ありがとうスライム*4
それから、俺達は研究成果をラペレシアナ様に引き渡して、ついでに『時々、飴色スライムを揉んでやってください……』『頼まれずとも揉むと思うぞ。第三騎士団が全身全霊を以てして、な……』という会話に安心して、そして、パニス村へ帰ることにした。
帰り際で既に、第三騎士団の騎士達が『おお、かわいいなあ』『かわいいなあ』『かわいい……』とにこにこしながら飴色スライムをオイルマッサージしてやっていた。スライム達、ご満悦である。よかったな、お前ら。幸せに暮らすんだぞ!
そうしてパニス村に戻った俺達は、新たな産業を生み出すことになる。
それは……スライム牧場である!
「今後、スライムの需要が高まることは間違いない……!ならば、設備も整っていて、安価にスライムを生産できるこのパニス村こそがスライム畜産業の最前線を征くべきなのである!」
今回、俺達はスライムを用いて農業を上手く回す方法を見出した。また、これは同時に『効率よくポーションを生み出す方法』とかに転化できそうなアイデアでもある。
今まで水溶性の魔力(魔力にそういう溶けやすい溶媒とかがあるのかはまだ知らんが)だけを抽出していたところを、油やスライムで抽出するようになったら、もっとすごいポーションができるかもしれない。
……ということで、今、王城では研究者達がこぞって、スライムを用いた魔法の研究を始めているそうだ。
今まで魔法の研究って微妙に進んでいなかったんだが、今回、俺達が『祝福』の解析をしようと色々頑張った結果、それは研究者達の研究魂に火をつけることにもなったらしい。
まあ……俺は異世界の知識があるから。そういう俺から見たこの世界の魔法って、結構ツッコミどころがあるから、そこを研究すればいいよな、ってなるんだけど。この世界の研究者達からしてみたら、今まで当たり前に在って、それが当然だと思っていて、疑うことすら難しいような状態だったわけで……そんなところに俺が一石を投じられたというのならば、まあ、誇らしいことだね。
ということで、実はパニス村にも研究者達がぞろぞろやってきている。何でも、『魔法研究の最前線!』『魔力が多い宝石が多く手に入り、かつ、スライムが沢山居る謎の村!』『研究にこれ以上の環境は無い!』とのことだそうだ。
……なので、この機会に丁度いいだろ、ってことで、俺は研究者達にお願いして、本を寄贈してもらうことにした。
ついでに、『論文や著書をパニス村大図書館で発表できます!写本は有料で販売され、その売り上げの2割が研究者本人のものになります!』というビジネスも始めた。
このビジネス、研究者達にはなんとも馴染みの無い代物だったらしいんだが……まあ、丁度いい機会だ。この機会に、パニス村は著作物関係の最前線も征くことにするぜ!
……ということで、まあ、スライム牧場ができた。これは、新たな冒険者向けビジネスでもある。
うちに生まれるスライムは全部パニス村のスライムにしたいので……冒険者達には、『他所からスライム捕まえてきてくれる?』という依頼を投げてあるのだ。
パニス村は、元々『モンスターが居ないダンジョンなので退役冒険者にも安心安全!』が売りだったのだが、ここに来て、『ちょっとは戦えますよ!』という冒険者達も取り込みにかかろう、という訳だ。
……なので、王都の近くのリーザスさん御用達ダンジョンとか、ラークの町の近くにもあるらしいダンジョンとか、そういうところで冒険者達がスライムを捕まえては袋詰めして、ぽこぽこ叩きつつパニス村に持ってきて売ってくれる、という、一連の流れが出来上がりつつある。
そして、連れてこられたスライム達は、うぞうぞと暴れていたのが温泉に投げ込まれ、パニス村のスライム牧場スタッフの手によってマッサージされ、魔力たっぷりのおいしい水を飲み……そして、ぷるるんつやつやの大人しい満足スライムへと生まれ変わるのだ。
……そうして出来上がったスライム達は、王都に出荷されている。
彼らは作物をもっちりもっちりと育てる優秀な栽培員として、王都や王都近隣の町で大事にされることになるのである!
……なんかよくよく考えてみたら、これ、スライム牧場っていうか……スライム福祉施設?スライム厚生施設?で、スライムの職業斡旋所……?
