馬車への道*4
モンスターを生け捕りにして、或いは卵とかを持ち帰って、それを分解吸収再構築しまくればモンスターを増やし放題。
成程、そう考えると、他のダンジョンで魔物がわんさか出るってのも分かる気がするなあ。
俺が宝石とトラップを出すのを、魔物だとそれ1つで賄える。しかも、勝手に繁殖したらその分は丸儲けだし……。
……そう考えると、ダンジョンに魔物を出すのって、利に適ってるんじゃねえかなあ!?人間を阻む殺す誘き寄せる、その全てが魔物に任せられる!管理も細かく行う必要があんまり無い!少なくとも、俺のとこのトラップみたいに逐一作動させていく労力とかは必要ない!
そして、今回の馬車づくりで痛感したが……この世界、魔物の素材とそこにあるファンタジーパワーによって、生活が回ってる部分がそこそこある!となると、魔物の素材の価値ってのはそれなりにあって、魔物の素材の需要はそれなりに高くて……これで生計を立てられる程度に、冒険者の利益になる!
そしてダンジョンを保護する理由も分かった!そりゃそうだ!『無いと一部生活インフラが消える素材を生み出すダンジョン』とか、保護しない理由が無い!
「そっか!増やし放題!?しかも、すごい魔物作り放題!?じゃあペガサスとかドラゴンとか捕まえてこよ!」
「やめようミシシアさんやめようそういうのは!経済が死ぬ!死ぬよ!」
……まあ、今のところは、こう、ちょっと、保留で!
「えー……駄目かなあ」
「うん……いや、どう考えても、今の状況を見るに、ペガサスとかドラゴンとかを量産するとまずいと思うよ……」
ミシシアさんは『いいのでは?』みたいなこと考えてるらしいが、どう考えてもまずい。そりゃまずい。
「現状、ドラゴンとかペガサスの素材って、貴重だから高価、ってかんじなんだよね?」
「ああ、そうだな。貴族御用達、といった印象がある」
うん。だろうなあ。元王宮勤めのリーザスさんの証言ならまず間違いないだろ。うん。
「……ということは、現状、それらは『希少である理由』があると思う」
「数が少ない理由?」
「うん。もうちょっと言及すると……『他のダンジョンの主達が量産しない理由』があると思う」
ミシシアさんにどう説明したもんかなあ、と考えつつ、俺は、まあ、ざっと今考え得る可能性を列挙していくことにした。
「魔力をとんでもねえ量食うからそもそも量産できないとか、大量に出しちゃったら乱獲されて価値が落ちるから絞ってるとか、冒険者が入ってくる数のバランス調整が必要だから、とか、まあ、色々考えられるけど……まあ、現状、この均衡を保って世界が回ってるわけじゃん」
「うん」
「それが崩れるとなると、少なくとも、今あるダンジョンの主達は、全員、今までのやり方を変える必要が出てくる。下手すると、やっていけなくなるダンジョンも出てくる」
「うん……」
「ということで……俺が他のダンジョンの主の立場だったら、俺のダンジョンを滅ぼしに行くと思う」
……ざっと説明すると、ミシシアさんは『そっかぁ……怖いね!』と反応をくれた。
うん。まあね、経済を崩壊させるのは重罪だからね……。貨幣偽造が殺人より重い罪であることにも通じる概念だね……。
「ダンジョンのことを抜きにしても、今、ペガサスの羽とかドラゴンの革とか獲って生活してる冒険者がいるわけじゃん?となるとさあ……俺が大量にそれらを出して、価値が落ちちゃうと、その人達の生活って成り立たなくなっちゃうよね」
「ああー……それは困る、と思う。でも、いずれはそうなっていく、っていう面もあるんじゃないかな」
「まあ、技術の発展と特定の産業の衰退は、どうしても切っても切れない関係にあるね……」
電卓ができたことによって計算手の仕事は消えた。そういうのはいくらでもあるだろうね。
まあ、いずれは来る、避けられない運命であることは間違いないんだが……それをダンジョンパワーという、普遍的なものにするのが難しそうな手段によって実現しちゃうのはね、ちょっとね……。電卓が世界から消えた後、もう一回計算手を養成するのって、もう無理な気がするし。同じようなことが起きかねないからね……。
