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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第二章:ダンジョンは国を平和にした!
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避けられない、酒*2

 ということで俺は早速、醸造所と蒸留施設を造った。造っちゃった。もうね、こういうのはさっさと作るに限る。

 元々、醸造については村でビールみたいなの作ってたから、それを大規模に作れるように施設を整備したってかんじだな。

 蒸留施設は、まあ、普通に作った。気体になったエタノールを螺旋に巻いた長い管の中で冷やして、出口で回収、っていう……それだけのやつ。

 強いて言うなら、冷却管を包むようにもう1つ容器を作って、そこを未蒸留液のストック場所にしておくことで、冷却液として機能させられる……っていう工夫はした。こうすれば未蒸留液がちょっとあったまるから、沸かすエネルギーも多少は減らせるしな。勿体ない精神でやっていくぜ。


 ということで。

 パニス村には無事、『醸造・蒸留のお仕事』の募集が出るようになった。そして短期間で複数の応募が来たので、適当に見繕って、彼らには元気に働いてもらうことになった。

 どうも、冒険者の中には『実家が酒蔵だったので……』って人とか、『醸造関係の研究をしていまして……』って人とかが居たらしい。彼らは『冒険者やめて、定職を得るのもいいなあ』と、就職を決めてくれた。どうもありがとう!

 彼らは意欲的に醸造を始めてくれたので、今後が楽しみである。……どうも、『このやたらと採れるトマトでワインを造れないだろうか』とかもやってるらしく、色々と楽しみである。うん、まあ、何か出来上がっても、俺は試飲できないんだけどね。うん……。

 ……ところで、ここでは主に麦が醸造されてるんだが、それでできた液体を蒸留した時にできるブツって、何になるんだ?ウイスキー?麦焼酎?……まあ何でもいいかあ……。


 で、ウイスキーだか麦焼酎だかよく分からないブツを作る傍ら、『折角ならワイン飲みたいよね……』という声が上がってきた。

 なので、『やるだけやってみるぞ……』ってことで、町で買ってきた果樹の苗木をクソデカスライムに植えてみた。いや、丁度クソデカくなったスライムがいっぱい居ることだしさあ、なら、そいつら野放しにして遊ばせておくのもなあ、ってことで……。

 ……結論から言うと、まあ、葡萄が実った。

 とはいえ、そこまでがちょっと面倒で……えーと、葡萄って、一定の気温が無いとかなり育成が厳しいんだよな。で、ここらへんの地域って、そこまで寒冷地じゃないし、今は初夏なもんだから、気温は問題無いだろう、と思われたんだが……如何せん、スライム農法のアホみたいな生育速度だと色々と話が違ったらしい。

 1日で苗木が成木になっちゃったんで『これはいける!』と思ったんだが、それから花が咲かないし、中々実にならないってことで……えーと、栄養不足とか、気温不足とかを疑った。

 そして……造っちゃった。温室。

 水晶を再構築して、水晶硝子を大量に作って、アイアンフレームの水晶温室を造っちゃった。

 で、折角ならとことんやっちまえ、ってことで、温室の中にはスライム用の水飲み場を設置。肥料を撒きやすくするために、シャワーも設置。1日1回、ここでスライムには肥料を浴びてもらうぞ、ということで。

 ……そうして、太陽の光にぬくぬく温められた温室の中はスライムにとってそこそこ居心地が良かったらしく、クソデカスライムのみならず、一般スライム達ものんびりもっちり過ごすようになり……そして温室完成の翌日には、葡萄が実った。

 なんだろうね。気温かな。魔力多めの水が影響したんかな。それともなんか、環境が変わってスライムの気分転換になったからかな。

 まあ、何が要因だったんだか全く分からんが、ひとまず葡萄が実ったのでヨシとするしかない。ヨシ!


 ……ということで、クソデカスライムの数匹には、葡萄が植えられた。そして毎日、葡萄が収穫できてしまっている。

 なので、そっちはそっちでワインが仕込まれている。生憎、醸造スピードを上げることはできないので、時間任せだが……まあ、かなりの収益が見込める。と思う。




 で、それと平行して、紡績所と織物工場も小規模ながら作っておいた。

 ……織機については、村にあった『一番いい織機よ!でもその分お高いのよねぇ』というブツを分解吸収再構築で幾つかコピーさせてもらった。たすかる。

 ……で、それらをご婦人方が『あらぁー!すっごくいい織機ー!』ときゃいきゃい動かしている様子を観察させてもらって、布ってどうやって織ってんのよ、っていうのを学習させてもらった。いや、布が織られる様子とか、どうやって織られてんのよとか、気にしながら生きてこなかったから、分からなくて……。

