表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
42/162

もてなせ!ダンジョンの村*7

 ダンジョンに入場した冒険者パーティーっていうのは、大抵、入場が同時でも、『私達はこっちで』『じゃあ私達はこっちに行きますんで』ってかんじで、分散していくものである。

 それは当然、彼らの目的が宝石拾いだからだ。

 同じ方に進んでたら、宝石の取り分がお互いに減っちゃうからな。一応、暗黙のルールとして、『事情が無い限りは別行動する』っていうことになってる。

 ……なので、暗殺者集団なのか冒険者パーティなのか分からない彼らは、入場してすぐ、それぞれに分散していった。俺達、王立第三騎士団も当然、彼らとは異なる道へ進むことにする。

「ところで少年。今日はおんぶなんだな?」

「うん……ちょっと眠くて……」

 ……そして俺はというと、リーザスさんにおんぶしてもらっている。もうしわけねえ。もうしわけねえ。

 でもしょうがねえのよ。何せ俺、今……目の前が見えてないからね。

 俺は視覚をあっちこっちに動かして、『どの集団が怪しいかなあー!』ってのを確認中だ。顔見知りの冒険者パーティもあるけれど、今朝入場した冒険者パーティについてはほとんどが知らない顔の人達だったからな。

 ミシシアさん曰く、『20人くらいで』ってことだったから、まあ、4団体か5団体は暗殺者パーティなわけだろ?ということで俺はそのつもりで全てのパーティを監視しているのである。

 ……で、そうやって監視してる以上、俺は前が見えなくなっちゃうので、『おねむです!』ってふりして、リーザスさんにおんぶで運んでもらうのだ。もうしわけねえ!こうでもしないと普通に盲目と変わらねえから許してくれ!




「おっ。そこ、罠っぽいな。気を付けて」

「宝石が落ちてる。踏むなよ」

 俺が運ばれている間も、聴覚はこっちに置きっぱなしてあるんで、騎士団の人達の会話が聞こえてくる。今日も堅実にダンジョン攻略してらっしゃるようだ。宝石、持って帰ってくれていいんだよ……!

「アスマ様。どちらに進む?」

「ん?えーとね……右。右でお願いします」

「分かった」

 ……尚、俺はこういう状態になりつつも、ちゃんとナビゲートはしている。というか、そのために俺の本体がここでおんぶされてるわけだからね!第三騎士団の誘導ができなきゃ、何もかも終わりだからね!

「アスマ様。暗殺者の様子は?」

「えーとね……うん、大体こいつらかな、ってのは、分かってきてるよ」

 それに加えて、暗殺者集団がやっぱり動き出した。

 とりあえず……2団体、かな。分かれて進んだように見せかけて、引き返して、俺達が居る方に道を変えた奴らが居る。

 でも、もう半分くらいはまだ居るはずなんだよなあ。1団体、入口付近でずっとウロウロしてるのが多分、『撃ち漏らし』を警戒してる奴らだとして……最低でももうあと1団体は暗殺者だろうからなあ。参っちゃうよなあ。

「リーザスさん。ちょっと速度上げられる?追ってきてる。2団体、合計9人」

「そうか。えーと……殿下!この辺りは宝石も多く、他の冒険者達も探索したいことでしょうから、ここは先を急ぎましょう!」

 俺がリーザスさんの耳元でこしょこしょ囁くと、リーザスさんがラペレシアナ様に進言してくれる。ありがてえ。

 ……でもリーザスさん、ちょっと大根役者なんだよなあー。まあ、『何かあるんだろうな』ってラペレシアナ様には感づかれてるだろうけど、でも、それも含めて、『リーザスは暗殺者の気配を感じ取ったのだろう』とか思ってくれてるだろうし、よし。

「そうか。ならば……進むぞ!各自、自分の安全を守ることを最優先に動け!」

 ラペレシアナ様はリーザスさんの言葉に従ってくれた。ありがたいことだなあ。

 ……さて。じゃあ俺は俺で、そろそろジェネリックの準備を進めていかねえとなあ。




 そうして俺達がペースを上げて進み始めると、暗殺者集団2団体合計9名はちょっと焦り始めた。『気づかれたか?』ってところなんだろうな。

 だがそれはさておき……こっちはこっちで、俺は『ああー!暗殺者は一旦こっちに引っ張り込みたくて、でもあっちに進んでる集団がなんか怪しいからできるだけ遠ざかったところで色々やりたくて、でもこっちの道潰すと普通の冒険者が困る!』とやっていた。

 うん。もうね、パズルだわ。これ、パズル。あっちが引っ込むとこっちが出っ張る、みたいな、そういうタイプのパズル。

「ど、どうしたんだ少年。具合悪いのか?」

「い、いや、大丈夫です!お気になさらず!」

 そして、リーザスさんにおんぶされながら『あああああああ!もおおおおおおお!』ってやってる俺を心配してくれる優しい第三騎士団の皆さん。俺のことはいいから前向いて歩いて!前進!全速前進して!


