祝福あれ*6
「成程ね。祝福が掛かってクソデカになったクソデカスライムに更なる祝福を掛けると、スーパークソデカスライムになっちゃうのね」
はい。家サイズのスーパークソデカスライムであるが、『クソデカスライムに祝福を重ね掛けして貰ったらこうなった』のである。
「ラディッシュは……うおおおおお大きな蕪!これは大きな蕪じゃないか!」
そして、スライムの巨大化に伴って、ラディッシュもデカくなっていた。うーん、これはもうファンタジー!
「嬉しそうだねアスマ様」
そりゃあね!『おおきなかぶ』を見てテンション上がる日本人は多いでしょうよ!だって『おおきなかぶ』だぞ!『おおきなかぶ!』
「うーん……どうしたもんかな。こいつはちょっと、引っこ抜くのに骨が折れそうだぞ」
「じゃあ皆で協力して引っ張ろう!掛け声は『うんとこしょ、どっこいしょ』でいこう!」
「アスマ様なんでそんなに嬉しそうなの?」
そりゃあ大きな蕪だから!大きな蕪だから!そりゃあテンションも上がるってもんだぜーッ!ヒャッハーッ!!
ということで、俺達はスーパークソデカスライムの大きな蕪を引っこ抜いた。『うんとこしょ、どっこいしょ』もできた。ありがとう皆。俺、絶対に叶うはずがなかった夢が叶っちまったよ。
「味は……どうなんだろうなー、これ。大きくなると固くなっちゃって美味しくないってのが往々にしてよくあるやつだけど……」
「この大きさだと気軽に味見できないね。うーん……とりあえず捌いてみる?」
「そうだね。やっちまうか。うーん、蕪を捌くという初体験……」
そして俺は大きな蕪を引っこ抜くという経験に次いで、大きな蕪を解体するという経験も積むことができた。えーと、リーザスさんから貰ったチタンのナイフ。あれでがんばった。
リーザスさんが途中で、『俺の剣でやるか?この蕪はそういう大きさだと思うが……』っておろおろしてたけど、俺は何としてもこのナイフを使ってみたかったし自力で蕪を捌いてみたかったので、がんばった。
結果、蕪は10~20㎝角くらいのブロックに切り分けられたというわけだ。……なんなんだこれ!蕪のブロックって、何!?これ、何!?
「あっ、美味しい!すごく美味しいよこれ!」
ミシシアさんが早速、比較的小さめのブロックを丸齧りし始めたので、俺もそれに倣って丸齧る。
「どれどれ……うわーっ、本当に美味しいのは美味しい!」
そしてこの衝撃!
蕪のきめ細やかな肉質はそのまま、柔らかさと適度なシャキシャキした歯ごたえ!瑞々しさたっぷりで、甘みが強く、濃厚な味わいの……蕪である!
この、瑞々しくありながらクリーミーなまでの味わい!すごく美味いことは確かだ!確かなんだけど、これどうしたらいいんだろうね!困ったなこりゃ!
「……で、どうしようか、これ」
そうなんだよ。滅茶苦茶美味いんだけど、デカいんだよこの蕪。
デカすぎる蕪は処理に困る。これ、俺達が頑張って食べ切るには……デカすぎるよ。うん。
「……まあ、王都の金鉱ダンジョンに持って行けば、すぐに無くなるだろう」
「そっかー。じゃあ炊き出しにでもしてもらうかぁ……」
蕪、煮込んでも美味いからいいよなあ。俺、蕪のポトフとか好きだよ。鶏肉も入れてほしい。
……ということで、大きな蕪は王都ダンジョンに持って行って引き取ってもらうことにした。蕪ブロックを大量に積んだ荷馬車が揺れるぜ。どなどなどーなーどーなー……。
で、蕪はいい。蕪はいいんだが……まだ、処理に困っているものがある!
「このスーパークソデカスライムはどうしよう」
「この大きさだと連れて帰れないよねえ……」
そう!このスーパークソデカスライム!スーパーにクソデカいせいで、もうこいつ、どうしようもないのである!
「ちなみに俺は、こいつがどこまでデカくなれるか、興味がある……!」
「これ以上大きくなっちゃったら大変だよアスマ様ぁ!」
うん。まあ分かるよ。スライムってパニス村じゃあもう既にペット兼クッション兼畑、みたいな扱いを受けてるけど、王都じゃまだまだ、魔物扱いだろうしなあ。
パニス村が観光名所として有名になっていくにつれ、無害スライムの噂も広まっていくとは思うが……それでもね、家サイズのスライムがもっちもっち動いてたらやっぱ怖いでしょ流石に。
「……ってことで、お前ちょっと小さくなれない?」
まあ、まずは本人から……ということで、スーパークソデカスライムに話しかけてみたんだが、残念ながら、もよん、と大きく波打っただけであった。小さくなる気は無いらしい。ガッデム。
「切り分ける……のはかわいそうだよなあ」
「アスマ様。その……可哀想と言う割には、植物を植えている訳なんだが……それはいいのか?」
「うん。それはまあ、かわいそうだけど、本人は気にしてないみたいだし、何より、ちょっとかわいそかわいいので……」
スライムを畑にすることについては、まあ、WIN-WINの関係になれると思うので、それはスライムには諦めてもらいたい。が、流石に切り分けるってのはね……どうなんだろ、切り分けたら、スーパークソデカなスライム1匹が、小さいスライムいっぱいになる……?それなら切ってみてもいいけどさ……。
「あー、聖女サティ。こいつを小さくすることって、できたり……します?」
「わ、わかんないです……」
「だよなあー……」
そして、生産元に聞いてみても分かりません、と。まあそうだろうなあ。
聖女サティ自身も、『祝福』の仕様は分かってないっぽいんだよな。まあ、スライムに祝福かけたこと無かっただろうし、そりゃそうなんだけど……。
……この、『そういうものだから』ってところで止まっちまっている部分をどうにかしないといけない訳だから、聖女サティにも『祝福』ってどんなかんじなのか聞いてみたいところではある。
あるんだが……うーん。
「……昼寝してから考えるかぁ」
「そうだね!丁度いいぽよぽよだし!サティちゃんも一緒にお昼寝しよう!ね!」
「いいの?」
「いいのいいの!ほら、寝ちゃおう!ぽよーん!」
まずはこのスーパークソデカスライムを堪能してからにしよう。いやあー、いいねこのぽよぽよ加減。デカくてもよんもよんで最高じゃん。よしオヤスミ!
