おいだせ!謀略の村*4
そうして、リーザスさんの元嫁と間男の一件については、翌日には完全に解決した。
えーと、まずその日の内に、元嫁が単独行動でリーザスさんに接触を図ってきて、しかし一緒に居た俺と、俺がサンバホイッスルで呼び出したスライムに阻止された。
更に、サンバのリズムを軽快に刻んでいたら、冒険者達がわらわら出てきて『なんだなんだ』『祭りか』『あっ!またリーザスさんが絡まれてる!』と、俺達を守ってくれたんだよな。
ということで、元嫁がリーザスさんに話しかけてきて、リーザスさんがちょっと嫌な顔を元嫁に向けたくらいで、それ以上の接触は無く、無事にリーザスさんを守ることができた。
それからその間、間男は1人で飲みに行ってたんだけど、帰り道で丁度、ダンジョン前受付から食堂に向かう途中のエデレさんに接触してしまい、そこで粉かけようとし始めた。
なので、丁度元嫁の方を解決してやはり食堂へ向かおうとしていた俺とリーザスさん、そして大量のスライムによって阻止した。
……スライムがここに来て大分有能である。あいつら村中にぱらぱら居て、ホイッスルとか呼ぶ声とかに応じたり応じなかったりしつつ集まってきて、もっちりやんわりした自走式バリケードになってくれるからね。体が柔らかいから、人間の足と足の間をむにゅんとすり抜けていくのだってお手の物。便利だ……。
まあ、それでひとまず、俺達は食堂での食事を楽しむことができた。食堂で先に楽しくやっていたミシシアさんと合流して、食べて、飲んで、ミシシアさん1人でとんでもない量飲んで……。
……そうしている間に、俺がちょっと宿へ視点を移してみたところ、元嫁と間男がギスギスし始めていた。まあ、互いに不機嫌だからな。
そこ2人で勝手にやってくれる分には構わないぜ、ということでほっといて、俺達は飲みすぎるミシシアさんを止めたり、『ところでアスマ様よォ……あの笛の音は、なんだァ……?』と興味深そうに聞いてきた冒険者にサンバホイッスルの解説をしたり、その過程でまたスライムが寄ってきちゃったり……と過ごした。
……で、翌日。
すっかりギスギスしていた元嫁と間男は、温泉行ったり食堂で何か食べたりしようにも、それら施設に1人くらいは居る冒険者達に『ああ、あいつが例の……』とみられることになり、落ち着かなかった様子である。
それがきっかけで、また2人は大喧嘩し……。
そして。
「もう来なくていいからねー」
俺達が見送る中、さっさと王都へ帰ってしまった。
……よし!追い出せた!
と、まあ、そんなかんじで……リーザスさんの過去の気まずい関係を巡るあれこれは、無事に片付いたのだった。
「はあ……今回は本当に、面倒を掛けたな……」
「気にするなって。ね。こういう時は助け合いだぜリーザスさん」
「ちょっと楽しかった!」
リーザスさんは疲れた顔をしているが、俺とミシシアさんは『まあ終わってみれば楽しかったかもしれない』ぐらいのかんじでニコニコである。
「私、下手じゃなかったかしら」
「エデレさん最高でしたよ!」
「そうだよ!エデレさん最高だったよ!」
エデレさんも『だったらいいのだけれど』と、ちょっともじもじ笑った。これすら完璧だぜ。
「まあ……彼らがこの村に来ることは二度と無いだろう。俺も心穏やかに居られそうだ」
「それはよかった!」
今回のことは何かとリーザスさんが不憫だったけれど、まあ、色々と決着が着くべきものに決着が着いた、ってことでいいのかな。俺は直接関係ないはずなのになんかスッキリした気分だよ。
「今回ので、案外リーザスさんが村の皆にも、冒険者達にも人気者だってことが分かってよかったね」