「そもそも、ペガサスならともかく、ドラゴンが居るダンジョンは……その出口すぐに村を構えることはできないだろうな……」
「あー……うん。ドラゴンが出てきた瞬間、村が滅びかねないのか……」
ドラゴンって……アレだろ?コモドドラゴンとかじゃないんだろ?多分、火とか吹くんだろ?そりゃ村の傍に置いとけねえわ。
「……うん。やっぱりドラゴンはまずいね!」
うん。やっぱりそういうのをダンジョンで飼うのはナシだよミシシアさん……。
「ま、まあ、とりあえず王都のダンジョンを見てみるか。中には誰でも入れるはずだからな。見学に来た、と言えば問題ないはずだ」
魔物のコピーはさておき、突撃隣のダンジョン。他のダンジョンがどんなふうにやってるのかはしっかり確認しておきたいからね。折角だし。
……ということでやってきました、王都ダンジョン。
「人が多い!」
「賑わってるねー!あっ!屋台出てる!何か食べてく?」
ダンジョン……だよね?ダンジョンだと、思うんだけどさ……ダンジョン前には屋台があるし、人で賑わってるし……。なんかこう、労働者達の憩いの場、みたいになっとる。なにこれぇ。
「言うなれば、ここは多くの労働者を抱える鉱山だからな。労働者向けに軽食を売る店もあるし、生活用品を売る店もあるぞ」
「あー、中に居住スペースもあるんだっけ」
「ああ。……環境が良いとは言えないが、最低限の寝泊まりはできる。そんな程度だ」
成程なあ。低所得帯にはありがたい、みたいなかんじかな。或いは寝泊まりにこだわりが全く無い人向けとか。
「アスマ様ー!リーザスさーん!買ってきたー!」
「おおお、マジで買ってきてる……」
……ミシシアさんが屋台の軽食を買ってきたらしいので、食べてからダンジョンには入ろうかな。
ちなみに軽食は概ねホットドッグみたいな奴だった。ソーセージをパンに挟んだやつ。うまい。
さて。
軽食も食ったところで、早速ダンジョンに入る。
ダンジョン前には受付があるので、そこでリーザスさんが3人分まとめて受付を済ませてくれた。
その様子を後ろから眺めさせてもらったところ、このダンジョン、『1か月以上、ダンジョンに居住する予定』『1週間から1か月、ダンジョンに居住する予定』『1週間未満、ダンジョンに居住する予定』『ダンジョン内に居住はしないが労働する』『観光』の5つの区分で受付をしているらしい。
それぞれ、支払う金額が違うっぽいな。そして当然かもしれないが、日割りにすると観光が一番金額が高い。まあ分かる。
「さて。早速行ってみるか」
「うん!」
そうして俺達3人は『観光』の札を首から下げつつ、ダンジョンの中へ。
「あー、ここから出る前に、鉱山の中で採掘できたものは全部売っていくかんじになるのか」
「そういうことになる。そのために王都はこのダンジョンを開放している訳だからな」
中に入ってすぐ、掘り出した鉱石の買い取り場所が見つかった。何人か、鉱石が入ってるらしい箱とか袋とか台車とかを手に、カウンター前に並んでる。
成程ねー。労働者としてここで働くことができて、出来高制でそこそこ実入り良く稼げて、そして、安宿も手に入る、と。……その環境を提供するために、入場料は取るよ、ということなんだろう。
入場料を払っちゃった以上は、元を取れるようにガンガン働きたいだろうし。そうやってガンガン働いて採掘作業をやってくれたら、その分作業が進んで王都側は嬉しい、と。そういうことらしい。そして鉱石が流出しないように、確実にここで買い取っていく、ということだな。うんうん。
「鉱石の買い取り額はこんなもん、と……。何気にこういうの、助かるなあ」
「そうか、アスマ様は物の値段をあまりご存じないんだったな……」
うん。未だにこの世界の『相場』ってもんが分かってないんだよなあ……。
特に、金銀の値段がどんなもんなのかは、ちゃんと知っておきたかったからね。メモっておいた。よしよし。
奥に進むと、如何にも『鉱山!』ってかんじになってきた。
つるはしの音が響き、崩された石が運び出され……。うん。実に鉱山。ダンジョンじゃなくて、鉱山。
