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ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
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もてなせ!ダンジョンの村*4

 その日は、ちょこっとだけダンジョンを見て終了した。どうも明日、改めてもう一回、ちゃんと準備を整えて突入するそうだ。それでちゃんと、踏破を目指すんだとさ。

 なんというか、思ってたよりずっと慎重派だった。いや、あの聖騎士団のイメージが強すぎたんだが。……あの人達、ほんと、なんであんなんで騎士団やってられたんだ……?やっぱファンタジー力?ファンタジー力の賜物だったの?


「このダンジョンの最深部には、宝玉でできた樹があるそうだな」

「ええ。噂はお聞きになっておられましたか」

 さて。ラペレシアナ様は、やっぱりこのダンジョンの噂はある程度集めてから来たらしい。既に宝玉樹のこともご存じであった。

「ああ。その樹の果実だという美しい香水瓶が贈られてな」

 ……いや、知ってて当然か!そりゃそうだよなあ!そっかー、あの宝玉樹の実を贈られたお姫様ってのが、このラペレシアナ様だったんだなあ。

 うん。あの宝玉樹の実、彼女に似合うと思う。作ってよかったー!

「あの香水瓶の中には、本来、癒しの力を持つ秘薬が入っていたと聞く」

 ……が、ちょっとずっこけそうになる。いやいやいや、あの実の中に入ってるポーションは、単なる疲労回復ポーションですよ!ちょっと甘く味付けしてあるけど!それだけなんだけれど!

「此度の調査は、それの入手が目的でもあるのだ。……第三騎士団の者達に効く薬であればよいのだが」

「ラペレシアナ様……」

 あああああ……そっか、そういうことか。この王女殿下は……傷を負ってる部下達を思いやって、こんな所にわざわざ視察にいらっしゃったってことかぁ……。

 だがあの宝玉樹の実の中身、そんな大層なモンじゃなくて、単なる疲労回復ポーションなんだけど……風呂に入ってるブツも、濃度こそ違えども、正直似たようなモンなんだけど……あああ!

「まあ、何よりも、議会で決まったことであるのでな。それで私が来ることになった」

 ラペレシアナ様はちょっと笑って、そう付け加える。一応、ちゃんと公的な目的ではあった、のかな。出張ついでに部下の持病が治ったらいいな、みたいな、そういうかんじだったのかも。

 ……と、納得していたら。

「……議会が?」

 リーザスさんが、なんか、ぎょっとしていた。

「殿下が直々にいらしたのは……議会の決定によるものだと?」

「ああ。ま、そういうことであろうな」

 え、何、どういうこと。どういうことなのよそれは。

「……父上も、賛同なさったのだ。最早、何も言うまい」

「しかしそれは……」

「よい。言うな。元より、こうなるであろうことは分かっていた」

 ……なんか、あったのかな。うーん。

 今、首突っ込むのはなんか気まずいな。しゃーなし。御一行様を宿にご案内した後で、ちょっとリーザスさんに聞いてみるか……。




 御一行様を宿に案内したところ、『おお!広くて綺麗な建物!』『ベッドがふかふか!』『すまない、少年。先ほどのスライムの、その、貸出などはやっていないものだろうか……』と、喜びと反響の声を頂いた。スライムは貸し出した。スライムは特に何も考えていない様子で、もっちりもっちりしていた。元気に働いてこい。

 ……そして。

「誂えたように1人部屋があるものなのだな」

「……殿下がいらっしゃるような気がしたもので、用意してもらいました」

「勘が良いというか、何というか……私は他の者と同室でも構わぬと前々から言っておるだろうが」

「そういうわけには参りませんと、前々から申し上げておりますが……」

 ラペレシアナ様は、リーザスさんにちょっと小言を言われつつ、1人部屋に収まることになった。うおお、用意しておいてよかった1人部屋!

「……それにしても、良い部屋だな。リーザス。お前がこの部屋を?」

「いやいやいや、とんでもない。俺にこんなことはできませんよ」

 ……まあ、ね。うん。この部屋、高級志向にしてはあるよ。

 ベッドや椅子になっている木材は一回分解吸収した後、完璧に美しい木目が出るように再構築したものを使っているし、クッションやベッドのリネン類やカーテンの類等々の布類も、やっぱりダンジョンの分解吸収再構築で作り上げた植物繊維だ。

 何せ、厚手なのに柔らかい布だって、超細い糸で織りあげた極上の薄布だってダンジョンパワーで作り放題だからな。組成を自由に組み替えられるってのは、布製品づくりにびっくりするほど役立つ能力だ。よって、布には自信あり。

 それらに加えて、ダンジョンで作った水晶を削って、小さいながらも華やかなシャンデリアを誂えてあるし。ダンジョン産のきめ細かな大理石で床を作ってあって、そこに、すっかりパニス村の特産品になりつつある青白磁の花瓶を飾って、花瓶には野の花を生けてあって……。

 そして、スライムがもっちりしている。

 スライムが。

「……すみません。このスライム、俺のです……退かします……」

 何を気に入ったんだか、スライムがもっちりもっちり、ラグジュアリーな部屋の中でくつろいでいる。ここ、お前の部屋じゃねえから!

