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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第二章:ダンジョンは国を平和にした!
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祝福あれ*5

「なんでスライム、デカくなっちゃったん……?」

 俺の頭の中で『どうして……』という言葉が浮かんでいるが、答えは無い。クソデカスライムはもよんもよんと揺れているばかりである。

「アスマ様ー!ラディッシュ、実ってるよー!」

「そっかー、うん、まあ、ミシシアさん適応が早いね!」

「森の民だからね!」

 森の民ってこういう状況への適応早いの?絶対になんか違う気がするけどミシシアさんがそう言うならそうなのかなあ。うーん、そうじゃない気がするなあ。


 まあ、俺も割と適応が早いんで、クソデカスライムがクソデカいことについては諦めた。もうお前は好きなようにデカくなれよ。うん。大きいことは良いことだと申しますしね……。

「ラディッシュはもう収穫できる状態か。えーと、ちょっとデカいけど」

「スライム程じゃないけど、大きくなったね!」

 早速、クソデカスライムの頭のてっぺんによじ登ってラディッシュを引っこ抜いてみると、二十日大根と言うにはちょっとデカいラディッシュが出てきた。おおー。

「聖女の『祝福』には、作物をデカくする効果がある、と……?」

「そうなんじゃない?大きいといっぱい食べられて嬉しいし!」

 うん、まあ、そうなんだけどね。作物の収穫量を上げたいんだったら、手っ取り早いのは単純に作物自体をデカくすることだもんね。

 特に、本来はこれ、品種改良も碌にされてない作物に作用するわけだからね……そうしたら『丁度いい』かんじになる、ってことなんじゃねえかな。うん。

 逆に言うと、『祝福』があれば品種改良もしていないような作物が現代日本の作物並みの大きさに育つ訳だから、この世界で品種改良が進まなかった理由はソレだろうなあ。必要は発明の母。必要が無いところに発明は生まれず。それはそう。

「アスマ様!このラディッシュ美味しいよ!パニス村の野菜に負けないくらい!」

「そっかー、まあ、そういうことならやっぱり『祝福』の効果は伊達じゃないってことかぁ……」

 尚、ミシシアさんが早速食べてくれたので、味の良さも証明された。成程なー。これはスライム以外で栽培したラディッシュとも比較してみたい。……残ってるといいなあ。


 さて。クソデカスライムの観察はそんなもんとして……問題は畑だ。

「他の畑は……普通だねえ」

「発芽した種もあるけど、まあ、一応は普通の範囲内……かな。うーん、もうちょいN数増やせばよかったか」

 畑は、祝福を受けた畑とそうじゃない畑とで、有意に差が出ているとは言えない状態だ。まあ、まだ実験開始1日目だからね……。

 発芽率とかにバフが掛かるんじゃねえかな、という予想はしてるので、そこのところは後々ちゃんと検証したいところではある。が、それも精々、5日後とかだろうなあ。

「その、アスマ様。畑が普通となると、やはりスライムが異常、ということになる、のか……?」

「まあそれは間違いないと思うよ。スライムに作物を植えると効率よく魔力供給できちゃうとか、スライム自体が何かしてるとか……色々考えられることはあるけどね」

 リーザスさんの言う通り、やっぱりスライム農法はかなり特殊なんだろうなあ。そういえばこれ、パニス村以外での初めてのスライム農法の成功例だ。貴重だね。

「えーと……やっぱり、スライム農法の謎は解き明かしたいところだなあ。聖女の祝福にも対応できてる、ってことになると……いやー、これやっぱり、パニス村の肥料が聖女の祝福と概ね同じってことかなあ……どうなんだろ……」

 色々と考えられることはあるんだが、まあ、まだどれも仮説すら立てられる状況に無いからなあ。少しずつ色々試して考えていくしかないんだろうが……。


「パニス村でも、スライムがおっきくなっちゃったこと、あったよね?」

「うん。侵入者を撃退した直後だったっけ。それからは、なんか魔力を大量摂取したよくばりスライムがデカくなってるか、魔力が大量にある水辺でクソデカスライムが自然発生するか、そのどっちかっぽいことが判明したけど……」

 クソデカスライムについては、パニス村でもいくらか例がある。俺が『落とし物捜索サービス』で使ってるのもクソデカスライムだし。ジェネリック君も光るだけで、元はただのクソデカスライムだったし。