それから、ふと、ミシシアさんがそんなことを言い出した。
「……そういうものか?」
「だと思うよ。一応さ、私が『リーザスさんが厄介な奴と出くわしそうだから協力して!』って呼びかけたけど、それだけだもん。それだけで、あれだけ皆が協力してくれたんだよ」
そうだなあ。確かに、本当に沢山の冒険者や村の人達がエキストラとして頑張ってくれたと思う。けど、彼らだって無理をして演技していたって訳じゃないんだろうし、賞賛の数々だって、リーザスさんに日頃言ってなかったことを言ってただけなんだろうし。
「好かれてなきゃ、協力されないって!ね!」
「うん……そうだな。ありがたいことだ」
まあつまり、リーザスさんは村の人気者、ということだ。今も周りの人がにこにこ見守ってくれていることだし……。
「俺は、リーザスさんって本当に真面目だなあ、と思った」
それからこっちもだな。ここは譲れない。
「そうでもないと思うぞ……」
「いや、そうでもあると思うよ。宝玉樹の花と葉っぱ取りに行くのだって、裏道使えばいいのに、一応、正面玄関から入ってちゃんと踏破するくらいには律儀だし……」
「そりゃあ……ダンジョンの神が創ったものを分けて頂くんだから、その資格があることは証明したかったしなあ……」
そういうところが真面目なんだぞ、リーザスさん。そのダンジョンの神様ってのが俺で、俺がここで許可出すことなんて分かった上でのアレなんだから、滅茶苦茶真面目だと思うぞ。
「そうね。リーザスさんはとても真面目な人だと思うわ」
エデレさんもお墨付きを出してくれたので、俺は『そうだそうだ!』と合いの手を入れておいた。
「それで、そういうところがここの皆に好かれてるんだと思うの。これは誇るべきことよ」
「……そうだろうか」
俺の『そうだそうだ!』に、ミシシアさんも『そうだそうだ!』と合わせ始めた。
「ええ。だから、自信を持って。ね?」
エデレさんの微笑みに、リーザスさんもちょっと微笑み返して……それから、はた、とエデレさんが気づいたような顔をした。
「あらやだ。そういえば私、これ、まだお返ししてなかったわ」
エデレさんは自分の髪飾り……宝玉樹の花でできたそれを、慌てて外そうとし始めた。ので、リーザスさんがそれを慌てて止める。
「あ、いや、いいんだ。それはあなたに贈ったものだから。日頃の感謝を、きちんと伝えたことが無かったから、丁度良かったと思ってる。もしよかったら、持っていてほしい」
「……そう?なら、頂いてしまうけれど……」
「そうしてほしい」
あんまりにもエデレさんが心配そうにしているものだから、いよいよリーザスさんは苦笑を浮かべた。
「本当にいいの?だって、こんなに貴重なもの」
「ああ。あなたによく似合ってる。その花も、あなたが持っていた方が嬉しいだろう」
そうしてリーザスさんがそう言えば、エデレさんは、ぱちり、と目を瞬かせて……それから、『まあ、お上手だこと!』と、ころころと笑い出した。
リーザスさんは今更、自分がちょっと気障なことを言ったんじゃないかと気づいたらしいが、横ではミシシアさんが『じゃあこの葉っぱも貰っちゃうね!』と踊ってるし、俺も『このナイフも貰っちゃうね!』と踊ってるので、照れている暇は無い訳だ。
……そうして俺とミシシアさんが手を取り合って噛み合わないダンスをやっているところにリーザスさんも巻き込まれ、最終的にはくすくす笑うエデレさんも巻き込まれて、なんとなく噛み合わないダンスが発生することになった。
まあ、めでたしめでたし、ということで。ヨシ!
