ここはそういうダンジョンなので*4
さて。
そういう訳で、希望がちょっと見えてきた。
今までずっとペンディングされていたデカい問題への解決の道が見えてきた俺は、滅茶苦茶元気になってきた。
「よし……早速やっていこうじゃねえの」
俺は、改めてダンジョンの仕組みを考察していくことにする!
まず確認だが、このダンジョンの機能は主に3つ。
分解、吸収、再構築。この3つだ。
分解については、物品を……えーと、多分、元素と魔力に分解することができる。いや、既にこの時点で大分謎が多いんだが……まあいいや。とりあえずそういうもの、ってことで受け止めておこう。
分解したものについては、その情報を得ることができる。元素レベルでそれが分かるわけで、つまり、その合金にどんな元素が含まれてるか分かるし、食品の原材料も分かることになる。
更には、構造もバッチリ分かるから……複雑な仕組みの機械もその構造が全部分かることになるし、傷が付いた鎧ならその鎧のどこにどんな傷があったかも、全部分かることになる。
で、吸収。これについては正直なところ、分解とセットだよな。
分解したものを、吸収して、しまっておける。
……いや、どこにどうしまってるんだよ!ってところは、考えても無駄だと思うのでここはそういうものだと受け止めておくしかない。……なんかそんなんばっかだなあ。
でも仕方がない。これについてはとりあえず、分解したものの元素と魔力をダンジョン内で自由に利用できるものとしてプールしておける、ってわけで……。
……ただ、どうも、プールしてある魔力については、勝手に消費されてるっぽい気もするんだよな。
スライムが勝手に生まれてるし。
世界樹が勝手に成長してるし。
……まあ、いいんだけど。いいんだけどさ。でもまあ、そうだな。彼らが健やかに生きていくためにも、魔力は必要不可欠ってわけだ。
そして再構築。これはもう、言うまでもない。ダンジョンにプールしてある元素を、ダンジョンにプールしてある魔力を消費して、好きな形にすることができる。
一度分解吸収したものについては、その情報が完璧に手に入ってるから、そのまま丸ごと再現可能だ。聖騎士達の鎧も、傷とかついてた部分はそのまま再現しちゃったし。
逆に、俺の脳みその中に設計図があるようなものも、まあ、俺の知識の許す限り、構築することができる。例えば、石をブロック状にすることはできるし、水晶で花を作ることはできるし。
……ただ、複雑な構造のものを作ろうとすると、魔力の消費がちょっとデカくなる。あと、元の形から離れたものを作ろうとするほど、魔力の消費がデカくなる。
例えば、石の中に含まれる炭素と水素と酸素を使ってパンを作ろうとしたら、アホみたいな魔力消費量になった。割に合わねえ。
が、木の根っことかのセルロースからでんぷんを作ろうとしたら、かなりすんなりできた。まあ、そんなかんじだな。
ところで、例えば、水素をヘリウムにしよう!とか、鉛を金にしよう!とかやろうとすると、核融合とか核分裂とかが必要になるわけで、そうなると……どうなるんだろうなあ。そこまでは流石にやったことねえが。
……まあ、元素そのものを作り変えたことはないのでアレだが、分子は作り変えが可能ってことが分かっている。分子構造だけじゃなくて、分子の種類ごと変更できちゃうもんだから、水を酸素と水素にするとか、石英を透明な水晶にするとか、花崗岩の中から橄欖石の粒を集めてきて大粒かつ透明度の高いペリドットに作り変える、とか、そういうこともできる。
炭をダイヤモンドにすることも余裕でできるので……本当に意味の分からん能力である。なにこれ。強すぎる。
で、この再構築、もう1つ意味が分からん部分があって……えーと、出来上がるものの状態は、どんな状態でもいい、っていう……。
……まあ、つまり、その物質を固体で出すのか、液体で出すのか、気体で出すのか。そこらへんは好きに選べる。
つまり、その物質の温度とか、物質に掛かっている圧力とか、そういうものも好きに調節して出すことができちまう、という……やっぱりこれ、強すぎるよ!