そして俺達は起きた。起きたらおやつにラディッシュを齧りつつ……さて。
「……いくつか仮説を立てた。かなり飛躍する仮説もあるし、根拠が『ダンジョンの主としての勘』とかのもあるから、話半分に聞いてほしいんだけど」
俺達はスーパークソデカスライムの上で会議を開くことにした。いや、だってこいつ座り心地いいんだもん……。
「スライムが凶暴化する理由は、魔力不足と見た」
「そうなの!?」
「うん、まあ、仮説だけど。……魔力が潤沢に与えられていて、のんびりむっちり成長できる環境であれば、スライムは温厚で人を襲わない。襲う必要が無いから」
「成程な……。必要があるからこそ、人を襲う、と。そういう訳か」
うん。まずは、そこから考えた。
……パニス村以外の場所で、スライムが凶暴だったりなんだりする理由。それはやっぱり、『必要だから』だと思うんだよな。
生物ってのは、必要だからその姿になる。必要だから毒を持ち、牙を持つ訳で……そう考えると、『戦う必要が無い環境では無武装スライムができる』っていうのは、理に適ってはいると思うんだよな。
「で……温厚なスライムは、頭に野菜が植わってても気にしない!」
「気にしなくても死なないからだろうなあ」
「そして、より死ぬ危険が少ないスライム……つまり、よりデカくなったスライムは、より温厚で、より野菜を気にしない!」
「今も私達が上に乗ってても気にしないもんねえ」
うん。よくよく考えたら、自分の上で他の生き物が寝ていても気にしないってとんでもねえ温厚っぷりだな……。
「……そして、スライムがデカくなる理由の1つに、魔力の大量摂取があるっぽい」
それから、こっち。スライムがデカくなるのは、魔力の大量摂取。ここまではパニス村でも分かってたんだよな。何せ、パニス村でもクソデカスライムは時々発生しちまってたので……。
「聖女様の『祝福』がどういう仕組みなのかは、もうね……パニス村に来てもらって、分解吸収再構築込みで調べてみないと分からんと思う。でも、魔力が添加されてることは間違いない訳だと思うんだよね……」
……まあ、どんな魔力分子が発生しているのかはこれから解明したいところだ。
ついでに、『なんで』魔力分子が生まれるのか、っていう……つまるところ、『なんでこの世界の人達はファンタジーパワーを操れるんですか!?』っていう根本的なところも、解明してえなあ。解明してえよぉ……だって訳わかんなすぎるもん……。
「ってことで、早い内に聖女サティをパニス村へご招待したいね」
「成程な……聖女様をパニス村へお連れする、となると……まあ、ラペレシアナ様に掛け合ってみるしか無いか」
「ラペレも一緒に来たらいいんじゃない?ね!ね!そうしよ!」
ミシシアさんが大層フレンドリーでラフなご意見を出している訳だが、まあ、ラペレシアナ様、滅茶苦茶忙しいと思うし。うん……聖女サティも、あんまりあちこち動かすと政治的な問題になる可能性がある訳だしなあ。うーん。
まあ、そこは後で相談、ってことで……。
で、最後に……生まれてしまった疑問をだな、解消するしかねえんだけど……これは検証も難しいから、ちょっとアレなんだけど……。
「スライムは魔力が多いと嬉しい。魔力と水から生まれて、魔力と水で育つ訳だから、多分、魔力と水で生命維持もしているんだと思う。だから魔力が多いと嬉しいんだと思う」
「うん。分かるよ。この子達、アスマ様がお水あげると嬉しそうだもん!」
あ、そうなの?嬉しそう?……俺、未だにスライムが何考えてるのかよく分かんないからなあ。『なんか嬉しそうな気がする』とか『なんか不満げである』とか、そういうの雰囲気で分かることもあるけどさあ……。
「……そして、不足があったらそれを補うために生き物が形や生き方を変えるのだとすると……こう、1つのデカすぎる疑問にブチ当たるんだけどさあ……」
スライムのご機嫌はともかく、スライムは魔力を必要としていて、スライムは魔力を得るために活動していて……とすると、やっぱり、こう考えざるを得ないんだよ。
「……スライムが凶暴化しているような場所……例えば、他のダンジョン、って……魔力が少ない可能性があるんだよね」




