避けられない、酒*3
ということで、例の……えーと、随分前に聖騎士を送り込んできた、例の宣教師……?修道士……?えーと、なんだっけ……?とにかく教会の人。うん。教会の人が、ダンジョン前受付のところで騒いでいる。
「あぁ?何が悪いんだよ。ダンジョンには神様が居るんだぜ?」
「そうだ!かわいい神様が居るんだぜ!」
……そして、冒険者達や、元冒険者達がめっちゃ凄んでいる。凄みがある。そりゃそうだ。全員、半分チンピラみてえなもんだし……。
「神は唯一つなのだ!ダンジョンには神など居ない!」
「いや、居るんだって」
「居る居る。居るからもう諦めろって」
教会の人も頑張ってるんだが、冒険者達は『ダンジョンには神様が居るんやで』の姿勢を全く崩していない。
「そのような態度を取っている者には、神は救いの手を差し伸べないぞ!」
「あぁ?上等じゃねえか。一度も助けてくれた試しのねえ唯一神とやらより、ここで俺達を助けてくれるダンジョンの神様の方がよっぽどいいね」
「そうだ!今更どのツラ下げて信じろなんて言ってくるんだ!?」
脅しも全く効かない。……うん、まあ、これについては、俺、滅茶苦茶思うところがあるぞ……。
教会に治療の能力があるんだったら、それを使わずにラペレシアナ様や他の騎士達、そしてここに集まる冒険者達みたいなのが救われてないのは、まあ、怠慢なんじゃねえかと思わんでもないしな……。
人間誰しも、『救ってくれた』方に付くよな、ってのは分かるから、これはもう、教会の人は擁護できねえ……。救わなかった以上、手を切られても文句は言えねえ立場なわけだもん。それを見越して、『寄付が足りないので祝福は施しません』とか、『あなたは治療しません』とかをやらないといけないっていうか……。
……まあ、運営が下手ぁ!それは間違いねえ!
そして、いよいよ業を煮やしたらしい教会の人はその手に持った杖を振り上げた。
「このような祠!不謹慎にも程がある!」
だが。
「おいおいおいおい!そいつは俺達が拵えたもんだぜェエ!?」
「それを壊すってことは、私達に喧嘩売るってことよね?」
「やるぜ!俺はやるぜ!やるぜやるぜやるぜ!」
……教会の人は杖をそっと下ろした。そうだね。じゃないとやられるからね。間違いないね。
教会の人は、すごすご……と去っていった。が、残った冒険者や元冒険者達は、『ちび神様の祠が壊されちゃたまらん』『警備するか』などと相談している。
「あ、あのー……ちょっといい?」
流石にずっと見ているのもなんかアレなので俺が出ていくと、彼らは途端ににっこりしてくれる。
「おお、アスマ様じゃねえか!元気か?飯食ってるか?」
「うん、めっちゃ食ってるよ。元気だよ」
……この人、俺の顔見る度に、『食ってるか!?』って聞いてくるんだよなあ。いい人なんだよ。人相めっちゃ悪いけど。よくナイフ舐めてるけど。なんで舐めてるの?って聞いたら、『蜂蜜塗ってあるから』って言ってた。俺、この人のことが全然わかんねえよ。
「騒がしくして悪かったね。どうも最近、ああいう連中の悪い話ばっかり聞くもんだから……」
「あ、そうなんだ……」
そうなんですかね、とリーザスさんを見上げてみるも、リーザスさんは『俺も最近村を出てないから分からん』みたいな顔をしている。まあそうだよなあ。
「祠は絶対に壊させねえからな!安心してくれよ!」
「いや、別に俺は心配してないけど……」
……ところでやっぱり、その祠って俺のこと祀ってんの?マジで?
まあ、祠が壊されるのはなんかこう、治安の悪化に繋がりそうなんで、平和的に祠を守ることにした。
「これでよし」
「……包まれているなあ」
はい。祠を丸ごと、てぷんっ、と包んだクソデカスライムによって、祠は完全に守られた。このぽよぽよのスライムを退かさない限り、祠をどうこうすることはできねえぜ!
