馬車への道*6
「やっぱりうちも魔物特化にすべきかなあ……」
「えっ!?スライム増やすの!?」
「うんやっぱりやめとくわ」
……まあ、ちょっと考えてすぐ、『魔物特化型ダンジョンはうちには合わないな』と結論を出した。
だってうち、現状、スライムしかいないし。
……多分、ここも含めて魔物特化型ダンジョンって、ダンジョンができる前から既に魔物が居たとか、そういう環境だったんじゃねえかな、と思う。
じゃないと、最初期の分解吸収再構築ができねえから。……そして、できないままダンジョン運営してると、魔物特化型じゃない方向に向かって伸びていっちゃうから……。
「……まあ、パニス村には怪我をして引退を考えてた冒険者とかも来てくれてるわけだし。魔物特化型に今更移行するってのは、なんか嫌だよなあ」
「そっかー。うん、まあ、そうだよね」
「元々負傷していた俺としては、そう言ってもらえるとありがたいな」
……うん。パニス村は既に、パニス村として出来上がってるし、ここを今更バランス崩すようなことはしたくないよな。
魔物が出ないダンジョンには、魔物が出ないダンジョンとしての魅力がある。そして、それに伴ってパニス村のように村づくりを巻き込んでダンジョンを発展させていくことだってできるわけなので……まあ、うちでは魔物特化型にはしない。そういうことになる。
「でもペガサスだけでもやっぱり飼わない?飼わない?ねー」
「そもそも居ないからなあペガサス」
……ミシシアさんはちょっとだけしょんぼりしていたが。ペガサス……うーん、まあ、空飛ぶ馬はちょっと気になるけども。でもまあ、ここは空飛ぶ毛玉ことミューミャで我慢しておいてもらう、ということで……。
さて。
そうして俺達はダンジョンを出た。まあ魔物は2匹見られたし。色々と知見は広がったし。余計にうちのスライムをかわいがろうという気持ちにもなれたことだし……。
「……まあ、ちょっと対抗意識は燃えてきたなあ」
何より、『俺はこっちの道を行くぜ!』の気持ちになってきた。俺のビルドが最強だってことを証明したい気持ちというか。うん。
「魔物特化型ダンジョンよりも、図書館人口マシマシ温泉観光絡め型の方が優れてるってことを証明してやるぜ!」
「うん!よく分からないけどその意気だよアスマ様!」
折角、魔物特化型じゃないダンジョンを作ってるんだし。隣の芝生がグリーングリーンズだったとしても、その分俺の芝生をより青く輝かせる方針でいきたい。
「さて、そうと決まればやっぱり馬車だ馬車。量産できるように、パニス村の生産体制を整えないとなあ」
「馬は生産しようがないよアスマ様」
「そうだ。だったら馬型の魔物を増やすというのはどうだ?」
「ウワーッ!やっぱり襲い来る魔物特化型ダンジョンの魅力ーッ!」
……まあ、悩むことは多い訳だが。それでも今日、このダンジョンを見に来られてよかったなあと思うし、今日学んだことを生かしてパニス村のより良い暮らしと魔力量を確保するぞ、というやる気も出てきたことだし……。うん。
よし。がんばるぞ。
そうして俺達は帰路についた。あんまり揺れない馬車は快適である。やっぱり流石に、多少は『ガゴンッ』となることもあるんだが、それもそう多くない。乗り心地としては、概ね、電車。
「これを量産できれば物流の問題も解決……馬さえあれば!」
「次は馬だねえ」
うん……快適な馬車の旅なんだが、やっぱりボトルネックは現状、馬なのよ。
馬、なのよ……。
「馬って、どうやって増やせばいいの?」
「えっ、買ってくるのが一番早いと思うよ?ラークの町でも、ある程度は売ってると思うし」
まず、馬の入手方法についてはそれが確実、と。まあ、買ってきて済むんだったらそうしたいよな。品質も保証してもらえるだろうし。ラークの町とは今後も仲良くやっていきたいし。
「……だが、馬は高価だからなあ」
「そっかぁー」
……同時に、馬を何頭買えるだろう、という疑問もある。
馬って、まあ、育てるまでにかなりのコストがかかるし、育ってからもランニングコストがかかる。とにかく、コストがかかる。この世界における車だからな。そりゃ高いんだけどさ。
「となると、いよいよ本当に馬型魔物が必要になるかもしれない……いっそミューミャにやらせてみるか!」
「ダメだと思うよアスマ様。ミューミャは時々飛ぶのが仕事みたいなものであって、馬車に繋がれたら飛べなくなってミューミュー鳴くだけになっちゃうと思うよ」
「そっかぁー」
まあ、何でもかんでもミューミャに頼るってのは確かによくない。適材適所ってもんがある。適所にこそ適材を置いてやりたいものである。
「……馬、どうしようかなあ」
「スライムに牽かせる?」
「絶対遅いだろそれ……」
俺の頭の中で、スライムが『もっちりもっちり……』と実にのんびり馬車を牽くイメージが浮かんだが、どう考えても遅い。あいつら、スピードというものに縁遠い生き物だからなあ……。
「……作るかぁ」
「馬を!?えっ!?作れるの!?アスマ様、馬作れるの!?」
「いや、馬っていうか、馬に代わって荷車を牽ける何かを」
俺達はパニス村に帰ってきた。アイムホォオオオム!
