避けられない、酒*4
「ということで、パニス村は武力と権力を集めるべきだと思ったんだけど、どうかなエデレさん」
「あらまあ……大分、規模の大きな話になってきちゃったわねえ……」
思い立ったら吉日。本日を大安とする!ということで、早速エデレさんに相談してみたところ、やっぱりちょっとぽかんとされてしまった。
……まあ、既に『村』じゃなくなりつつあるもんね、ここ。村長代理として、亡くなった旦那さんの代わりに頑張ってやりくりしてきたエデレさんにとっては、あまりに環境が変わってしまって、却ってよくないんじゃないか、という気もしてるんだけど……。
「でも、そうね。ラペレシアナ様以外にも、ここを『お気に入り』としてくださる貴族の方がいらっしゃったら安心できるわ。教会の人達が手出しできないくらいにしてしまいましょう!」
……案外、エデレさん、乗り気だった。
「教会については、私も思うところがあるもの」
ああ、そっかぁ。そうだよなあ。エデレさんもまた、『一番大変な時に教会に見捨てられた人』だったもんなあ……。そりゃこうなるわ!
「つまり、アスマ様の言うところだと……観光名所として貴族のお気に入りになることで、教会に対して圧力を掛けてもらえることを期待する、っていうことよね?同時に、冒険者も取り込み続けて、武力でもそうそう負けないようにする、と」
「うん。そういうこと!」
さてさて。早速作戦会議だ。
教会と戦うとなったら、考えなくちゃならないことはまず2つ。貴族対策と冒険者対策だ。
そしてこれについて……俺は既に1つ、いい案を持ってるんですよエデレさん!
「だから、宝石職人を誘致しようと思う」
「宝石職人を?」
「うん。宝石職人を!」
これはずっと考えてたことなんだよな。
というのも……このパニス村ダンジョンは、『良質な宝石がぽろぽろ産出する、平和な割に金になるダンジョン』だからだ!
産出するものがあるなら、次に欲しいのはそれを加工する技術!そしてその先にあるのは……販路!即ち、『宝石を売る相手』である富裕層への繋がりだ!
「宝石を加工して装飾品とかにしてくれる職人さんが居れば、宝石の買い取りがもっと簡便になるよね?となると、冒険者達はここのダンジョンでもっと稼ぎやすくなると思うんだ」
「成程……そういうことなのね」
それに何より、ここの冒険者達の生活がもっと安定するからな。
……ほら、定職に就きたい人はいっぱい居る訳だけど、こっちとしても、流れてきた冒険者全員にそういう職を斡旋できる程の安定感はまだ無いから。それに、『やっぱり冒険者をずっと続けたいです!』っていう人も一定数居る訳だから、そんな人達の為にも、冒険者稼業自体が安定するのはいいことだと思うんだよな。
「それで、良質な宝石で良質な装飾品ができたら……ブランド化しよう」
「ブランド化……とは一体……?」
「えーと、ただ良質な装飾品や宝石を売る、っていうのじゃなくて……『パニス村の装飾品』として売る、というか……買う人も、『パニス村の装飾品』だから買う、というか……」
「流行させる、ということか?」
……ブランド、って説明するの難しいね。うん……。
あっ、いや、待て。簡単なのあった!あったぞ!
「王家御用達の印とかあればいいんじゃないかな!で、それはラペレシアナ様におねだりする!」
「お、おお……大胆だなあ……」
まあ、これはガキの特権!ガキの特権ってことで!……いや、ラペレシアナ様にはもう、俺の正体がバレてるわけだけど!でも、19歳ボディでお願いするよりは小学生ボディでお願いする方が絶対に勝率が高いってことは分かってるんだぜ!ならば利用しない訳が無い!この小学生ボディ!
「ということで、宝石関係の職人さんがほしい。めっちゃほしい」
さて。
そうして俺の話はここまで来た訳だが……これが一番の難所だってのは、分かってるんだよ。
「俺がダンジョンの力で研磨済みの宝石を出すことはできちゃうんだけどさあ……それだとやっぱり、後に続くものが無いっていうかさあ……」
やっぱりね。俺が元の世界に帰る日が来る、ってことを前提にして、色々と進めていきたいからね。そうなると、ダンジョンパワーだけに頼った方法はあんまり採りたくない。
……つまり、職人の誘致である!宝石を削って、加工してくれる人を探してきたい!
「とはいえ……腕のいい職人となると、余程の金を積んでも、来てくれないことが多そうだが……」
「大丈夫だリーザスさん。俺にいい考えがある」
そして俺達、宝石職人を引き抜くにあたって……多分、そんじょそこらじゃないアドバンテージがある。
「目が悪くなって引退した職人を狙う。そして……目は世界樹目薬で治す!」
「治るのか!?」
「治らなかったら水晶硝子で眼鏡作る!」
そう!細工物の職人さんっつったら、やっぱり目は大事だろ!
