していただいた。
えーと、今まではスライムがマッサージ『される』側だったんだが……最近、スライム達が学習してくれたんだか、人間の上でぽよぽよもちもちやってくれるようになったんだよな。
で、温泉でほこほこあったまったスライムを肩とか背中とか腰とかに乗せとくと、まあ、疲れがとれるらしい。……生憎、今の俺は小学生ボディなんで、肩こりとか無縁なんだよな……。でもまあ、ぬくいスライムがぽよぽよやってるのにセラピー効果があるというのは分かる。
なのでここは是非、ラペレシアナ様にもこのスライムマッサージを体験して頂いてだな、なんか少しでも疲れとか取れたらいいな、と思うのである。
後は温泉と料理でおもてなしだぜ!ここはパニス村の得意分野だからな!
……そうして、ラペレシアナ様はスライムマッサージを体験して『とてもよい』とご満悦であった。スライム達も心なしか誇らしげである。多分誇らしげ。これは誇らしげな時の様子だと思う。多分ね。
「して、スライム農法を他国にも広めるとなると、アスマ様の許可が必要かと思ったのだが……いかがお考えだろうか」
「あ、別にいいと思いますよ。強いて言うなら、スライムの乱獲にだけならないようにお気をつけ頂きたいな、ってくらいで……」
温泉とマッサージが終わってなんかつやつやしたラペレシアナ様に聞かれたので、他に何か気を付けなきゃいけないことあるっけ?と考える。こういうの、ありそうですぐにパッと思いつかないんだよなあ。
「……その、これはアスマ様の研究成果であろう?それを独占せず、広めてしまってよいのか?」
……と思っていたら、ラペレシアナ様がなんか心配そうな顔になってしまった!
ああー……成程ね。そっちの話か。そりゃそうだ。
「あ、はい。……いや、まあ、特許とか取った方がいいんだろうし、そもそもパニス村ではそういう知的財産の保護を進めているところなんで、本当にそれはそうなんですけれど……」
一応、パニス村では知的財産権の布教活動を行っている。図書館とかでは『本の複写は有料で販売する。売上の一部は著者に還元』っていうサービスを行ってるし、発明とかアイデアとかがあったら、発案者に利益がちゃんと行くように取り決めてあるわけだ。
これ、知識層に定住してもらうことが目的ではあるんだが、いずれはこの世界全体に広がって欲しいところだね、と思っている。
なので……ここで俺が『俺が発案したスライム農法の技術を流出させていいですよ!』ってやっちゃうと、それは俺の信条には悖る、ことになる。んだけどね……。
「この場合においては、流石に個人の利益よりも国益を優先したいと俺自身が思っているので……えーと、じゃあ、王城の買い上げってことでいかがでしょう?他国で技術が使われる度に俺の利益が発生する仕組みはあまりにも煩雑だと思うので、買い切りで」
「ああ、ありがたいな。それならすぐに予算を組もう」
「あ、国家予算の組み直しが必要になるくらいの買い取り額になるんですか?」
「当然、そうなるであろうな。何せ『祝福』の代金だぞ?ならば大聖堂の連中ががめつくせびってきていた寄付金の額数年分は見込まねばなるまい」
……なんか、大事になりつつあるがしょうがねえな。俺がここで『もっと安くていいよー』とか無責任に言っちまうこともできなくはないんだが、それだとこの国この世界の、後世の人々のためにならないからね……。
「……謹んでお受けいたします!よろしくお願いします!」
「こちらこそ。……すまない。本当なら、『ちゃり』についても同様に支払いを行うべきなのだろうが……」
「あ、そっちはいいので!流石にそっちはもういいので!」
でも俺に国家予算組み直しレベルの大金はちょっと重すぎるぜラペレシアナ様!緊張するんだぜ!怖いぜ!
ということで。
「まあ、『祝福』の代替技術が世界に広まれば、スライムの保護にもつながると思うので……」
まあね。スライム達には『世界中で保護されつつお風呂に入ったり餌を貰ったりできる環境に置かれる』ってのがそう悪く無さそうなので、これでヨシってことにしよう。俺としては、パニス村とこの国、そしてスライム達が幸せならそれがいいので。
「……その、時にアスマ様。アスマ様は、スライムの精霊か何かなのか……?」
「いや違いますけど……」
……俺、スライムに肩入れしすぎかな。いや、でもスライムだし。スライムだからね。しょうがないね。
「ところで、元大聖堂の連中が逃げ込んだ国ってどんなところなんです?」
「隣国だな。我が国とは比較的友好的な立場を取っている。先の戦があった国とも隣り合っている国なので、そのあたりをどう思っているのかは定かではないが……」
あー、一応、直接『ついこの間まで戦争やってた敵です』ってかんじじゃない国ではあるのか。成程ね。
「何せ、戦は我が国の勝利となったからな」
「あー……」
成程ね。つまり、そもそもこの間まで戦争やってた相手は、何かできるような力がもう無いってことね。オーケーオーケー理解理解。
「資源は我が国の方が恵まれているな。だが、相手国には『エルフの森』と呼ばれる深い森があり、魔力がとても濃いと聞く。魔法の技術は相手の方が数段上だろう」
ほー。もし全面戦争、ってなったらヤバそうな相手、ってことではあるのね。ほーん……。
「なので、先に元大聖堂の連中を始末して、こちらの国への侵攻のきっかけを失うよう動きたいところだな」
「そのためにもスライムを普及させないといけないわけですね」
「ああ。そういう訳だ。頼めるか」
「……増産しますね!」
俺がやることははっきりしてる。この戦争および元大聖堂の連中の好き勝手を阻止するためにも、スライムの素晴らしさを世に広く知らしめるのだ!
「世界中にスライムの素晴らしさが広まったら、スライム教が開けるかもしれません!」
「そ、そうか……」
そうだ!スライム教!スライム教も悪くないんじゃないかな!こう、教義は『毎日ちゃんと風呂に入る』『よく寝る』『気ままに過ごす』『人に揉まれ、人を揉む』『ぽよぽよもっちりと生きる』とかで……。
スライム教はさておき、それから俺達はポーションと同時にスライムの増産も行うことになった。
とはいえ、農業用スライムの原材料は他所のダンジョンのスライムである。供給を安定させる、ってのが中々に難しい。
ならパニス村のスライムを使えばいいじゃん、っていうのも、なんかね……俺だよりになっちゃうのは良くないからね……。
となると、やることは1つだな。
「ちょっと、他のダンジョンの様子を見てきたいんだけれど、付き合ってくれる?」
「ああ、構わないぞ。スライムの調査か?」
「スライム調べに行くんだね!私も行く!」
……他のダンジョンおよび、スライムの調査である。
うーん、ダンジョンの主として、菓子折りか何か持って行った方がいいかな。どうかな……。




