表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ちび神様の楽園ダンジョン  作者: もちもち物質
第一章:ダンジョンは村に進化した!
32/162

ここはそういうダンジョンなので*2

 ……ということで。

「えーと、じゃあ、おじさん達の装備、スライムが探してくれないか、頼んでみるね」

「あ、ああ……よろしく頼む」

 俺は、『スライム使いの少年』として、パンイチ聖騎士団と交渉していた。

「初回だから料金は安くしとくね」

「金を取るのか……」

「当たり前だろ何言ってんだよ……」

 ……ということで、聖騎士達に『料金はこの日までにダンジョン前受付に預けておいてくれればいいよ』と説明して、諸々契約書を作り、無事、契約完了。

 契約関係は、エデレさんが書類を作ってくれた。ありがとうエデレさん!

「それにしても……その、何なんだ、その、やたらと大きいスライムは」

「え?うん、なんかね、放し飼いにしてたら、おっきくなってた。俺もよく知らないけど、まあ、大きいことは良いことだ、って言うし」

「そ、そうか……?」

 ……で、このクソデカスライムは、これから『ダンジョン内のレスキュー隊員』として、働いてくれることになった。




 俺はダンジョンの主な訳だが、『俺がダンジョンの主です!』ってやっちゃうと何かと問題があるのは当然である。

 が、そうなると、村とダンジョンを結ぶのが結構難しいというか……今回みたいに、『どうやって侵入者の私物を都合よく返却してあげるか』みたいな問題が発生しちまうわけだ。

 だがしかし、そこで冒険者のアニキ達が俺について勝手に勘違いしてくれたアレが役に立つ。

 そう。俺はどうやら……『100匹あまりのスライムを使役する魔物使い』らしいので!


 ……いや、あの時は『ふーんそういうことになったのね?』ぐらいで流したけど、よくよく考えてみたら結構なことだなと思って、改めてリーザスさんとミシシアさんに聞いてみたんだよ。

 そうしたら、まあ、このファンタジー世界には『魔物使い』なるものは存在しているらしい。そんなに多くないらしいけど。

 ……で、一方、実際のところ、スライムはダンジョンの魔力から生まれているらしく、そして俺はダンジョンの主なので……スライムは、俺の言うことはある程度は聞いてくれるっぽい。いや、ある程度しか聞いてくれないんだけどね……。そこは奴らの気分次第っぽい。いや、何なんだよ、主に対して気分次第の魔物って……。

 まあ、スライムってそもそもそういうモンらしいし、しょうがない。それに、『100匹も魔物を使役していたら、そりゃあ気分次第なかんじになるよなあ』ということらしいので、まあ、俺が『スライム専門の魔物使い』と名乗ることには問題が無さそうである。


 なので俺は、『保護者であり、この村のダンジョンを時々見回って救助活動などを行っているリーザスさん』と一緒に、『スライムを使役してダンジョン関係のお助け業務をやっている魔物使い』になろうと考えた訳だ。

 こう、世を忍ぶ仮の姿、って奴かもしれない。あんまり忍べてないけど。クソデカスライムのせいで、かなり目立つけどな。うん……。

 でもまあ、ひとまずこれで、俺がこの世界でやっていくための仮の身分みたいなものは手に入った訳だ。

 ……なんか、妙な勘違いをされてる気はするけどな。『やんごとない御身分のお坊ちゃん』とか思われてそうな気配はあるんだが、まあ、それも二重三重の隠れ蓑だと思えば悪くはないよな。そういうことにしておこう。




 ということで、俺は早速、スライム達に『じゃあ、ちょっと洞窟に入ってくれる?』とお願いすることにした。

 お願いするのは、例のクソデカスライム1匹と、普通サイズの……小学生の膝上くらいまでの大きさのスライムが、数匹。

 彼らにはちゃんと給料がてら肥料をくれてやっておいてから、『そーれ行ってこーい』と洞窟に放してやった。これで、他の一般冒険者達に『おお、スライムが洞窟の中を探索している……』って目撃してもらうのが目的。

 スライム達については、明日の朝には戻ってくると思う。ほら、肥料の時間には絶対に来るじゃん、アイツら……。

 ……で、スライム達には、適当なところで鎧や剣を渡すつもりである。それを適当に持って帰ってもらって、『おじさん達の奴、見つかったよー』と聖騎士達に配達してやればいいだろ。

 だが。

「タダで返すとは思うなよ……!」

 俺は、この鎧と剣、できれば返したくなかったんだよ。

 というのも、この鎧と剣……希少な元素が結構使われてるから!




