馬車への道*3
「うおおおおおお!揺れねえええええ!」
「うわあああああ!すごいねこれすごいよアスマ様これすごい!」
「落ち着いてくれ!2人とも!跳ぶな!はしゃぐな!大人しく!座っててくれ!」
……ということで、再び王都へ向かう俺達は大興奮なのであった。いや、リーザスさんだけ御者台で『ああああ!』ってしてた。ごめん。
出来上がった馬車ってのは、大雑把に言うと『馬が牽く車輪部分』と、『車輪部分に連結してある浮く車体部分』の2つのパーツで構成される馬車なわけだ。
馬車は浮くだけで浮き方をその都度制御することはできない。なので、ちょっと浮くだけだと地面に凹凸があるとそこでひっかかったりなんだりしがち。かといって、高く浮かせると不安定になってめっちゃ支障が出る。
……ということで、車輪付きで、従来の馬車みたいなブツの上を浮遊させることで、揺れを抑えつつも制御が簡単なようにした、ってわけだ。
イメージとしては、チャリの荷台に縛り付けたヘリウムガス入りの風船。あの風船部分が車体ね。車体自体もそこそこ重量あるし、連結は紐1本じゃないんで、そこそこ安定する。
まあ、本を大量に積んだら、流石にファンタジー浮遊パワーが負けるかもしれないから、今回はその実験も兼ねて、ってかんじだな。よし、レッツゴー!
王都は相変わらずの賑わいであった。いいねいいね。パニス村もいずれこうなると思うと胸が熱くなるぜ。
「うーん、そこそこ飛ばして来られたからな。いつもより到着が早い。こいつはいいぞ」
「車輪をもうちょい改良したら、もっと早くなると思うよ。いやー楽しみだなあ」
俺の気分は明るい。何せ、馬車が快適だったからな。いずれは車輪を改良して、それから座席。座席も改良して、より乗り心地のいい馬車を目指そう。これがあれば、随分と楽になるぞ!
さて。明るい気分はさておき、俺はちょっと急がなければならない。
「じゃあ本屋さん行こう。急いで急いで」
「急ぐの?結構時間あるよ?」
「うん。他にも行きたい場所があるからな」
リーザスさんとミシシアさんをちょっと急かしつつ、俺は早速、本屋へGO。
そう。今回王都に来たのは、本屋だけが目的じゃないんだな。
本屋で前回同様に本を買い漁ったら、まずは馬車に積んでみて、積載重量上限がどんなもんかを確認。
「……割といけるなあ」
が、心配は全くの杞憂!本を大量に積み込んで、更にその上、俺とミシシアさんとリーザスさんが乗り込んでも、馬車は浮いたまま!ヨシ!
「これ、馬の負担も減っていいね!馬に優しい馬車だ!」
「あー、そっか。浮いてるから荷物の重量が関係ないんだよな。成程。馬に優しい馬車だ!」
よくよく思い出してみたら、今回、馬の足取りは軽やかだった。俺の気分が軽やかだから馬も軽やかに見えるのかと思ってたが、流石にそんなことは無かったらしい。実際、荷物が軽いんだからそりゃ軽やかにもなるわ。
「成程なー、そう考えると、こういう種類の馬車の改良って、移動速度と乗り心地以上に、積載上限の緩和がデカいかもしれないなあ……」
「そうだね!これならリーザスさんが10人ぐらい乗っても大丈夫かもね!」
「俺10人……?」
まあ、リーザスさんを10人乗せることは無いと思うが、武装した騎士を馬1頭立ての馬車で十分に運ぶことができるかも、とかってなると……これ、割と革命なんじゃねえかなあ……。
ほら、馬って、馬車と違って、すぐさま量産するぞ、ってわけにいかないじゃん。となると、馬車を急速に改良して、量産して、一気に物流増やすぞ!ってなった時、ボトルネックになるのは間違いなく馬じゃん。
その馬を節約できる、って考えると、まあ、今後もこの方針でファンタジー馬車を開発していくべきだろうなあ。そうすれば益々、パニス村のインフラ改善が近づくってことで……。
「ところでアスマ様は今回、どんな本買ったの?」
「学術書……?いや、魔法の理論について書いてある本、探してるんだけどね……片っ端から読んでいかないと、ちょっと、間に合わねえな、って……」
尚、俺が今回大量に買ったのは学術書……魔法についての書物である。俺は魔力を魔力元素と魔力分子に分けて色々考えてる訳だが、それだけで今後も魔法関係のやりくりができるのか不安になってきたから、一応、この世界の魔法基礎研究みたいなところは最低限分かっとこうと思って……。
俺としては、魔法の本なんて、浪漫を求めてじっくり読みたいところなんだけれど……今回のミューミャ馬車の件で、やっぱり魔法の知識が無いとダメだな、と思ったので、今日買った本は全部分解吸収で速読するつもりである。これで色々ファンタジーパワーについての理解が深まるといいんだが。
さて。
そうして俺達は、今日のこの後の話をする。
「この後、王都のダンジョンに入ってみようかと思って」
「敵情視察だね!」
「いや、敵じゃないけど……うん」
……今日、俺が王都に来た理由。その一つは馬車の試乗で、もう一つは本の買い付けだが……更にもう一つ。『自分のところ以外のダンジョンの見学』がある。
「王都のダンジョンか。……実質、鉱山のようなものだぞ?」
「あ、うん。まあ、一応見ておきたくて」
ね。一応、王都のダンジョンがどんなもんかは聞いたことがある。
確か、魔物が出るでもなく、人が住み込みで働ける鉱山みたいなノリで存在しているんだったよな。まあ、それについて俺は、『そうやって大量の人間を住まわせることで情報を得ようとしているダンジョンなんだろうなあ』と思ってる訳だが。
「まあ、パニス村のダンジョンにある意味では近いかもね。もっと振り切れちゃってるけど」
「住民囲い込み専用ダンジョンだもんなあ……」
まあ、先人のやり方を学ぶのはいいことよ。それをそのまま実行するかは別だが、一旦知識は増やしておいた方がいい。魔法の本然り、他所のダンジョン然り……。
「できれば、魔物もアスマ様に見せてみたいところだが……」
「うち、スライムしかいないもんねえ……」
あー、学ばなきゃいけないブツっていうと、それもだ。うん。
そうなんだよなあ。うちのダンジョン、スライムと、クソデカスライムと、クソデカ発光スライムと……という3種類しか居ない。いや、時々酒屋でへべれけになってるへべれけスライムも確認されているので、4種かもしれない。いや、だがそうなるとサンバのリズムに合わせて踊りがちなスライムはダンシングスライム……?