「で、馬車だよ馬車ァ!」
さて。
リーザスさんのアクシデントが片付いたところで、俺は俺の仕事を片付けなきゃいけない。
「絶対に改良してやる!で、また王都に出て、本を大量に購入して、図書館をさっさと充実させてやる!」
「燃えてるねえ、アスマ様。頑張って!」
「うん!がんばる!」
俺はあの、クッソ揺れる馬車を許さない。あの馬車を滅ぼすためなら頑張るぜ。やるぜやるぜ。俺はやるぜ。
「馬車が改良されれば、パニス村はもっと便利になると思うんだ。物も人も、行き来しやすくなるわけだからさ」
まあ、俺個人の恨みはさておき、インフラ整備は大事よ。間違いなく。
今、このパニス村ってインフラがボトルネックになってる気がするんだよな。規模拡大したい部分も、物資の大量運搬と集客力が安定しないから拡大できてない部分がままある状態だ。
特に、温泉を有する観光地としても、『行きやすさ』は大事なわけで……王都まで2日の距離ってのは、この世界標準だとかなり近いんだよ。ならこの立地、無駄にするわけにはいかない。パニス村を、他の数ある村の1つとして埋もれさせないためにも……パニス村と王都を結ぶインフラは、しっかり整備していきたい!
そのためにも……馬車である!
ということで、俺は早速、揺れにくい馬車を生み出すことにした。
「サスペンションなのよ。結局はサスペンションなのよ」
「アスマ様がまたよく分からないこと言ってる……」
……馬車を改良するにあたって、まず、『揺れない馬車』は作るのが不可能である。それは間違いないし、しょうがない。
だって街道が凸凹なんだもんよ。そこ走らせたらどんな車輪もガッタンガッタンいうわ。しょうがないしょうがない。
が、それでも望みはある。それは、『揺れない』のではなく、『揺れを吸収する』或いは『揺れを直接車体に伝えない』仕組み……サスペンション、と呼ばれるブツだ。
ぱっとイメージできるサスペンションってなると、やっぱり『車軸が2つに分かれてて、それぞれにコイルスプリングくっつけてショックアブゾーバーにしたやつ』みたいなのになる。
ボールジョイント……球体関節みたいな奴が必要になるが、ダンジョンパワーを用いれば加工の精度は完璧だからな。多分、作れると思う。
が、流石にそれをこの世界で実現するのは難しいんじゃないの?という気はする。要は……この世界にとってはオーバーテクノロジーじゃねえの、と。
ボールジョイントの精度もだが、コイルスプリング作るのが結構難しい気がするんだよね。少なくとも、『安定して量産する』みたいなのは無理だと思うんだよね。
……俺がダンジョンパワーで作った馬車を分解して調べた誰かが、構造を理解して再現できるくらいが一番いい。俺が帰った後のことも考えるとね。少なくとも、メンテや部品交換は簡単にできるべきだし……。
「……ところで、もっとマシな馬車もあるんだったっけ?」
が、そんな俺の脳裏に『そういえば』が過ぎる。そう。俺が乗った馬車じゃなくて、現在のこの世界における最高品質の馬車。それって、どういう仕組みになってるんだろうね、と。
もしかして、それをパクらせて頂くのが最善手じゃないだろうか、と……。
「ん?王都の馬車か?ああ、確かに品質の良いものは揺れにくいな」
「その話、詳しく!」
ということで、この中で一番王都に詳しく、馬車に乗った経験も多いであろうリーザスさんに話を聞いてみた。
「詳しく、と言われても……」
「あれ、どういう仕組みで揺れなくなってんの?」
「仕組みか。俺もそう詳しくはないが……」
リーザスさんは一生懸命思い出そうとしてくれている。どうもすみません。
そして。
「そう、だな……最高級の馬車は、幌にドラゴンの翼の皮膜を使うらしい」
ん?
「それより安いものは、ワイバーンだな。ペガサスの羽を使ったものもあったか……」
……うん。
「そうした魔力を持つ素材で作った馬車は、やはり揺れが少ないぞ」
……ファンタジー馬車かぁ!成程ね!そりゃそうだ!このファンタジー世界においてコレが存在しない理由が無かった!
くそっサスペンションなんか目じゃねえよ!やっぱりファンタジー!ファンタジーが一番強いじゃねえか!