 そうして俺がやきもきしながら第三騎士団が前進してくれているところ。

「……あれっ、リーザスさん。前方に一団体、居るっぽい」

「何だと?」

 俺、流石にちょっと焦った。いや、だって……『後』から追ってくる連中はさ、意識して見てたけど……『先』で待ち構えてるって、そんなはずないじゃん、って……。

 けど、先に居るんだよ。今日、俺達より先に入場した組は無かったはずだし、先回りできるような脇道はここには無い。

 ……成程。考えればすぐわかることだ。こいつら、前日の夜に受付を通らずに入場して、洞窟内に潜んでたってことだな。

 そこまでするか?とも思うが、確かにするよな。そりゃする。これをやったら、挟み撃ちが簡単なんだから。

 だが、そうなると……先に入場して潜んでいた暗殺者達と、今朝になって入場した暗殺者達。こいつら、洞窟の中に入ってからもある程度は情報のやり取りをしてるってことになるよな。

 何?この世界、携帯電話とかあるの?念話とか?そういうかんじの?……そこらへん、確認しとくんだったなー。てっきり、そういうの全然無いんだとばかり思って、その前提で動いてた。

 だがこれ、敵同士が離れていても連携を取れる前提で考えると、かなりヤベえ状況である。

 このまま進むと挟み撃ち待ったなし。となったら、やっぱりここで先に暗殺者連中を片づけてから何とかすべきか?


 ……いや、違うね。

「リーザスさん。ちょっと……相談があるんだけど……」

 俺は、賭けに出ることにした。

「リーザスさん、何秒ぐらい、息止めてられる?」

「は?」




 そうして俺達は、予定していた通り、『ジェネリック君待機室の真上の部屋』までやってきた。

 予定ではここで王立第三騎士団の皆さんには二酸化炭素で気絶してもらって、そのまま床ブチ抜き型落とし穴でジェネリック君のところまで一直線、っていう手筈だったんだけど……。

「……来たか」

 先に、後方から来ていた暗殺者集団9人が、追いついてきていた。

「総員!構えろ!我らの客人のようだぞ!」

 だがラペレシアナ様はこれを予想していたんだろう。第三騎士団の人達も、また。

 俺が思っていたより随分と素早く、慌てることも無く、彼らは迎撃準備を始めた。これが本物の騎士かあ、と、なんかちょっと感動する。

「アスマ様!悪いが降ろすぞ!」

「どうぞ!今は見えてるから大丈夫!」

 そしてこうなったら俺もおんぶされてる場合じゃねえので、降ろしてもらう。ちょっと投げ出すみたいな降ろされ方をされちまったが、問題無い。ちゃんと視覚はこっちに戻したし、ここには予め待機させておいたスライムが数匹居る。もよよん。

 ……で、スライムに埋もれながら観察していたんだが、案の定というか、第三騎士団の人達、動きが悪い。それでも、動きが悪いなりにどう動けばいいかを熟知しているっていうか、立ち回りは上手いんだと思うんだけど……相手が多分、相当に、強い。

 そこらへんの冒険者のふりをしていた暗殺者9人が、どんどん騎士達を追い詰めていく。数ではこっちの方が勝ってるのに、数で勝てない。動きが悪いところを狙われて、早々に各個撃破の形をとられている。

 だが。

「舐めるなよ!」

 ラペレシアナ様が吠えた。その剣が流麗な線を宙に描きながら暗殺者へ一直線に襲い掛かって……と思ったら、ふっ、と消える。

 あれっ、と思っていたら、また、ふっ、と姿が見えて、暗殺者が2人、倒れていた。

 ……今の何!?

 そうか、そうだよなあ!ラペレシアナ様だって、ご多分に漏れず、この世界のファンタジーパワーをお使いになられるって訳だ!わけわかんねえ!

 更に、リーザスさんがそれに続いた。

 ……俺は、こう、リーザスさんがマトモに戦うところを初めて見た訳なんだが……すごいね。かっこいいわ。彼もまた、ファンタジーな動き方してるよ。なんか、剣が暗殺者の鎧ごと叩き切ってるよ。なにあれ。かっこいいけどやっぱわけわかんねえ!


 そういうわけで、これはもしかして、俺が何かする前にカタがつくか?とも思ったんだが……やっぱり、ラペレシアナ様とリーザスさんが居ても、劣勢は劣勢だった。

 2人で残りの騎士達を庇うような戦い方をし始めてるんだが、つまりやっぱり、他の騎士達が足引っ張ってる形になっちまう。

 更に、暗殺者集団は怪我をしている騎士達を盾に使うような、そんな真似まで始めたもんだからマジで戦いにくい!

 だが……まだだ。まだ、俺は手を出せない。

 騎士が1人倒れ、2人目が刺されても、まだ。


 そして。

「なっ……挟み撃ちだと!?」

 前方から、わっ、と人がやってくる。待ち伏せしていた暗殺者達だ。

 流石のラペレシアナ様も、これは予想外だったらしい。一瞬、その目を見開いたかと思ったら、しかしすぐ覚悟を決めて剣を構え直して、自分へ向かってくる暗殺者達の動きを、一瞬たりとも見逃すまいとばかりに視線を動かす。

 どう動けば、皆で生き残れるかを探ってる。

 だが、暗殺者達は容赦なくラペレシアナ様へ襲い掛かってきて……。

「今です!」

 そこで俺は、罠を発動。

 ここから遠く離れた場所で生まれた大量の圧縮二酸化炭素。それが一気に……この部屋へ!