「おお、今日も元気だなお前ら」
パニス村に到着するや否や、スライム達の歓待を受けた。……最近、スライム達は村の出入り口付近に屯して、村へやってきた人達を出迎える、ということをやっている。時々もっちりもっちりと囲んでくれる。やめて!動けないから!それはやめて!
「さて、早速作るか……チャリを」
さて。スライムを引っぺがした俺は、早速、チャリを作り始める。
……まずは、再構築だけでバーッと作っちゃう。もう、再現できるかとかは考えない。なのでタイヤは遠慮なくゴムチューブ。
「で、チャリを繋いで……」
そして、出来上がったチャリをミューミャ式浮遊馬車に繋ぐ。
……そして。
「牽く……あっ!ガキのボディだとそもそもチャリに乗れねえ!」
「何やってるのアスマ様ぁ」
「あああああああんんもおおおおおおお!」
できあがったチャリなのに!乗れない!乗れないんだけど!何この小学生ボディ!うおおおおん!
「えー……と、跨って、地面を蹴って進めばいいの?」
「ペダルを漕いでほしい」
「倒れちゃわない!?」
「倒れちゃわないから!漕ぎ続けてる間は倒れないから!」
ということで仕方がないのでミシシアさんをチャリに乗せた。実験よろしく。
ミシシアさんはなんか、チャリに乗れない小学生みたいなことを言っていたが、俺が『がんばれがんばれがんばれできるできるできる』と励ました結果、渋々チャリに乗ってくれた。
「……じゃあ、漕ぐからね」
「どうぞ!」
そしてミシシアさんが、チャリに跨り、地面を蹴って……その勢いのまま、ペダルを漕ぎ始めた。
……そして。
「おおおおおおおお!動いてる!十分に牽引できてる!」
「アスマ様!これ、重い!重いよ!」
「あああああ、荷車の方を軽量化しないとダメかあ!でも、浮いてる分、車軸支えだけ軽量化できればいいんだもんな!便利ー!」
そう。
馬車を牽引するの……チャリでも十分なんだ。
何故なら、この荷車、車体本体が浮いてるおかげで滅茶苦茶軽いから!それを牽引するだけなら、チャリでもいける!
「わぁー!アスマ様アスマ様アスマ様!ちゃりって楽しいねえ!」
「うん。いいだろチャリ」
「うん!とってもいい!チャリ!」
そうして数分後、ミシシアさんはチャリの虜になっていた。これ、一人用の移動手段としてもいいかもな。馬と違って、生き物じゃないから水とか草とかが必要なわけじゃないし。
「ラペレにも見せてあげたいなあ!これ、騎士団で採用されないかなあ!」
「……それはなんかやだなあ」
チャリの騎士団っていうのは……あまりにも格好がつかないから、やだ!
さて。
「問題は、チャリを量産できるようにするか、はたまた、やっぱり馬の代替生物を考えた方がいいか、なんだよなあ……」
そうしてミシシアさんが『ちゃりんちゃりーん』と元気にベルを鳴らしつつパニス村を爆走している横で、俺は考える。
『自転車』というもの自体は、是非、流通させたいところではある。なんてったって、人間が自力で動く中では、かなり高効率で移動できる手段だし。
「ただ、ゴムチューブを作る技術は流石に無い……うーん」
だがやはり、ここがボトルネックだ。流石に無い素材を作るための設備を作るための素材を作るための設備を……みたいなところから始めたくねえ。
「となると車輪を鉄とかで作るしかないから、重い……いや、それではチャリの意味が無い……そもそもチャリ自体が『ががががががが』って揺れることになる……」
……だが、チャリの乗り心地は間違いなく担保したい。超揺れるチャリとか絶対に嫌だ。
「軽量化は……なんか『浮遊』で行けそうな気がするんだけど、でもやっぱりエアー入ってるタイヤじゃないと振動はどうにもならねえし……」
悩む。悩みまくる。超悩む。
悩む俺の横でミシシアさんがチャリを乗り回し、それに追い立てられてもよもよやってきたスライム達が俺の下に集まり、そして俺はスライム達によってもっちりもっちりと押しくらまんじゅうされ……。
「スライム……やわらか……弾力……」
……そして俺は、閃いた。
「スライムをタイヤの材料にすればよいのでは?」
「ダメだよアスマ様!かわいそうでしょ!スライムかわいそうでしょ!」
「うんそうだった」
閃いて一瞬で頓挫した。それはそう。スライムをタイヤにするなんてとんでもない!
また悩みが振出しに戻って『うごごごごご』とやっている俺の横で、ミシシアさんがチャリのスタンドを『がしょん』と立ててチャリを停めた。
「あの、アスマ様ぁ。スライムにも魔力があるんだよね?」
「うん?」
そして、ミシシアさんも一緒にスライムに押しくらまんじゅうされつつ、提案してくれた。
「『もっちりやわらか』な部分が欲しいんだったら、そういう『もっちりやわらかの魔力』みたいなの、分けてもらえないかなあ」
「……うん?」
……もっちりやわらかの魔力。
もっちりやわらかのまりょく。
なんだ、それは。
……俺は考えることを止めた。