と、まあ、新たなビジネスが徐々に国に浸透していくにつれ、今後の食糧問題および、教会からの解放は徐々に進んでいくことだろう。
これでもう、教会の『祝福』に頼る必要は無いはずだ。これでラペレシアナ様も自由に動けるようになるだろう。多分。
さて。
そうして村のあちこちを色々整備したり、ラペレシアナ様にスライム研究の報告をしたりしつつ暮らしていた、そんなある日のこと。
「えーと、じゃあこの薬草とこの薬草とこの薬草を入れたスライムを……蒸すぜ!」
今日も俺は実験がてら、スライムをポーションにし始めた。
「行っておいでー!」
「幾分、ウキウキしているように見えるなあ……やっぱりスライムは蒸し風呂が好きなのか」
……薬草を体の中に、むにゅっ!と突っ込んだスライムを、蒸している。
いや、水に浸けずとも、加熱すりゃいいんだったらこれが最適だよねっていう……まあ、蒸し風呂は普通の風呂よりも大規模工事が必要になるから作るのめんどくさいっていうデメリットはあるが、まあ、パニス村内だったらこれが一番早いと思います。
「じゃあこっちのスライムには、この薬草とあの薬草とその薬草を入れて……蒸すぜ!」
「スライム達もすっかりこういうの、好きになったよねえ」
「面白いものだなあ。スライムにも好き嫌いがあるなんて、ダンジョンに潜っていた頃には思いもしなかった」
スライム達は順番に蒸し風呂に入っていきつつ、体の中の薬草から魔力を抽出している訳だが……それを楽しんでいる模様。まあ、スライム達も楽しいなら俺達としても嬉しいね。やっぱり、相手が嫌がることをやるよりは、相手が喜ぶことをやってた方が心によろしい。
そうして薬草入りのスライムを蒸しあげた結果……。
「ポーションになった!」
「ってことは、今、このスライムは怪我を治せるスライムってこと!?」
「そういうこと!効果とサイズ小さめのジェネリック君みたいなもんだな!」
もっちりもっちり、と満足気に動くスライムには、薬草由来の数種の魔力が溶けこんでおり……見事、ポーション同等の効果を持つ癒しスライムができたのであった。
「おお……抱っこしてるとすげえ癒される……なにこれ……」
薬草スライムを抱っこしてみると、心の底から癒されるような、なんかそんなかんじがした。すごい。このスライム、マジでエデレさんだ!
「スライムの中に治癒の魔力が入っている、ということか。そしてスライムがそれを利用できる、と……?」
「そうだね。或いは、治癒の魔力を分解して細かくして、別の魔力に組み替えるかもしれない。いずれはそうなっていくと思う」
まあ、少なくとも当面は治癒の魔力を多少なりとも持っているスライムのままで居ると思うよ。その内、全部分解して食べつくすとは思うけど。
……うん。今は、薬草由来の魔力をそのまま持ってるんだよな。このスライム……。
「……このスライムで薬草育てたらどうなんのかな」
「えっ……すごい薬草になる?」
気になっちまったらしょうがない。やってみるっきゃないね。
「薬草を与えて蒸したスライムに薬草を植えたら効果の高い薬草ができた」
「おお……それはすごいな」
翌日。俺の手には、やたらと魔力量の多い薬草が!
成程ね。スライムを経由することで、より効果の高い薬草を生み出すことができる、ってことね。なんか抽出機の類っぽくて面白いなあこれ。
「……限界はどこにあるんだろう」
「えっ?」
「薬草を与えたスライムに植えた薬草を与えたスライムに植えた薬草って、もっと効果が高いんじゃないか……?」
「えっ何て言ったのアスマ様」
うん。やっぱり、この抽出が無限のものなのか、それともどこかに壁があるのか……気になるよな?うん。気になる気になる。そして気になっちゃったなら俺はやるぜやるぜやるぜ。
更に翌日。
「薬草を与えたスライムに植えた薬草を与えたスライムに植えた薬草はやっぱり効果が高かった。従来の薬草と比較して、3倍とはいかずとも、2倍くらいは効果が高い!うおおおおおおお!浪漫!」
俺は、成功しちまった実験成果を手に、雄叫びを上げていた。そしてそんな俺を、通りがかった冒険者達が『元気だな!』とにこにこ眺めていた。いやーこの村はいいところだなあ。
「これを使ったら、世界樹のポーションに迫るようなポーションが作れちゃうかもね……」
「まあ、完全な互換品になるとは思えないけどね……。世界樹の魔力はちょっと特殊だし……」
ミシシアさんはびっくりしつつも楽しんでくれているようで、魔力濃縮薬草をつついては『ほわあ……』と目を輝かせている。世界樹を守るエルフとしては、世界樹の代替品っぽいものができちゃうことになんか忌避感とかあるかな、とちょっと心配していたんだが、そんなのは無さそうでよかったぜ。
「これは薬草に限らず起こるものか?或いは、薬草の魔力をトマトに与えることができる、というようなことは?」
「あるかも。まあ、元々その植物が持っている魔力じゃないと、上手く定着しないかもしれないけどね。まあ、折角だし実験しておくかぁ……」
リーザスさんとしても、今回の実験結果にはワクワクしてくれているようで何より。やっぱり気になるよね!こう、スライムがポーションになることで色々な可能性が生じてきているから……これは革命だ!スライム式魔力抽出法によって、この世界の技術界に革命が起きている!多分!