まあ、これのおかげで助かってるよ。程よい温度の水を作り放題だから、温泉作り放題だし。圧縮空気をガンガン作って色々な仕掛けを作動させることができるし。
そう。特に圧縮空気の方がズルいんだよなあ。つまりこれ、俺がちょっと念じれば水も燃料も無しで動く蒸気機関を再現できちゃう、ってかんじなわけで……まあ、多少の魔力は消費するけど。するけどさ。
……さて。以上が、ダンジョンの主として俺が使っている主な能力である。
コレの他にも、『ダンジョンの中に視覚や聴覚を移動させることができる』とか、そういうのもあるが、それはさておき……。
「魔力は手に入るなら手に入れておいた方がいいんだよなあ」
魔力。魔力である。
世界樹が育つのに使ってるみたいだし、スライムが勝手に使って生まれたり、デカくなったりしてるみたいだし。それに、再構築の時、ちょっと無理のあるブツを作ろうと思ったら、結構な消費になるし。
そういうわけで、俺としては是非とも、魔力を大量に入手する方法を知りたいのだ。
このダンジョンを防衛する点でも、このダンジョンに住まう多くの生命が健やかにあるためにも、俺が元の世界へ帰るためにも……魔力を手に入れることが、必要なのである!
ということで、実験開始!
「本の魔力が多いってことは、本を作ると魔力量がアホみてえなことになる……?」
まずは、可逆不可逆よ。これを調べねえことには始まらねえ。
つまるところ、紙の束を作ってみて、インクを作ってみて、その時に消費した魔力量がどんなもんかを調べる。
で、次に、TOEICの参考書を同一素材で調べてみて……ん?
「あれっ魔力の消費量がそんなでもない」
……これ、分解吸収した時にすごい魔力量だったんだけど。え?これ、どういうことよ。おいおいおい、しょっぱなから躓いちまったじゃねえの!
面白くなってきやがったぜ。ということで、教典も作ってみたんだが、これも最初に分解吸収した時の魔力量とは全然違う。
「えー、何々、ダンジョン一切関係なく入手された本しか魔力が多くない、ってことか?」
……考えてみるんだが、まあ、1つにはそれが考えられる。ダンジョンパワー一切無しに外から持ち込まれた本からしか、魔力は得られない。そういうやつ。
が、もう1つは……。
「或いは、始めの1つだけ、って可能性もある」
ということで実験。俺は、俺の脳みそをフル活用して……俺自身が覚えている限りで、なんとかかんとか、本を一冊生み出す。
……俺が内容を丸暗記してる本なんて、そうは多くない。なので今回生み出された本は、『枕草子』の有名なあの冒頭部分だけである。まあ、それでもそこそこの文字数はあるし……。
「……生み出すのは普通に普通の魔力量だなあ」
まあ、普通に出せた。つまり、紙とインクの魔力量でしかない。ので、まあ、普通に分解吸収してみたら……。
「いやいやいや!分解したらいきなり増えるのかよ!?」
……増えた!急に増えた!なにこれ!なぁにこれぇ!えっ!?どういうこと!?
ということで、色々と実験してみたところ、『本は、それの分解吸収一発目だけは得られる魔力量がすごく多い』ということが判明した。
なんだろうなー、この、初回限定ってのは一体、何なんだろうなー……。うーん。
ということで、はい、次。
「ミシシアさん、リーザスさん、エデレさん。あなた達に集まってもらったのは他でもない……」
俺は、他の人達も巻き込むことにした。これは俺1人ではどうしようもないものだったからな。うん。……ということで。
「あなた達には、今から絵を描いていただく……」
「いいけど、なんで……?」
……『画集』は本の内だろうが、それの情報量はどんなもんよ、っていう検証をする。
3人にはいい迷惑だろうが、ごめんねちょっと付き合ってね、ということで、絵を描いていただいた。のだが……。
「うおっ!?ミシシアさんめっちゃ上手いね!?」
「えへへ、ありがと」
ミシシアさん、絵が上手い!めっちゃ上手い!今、花の絵を描いてもらってるんだが……すごく上手い!画集が売れそうなレベルに上手い!