「お、おいおいアスマ様よォ、こんなふうにされたら、お供え物できねえじゃねえかよォ……」
「スライムにあげときなよ」
「そうかァ?……じゃあそうすっかァ……」
「供えるなら供えねば……」
……そして祠をもっちりと守るクソデカスライムの上には、そっ……と、収穫されたてのトマトとか葡萄とかが載せられた。
スライムはちょっと迷惑そうにしていたが、まあ、これはこれで……。
ということで、俺とリーザスさんは元気にダンジョンの見回りを始めたんだが……。
「これ、ほっとくとまずいやつかなあ……」
「うーん、どう、だろうなあ……。聖騎士とは契約がある以上、聖騎士が動くことは無い訳だが……うーん」
洞窟内を歩き回りつつ、リーザスさんに相談してみる。いやー、やっぱりさっきの光景を見ちゃうとね。どうしよっかな、ってなるよね。
「……ここに、アスマ様への信仰が生まれてしまっていることは、最早疑いようのない事実だしなあ」
「うん……うん?やっぱり俺?俺なの?」
「まあ、『ダンジョンのちび神様』信仰だが、つまりアスマ様のことだろう?」
まあ、うん。そっか。……そっかぁ!何事も無けりゃよかったんだけど、そういうことならもう知らんぷりもしてらんねえよなあ!ああああああ!
「唯一神ではないものを信仰している村、となると……まあ、教会の覚えは良くない、だろうな……。異教徒の集まる村として、大聖堂が動きかねない」
「ああああ……それはめんどくせえよなあ……」
教会がパニス村を潰す口実として、『異教徒の弾圧』は十分にまかり通っちまうのか。困ったね。どうしたもんか。
「そうだな。それに……うーむ、ラペレシアナ様にも、影響がある可能性が……」
「ナンデ!?ラペレシアナ様ナンデ!?」
「ん?ラペレシアナ様が、パニス村を気に入っていることは、すでに公言されていることだろう?となると、そのパニス村が『異教徒の村』とされると……」
ああああああああああ!ラペレシアナ様にまで迷惑かかるの!?そりゃそうか!まあそうだよなあ!
ンもおおおおおお!ほんとに!ほんとにこの手の宗教って争いばっか生むんだからああああああ!
ということで、ダンジョンの見回りを終えた俺達は、いくつか持ち帰ってきた水晶やペリドット、ついでに翡翠なんかをダンジョン前受付で買い取りしてもらって、それから放しておいたクソデカスライム達が拾って帰ってきてくれた(という体にして再構築して運ばせた)冒険者の落とし物を届けたりして……さて。
「まあ、殿下にはお伝えしておいた方がいいだろうな」
「そうだね……。うあああああ、申し訳ねえ!ラペレシアナ様に申し訳ねえええええ!」
リーザスさんが早速、手紙っぽいの書き始めたのを横目に、『それ送ってもらうんだったら、新製品の薬草茶ティーバッグも同封してもらっていい?』とかやり始めた。いや、ラペレシアナ様もお疲れだろうし、なのにご迷惑おかけしそうだからさ、こう、ちょっとでもね、なんか癒しになるものをお届けしようと思って……。
ということで、ダンジョン前受付の横の売店で、『新製品!スライムで育った薬草のお茶!』を購入。
こちら、麻繊維の薄布で作ったティーバッグに詰めて販売されているもので、『お湯さえ沸かせばティーポットが無くてもお茶が飲めます!』が売りである。まあ、ダンジョン用品の一部として販売中だが、手軽さや1杯分のお茶をちょこっと買っていけるところがウケて、お土産としても人気上昇中。
リーザスさんが書き終わった手紙を書簡に詰めたところで、ティーバッグを3つくらい、隙間にむぎゅむぎゅ詰めさせてもらった。よろしく。
後は、王都の方に向かう冒険者を探して書簡を託せばOK。勿論冒険者はちゃんと顔見知りの信頼できる人を選ぶ。うっかり盗まれたり中身確認されたりしたら面倒だし。
……と、リーザスさんが冒険者に手続きとかやってる間に、俺は詰め切れなかったティーバッグと再構築のお湯で、お茶淹れて待ってることにした。
薬草茶、とは言うものの、癖は無くて飲みやすい。が、俺はなんかこう、いい匂いがする液体に甘みが無いのが許せねえタイプの人間なので、蜂蜜を入れて飲むことが多い。……いや、フレーバーティー、許せなくない?俺、許せねえ。許せねえんだよなあ……。
「あら坊や、何を飲んでいるの?いい香りねえ」
そういうお茶を飲んでいたところ、なんか身なりの良いご婦人が話しかけてきた。……これは間違いなく、観光に来た貴族女性だな!