「ということは、薬草を与えたスライムに植えた薬草を与えたスライムに植えた薬草を与えたスライムに植えた薬草は更に……」
「アスマ様!キリが無くなっちゃうよ!」
この技術の行き着く先を見てみたい!うおおおお!俺はやるぜ!俺はやるぜ!
「すごい薬草ができちゃった」
「……元々すごかったがなあ」
……そうして、すごい薬草ができてしまった。魔力濃度は実に、元の薬草の4倍にまで到達。が、ここらへんが限界らしく、これ以上は濃縮できないっぽい。
「過剰にすごい薬草って、どうしていいのか分かんないね」
「とりあえず活けとく?花瓶あるよ!」
「そうだなあ、活けるかぁー」
できちまったもんはしょうがねえ。とりあえず青白磁の花瓶に活けておくことにする。いそいそ……。
「……まあ、ポーションにしておくのが妥当かな」
「そうだねえ。勿体ない気もするけれど、ずっと活けておくわけにもいかないし、捨てちゃうのはもっと勿体ないもんねえ……」
……まあ、一頻り飾って満足したら、後でポーションにしておこう。多分、これまたすごいポーションができちまうが……このポーションは、今の状態で既に、ダンジョンパワーを使わずとも生み出せるようになったものだ。スライムと薬草と蒸し風呂があればできちまう。
となると……俺が帰った後も、この村で生産できるってことで……まあ、流通させることも視野に入れた方がいいかもしれないね。色々調べてからにはなると思うけども。
それから、『この濃縮法を使えば色々できるんじゃないか?』ということで、一応、これもラペレシアナ様に報告すべく手紙を出した。ちゃんとレポートまとめたぜ。大学生にとっては朝飯前だぜ。つまりそれは『夜から掛かって朝飯の前に終わります』ぐらいの意味だぜ!
……そうしてうっかり徹夜した俺は、その日、昼過ぎまでぐうぐう眠ってしまい、いつのまにやらスライムに群がられてもっちりもっちりやられていたりもしたのだが、まあ、それからもスライム濃縮法の研究は続けて……。
……そして、レポートを出してから、1週間後。
「すまない!例のポーションを買い取りたいのだが、アスマ様はおられるかー!」
「へ?」
バイクの音もけたたましくやってきたのは、顔見知りの騎士であった。えーと、王立第三騎士団の人。スライム好きみたいで、王都の実験農場のスーパークソデカスライムのお世話とかよくしてくれてるし、そのついでにスライムに埋もれまくってる人だ。
「例のポーション、というと……ラペレシアナ様にお伝えした奴ですか?」
「ああ。高性能で、ごく少量でも傷を瞬時に治すポーションができたということで……可能な限り、買い取りたい。これがラペレシアナ様からの書状だ。確認してほしい」
更に、バイクから降りてきてすぐ、ラペレシアナ様直筆の書状を出してきたもんで、こりゃいよいよ何かあったんだな、多分。
ラペレシアナ様ご自身がこっちに来るわけじゃなくて、直筆書状を俺とも顔見知りの騎士に持たせてきた、ってことは……いよいよ急ぎの用事っぽいぞ、これ。
一旦、騎士さんにはダンジョン前受付の奥の応接室に来てもらった。ポーションが欲しいって言われてもね。どういう事情なのか分からんことには、何をどこまで出せばいいのかもわからないからね。
「それで、一体どういったご事情ですの?」
で、ちょっとヤバそうな話の気配を感じ取った俺は、すぐエデレさんにも来てもらった。同時に、有識者枠でリーザスさん、そして何かやべえ話が出てきた時、俺と一緒に『キャーッ!』ってやる係のミシシアさんにも同席してもらって、騎士さんの話を聞く。
すると。
「くれぐれも、内密に頼む。……どうも、近々大量にポーションが必要になりかねない状況らしい」
……なんか、そんな話が出てきた。
当然、俺達は緊張する。特に、エデレさんが。
「……戦争、ですか?」
……思う所が誰よりもあるだろうエデレさんがそう言うと、騎士さんは困った顔で、『内密に頼む』とまた念押しして……言った。
「どうも……近々、内紛が起こりそうでな」
……その内紛はどこから?第二王子から?それとも教会から?
2章終了です。3章開始は9月19日(金)20時20分を予定しております。