 そう!敵も味方も全員まとめて!気絶させれば!よかろうなのだァーッ!




 ほら、ね?こうさ。俺が危惧してたのって結局は、『味方が気絶してるところに敵が来たら厄介だよね』って話だったわけじゃん。

 ってことはさ、『味方が起きてるところに敵が来た時点で全員まとめて気絶させればいいじゃん』ってなるじゃん。

 ということで、俺は大慌てで手近なスライムを引っ掴んで、むにょっ、とスライムを……被る!

 被られたスライムは、みょ、と動いて、俺の頭を覆ってくれた。……まあ、ヘルメットというか、金魚鉢というか、そういうブツを被っているような状態になった訳である。

 ……見た目が間抜けと言えばそうなんだけどね。でもしょうがない。こうでもしないと、俺、気絶一直線だし……。

「くっ……なんだ!?」

「多分毒ガスです!殿下、殿下だけでも、外へ……くそ!」

 急激に二酸化炭素濃度が上がっちまった部屋の中、暗殺者達も騎士達も、皆結構粘って頑張ってたんだけど……その内、全員が意識を失って倒れることになる。

 ……最後まで粘ってたの、第三騎士団の騎士達だったよ。意識を失ったラペレシアナ様を抱えてなんとか部屋を出ようとしてた。やっぱりこの人達、すげえなあ。


 さて。

 では、敵も味方も全員まとめて気絶したところで……落とし穴の時間だ!

「えーと、ジェネリック部屋にクッションを設置して、いいかんじに……よし!落ちるからねー!リーザスさん、身構えてー!」

 そしてリーザスさんは呼吸を止めたまま頷いてくれたので、俺は『よっこいしょ!』と、一気に床を分解吸収。

 ……ということで、俺達は全員まとめてジェネリック君の部屋へと落ちていったのであった。




 さて。

 俺が落ちた先は、ジェネリック君の上である。よって、もよよん、としてダメージは無い。

 そして、他の人達についても、エアーマットを用意しておいたので、そこにもよよん、としてダメージは無い。

 ……あっ!暗殺者の1人がうっかりエアーマットから外れた!なんか『めきゃっ』ていった!やべやべやべ、急いで薬草ポーションぶちまけとこ!


「さあジェネリック君!頼んだ!」

 そうして、俺は暗殺者達の怪我を薬草ポーションで治して回り、ジェネリック君は第三騎士団の人達を片っ端からジェネリック世界樹ポーションで治して回った。

 ……ジェネリック君、仕事が早えなあ。動き方は、もっちり、もっちり……なのでアレだが、リーザスさんが『ほら!次はこっちだ!』って騎士の人達を抱えて運んで連れていくもんだから、すげえ速さで仕事が進む進む。

 で、俺はというと、暗殺者の人達を片っ端から薬草ポーションで治療し切った。頑張ったぜ。

 これは、ダンジョンが第三騎士団の方だけ贔屓したわけじゃないんだよ、というみみっちいアピールである。まあ、彼らを生け捕りにしなきゃいけないし、それはできれば第三騎士団の人達がやった方がいいわけだからね。しょうがない。

 ……だが、一応ちょっとした抵抗として、暗殺者数名の剣やナイフを取り上げて、勝手に分解吸収させてもらった!いやー、うっかりうっかり!エアーマット片付けようと思ったら間違えちゃって!うん!しょうがないね!




 ……という状況になったところで、俺はジェネリック君に『あ、残ったポーションは食べちまっていいぞ』と指示。これで証拠隠滅を図るって訳だ。彼らの怪我がいきなり治った理由はこれで闇の中である。

 後は、暗殺者より先にこっちが目を覚ませばOKってなわけで……。さて。

「えーと、どれくらいでどんなふうに起こしたら自然かな」

「……うーん、もう起こしていいんじゃないか」

 ということで、俺とリーザスさんとで手分けして第三騎士団の人達を起こすか、となったところで……。


 ぴかっ、と、閃光が走った。

「ん……」

「なん、だ……?」

 地下とは思えない眩さに、気絶していた人達も全員、目を覚ます。

 そして彼らは……目の当たりにすることになるのだ。

「光る、スライム……!?」

 ……何故か唐突に光り輝きだした、ジェネリック君の姿を!

本日より、拙作『没落令嬢の悪党賛歌』のコミカライズが配信開始しております。

詳しくは活動報告をご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
スラ仏様じゃ!
ぴかぴかスライムだと!
ぺかーっ! 三文芝居しなくても、眠いなら来なくていいのに付いてくるって時点で察してると思うよ 少し膨らんだ状態でスライムメットしてもらえば空気があるからもう少し活動時間が増えるな。咥えれば水中でも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