 まず、鎧も剣もそうだが、金の装飾が使われてる。とは言っても、純金じゃないな。当然だが。銀で割ってあるみたいだ。まあ、そうでもしないと、装飾とはいえ、鎧の一部にはできねえよな。

 ……まあ、それはともかく、金だ。銀だ。使い道は色々とあるんだよなあ!

 ぱっと思いつくだけでも、金があればガラスの着色とか、触媒とかに使えるし……あと、鏡。鏡にもするかも。

 金とか銀とかって、光の反射率が高いからな。光を曲げるのに効率がかなりいいので……例えば、レーザーみたいなものを将来的に作るとしたら、間違いなく必要になる素材だよな。

 後は、まあ……正直、こっちの用途ではあんまり想定してないけど、金銀は普通に普通の財産として使えるよな。『金ぴか!』ってのは見てすぐに価値が分かるものだから、そういう用途も無いではない。

 ということで、まあ、欲しい。金も銀も、欲しい。

 だが、流石に鎧から装飾だけ綺麗さっぱり消えてました、なんてことにすると問題がありそうなので……仕方がない。装飾の厚みを、そうは分からないレベルで薄くして、その差分を俺の懐に収めるってことにした。

 これだと回収できる分は当然減っちまうが、まあ、全部返却してやるよりは余程いいもんな。


 で、鎧と剣には、金銀のみならず、ちょっと欲しい元素が沢山ある。

 例えば、鎧の表面は白くてぴかぴかなんだが、どうもこれは鉛とか使ってるっぽい。まあ、ありがたいな。これもうっすら削ってもらっておくことにした。

 それから、鎧や剣の中身は鋼だったから、それもサンプルがてらちょっと回収して……『成程ねー、この世界の鋼ってこんなもんか』ってやることにした。

 いや、ほら、鉄に何を混ぜるかによって結構性能が変わっちまう訳だけど、そこんとこどうなってんのかは気になってたんだよな。その点、聖騎士っていう、身分もしっかりした連中の高級そうな鎧なんて、間違いなくこの世界の最高級品だろ?つまり、この世界の鋼の上振れしてるサンプルが手に入る、って訳だ。

「あー……?銀とか入ってんの?なんこれ。クロムもうちょい足した方が錆に強そうだけど……ん?なんか分解した時に得られる魔力量、多くね?なぁにこれぇ……」

 ……が、まあ、色々と異世界情緒あふれる合金に仕上がってるんで、これの分析はもうちょい後回しだな。うん。


 それから、剣。これについては……素材も気になるが、純粋に、その製造技術に興味があった!

 リーザスさんも剣を持ってる人だからな。この世界の剣がどんなもんか、サンプルは1つ手元にあった訳だが……しっかり分解吸収して理解する剣はこれが初めてだ。

「……研ぎは両刃。直刀。刃に結構な厚みがあって、鋼をそのまま打って作ったかんじの……絵に描いたようなロングソードだな。鍛造っぽいし、一点ものかあ。そりゃ、取り戻したくもなるよなあ」

 まあ、分解吸収した通りに再構築して出してやったので、聖騎士連中も文句言わないだろ。

 逆に、『剣は一点ものだろうが、鎧は割と量産が利きそうなかんじあるし、パーツが幾つか消えてても文句言われないか……』と思い至っちゃったので、やっぱり鎧も肩当片方とか、ガントレット片方とか、そういうのはちらほら、こっちで頂いちゃうことにする。ゴチになります。

「この世界、日本刀みたいなのは無いのかなあ……いや、あってもこの世界においては実用的じゃない、ってことかもしれねえなあ……」

 剣の観察から、色々と思うところはある。

 何せこの世界、ファンタジーだからな。切れ味とか、多分『ファンタジーパワーッ!ヤーッ!』ってやったらめっちゃ上がったりするんだろ?多分。

 となると、切れ味重視の剣よりも、ファンタジーパワーに任せてぶん回せる、半分鈍器みたいな剣の方が便利なこともあるんだろうし。

「深い……実に深い……」

 ……こういうの、男の子は全員好きだろ?好きだよな?

「刃毀れくらいはしててもおかしくないよな。ちょっと剣の素材ももらっとこ……」

 なので素材泥棒くらいは許せ。スライムに免じて許せ。




 ……ということで、洞窟内スライム散歩の時間が終わった翌朝。

「おー、お前ら、お疲れ!」

 もっちりもっちり、と洞窟から返ってきたスライム達が、野菜スライムに混じって肥料を貰いに来た。ちゃっかりしてる奴らだ……。

「よし、ちゃんと拾って帰還したな。偉いぞ」

 まあ、スライム達にはこれからも世話になることになるだろうし、ちゃんと肥料と水を与えてやった。……尚、スライム達に肥料をやるのに、もうジョウロは使っていない。ダンジョンパワーで造ったホースで、シャーっ、と一気に水撒きないしは餌やりしてる。