で、この世界、まだ透明なガラスを生産する能力はあんまり無いっぽいから、眼鏡があるでもなし!つまり……!
視力回復系の何かをやるなら、やっぱりうちには圧倒的なアドバンテージがあるってことなんだよなあ!
「そうでなくてもさあ!駄目かなあ!新鮮な野菜食べ放題!温泉入り放題!細かい傷とか慢性的な痛みとかは治療可能!多分美味しい酒もできるよ!っていう村に移住したい宝石職人、居ないかなあ!」
「条件だけ聞くと、悪くないのよねえ……」
「うーん……とはいえ、ツテも何も無いからなあ。冒険者達に聞いてみるか。あいつらなら、各地で宝石を売っているんだろうから、何か知ってることもあるだろう」
ということで、早速、宝石職人の募集を掛けることにした。
条件はさっきのをバーッと書いて、そのビラを食堂に置いておいて、冒険者や旅行者に配って、宝石職人を探してもらうのだ。
上手くいくといいんだけどなあ。駄目だったら……その時はその時で、酒のブランド化は考えてるんだけど、そっちはどんな味のブツができるのか分からないから、できれば避けたいんだよなあ……。
うーん……なんとか宝石職人、見つかるといいんだけどなあ……。
そうして数日。
その間にも教会の人はダンジョンの祠を壊そうとし、冒険者に凄まれ、説法するも無視され……と、根気強くやっていた。なんか頑張る方向間違えてない……?
が、教会の人はさておき……なんと。
「アスマ様ぁー!なんか、宝石職人の人が来たって!」
「な、なんだってーッ!?」
なんと!ほんとに来たのであった!やったー!
ということで、エデレさんとリーザスさん、そして例の宝石職人さんが待つという面接会場へ、俺とミシシアさんもGO。
「どんな人かなあ!ねえ、アスマ様はどんな人だと思う!?」
「目が治りますよ、っていう触れ込みで募集してるから、やっぱりご高齢だとは思うんだよな……。おじいちゃん、いや、大穴でおばあちゃん……?」
既に職がある宝石職人さんが移住してくるのはハードルが高いだろうって目算だったしな。やっぱり、そういう、引退した人が来たんだと思うんだけど……。
「お邪魔しまーす」
「エデレさーん!今日の分のお野菜持ってきたよー!」
さて。俺とミシシアさんは『面接を覗きに来たんじゃないんだからね!あくまでもお野菜の配達なんだからね!』っていう建前で、ダンジョン前受付の奥の部屋に突入。
……すると。
「いやぁ、ここに来ればうめえ食事と最高の温泉、それに酒まで付いてくるって聞いてよぉ!前の職場じゃ、貧相な食事に冬でも水浴び、ついでに酒は一切禁止、っつうクソみてえな環境だったからなぁ!がっはっは」
豪快に笑いながら面接している、その人は……!
「おじいちゃんでもおばあちゃんでもなく、おっちゃんだった……!」
「おっちゃんだったね、アスマ様……!」
……おっちゃんだった!
まさかの!目の治療関係じゃなくて!食事と温泉と酒で釣れちゃった方だった!
これは予想外だよ!
ということで、まあ、色々と予想外だったものの、宝石職人さんが1人、見つかったということになる。これは素直に喜ばしい。
エデレさんが『じゃあ住むところはここで』『お給料はこんなかんじで』『労働条件はこんなかんじで』と色々話をしていって、一応、話がまとまった。
すぐにでも働いてもらえそうってことなので、これも大変喜ばしいところだ。
……とはいえ、宝石職人のおっちゃん曰く、『俺は宝石の加工は得意だが、金属を加工するのはそこまで得意じゃないんで、良質な装飾品を作りたいんだったらそっちの職人も探した方がいい』とのことだった。
んだが……こっちはこっちで、光明が見えるようである。
「ま、俺が真っ先に元の職場を辞めてきちまったけどよ。皆、思うところは色々あるみたいだったからな。声掛けたらもう何人か、向こう辞めてこっち来るんじゃねえか?もし気が向いたら声かけてやってくれよ」
ほう。成程ね?つまり……このおっちゃんの元の職場はクソだから、そこに雇われてる職人さん、まとめて引き抜きが可能なんじゃないか、ってことか。
まあ……そういうことなら、是非そうしたい。俺はエデレさんと顔を見合わせて頷き合った。つまり、『やっちゃえ!』の合図である。
「そういうことでしたら、是非お声がけさせていただきますわ。ところで元の職場というのは、どちらでしたの?」
早速、エデレさんが前向きな姿勢を見せると、宝石職人のおっちゃんは、ニカッ!と笑って、答えてくれた。
「ん?そりゃあ……そんなクソみてえな職場、1つしかねえだろ?大聖堂だよ!」
大聖堂かぁー!そっかー!教会の総本山みたいな所から1人、職人さんを引き抜いちゃうことになるんだなあ!
……大丈夫かなあー!