「あっ!でも、アスマ様、ミューミャは出せるようになったんでしょ!?」
「ん?」
待て待て待て。ちょっと待て。
「ミューミャは魔物じゃないから難しいかもしれないけれど、この調子でスライムじゃない魔物も出せるようになるかもよ!」
「……うん?」
スライムに思いを馳せている場合ではなくなったかもしれない。
……うん。確かにね。俺はミューミャを出したよ。卵貰っちゃったもんだから、それ遺伝子組み換えして、『めっちゃ飛ぶぜ!』なミューミャを出したよ。で、それ量産した。今日も元気に元冒険者達が『うおおおお!ミューミャを網で捕まえるぜ!』『ご飯の時間だぜ!』『ブラッシングしたらめっちゃ毛が抜けたぜ!』とやっている。元気だなああいつら!
「ミューミャは……魔物ではない。が、確かになあ……生物を出せるようになった、と考えると、アスマ様もいずれ、他の魔物を出すようになるのか……?」
「いやいやいやいや、ミューミャについては、卵を分解吸収して学習したから出せるようになったってだけだし、再構築で適当に遺伝子に誤差生じさせながらいくつか出してるってだけで……」
ミシシアさんのみならず、リーザスさんまでなんか考え始めちゃったので、俺は慌てて訂正する。
俺がミューミャを出せるようになったのはあくまでも、分解吸収したからであって……。
……うん。
「……もしかして、ダンジョンがモンスター生み出す機能って、再構築でモンスター生み出してるの!?」
「えっ、知らないよぉ……」
まあそうだろうなあ!知らないだろうけど!
……いや、でも、その可能性、考えてなかった!そうだ!ダンジョンにはダンジョンパワーがある訳で、それを使えば確かに、魔物が作れなくも、ない!?
いや、作れる!作れるだろ!だってどう考えても作れるよ!ミューミャ作れちゃったんだもん!
いや、いやいやいや、でも待て待て待て!他のダンジョンがそれをやってモンスターを生成しているとしたら、だ。大きな問題が一つ立ちはだかることになるぞ……?
「ってことは、モンスターを分解吸収しないと駄目じゃない!?それ!」
そう!学習元のモンスターが必要になる!そのモンスターはどこから出したのよ!ってことになっちまうだろうが!
何!?俺以外のダンジョンの主達は大抵全員、モンスターハントできるタイプの人達なの!?外でハントしたモンスターを自分のダンジョンに持って帰って分解吸収して再構築してるってこと!?
「完全な想像からは生み出せないのかなあ」
「えー……?いや、無理でしょ……。魔物っていったって生物なんだし、生物の器官って、細胞一つとってもヤバいのよ?そんな複雑なモン、どうやって想像だけで作るのよミシシアさん」
「ええー……?そんなに難しく考えなくても、私は生きてるし、魔物だって生きてるけど……うーん」
……なんか、ミシシアさんが首を傾げているが、この世界の人達にとっては生物って、『なんかよく分からん仕組みで生きてる』くらいの認識であって、複雑な仕組みだっていう意識が無いからこそ、再構築が簡単にできちゃうとか、そういうこと、無くはないのか……?
「いや……魔力の消費がデカいが、イメージだけでなんとか作れなくもない、のか……?仕組みとか考えなくても、一応、生物は造れる……?」
……俺は、勝手にそこらへんで湧き始めたスライム以外のモンスターは生み出せない訳だが、それってつまり、俺が難しく考えすぎってこと?えええ?そんなアホみてえなことって、あるぅ……?
「まあ……アスマ様も、一度ダンジョンに持ち帰りさえすれば、その魔物を生み出すことができる、ということだろう?」
「うん。それはまあ、多分そう」
一度分解吸収さえしちまえば、何とでもなるんだよなあ。ただ、そこまでのハードルが滅茶苦茶高いが。
ミューミャも俺にとってはモンスターみたいなもんなんだが、アレも一応、分解吸収で再構築できちゃったし。卵からにはなるけども。
「ということは……希少なモンスターを、量産することができる、のか……?」
「……可能性は、あるね。ついでに、品種改良して、飼育しやすくすることくらいは、できるね……」
……俺、もしかしたらとんでもないことに気づいちゃったかもしれん。
この世界の経済をひっくり返しかねない、とんでもないことに……。