 ……いや、だって、こいつら増えすぎなんだもん。ジョウロで水と肥料やるんじゃ間に合わねえよ。

「ん?何、宝石も拾ってきたのか?ちゃっかりしてるなあ……これは没収な。聖騎士達には渡したくないし」

 ついでにちょっとスライム達を観察してみたら、ダンジョンの中で宝石を拾ってきたスライムが居ることに気づいた。ので、それは没収。スライムの中に手を突っ込んで、もにっ、と回収。

 ……スライムによっては、宝石が没収されるのを惜しがって、『うにーっ』と伸びて宝石を離したがらない奴も居たが、無慈悲に取り上げた。取り上げたら取り上げたで、スライム達も諦めと割り切りが早いらしく、もっちりもっちり列に戻っていった。

 ……もしかしてスライムって宝石とか食べるんだろうか。いや、それは無いか……。


「さて……じゃ、ひとまず今回回収できた分はパンイチ戦隊に返却してやるとするか……」

 そうしてスライム達に水と肥料も与え終わったところで、鎧のパーツや剣を体の中に収めたスライム数匹と、それら全員分を合わせた以上の鎧パーツや剣を体の中に収めたクソデカスライムとを連れて、もっちりもっちり、牢屋にまで行進していくことにする。

 途中で、保護者兼護衛ってことでリーザスさんと合流して、もっちりもっちり、行進の列はまた長くなって……そして。


「おじさん達ー、うちのスライムが色々拾ってきたよー」

「お、おお、本当にか!?」

 スライムの列と共に牢屋の廊下に入場してみたところ、鉄格子越しに聖騎士達からの喝采を浴びることになった。ちょっと気分がいい。

「はい。確認してね」

「ああ……確かに!神よ、感謝します……!」

「先にスライムに感謝しろよ。拾ってきたのこいつらだぞ」

 聖騎士達としてはこれがありがたかったらしく、神に祈った後、スライムにも律儀に『ありがとう……!』と礼を言っていた。駄目元で言ってみるもんだなあ。心なしか、スライム達も誇らしげだよ。いや、まあ、気のせいかもしれないけど。


「な、なあ、少年!具体的には、ダンジョン内のどこにあったんだ!?」

「え?知らない。スライムが適当に散歩して、見つけたら拾って帰ってきたってだけだし……」

 そして、スライム達を介して返却してるからな。こういう質問も全部スルー出来ちまうって訳だ。便利便利。

「くそ……なら、他の剣や鎧は諦めるしかない、か……?」

「あー、スライム達、気まぐれだからなあ。もう何日か、放してみる?追加で見つかるかもよ。追加料金、貰うけど」

 ……ついでに、スライムの気まぐれを盾にして、追加料金もせびれるって訳だ。便利便利。




 結局、それから3日程かけて、スライム達には聖騎士達の剣と鎧を返却してもらった。

 無論、剣の鞘いくつかとか、鎧のパーツ幾つかとかは、こっちで貰って返さない。ま、これくらいは諦めてくれ、ってことで。

 で、聖騎士達も、ここらへんが限界だな、ってのは分かったらしい。パンイチ牢屋暮らしもそろそろ堪えてたんだろうし、何より、エデレさんの『まだいらっしゃるんですの……?』という視線が堪えたんだろうし……無事、帰ってくれることになった。

「では、くれぐれも契約は履行してくださいね」

「あ、ああ……。そちらも、くれぐれも頼むぞ」

「ええ。私達は私達の村が脅かされない限り、深追いは致しませんわ」

 エデレさんがしっかり釘を刺して、そして、聖騎士達はぞろぞろと引き上げていった。

 ……まあ、これで教会とやらがしばらく大人しくなっといてくれるといいんだけどね。


「ところで、アスマ様。……連中に返却するのは鎧と剣だけでよかったのか?その……」

「え?あ、うん。服はもう、いっかな、って……」

 ……聖騎士達、鎧の下はパンイチな訳だけど、大丈夫かな。まあ、大丈夫だな。うん。大丈夫ってことにしておこう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
鎧下無しでフルアーマーはキツいでしょ。パーツの間に肉?皮?が挟まったり、陽射しでアチアチになったりで半日移動か……
年端もいかぬ少年の前に、パンイチのオッサンたちが… お巡りさーん! パンイチ戦隊が文無しーズじゃないようで良かったです。
こんばんは。 >取得物を渡したがらないスライム 他の子と比べて多少執着心がある→食い意地張った(知能が成長した)スライムにならないか…ちょっとだけ心配ですね。 よその作品には、好きなものを吸収したい…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