 ある程度学習できたら、『つまりこの作業は動力を用意すれば自動化できそうですね』みたいなのがある程度見えてきたんで、そこからは……分解吸収再構築を駆使しまくって、新型織機の開発を始めた。

 いや、一応、織機が自動化されていったことだけは世界史とかで学んで知ってるからさ。どっかの工程を自動化はできるんだろ、とは思ってたんだわ。

 ……で、ひとまず足踏みで経糸の切り替えと杼を通す作業ができる織機までは開発できた。村のご婦人方に滅茶苦茶好評である。『この子ったら、天才だわ!』とのことである。はい!俺は天才です!褒めて!いっぱい褒めて!元気とやる気出るから!


 まあ、織機についてはいずれ水力を動力にした自動織機とかに移行していってもいいんだろうが、既にこの世界水準ではオーバーテクノロジー気味なこともあり、流石にそこまで大規模なもんを作るのもなあ、ということで、一旦開発はストップ。足踏み式織機を量産して、これを機織り工場とした。

 で、こちらはこちらで、醸造所よりも応募が多かったもんだから万々歳。元々の村のご婦人方が、『今は、農業ったってねえ……スライムちゃん達がほとんどやってくれるしねえ……私達、暇になっちゃって……』ということで、兼業農家になって機織り工場もやってくださるそうである。ありがてえ。

 だが。

「……当面、繊維はこっちで用意するってことで……いずれは、綿とか麻とかを量産していくことにして……うん……」

 ……まあ、醸造の方とは違って、こっちはマジで、俺が歯車の一つになっちゃってるんだよなあ。現状、再構築でセルロース繊維をワサッ!と出して、それをご婦人方が紡いで糸にして、それを織ってくれてるんだが……原料が俺頼りってのは、まあ、できるだけすぐに改善していかないといけない。


 ということで、こっちもこっちで……クソデカスライムに、麻を植えた。

 ……こっちは収穫がちょっと忙しかった。いや、麻ってさ、元々、成長速度が超速い植物だってのはなんとなく知ってたんだよ。

 だが、想像以上だった。いや、だってさ……他の植物よろしく1日ほっといたら、クソデカスライムの上で成長しすぎた麻が、ついにクソデカスライムの重心を狂わせるに至っており……温室の中、麻の重さと高さに耐え切れなくなって倒れたクソデカスライム達が、もよもよジタバタやっていたのである!

 なんか、こう……流石にもよもよジタバタやってるのがかわいそうだったんで、それ以来、『麻は収穫したい時の半日前に植える!半日以上は放置しない!』ということになった。いや、半日で2mぐらいまで成長しちまうからね、麻。何よこれ。雨後の筍もびっくりだぜ。

 でもおかげで、村では麻から繊維を取り出す仕事も生まれた。そして働き口は一気に増えた。




 ……とやっている間に、村には色々と産業が生まれていった。

 強い蒸留酒にスライム産の薬草を漬け込んだ薬草酒は、今やすっかりパニス村の特産品になったし。

 ご婦人方の機織りも好調で、少しずつ生産速度が上がってるし。

 あと、温室。水晶硝子の温室が、湯治に来ていた富裕層に滅茶苦茶好評で、観光スポットみたいになってる。ついでに『この部屋は水晶でできているのか!?』と評判になっちゃったので、『水晶でできています!』ってことにさせてもらった。……この世界、まだ、透明なガラスを作る技術は無いんだよなぁ。

 ……ガラスを作る技術が無いので、これから出来上がるであろう麦焼酎とかワインとかを入れる瓶は、焼き物で作ることになった。なので、焼き物工場も生まれつつある。


 ……まあ、この調子なので、パニス村は大きく様相を変えている。

 人口が滅茶苦茶に増えたからな。うん。

 そっちの統制がかなり大変なんだと思うけど、そこはエデレさんに丸投げしちまってるので申し訳ないんだよな……。とはいえ、エデレさん曰く、『環境が良いから不平の声は無いわね。それに、ほとんどが元々の冒険者達だし、ダンジョンにお世話になってる人達だから、皆協力的なのよ』とのことだ。

 ……あと、『協力的じゃない人が居ても、もう既に、協力的な元冒険者の皆さんが居る訳でしょう?……武力で解決しちゃうのよねえ』とのことであった。うん、まあ、平和そうで何より。