 それらの例から考えてみても……今回、このスライムがクソデカ化した理由は、『魔力を大量に得たから』だと思うんだよな。


 そもそもパニス村でスライムが発生する原理を、俺は詳しく知らない。何せ、ダンジョンで意図的に生産してるわけじゃないからな。

 ただ、スライムという魔物はどうも、魔力の多い水辺で生まれやすいらしく……それでダンジョンという魔力たっぷりスポットの近くの水場では、なんかスライムが勝手に生まれてるっぽい、という、ただそれだけでしかない。

 が、逆に言うと、『水と魔力があるとスライムが生まれるっぽい』ということである。

 もうちょっと言えば、『スライムとは、水と魔力でできている産物である』と言える訳だ。

 ……『水と魔力があれば、スライムはクソデカ化する』と考えられる。いや、生き物が発生するのと、その生き物がデカくなるのは本来ならば違う話なんだけども、スライムにおいては……こう、それ、十分ありそうじゃない?だってこいつら、脳味噌はおろか、内臓の類も無いような、全身ただのぷるぷるだし……。


 ということで、スライムがデカくなるのは魔力がいっぱいあったからだ、と考えられる。

 で、問題は、その魔力がスライムがデカくなるのに使われるのか、作物が急速成長するのに使われるのかの違いってどこにあるの?という点である。

 ここを制御できれば、なんか色々捗りそうな……いや、そもそも、なんで『祝福』だとそこができずに、作物よりスライムのクソデカ化にいっちゃうんだろうか……。

 ……まあ、色々試していったらもうちょい分かる、だろうか。分かるといいな……。




 まあ、何はともあれ、10日後。

 結局俺達はその間、パニス村へ帰らなかった。そりゃそうだよ。1日でスライムがクソデカスライム化するというとんでもねえハプニングが起きてるからな。下手に放置したらスライムが王城並みにデカくなっちゃったりするかもしれないし……。

 が、そんな俺達の心配を他所に、スライム達はもっちりもっちり、相変わらず何考えてるのかよく分からん調子でのんびりと過ごし、スライムの頭の上ではラディッシュが毎日収穫できるくらいによく育ち、そして、10日もする頃には畑でもちゃんとラディッシュが生えてきていて……。


「わあー!おっきいスライム!」

 ……そうして、様子を見にやってきた聖女サティは、パーッ!と表情を明るくして、クソデカスライムに近付いていくと……はた、と気づいて、もじもじしながら俺達の方を向いた。

「……つっついても、いいですか?」

「どうぞ!全身でいっちゃってください!」

 やっぱりね!やっぱり、聖女サティはこのクソデカスライムがお気に召したようで!まあそりゃそうだね!大きいことは良いことだって言うからね!言わんか!?

「埋もれると気持ちいいよー!私はもう埋もれちゃうね!サティちゃんもどうぞー!」

 もじもじ遠慮がちな聖女サティに先立って、一番槍はミシシアさんである。ミシシアさんは遠慮の欠片もない具合にクソデカスライムに抱き着いてみせた。クソデカスライムは、うにょ、としつつ、特に抵抗する様子が無い。温厚である。いや、何も考えてないだけかもしれないけど。

「……わあ」

 そして、聖女サティはにこにこしながらミシシアさんに続いて、もにょ、と、クソデカスライムに抱き着いた。全身がぷよぷよもよもよにくっつく感覚、まあ、悪くないよね。俺も既に数度、クソデカスライムやただのスライムの群れにダイブしているからよく分かるぜ。

「いいでしょ!このスライム、いいでしょ!」

「うん。……えへへ」

 聖女サティもこれにはにっこり。俺達もそれを見てにっこり。

 ……スライムがクソデカ化するのは、こうやって子供を喜ばせるためなのかもしれない。俺はなんか悟りを開いた。




 さて。

「じゃあ、聖女サティにはこのA2とB2とC2とD2の畑にそれぞれ祝福をお願いしたく……あ、あと、こっちの何も植えてないスライムと、何も植えてないクソデカスライム、そして種植えたスライムと、種植えたクソデカスライムにも……」

「はい!『この地に幸いあれ!』『このスライムに幸いあれー!』」

 一頻りスライムにくっついて楽しんだら、その後は実験再開である。

 これで畑は、祝福のタイミングや方法違いで8通りできたことになる。土壌の違いでもう3通りあるが、そっちはそっちとして……あと、今回は作物を植えていないスライムにも祝福を掛けてもらって、様子を見ることにした。こいつらのクソデカ化の謎は解きたい。なんとなく。

 幸いなことに、聖女サティは本来畑に対して使う『祝福』をスライムに対して使うということに、微塵も疑問を覚えなくなってくれたらしい。こういうところ、子供ならではの柔軟性があっていいよね……。

 ……よく考えたら、パニス村の人達、スライムに作物を植えて収穫するというよく分からん状況に、よくぞあのスピードで適応してくれたよな。あの村の人達、滅茶苦茶に柔軟じゃない……?柔軟な人達がいっぱいいる村だからこそ、もっちりやわらかなスライムが沢山生まれる……?いや、そこに相関は無いよね……?