「エルフの里ではよく絵を描いてたから……」
ちょっと照れつつ描いてもらって、俺は只々、『すげえなあ』と思いつつ、それを見守り……。
「……リーザスさん。得意不得意は誰にでもあるよ。隠さなくていいんだよ」
「……すまない」
リーザスさんは……その、うん。絵、苦手なんだね。でもいいよ。俺も苦手だよ。そんなに縮こまらなくっていいんだよ。ごめん、俺が無茶言ったばっかりに……。
あ、そのフカフカした丸いのは花?うん、花に見えるよ。なんかかわいいね、それ……。
……そして。
「エデレさうわぁーッ!?」
「ごめんなさいね、私もあんまり絵は得意じゃなくて……」
ノーコメント!エデレさんのはノーコメントで!
はい。なんか一瞬、邪神像みたいなのが見えたけどそれは気にしないことにした。俺は何も見ていない。
「で、勿体ないんだけど、これを分解させてもらうね」
……そうして、3人が描いてくれた絵を分解吸収してみたところ。
「おー……文字程じゃないが、これもぼちぼち魔力が多いね」
これも、紙とインクの分以上の魔力量。なんだろうなー、これは。
「じゃあ3人には……文字を書いてもらおう。ごめん。なんか何でもいいから文章、書いてもらっていい?」
「ええ、分かったわ。じゃあ、昨日あったことでも……」
「文章?私、あんまり得意じゃないなあ……」
「報告書なら……」
……で、折角なのでそのまま、文章も書いてもらった。こっちの得意不得意はさっきと逆っぽいな。うん。個性は色々……。
書いてもらった文章はそのまままた分解吸収してみたら、これはやっぱり、絵よりも魔力量が多い。なんだろ。
……それからも、『じゃあ立体作品は!?』とか、『芸術は関係ないのか!?ならリーザスさんの報告書は!?』とか、『あら、アスマ様。だったら燃やそうと思っていた教会の寄付を募るビラをあげるわね』とか色々試してみて……。
結果。
「今のところ、文章が一番、魔力量が多いな……」
一通り試してみて、やっぱり文章の魔力量がめっちゃ多いことが判明した。
「本も、手紙も、ビラも……文章があるものだものねえ」
「うん……でも、気になるものもあるんだよな」
が、その中でも一番、魔力量が多かったものが……。
「写経したトマトの種が一番、魔力量がデカかった……」
……ほら、写経した米ってあるじゃん。あれ、作ってみたかったんだよな。なので、米……が無かったから、丁度そこらへんにあったトマトの種に、『春はあけぼの、ようよう白くなりゆく山際……』ってひたすら書いたものを再構築で作って、分解吸収した。
そしたら、アホみてえに魔力量が多かった。
……うん。
「植物の種も、魔力が多い……?」
「あ、そうなんだ。不思議だねえ……」
ミシシアさんは首を傾げているが……これは、俺、そろそろ分かってきちまったかもしれない。
「あとな、俺、さっきから気づいちゃってるんだけど……」
「……俺達が会話してると、なんか、魔力、増えてる」
何せ、情報はそろそろ、揃ってきてるからな。
そう。『情報』は。
文章って、即ち、情報である。俺にとって……いや、ダンジョンにとっての、未知の情報がそこに在る訳だよな。
トマトの種は、そこに遺伝子の情報が入ってる訳だから、情報の塊と言えるだろう。
それから、俺達の雑談……物質でも何でもない、ただの、音声のやり取り。これが行われていると……いや、俺達だけじゃなくて、村のあちこちで、村人が、冒険者達が、喋ってると……少しずつだが、魔力が、得られてる。
……そして何より。
俺がこの世界に来た時に、消えていたもの。
……PCやスマホ、スマートウォッチ。そういった電子機器……内部にストレージを有する、『情報の塊』ばっかり、消えていやがった訳だ。パンツも消えたが、まあ、アレはアレとして……。
そうして俺は、仮説を立てた。
『魔力とは、情報である』または、『情報は、魔力に変換される』って仮説を。