 一方、流石にそろそろ労働力が足りなくなっちゃうんじゃないの!?ということもあり、事業拡大をストップしようかとも思ったんだが……どうも、思いの外『冒険者なんて辞めて、地に足つけて生きていきたいです……』っていう冒険者が多かったもんで、ここまでの規模になっちゃったという訳だ。


 ……うん。そうなんだよなあ。

 ちょっと、俺が予想してなかったことが2つあった。




 1つは、思いの外、冒険者達が冒険者業を望んでいなかった、ってこと。

 これについては……『元々傭兵や兵士だったけれど、戦が無くなって仕事が無くなり、或いは怪我で仕事を続けられなくなって、仕方なく冒険者に転向した』って人が居ることは知ってたんだよ。

 あと、『人生は太く短く!夢とロマンだけ追い求めて将来のことは考えず冒険者になりました!でもそろそろヤバい気がします!』って人が居ることも、知ってた。

 だが、まさか『末っ子なので実家の農地は継げない。だが、開墾しようにも祝福が無い土地に新たに祝福を授けてもらうための金は無い。だから家を出て冒険者になるしかなかった』とか、『学が無いから戦うことしかできず、その日暮らしの冒険者稼業を続けていた』とか、そういう人もかなり居るとは、思ってなかったんだよ。

 ……冒険者業ってのは、好き好んでやってる人はほんの一握りで、それ以外は『その日の暮らしのため、他に選択肢が無く、仕方なく冒険者をやっている』ってパターンがかなり多かったみたいなんだよな。これが、予想外その1。


 で、もう1つの予想外は……そんな冒険者達が移住者になっているわけなんだけど、彼らは皆、『ダンジョン』に恩義を感じている、ってことだ。




 冒険者っていう職業は、大抵がダンジョンに潜って生活してるわけだ。

 だから、ダンジョンっていうのがどういう場所なのかは、俺より彼らの方がよく知っている。

 ……そして、冒険者にならざるを得なかった彼らにとっては、生活を支えてくれていたダンジョンこそが自分達の居場所であり、救いの手であった、らしい。特に、このパニス村ダンジョンについては、命の危険がほぼ無いゆるゆるダンジョンな訳で、そこらへんも含めて、かなり『ありがたい』らしかったんだよな。

 ……そう。移住してくる人なんて、大抵は『元の生活に未練が無い』とか、『そもそも元の生活が酷かった』って人達な訳だ。

 そしてそういう人達が、ダンジョンという、共通の『ありがたや!』な対象を中心にして回る、このパニス村に集まっちゃうと……どうなるか。




「ダンジョンの神よ。今日も実りをありがとうございます!」

「ダンジョンの神様!今日もいい一日になりますように!」

 ……洞窟入り口には『ダンジョンの神を祀る祠』が出来上がってしまった。そして、村の皆が毎朝、そこにお参りしていくようになっちまった。


 そう。俺が全く予想していなかったことに……。

 ……信仰が!

 信仰が!活発に!なってるんだよなあー!




 で、元々のパニス村の人達は、俺が『ダンジョンのちび神様』なことを知っているもんだから、にっこにこで俺に挨拶してくれるわけだ。

 で、新しくパニス村に来た人達は、そんな人々の様子に最初こそちょっと首を傾げているんだが……一週間もしない内に、『アスマ様!おはようございます!』『アスマ様、今日もいいお天気ですね』と、にこにこ接してくれるようになるわけだ。

 ……どういう扱いになってるのか、分からない。探りを入れたら襤褸が出そうなんで、それも下手にできない。

 なので、俺は……『これ、俺が信仰されてるのか?それとも、ダンジョンっていう別のものを信仰してるのか……?』って、戦々恐々としながら、祠の様子を見守ってる訳だ……。




 ……というのもね。

 予想外でもなかったことがここに1つ、起きているからである。




 その日も、俺とリーザスさんはダンジョン内の見回りをすべく、ダンジョン前受付へ向かっていた。

 ダンジョン前受付の横には『ダンジョンの神の祠』があるので、なんとなく気まずいんだが……まあ、いつもなら、知らんぷりして通り過ぎる。

 そう。いつもなら、だ。


 ……その日は、ちょっと様子が違った。というのも……ざわつく冒険者達に囲まれて、1人の人が、声を上げていたからである。

「ダンジョンに意思など無い!我らが神はただ1つ!ダンジョンを崇拝する行為は直ちに止めなさい!」

 まあ、いつかお前が戻って来ると思ってたぜ!


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― 新着の感想 ―
糸や布の材料くらいは買い付けようよ。……貨幣流通のボトルネックになっているでしょこの村
機械化自動化は人の仕事取っちゃうから、暫く封印ね。
タフだな 帰れよw
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