 ちょっと悩んで悟りを開きかけたがそれは置いておいて、現時点での実験の結果を見てみよう。

「えーと……まず、種を蒔いてから祝福を掛けてもらった方がいいかんじはする。あと、水に祝福を掛けてもらって、それを畑に撒くと、まあまあ効果が出るっぽい。そして、いずれにせよ、どんな形であっても祝福が関わった畑は、祝福全く無しの畑と比べて間違いなく作物の生育状況が良好」

 ……ひとまず、結論が出たとするとそんなところだな。


 最初に、分かってたことではあるが……『祝福』は、無いのとあるのとではかなり差が出る。祝福無しの畑は未だに、やっと本葉が出てきたか、くらいなんだけど、種蒔き後祝福の畑Aでは、既に収穫できるくらいにまでの生育が見られる。

 一方、種蒔き後祝福の畑Aと、祝福後種蒔きの畑Bとでは、Aの方が生育状況がよろしい。

 なんだろね。『祝福』が種自体に働きかけたと考えるのが妥当だろうか。……これは追加で、『畑には一切触れず、種にだけ祝福を掛けたパターン』も試してみたいね。


 それから、水に『祝福』を掛けてもらって、それを無祝福の畑に撒いたパターン。

 こちらは、生育状況がBより更に劣るかんじである。

 なんだろうなー、やっぱり、あんまり間接的にしちゃうと『祝福』が作物に効きにくくなるってことなのかもしれないな。

 が、それでも無祝福の畑とは比べ物にならないくらいには成長しているので、やっぱり祝福の効果はデカいのであった。


 そして、土壌の違いについては……パニス村の腐葉土を持ってきて混ぜ込んだ土が、滅茶苦茶よろしかった。王都の肥料の畑より、ずっとよろしい。つまるところ、今回実験した中で最も生育がよろしかった畑がこれである。

 ……次点で、パニス村ダンジョンの宝石を砕いて混ぜ込んだ土、だろうか。これも王都の肥料の畑よりはよろしいかんじなので、やっぱり魔力……魔力は全てをなんかよく分からないかんじに解決する……。


 ……で、畑じゃないけどスライム。

 スライムはもう、言わずもがなである。今回の『畑』では、パニス村腐葉土入りの畑Eが一番よろしかったが、『畑』じゃなくてもいいんだったらもうスライムがダントツである。

 作物の成長は圧倒的に早く、そして、採れた作物は品質がよろしい。困った。これは畑が勝てない!

 なんなんだこのスライムっていうよく分からないブツは!畑より畑してる生き物なんて、存在していいのか!?まあ存在しちゃってるんだけどさ!




 ということで、『スライムが分からん』という結論に至りつつ、なんとなく、ちょっとずつ法則が見い出せてきたような、そうでもないような。

 ……まあ、祝福はできる限り、対象に直接掛けた方がいいんだろうね、というところかな。今後はその仮説に従って実験を繰り返すことになると思うが……。

「祝福の二度掛けについては、これから結果が出ると思うからそっちを見てみないと分からんね」

「あー、今日、もっかい掛けてもらった畑だよね?楽しみだねえ、アスマ様!」

 まあ、まだまだ実験は始まったばかりなのである。『祝福』の謎を解き明かすことができれば万々歳だが、完璧にそれができなくとも、まあ、この世界の基礎研究の端っこくらいにはなるだろうから……。ま、頑張るしかないね。




 が、そんな時。


「わあー!スライムが!スライムがー!」

 聖女サティの声が聞こえて、俺はすぐさまそっちへ駆ける。……すると、そこには。


 ……家サイズのスーパークソデカスライムが居た。

 うーん、祝福あれ。

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― 新着の感想 ―
おおきいー ことは いいことだー でっかいー ことは いいことだー でも名前が長すぎるから、SKDSと略しようか。
スーパークソデカスライム、どうやって連れて帰るんだろう… 馬車に無理やり押し込んで、ミュンッてはみ出た状態で無理やり??
スライム農法だと土付かないからそのまま食え……スライム汁!
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