 ということで、俺の一抱えよりデカいタイプのスライムを、もち……もち……と押してなんとか部屋から出そうとしていたところ。

「いや、構わん。ここに居たいなら居させればいい」

 ラペレシアナ様は、寛大にもそう仰られましたので……おいよかったなスライム!お前の不敬が許されたぞ!

「……ところで、こやつには、その、座っても良いのか」

「あっはい!どうぞ!」

 おいよかったなスライム!美女の椅子になれる栄誉に与ってるんだぞお前!おい!もぞもぞしてるんじゃないよ!不服か!?まさか不服だってのか!?


 ……まあ、スライム的になんか丁度いい場所があったらしく、そこにもっちり落ち着いたら、後は大人しくラペレシアナ様の椅子になっていた。時々、つつかれていた。よし。




 そうして俺達は、『後はごゆっくり!』ということで引き揚げた。『備え付けの風呂がありますよ!男風呂と女風呂は別ですからね!』とアナウンスしたら、騎士達、滅茶苦茶喜んでくれてた。

 というのも……『やった!風呂!』っての以上に、『ということはラペレシアナ様が後の俺達のことを気にせず、ゆったり浸かれるんですね!』だったよ。

 そっか、そういうの、あるよな。ラペレシアナ様、どう見てもいい人だもんな。自分が疲れてても、怪我してて湯治が必要そうな部下達に風呂をさっさと明け渡すべく、カラスの行水レベルのスピーディー入浴してた可能性もあるのか。

 うん。そういうことなら、風呂をゆったり造っといてよかったぜ。

「それにしても、皆、いい人達だなあ……」

 宿からの帰り道、俺がそう零すと、隣でリーザスさんが笑った。

「ああ。そうだろう。彼らは戦の最後まで戦い続けた、高潔な武人達だ。無論、殿下もそうだ」

 うんうん。そうだよなあ。俺、騎士団の人達のこと、すっかり大好きだよ。高潔、って言葉が相応しい。他者への気遣いに溢れていて、行儀が良くて、慎重で、うるさくなくて……うん、まあ、そうじゃない例を前に聖騎士で見ちゃってるから、ってのはあるだろうが。うん。

「前、褒めてた上司の人って、ラペレシアナ様のこと?」

「ああ、そうだな。……あの人はすごいぞ。強い」

 そっかー……ええと、確か、リーザスさんは前、『ダンジョンで見つかった宝剣を持ってる上司が居たよ』って教えてくれたんだよな。

 確かに、ラペレシアナ様の剣、鞘が綺麗だった印象がある。抜き身の状態ではまだ、見たことないが。……ダンジョンの剣だから、まあ、素材にはこだわって作ってあるんだろうなあ。

「だが……如何に強い人間でも、その強さが全てを救ってくれるわけじゃない」

「ん?」

 が、リーザスさんが妙に暗い顔でそう言うものだから、俺も『ああ、さっき俺が気になってた話、してくれるんだな』と気づく。

「ラペレシアナ様は、今、複雑な御立場でな……うーん、アスマ様に、この話をしておくべきか、迷ったんだが……その、聞いてもらえるか」

「勿論!」

 ……どうやらあのお姫様、なんかあるっぽいからね。




「まず、この国には王子が2人、王女が4人居る」

「めっちゃ居るじゃん……」

「そ、そうか?」

 そりゃね。俺の感覚ではね。なんせ日本のロイヤルファミリーは少子化傾向だし。でもやっぱり、こういう世界だと、子沢山な傾向にあるんだろうしなあ。その割には少ない、ってことなのかな。

「で、第一王子と第二王女、第一王女と第四王女、第二王子、第三王女はそれぞれ母親が違う」

「うわーっそう来たかぁ!」

 そりゃあね!日本のロイヤルファミリーと比べたら多い訳だよ!なんか!色々と俺の想像の外から来たぜ!

 だがまあ、分かる。分かるよ。奥さんいっぱい居るんだろ?うん、分かる。そういうことならそういうモンだって頭切り替えていくぜ。

「……で、だな。その……まず、第一王子と第二王女だが、この2人の母は、野心が無くてな。順当に行けば第一王子が次期国王なんだが……第二王子の母が、野心家で……」

「あー……うん、つまり、第二王子を次の王にするために、第一王子をどうこうしちまおう、ってなってるのか」

「そういう訳だ」

 成程ね。ロイヤルな暗殺劇が繰り広げられそう、ってことね。こええよ。

「で、だ。王城内でそんな派閥争いが始まってしまった中、第一王女と第四王女は、さっさと撤退を決めた。隣国に嫁に行ったり、留学に行ったりだな。留学中の第四王女は、まあ、帰ってくるつもりは無いだろう」

 はいはい。じゃあそこ2人は次期国王ダービーは出走取り消し、2人して安全圏、ってことなのね。成程。

「第二王女は、第一王子と母親が同じなもんでな、執拗に嫌がらせを受けていた。だが、第一王子を支えつつ、国内の有力貴族と婚約中だ。その貴族とは、愛し合った仲であるそうで……だが、辺境伯の一人息子が相手だからな。婿に貰うって訳にはいかないらしい」

「おわあ」

「で、問題は第一王子本人で……その、覇気が無い。本人は、王になる気はあまり無いらしい」

 うわああ……まあ、本人にその気があんまり無いんだったら、そりゃ、うん……どうしようもねえよなあ。

「じゃあ、さっさと第二王子を次期国王に据えちゃえばいいんでもないの?」

「そうもいかない。何せ……その、第二王子は、あまりにも……人柄というか、素行というか、能力というか……問題が、あってな……」

 ……うん。そっかー、うん。うん……。

 ……ひでえな!