「これ?そこのお店で売ってるお茶に蜂蜜入れたやつ!飲んでみる?」
「あら、いいの?」
なので愛想のいい可愛いガキのふりをしてニコニコと対応。どうぞどうぞ、もしこちらの商品が気になるようでしたら是非お手に取って見て頂いてね、結構ですのでね。へっへっへ。
早速もう一杯お茶を淹れて、蜂蜜入れて提供してみた。するとご婦人、『あら、美味しいじゃない?』とにこにこ顔。俺もにこにこ顔。是非買っていってくださいね。このティーバッグってやつもね、うちで発明した画期的な物でしてね……。
「お土産にも丁度いいかしら。じゃあこちら、あるだけ全部くださる?」
……やっぱ貴族って、すげえや。
そうして俺、流石にここまでは意図してなかったんだが、見事に売店の売り上げに貢献しちまった。いやあ……すごいね、貴族ってね。
ついでにそちらの貴族女性には、『お宿はもうお決まりですか?決まってないならかのラペレシアナ様もお泊まりになった部屋がありますよ!』と勧めておいた。そして早速、従者さんがそっちの宿を取りに行ってた。すごいね、貴族ってね。
……そうして大いにパニス村経済に貢献した俺は、更にリーザスさんが戻ってくるまでの間にもう1人、貴族らしいおっちゃんに『湯治ですか?だったらここの薬湯の素をお土産にいかがですか?』とセールスしておいた。いっぱい買ってくれた。すごいね、貴族ってね。
……と、ちょっとかなりの貢献をしちまった俺は、リーザスさんが戻ってきた頃には、悟りを開いていた。
「……何も、ラペレシアナ様にお願いしなくてもいいんだよな」
「ん?どうしたんだ、アスマ様」
「後ろ盾になってくれる有力者……金持ってる人、武力持ってる人……沢山、居る訳じゃん……?」
……そう。俺は気づいちゃったんだよ。
お茶買ってくれた貴族女性は、『ここはいいところねえ。ゆっくりできるし、薬湯でお肌がすべすべになるし……絶対にまた来るわ!』と言ってくれたし、薬湯の素を買ってくれた貴族のおっちゃんは『今日は出張のための宿場としてこの村を利用したんだが、次は是非、妻も連れてくるよ』と言ってくれたし……。
ついでに、『ラペレシアナ様の傷を癒したという伝説のスライムを探すぞ!』と意気込む冒険者達がダンジョン前受付を通っていくし。
『宝石でちょっと小金を稼いでくるかぁ』とまったり出発する冒険者達も居るし。
『やはりこの地こそ、最先端の技術と魔法の集まる場所なのでは!?』とちょっとすごい勢いで研究してる人達も居るし……。
「……単純に、パニス村を清く正しく栄えさせれば、それで済む話のような気がしてきた」
「ん?ど、どういうことだ?」
……俺、思っちゃったんだよな。
教会とやらの力も、『いや、あの村を潰されたら困るので』って言ってくれる有力者達によって、更なる『上』から潰されることが十分にあり得るんじゃねえのか、と……。