「ダンジョンが労働の場として成り立ってると、こういう商売もできるんだなあ……」
「パニス村も似たようなものかもしれないよ?ダンジョンの恵みであるスライムで農業やってるし。温泉もダンジョンの力で湧いてるんでしょ?そういうのを元に働いてる人も多いじゃない?」
「あー……確かに」
パニス村と王都ダンジョンの一番の違いは、やっぱり『そこで働いてる人達が、ダンジョン外に居る認識か、ダンジョン内に居る認識か』ってところだろうなあ。
パニス村は村全体が一応、ダンジョンの範囲内なんだけれど、ほとんどの人は『ここはダンジョンの外』って認識で暮らしてると思う。
王都ダンジョンは1種類の労働に特化して運営してる。パニス村は村全体をダンジョンに巻き込んでるから、一点特化ってわけにはいかないが、その分、手広く伸びしろを残せてると思う。
……まあ、人間との共存ができるダンジョン運営、ってのは見てて参考になるね。
働いてる人達を観察していると、やっぱり冒険者達が多いけれど、引退したんだろうなあ、って人とかも多い。つまり、以前のリーザスさんみたいに、怪我か何かの後遺症があるんだろうね、ってかんじの人。
そういう人達の受け皿としても、王都ダンジョンは機能しているんだなあ。ダンジョンとしては多くの人を抱え込んでおきたいだろうし、まあ、需要と需要がマッチングしてるかんじがあるね。
……と、そんなかんじに見学していると、『新しい鉱脈が出たぞー!』と声が聞こえてきた。すると、わらわらと人がそっちに向かっていく。
「……鉱脈が新しく出た、っていうのは」
「そのままだな。『新しい』鉱脈が生まれたんだ。……ここはダンジョンだからな。掘りつくしたはずの個所に、再び金や銀が生じていることもあるんだ」
ああー……ダンジョンがダンジョンであるメリットを存分に生かしてるぜ。
ここ、多くの人達は労働の場として入場してるから、ダンジョンに敵対してない。その結果、多分、かなり近い距離にあっても分解吸収再構築はできちゃうんだろうなあ。だから金鉱脈、後から作り放題、と。
……いや、その金元素をどこから手に入れてんの?っていう疑問はあるが。うーん、まあ、ここで金銀を出してる以上、俺のところで出したら顰蹙だろうしなあ。俺達はあくまでも、必要な分を王都ダンジョンから買う、みたいなかんじに考えていった方がよさげ。
そうして一通り王都ダンジョンを見学し終わった。
「本当に安宿ってかんじだったね……」
「私はあそこでの寝泊まりはちょっとやだなあ……」
……ちょっと気になっていた居住スペースについては、こう、『寝台列車』ってかんじだった。個室に二段ベッドが4つくらい詰め込まれてるの。環境がいいとは言えねえよなあ……。
でも価格が滅茶苦茶安いので、鉱山でほんのちょっと働けば十分に眠るスペースは手に入る。となると、やっぱり需要はいっぱいあるんだろうなあ……。
「せめて温泉があったらいいと思うんだけどね……」
「水だったね……」
更に、水浴び場はあるんだが、水。お湯じゃなくて、水。……やっぱり、居住環境としてはかなり最低限なかんじだなあ。その分、省エネなんだろうし、この環境に耐えられる人がずっと居つけるようになってて、これはこれでダンジョンとしての効率はいいんだろうけど……。
うーん、パニス村は今のまま、居心地よい村を目指していこう……。
さて。
こうして王都ダンジョンを確認し終えた俺達だったが……やっぱり、気になるよな。
「他のダンジョンも見てみたくなってきた……」
「あー、そうだよねえ。魔物が居るような、普通のダンジョンも見てみたいよねえ……」
うん。現状、俺はうちと王都ダンジョンの2つしか知らない。そしてこの2つとも、『ダンジョンとしてはかなり変わってる部類』らしいので……もっとオーソドックスなタイプも見ておきたい!特に、魔物!これから魔物というかミューミャを量産することを考えて、魔物出してるダンジョンを視察したい!
……と、思っていたところ。
「なら、俺が昔よく行っていたダンジョンに行ってみるか?」
流石俺達のリーザスさん!実にありがたい提案だ!