「よって、今、国内は『王になれる能力はまあ無い訳ではないが本人が王になる気が無い第一王子』と、『王にしたら問題がありそうな第二王子』の2つの派閥に割れている」

 ……ひでえ国内情勢を聞いた。うん。ひでえよ。ひでえよ!

「えーと、まだ話に出てない第三王女っていうのは……?」

「ああうん、それがラペレシアナ様だ」

 あ、やっぱりそこなんだ。成程ね。ラペレシアナ様は、特にどちらの王子とも母親が一緒じゃない、第三勢力なのね。

「……彼女は、先の戦で武功を打ち立てている。とんでもない武功を、だな。何せご本人が、生きて戻るつもりはなかった、と仰っておいでなほどだったから……」

 ……うん。

「だが彼女は生き残った。そして、まあ、人の上に立つ器をお持ちの方だ」

 ……うん。そうね。それは分かるぜ。


「なので、第二王子の派閥から、警戒されている」


 分かった!そっか!理解した!そういうことね!

 ……ラペレシアナ様は、政治闘争に巻き込まれちゃってるってことだ!




 ままならねえ。ままならねえ話を聞いちまった。だがこれは聞いとかないとヤバい。俺の直感がそう告げている。

「えーと、警戒されてる、ってのは、具体的には、どういう……?」

「……反第二王子派の目が第一王子に向いている間に、ラペレシアナ様を暗殺してしまえ、という具合に、じゃないか?俺もしばらくの間、王城を離れているから詳しいところは分からない。だが……議会が、彼女にこんな場所への出動を命じた、となると……」

 ……まあ、議会ってのがどんなもんかは分からないが、国の有力者達がこぞってラペレシアナ様を追いやろうとしてる、ってかんじ、なのかな。

「ラペレシアナ様ご自身、第一王女と第四王女のように、さっさと降嫁するなり何なりしてしまえば警戒されることは無いだろう。だが、王族の婚姻だ。下手なところへはやれないわけだ」

「うん」

「その上……その、顔に、傷を負っておられる。それ故にか、ご本人がまず『傷モノの嫁を娶らされる者が不憫だ』と仰っておいでで……」

「えええー……」

 いやー、なんか難しい話になってきちゃったな。政治闘争に、戦の跡片付け系の話まで入ってきたぞ。

「火傷があろうが何だろうが、あの美貌に向かってそんなこと言う奴、居るぅ……?」

「……まあ、口さがない者は、居る」

 あ、居るんだ……。そういうの、やっぱり気になるモンなの……?

 ……誰よりも、本人が気にしてるんかな。そういうの、あるよな。うん……。

「そういう訳で、ラペレシアナ様は今、第三騎士団長として活動しておられる。政治にかかわるつもりは無い、と、そう示して見せている訳だな。だが、婿を取る先によっては、今後十分、次期国王の跡目争いに食い込んできかねない、と、警戒する奴は居るもので……」

「成程なあ……リーザスさんがなんか難しい顔してたの、それかぁ」

「そういう訳だ」

 俺とリーザスさんは揃ってため息を吐いた。うん、まあ、ため息の一つも吐きたくなるってもんだぜ。

「……ラペレシアナ様の御身に、何も無ければいいんだが」

 うん……まさか、命を狙われるお姫様がこの村に来ちゃうってのは、想像してなかったな……。




 だが。

「まあ、そういうことなら、この村に来てもらったのは丁度よかったかも」

 俺としてはもう、ラペレシアナ様のファンだからな。第一王子だの第二王子だのがどんな人かは知らんが、ラペレシアナ様はいい人である。少なくとも、死んでほしくはない。

 なので。

「この村ごと全部ダンジョン、ってのを存分に生かして、ラペレシアナ様をお守りしよう!」

 ……俺の腕が鳴るってもんだぜ!




「まずはあちこちにスライムを詰めよう」

「は?」

 まあ、俺の腕の鳴り方はな……こう、一味違うんだぜ!

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― 新着の感想 ―
王になりたくない王子は身一つ(マッパ)で他大陸にでも叩き出してやれ
第一王子と第二王子の首切って入れ替えよう。死ななければまともな王子一つできそうだぞ。
腕が鳴る音がモチモチとかプニプニとか、そういう擬音にしかなれないんでしょうねー。 それにしてもスライム貸出… アスマ様、異世界の日本への出張貸出のご予定は…?
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